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第24話 デュフフ♪ 今夜は二人きりでござるな……
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「お前ら、いったい何やってんだよ……」
魔族捕虜収容所の詰め所の前で、地面にへたり込んでいるキモヲタと犬耳族の少女に、衛士がため息をついていました。
「お前ら、いったい何やってんだよ……」
カリヤット行きの待合馬車が出てしまい、他に馬車を調達することもできず、困り果てたキモヲタは衛士に泣きついたのでした。
「こいつがイチイチイチイチ、我輩に逆らうから馬車に乗り遅れてしまったのでござる!」
と、キモヲタが少女を指差すと、
「フーッ! ドフトゥ! お前がボクをさらおうとするのが悪い!」
と、少女がキモヲタの頭に噛みつくのでした。
「ちょっ! 痛いでござる! 衛士殿! 奴隷紋が効いてないではござらんか!」
喚くキモヲタに、衛士は呆れ顔で答えました。
「それくらいで奴隷紋が働くかよ! 奴隷紋が反応するのはお前に殺意が向けられたときだ。それくらいのじゃれ合いで働くわけねぇだろ」
「我輩の頭から血が出てるでござるが!?」
「そんなに嫌なら【厳命】を使えばいいだろ。そうすりゃ奴隷紋が働くから、その子もお前の命令に従うしかなくなるよ」
「お断りするでござる」
「即答かよ! まぁいいや。もう馬車も全部出てっちまったし、今夜はもうここで寝るしかねえな」
衛士は顎に手をやって思案しました。
「よし、そこの待合所で寝かせて貰えるよう、隊長に掛け合ってやるよ。ちょっと待ってな!」
そう言って、踵を返す衛士をキモヲタが呼び止めます。そして懐から銀貨を数枚取り出して、それを衛士の手に握らせました。
「半分は衛士殿が取っておいてくだされ」
「おっ、悪りぃな! じゃぁ、ちょっと行ってくるわ」
キモヲタのニチャリとした笑顔を見た衛士は、ニヤリと笑みを返すとそのまま営舎に向かっていきました。
「とりあえず、これで野宿は避けられそうですな。デュフコポー」
キモヲタがホッと安堵のため息を吐くと、それに合わせるかの様に、
きゅるぅぅぅうう!
と、少女のお腹が鳴りました。
「ボッ、ボクじゃないからな!」
必死で主張する少女に、キモヲタは苦笑いを浮かべました。
「はいはいでござる。今のは我輩が空腹のせいでござるよ」
そう言って、キモヲタが無意識に少女の頭をなでようと手を伸ばしかけたとき、少女が怯えて身を縮めました。
キモヲタもハッとして、その手を途中で止めました。
少女の頭の傷、モフモフの可愛い耳があったであろう場所を見て、キモヲタは胸にギュッと締め付けらるような痛みを覚えたのでした。
その後は二人とも口を開くことなく、ただ黙って地面を見つめておりました。
「よっ! おまっとさん! 許可はとれたぜ! 今日はここで眠っていいってさ!」
そこに現れたのが、両手に毛布と食べ物を抱えた衛士でした。
「ほらっ、毛布と晩飯だ! 明日の朝は毛布を返しに営舎に来い。朝食も出るってよ」
パサッと投げ渡された毛布を受け取ったキモヲタは、衛士に何度も礼を言いました。
「いいってことよ! 報酬も貰ってることだし、お互い様ってな」
そう言って、衛士は営舎に戻っていきました。
きゅるぅぅぅうう!
少女のお腹が再び音を立てました。
「それでは食事にするでござるか」
衛士が持ってきた食べ物はかなりの量だったので、キモヲタは食べきれるのかちょっと心配していたのですが――
ガツガツガツガツ!
少女があっという間に平らげたうえ、キモヲタの食事を涎を流して見つめていたので、半分ほど渡すハメになりました。結果、キモヲタにとってはやや物足りなさを感じる食事となってしまったのでした。
満腹になった少女は、ポコッと膨らんだ腹を抱え、毛布を被って横になりました。
「お主……ほんと自由でござるな」
横になっている少女は毛布からお尻を出していました。冷えるだろうに、どうしてお尻を出しているのかと疑問に思ったキモヲタでしたが、その謎はすぐに解けました。
「服に血が……」
いま少女が着ているのは、一枚の布を縫い合わせただけの簡素な奴隷服。亜人少女の尾てい骨が当たる部分には、血が滲んでいました。
彼女は人類軍に捕まったときに耳だけではなく、尻尾も切り落とされていたのです。この収容所で治療は受けたものの、今も傷は完全に塞がれておらず、その痛みが亜人少女を苦しめ続けているのでした。
「痛む……でござるよな」
「……」
「お主が酷い目にあったのは、我輩と出会ったすぐ後だったと聞いたでござる……」
「……」
「我輩のせい……でござるよな」
亜人少女の身体がピクッと動きました。そして、しばらくしてから少女がボソッとつぶやきました。
「……お前のせいだ」
「……」
キモヲタは何も言えなくなってしまいました。
「あのとき、お前が素直にボクに食べられていれば、あんな奴らに捕まったりしなかった……」
「えっ!? アレって我輩を食べるつもりだったのでござるか!?」
「あっ、あのときは本当にお腹が減って何も考えられなくなってたから! 今は食べない! っていうか、食べたくない! そもそもお前なんて気持ち悪くて食べる気しないし!」
「……」
「どうしたんだよ! 何か言いなよ。せいぜい怒鳴ればいいよ」
「……」
「……」※亜人少女
「……」※キモヲタ
「……何か言えよ……言ってよ……」
沈黙し続けるキモヲタに不安になったのか、亜人少女の声が少しだけ震えていました。
魔族捕虜収容所の詰め所の前で、地面にへたり込んでいるキモヲタと犬耳族の少女に、衛士がため息をついていました。
「お前ら、いったい何やってんだよ……」
カリヤット行きの待合馬車が出てしまい、他に馬車を調達することもできず、困り果てたキモヲタは衛士に泣きついたのでした。
「こいつがイチイチイチイチ、我輩に逆らうから馬車に乗り遅れてしまったのでござる!」
と、キモヲタが少女を指差すと、
「フーッ! ドフトゥ! お前がボクをさらおうとするのが悪い!」
と、少女がキモヲタの頭に噛みつくのでした。
「ちょっ! 痛いでござる! 衛士殿! 奴隷紋が効いてないではござらんか!」
喚くキモヲタに、衛士は呆れ顔で答えました。
「それくらいで奴隷紋が働くかよ! 奴隷紋が反応するのはお前に殺意が向けられたときだ。それくらいのじゃれ合いで働くわけねぇだろ」
「我輩の頭から血が出てるでござるが!?」
「そんなに嫌なら【厳命】を使えばいいだろ。そうすりゃ奴隷紋が働くから、その子もお前の命令に従うしかなくなるよ」
「お断りするでござる」
「即答かよ! まぁいいや。もう馬車も全部出てっちまったし、今夜はもうここで寝るしかねえな」
衛士は顎に手をやって思案しました。
「よし、そこの待合所で寝かせて貰えるよう、隊長に掛け合ってやるよ。ちょっと待ってな!」
そう言って、踵を返す衛士をキモヲタが呼び止めます。そして懐から銀貨を数枚取り出して、それを衛士の手に握らせました。
「半分は衛士殿が取っておいてくだされ」
「おっ、悪りぃな! じゃぁ、ちょっと行ってくるわ」
キモヲタのニチャリとした笑顔を見た衛士は、ニヤリと笑みを返すとそのまま営舎に向かっていきました。
「とりあえず、これで野宿は避けられそうですな。デュフコポー」
キモヲタがホッと安堵のため息を吐くと、それに合わせるかの様に、
きゅるぅぅぅうう!
と、少女のお腹が鳴りました。
「ボッ、ボクじゃないからな!」
必死で主張する少女に、キモヲタは苦笑いを浮かべました。
「はいはいでござる。今のは我輩が空腹のせいでござるよ」
そう言って、キモヲタが無意識に少女の頭をなでようと手を伸ばしかけたとき、少女が怯えて身を縮めました。
キモヲタもハッとして、その手を途中で止めました。
少女の頭の傷、モフモフの可愛い耳があったであろう場所を見て、キモヲタは胸にギュッと締め付けらるような痛みを覚えたのでした。
その後は二人とも口を開くことなく、ただ黙って地面を見つめておりました。
「よっ! おまっとさん! 許可はとれたぜ! 今日はここで眠っていいってさ!」
そこに現れたのが、両手に毛布と食べ物を抱えた衛士でした。
「ほらっ、毛布と晩飯だ! 明日の朝は毛布を返しに営舎に来い。朝食も出るってよ」
パサッと投げ渡された毛布を受け取ったキモヲタは、衛士に何度も礼を言いました。
「いいってことよ! 報酬も貰ってることだし、お互い様ってな」
そう言って、衛士は営舎に戻っていきました。
きゅるぅぅぅうう!
少女のお腹が再び音を立てました。
「それでは食事にするでござるか」
衛士が持ってきた食べ物はかなりの量だったので、キモヲタは食べきれるのかちょっと心配していたのですが――
ガツガツガツガツ!
少女があっという間に平らげたうえ、キモヲタの食事を涎を流して見つめていたので、半分ほど渡すハメになりました。結果、キモヲタにとってはやや物足りなさを感じる食事となってしまったのでした。
満腹になった少女は、ポコッと膨らんだ腹を抱え、毛布を被って横になりました。
「お主……ほんと自由でござるな」
横になっている少女は毛布からお尻を出していました。冷えるだろうに、どうしてお尻を出しているのかと疑問に思ったキモヲタでしたが、その謎はすぐに解けました。
「服に血が……」
いま少女が着ているのは、一枚の布を縫い合わせただけの簡素な奴隷服。亜人少女の尾てい骨が当たる部分には、血が滲んでいました。
彼女は人類軍に捕まったときに耳だけではなく、尻尾も切り落とされていたのです。この収容所で治療は受けたものの、今も傷は完全に塞がれておらず、その痛みが亜人少女を苦しめ続けているのでした。
「痛む……でござるよな」
「……」
「お主が酷い目にあったのは、我輩と出会ったすぐ後だったと聞いたでござる……」
「……」
「我輩のせい……でござるよな」
亜人少女の身体がピクッと動きました。そして、しばらくしてから少女がボソッとつぶやきました。
「……お前のせいだ」
「……」
キモヲタは何も言えなくなってしまいました。
「あのとき、お前が素直にボクに食べられていれば、あんな奴らに捕まったりしなかった……」
「えっ!? アレって我輩を食べるつもりだったのでござるか!?」
「あっ、あのときは本当にお腹が減って何も考えられなくなってたから! 今は食べない! っていうか、食べたくない! そもそもお前なんて気持ち悪くて食べる気しないし!」
「……」
「どうしたんだよ! 何か言いなよ。せいぜい怒鳴ればいいよ」
「……」
「……」※亜人少女
「……」※キモヲタ
「……何か言えよ……言ってよ……」
沈黙し続けるキモヲタに不安になったのか、亜人少女の声が少しだけ震えていました。
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