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第46話 山盛りのパン
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俺が籠ごとお買い上げした沢山のパンと共に街の門で待っていると、ステファンとライラが資材を積んだ馬車を引いてやってきた。
「シンイチ殿! お待たせしました!」
「迷子になっちゃったよ。もしかして探した? ごめんね」
「大丈夫ですよ。それよりそのパンの山は?」
「あっ、あぁ、露店でおいしそうだったからつい買っちゃった」
「その量だと村のみんなの分ということでしょうか。これは急いで帰らないと腐らせてしまいますね。では急ぎ出発いたしましょう」
「うん」
俺は門番さんたちに挨拶をして馬車に乗り込む。門番さんには、ステファンが迎えに来るまで傍らで待たせてもらったと理由をつけてパンを籠ごとひとつプレゼントしている。もちろんパンを減らすためだ。
「坊主、パンありがとな! 気を付けて帰るんだぞ!」
「はい。また10日後に!」
俺のパンのせいで帰りの旅程は馬の体力限界ギリギリのいつもより早いペースになった。
~ コボルト村への帰途 ~
初日は川辺の近くで野営することにした。その日、ライラは火の番を務めることになった。
じっと揺らめく焚火の炎を見ながらも聞き耳を立てて、隣で眠っているシンイチの寝息が規則正しく深いものに変わったこと確認する。
ライラは街を出てからずっとパンのことが気になっていた。何かが引っかかるのだが、肝心なところがわからない。
それにしてもどんな経緯であんなに沢山のパンを購入することになったのだろうか。
(間違いなく女絡みね)
ライラは眠っているシンイチの傍に移動し、シンイチの顔に鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐ。
(香水の匂いは……ないか)
そのままシンイチの顔をじっと見つめていたライラは、自分の唇をシンイチの唇にギリギリまで近づけ、顔をずらしてシンイチの頬にキスをして顔を上げた。
(ふふふ。わたしからは絶対に手を出しませんよ。シンイチさまの方から求めていただきたいんです)
ライラは焚火の前に戻ると、またパンの謎について考えた。シンイチの身体からは女の臭いがしなかった。
ライラは獣人のような嗅覚を持っているわけではないが、夫の浮気を嗅ぎ分ける妻の如き第六感が、シンイチの身体に残る女の存在を否定している。
(でもパンを抱えていたシンイチ様の鼻の下は間違いなく5mmほど伸びていた)
いくら考えても分からない。ライラは次の資材購入時もマーカスを買収して自分が街に来ようと決心を固めていた。
~ 相談 ~
コボルト村に戻った俺は、治癒の魔石の入手方法についてみんなに相談をしていた。
「治癒の魔石かぁ。ドラゴンの胃袋に転がってるって聞いたことがあるなぁ」
マーカスがスルメを齧りながら言う。
「オーガや岩トロルといった回復力が尋常でない魔物が体内に持っている場合が多いらしいけど、実際に見たことはないな」
ネフューも実際に倒した魔物から治癒の魔石を見つけたことはないみたいだ。
「魔術師や錬金術師が普通の魔石に術を施すことで生み出すとも言われていますね。いずれにせよ、基本的には魔物を倒したり、ダンジョンで発見したりしているうちに、偶然見つかるという類のものです」
ステファンが顎に手を当てて考えながら答える。その隣に座っているライラが俺の方を見ながら立ち上がった。
「シンイチ様、そのように入手が大変なものであれば、わたしの眼のことはお気になされないでください。シンイチさまのお心遣いだけでわたしはもう十分に幸せなんです」
「そうだね。もしドラゴンを相手にするしかないってことが判明したときには、さすがに諦めるしかないかな。でも入手の可能性が他にあるなら考え続けてみようと思う」
「シンイチ様……」
「まあ、ライラには悪いけどあんまり期待しないでとは言っておこう。すぐにどうにかなる話でもなさそうだし。みんなも一応、治癒の魔石のことは頭に止めておくということでよろしく」
俺の呼びかけにみんがが頷いてくれた。ライラがその場にいる全員に向かって頭を下げてから席に戻った。
「それでさぁ……」
俺は再びみんなに呼びかける。俺はテーブルの上に積まれた山盛りのパンを指さして言った。
「今日あたり食べきらないとヤバイ感じなんで、これ食べない?」
全員が一斉に深いため息をついた。
決して銀の君のパンに問題があるわけではない。まだ十分に食べられる状態ではある。しかし、日ごろから神スパで購入したパンを食べなれてしまった今は、みんなの舌が肥えすぎて思っていた以上にパンの消費が進まなかったのだ。
「ほら、ジャムとバターも用意したからね?」
「俺はチーズが欲しいな。ビールと一緒にちびちび行くぜ」
「じゃ、ぼくはピーナッツバターで」
「兄ちゃん! 俺、チョコレートクリームがいい!」
「なっとう、とーすと、うまい」
お前らもうどんだけ贅沢になってんだよ! その後、マーカスたちのハーレムメンバーも加わって、なんとか全てのパンを消費することができた。
パンを全て食べきれてよかったよ。みんなには恐らく間違いなく、また今度パンを食べさせることになるだろうからな!
「シンイチ殿! お待たせしました!」
「迷子になっちゃったよ。もしかして探した? ごめんね」
「大丈夫ですよ。それよりそのパンの山は?」
「あっ、あぁ、露店でおいしそうだったからつい買っちゃった」
「その量だと村のみんなの分ということでしょうか。これは急いで帰らないと腐らせてしまいますね。では急ぎ出発いたしましょう」
「うん」
俺は門番さんたちに挨拶をして馬車に乗り込む。門番さんには、ステファンが迎えに来るまで傍らで待たせてもらったと理由をつけてパンを籠ごとひとつプレゼントしている。もちろんパンを減らすためだ。
「坊主、パンありがとな! 気を付けて帰るんだぞ!」
「はい。また10日後に!」
俺のパンのせいで帰りの旅程は馬の体力限界ギリギリのいつもより早いペースになった。
~ コボルト村への帰途 ~
初日は川辺の近くで野営することにした。その日、ライラは火の番を務めることになった。
じっと揺らめく焚火の炎を見ながらも聞き耳を立てて、隣で眠っているシンイチの寝息が規則正しく深いものに変わったこと確認する。
ライラは街を出てからずっとパンのことが気になっていた。何かが引っかかるのだが、肝心なところがわからない。
それにしてもどんな経緯であんなに沢山のパンを購入することになったのだろうか。
(間違いなく女絡みね)
ライラは眠っているシンイチの傍に移動し、シンイチの顔に鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐ。
(香水の匂いは……ないか)
そのままシンイチの顔をじっと見つめていたライラは、自分の唇をシンイチの唇にギリギリまで近づけ、顔をずらしてシンイチの頬にキスをして顔を上げた。
(ふふふ。わたしからは絶対に手を出しませんよ。シンイチさまの方から求めていただきたいんです)
ライラは焚火の前に戻ると、またパンの謎について考えた。シンイチの身体からは女の臭いがしなかった。
ライラは獣人のような嗅覚を持っているわけではないが、夫の浮気を嗅ぎ分ける妻の如き第六感が、シンイチの身体に残る女の存在を否定している。
(でもパンを抱えていたシンイチ様の鼻の下は間違いなく5mmほど伸びていた)
いくら考えても分からない。ライラは次の資材購入時もマーカスを買収して自分が街に来ようと決心を固めていた。
~ 相談 ~
コボルト村に戻った俺は、治癒の魔石の入手方法についてみんなに相談をしていた。
「治癒の魔石かぁ。ドラゴンの胃袋に転がってるって聞いたことがあるなぁ」
マーカスがスルメを齧りながら言う。
「オーガや岩トロルといった回復力が尋常でない魔物が体内に持っている場合が多いらしいけど、実際に見たことはないな」
ネフューも実際に倒した魔物から治癒の魔石を見つけたことはないみたいだ。
「魔術師や錬金術師が普通の魔石に術を施すことで生み出すとも言われていますね。いずれにせよ、基本的には魔物を倒したり、ダンジョンで発見したりしているうちに、偶然見つかるという類のものです」
ステファンが顎に手を当てて考えながら答える。その隣に座っているライラが俺の方を見ながら立ち上がった。
「シンイチ様、そのように入手が大変なものであれば、わたしの眼のことはお気になされないでください。シンイチさまのお心遣いだけでわたしはもう十分に幸せなんです」
「そうだね。もしドラゴンを相手にするしかないってことが判明したときには、さすがに諦めるしかないかな。でも入手の可能性が他にあるなら考え続けてみようと思う」
「シンイチ様……」
「まあ、ライラには悪いけどあんまり期待しないでとは言っておこう。すぐにどうにかなる話でもなさそうだし。みんなも一応、治癒の魔石のことは頭に止めておくということでよろしく」
俺の呼びかけにみんがが頷いてくれた。ライラがその場にいる全員に向かって頭を下げてから席に戻った。
「それでさぁ……」
俺は再びみんなに呼びかける。俺はテーブルの上に積まれた山盛りのパンを指さして言った。
「今日あたり食べきらないとヤバイ感じなんで、これ食べない?」
全員が一斉に深いため息をついた。
決して銀の君のパンに問題があるわけではない。まだ十分に食べられる状態ではある。しかし、日ごろから神スパで購入したパンを食べなれてしまった今は、みんなの舌が肥えすぎて思っていた以上にパンの消費が進まなかったのだ。
「ほら、ジャムとバターも用意したからね?」
「俺はチーズが欲しいな。ビールと一緒にちびちび行くぜ」
「じゃ、ぼくはピーナッツバターで」
「兄ちゃん! 俺、チョコレートクリームがいい!」
「なっとう、とーすと、うまい」
お前らもうどんだけ贅沢になってんだよ! その後、マーカスたちのハーレムメンバーも加わって、なんとか全てのパンを消費することができた。
パンを全て食べきれてよかったよ。みんなには恐らく間違いなく、また今度パンを食べさせることになるだろうからな!
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