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第一章 護衛艦フワデラ
第19話 ダゴン教団
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草壁医務官に起こされた対潜要員の二人が魚雷発射シーケンスを進めていく。
私が平野をビンタで起こしていると、目の前にフワーデが現れて叫んだ。
「距離200! このままだとぶつかっちゃう! 全力で行くよ!」
次の瞬間、足元からエンジンの振動が伝わってきた。
グォォォォン!
護衛艦フワデラが最大戦速に入った。
対潜要員の声が響く。
「ターゲットロック! 魚雷1、2、3番発射します!」
「ってぇぇ!」
護衛艦フワデラの側面が開く。
ドボン! ドボン! ドボン!
魚雷発射管から3本の12式魚雷が海中へ飛び込んで行った。
戦闘指揮室《CIC》のモニタには、敵と迫りゆく魚雷が点滅するマーカーで示されている。
発射後2秒で、私は魚雷の命中を確信した。
マーカーを見ていると化け物の方から魚雷へ突っ込んで行くのが見えたからだ。
「あ~ん!? やんのかゴルァ! すっぞゴルァ! かかってこいやゴルァ!」
と化け物が言っているような気がした。
ドォォォン!
魚雷が妖怪に命中し、その爆発で海面に巨大な水柱が立ち昇る。
「命中! 目標を撃沈」
今まで私の全身を覆っていた怖気がスッと消えていくのを感じた。他の乗組員《クルー》の顔を見ると、彼らも私と同じようにホッとしているようだった。
「フワーデ、怪物の様子を映像ではなく口頭で報告……いや、私にだけ見せてくれ」
化け物が沈んでしまった今、身体と精神に伸し掛かっていたような【圧】が消えている。
「もし私がまた失神したら、その時は頼んだぞ草壁」
「わかりました」
私の指示により、意識を取り戻したばかりの平野を始め、この場にいる全員が目を閉じた。
「じゃぁ映すね。魚雷が命中する直前から……」
メインモニタに巨大で黒いぶよぶよとした半魚人。いや『人』をつけていいのかよくわからない。
魚のような顔。鱗で覆われた上半身はかろうじて人のような形。下半身は魚と言うより蛆のような化け物の姿が映し出されている。
その醜悪な姿は、見る者によってはその人間の意識を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
だがこの程度のグロモンスター、現実の映像と見まがうほどのSFXに接している現代人にとっては、とても気絶に至るようなものとは思えなかった。
「ふむ……。我々が気絶させられたのは、この映像というより他の要因が大きかったのかもしれないな」
その後、フワーデが記録した映像を一通り見せてもらったが、私の体調には何の変化もなかった。
「どうやら映像を見ても大丈夫なようだ。ただ気味悪いのは間違いないから、その心構えができた者から目を開いて良いぞ。あとフワーデは艦を原速に戻してから、操艦権を操舵長に戻してくれ」
「わかった!」
フワーデの元気な返答を契機に、艦内が慌ただしい日常に復帰した。
~ 化け物の解析 ~
護衛艦フワデラは間もなく当初予定の航路に戻った。
私は士官室に調査隊メンバーを集め、遭遇した化け物についての分析を行った。冒険者だった白狼族の二人の情報を期待したが、彼らはあの化け物についてほとんど何も知らなかった。
「じゃ、邪教団が崇める海の、ま、魔神のようなものではないかと……何という教団だったか……えっと……」
ヴィルミカーラにつられてヴィルフォアッシュが何かを思い出したように語り始める。
「ダゴン教団……。 海の魔神とその眷属を崇拝する邪教団で、人を生贄に捧げる儀式を行っていると云われている。徹底した秘密主義で、なかなか表に出てこないとか」
私はさらに情報を聞き出そうと彼に促すが、ヴィルフォアッシュは首を横に振る。
「私もそれくらいのことしか知らないのです」
化け物について詳細な情報が得られなかったのは、仕方ないこととは言え残念だ。また同じ化け物が出てきた場合のことを考えると不安を拭えない。
気絶したのは映像を見たCICの面子だ。だが今しがた映像を見ても誰も失神することはなかった。
ということは、もう一つ何かの要因があったはずだ。
おそらくそれはあの化け物が襲ってきている間、私の身体と精神に重く伸し掛かってきたあの【圧】だろう。
あれは何だったのか。
化け物が沈んでからは消えてしまったが……魔法の類なのだろうか。魔法だとしたら、防ぐ方法を早く見つけなくては……。
「艦長!」
「へぁっ!?」
いつの間にか考え込んでいた私に平野副長が大きな声で呼び掛けてくる。
「艦長、とりあえず現時点で、あのように我々の意識を飛ばしてしまうような危険な生物がこの海にいることだけはハッキリとしました」
「そうだな。あれが魔法みたいな力によるものだった場合、我々にはどうしようもない」
「今の我々にはそうかもしれませんが、今後の調査で判明するかもしれません。それに奴に魚雷は有効でした。それは大きな収穫ではありませんか?」
「そうだな。それにダゴン教団という手掛かりも得られたのだから戦果は上々と言える。まずはこの勝利を祝うとしよう!」
私がグイッとサムズアップすると、平野やフワーデを始めその場の全員に笑顔が戻った。
そして――
護衛艦フワデラは再び北方に進路を採る。
私が平野をビンタで起こしていると、目の前にフワーデが現れて叫んだ。
「距離200! このままだとぶつかっちゃう! 全力で行くよ!」
次の瞬間、足元からエンジンの振動が伝わってきた。
グォォォォン!
護衛艦フワデラが最大戦速に入った。
対潜要員の声が響く。
「ターゲットロック! 魚雷1、2、3番発射します!」
「ってぇぇ!」
護衛艦フワデラの側面が開く。
ドボン! ドボン! ドボン!
魚雷発射管から3本の12式魚雷が海中へ飛び込んで行った。
戦闘指揮室《CIC》のモニタには、敵と迫りゆく魚雷が点滅するマーカーで示されている。
発射後2秒で、私は魚雷の命中を確信した。
マーカーを見ていると化け物の方から魚雷へ突っ込んで行くのが見えたからだ。
「あ~ん!? やんのかゴルァ! すっぞゴルァ! かかってこいやゴルァ!」
と化け物が言っているような気がした。
ドォォォン!
魚雷が妖怪に命中し、その爆発で海面に巨大な水柱が立ち昇る。
「命中! 目標を撃沈」
今まで私の全身を覆っていた怖気がスッと消えていくのを感じた。他の乗組員《クルー》の顔を見ると、彼らも私と同じようにホッとしているようだった。
「フワーデ、怪物の様子を映像ではなく口頭で報告……いや、私にだけ見せてくれ」
化け物が沈んでしまった今、身体と精神に伸し掛かっていたような【圧】が消えている。
「もし私がまた失神したら、その時は頼んだぞ草壁」
「わかりました」
私の指示により、意識を取り戻したばかりの平野を始め、この場にいる全員が目を閉じた。
「じゃぁ映すね。魚雷が命中する直前から……」
メインモニタに巨大で黒いぶよぶよとした半魚人。いや『人』をつけていいのかよくわからない。
魚のような顔。鱗で覆われた上半身はかろうじて人のような形。下半身は魚と言うより蛆のような化け物の姿が映し出されている。
その醜悪な姿は、見る者によってはその人間の意識を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
だがこの程度のグロモンスター、現実の映像と見まがうほどのSFXに接している現代人にとっては、とても気絶に至るようなものとは思えなかった。
「ふむ……。我々が気絶させられたのは、この映像というより他の要因が大きかったのかもしれないな」
その後、フワーデが記録した映像を一通り見せてもらったが、私の体調には何の変化もなかった。
「どうやら映像を見ても大丈夫なようだ。ただ気味悪いのは間違いないから、その心構えができた者から目を開いて良いぞ。あとフワーデは艦を原速に戻してから、操艦権を操舵長に戻してくれ」
「わかった!」
フワーデの元気な返答を契機に、艦内が慌ただしい日常に復帰した。
~ 化け物の解析 ~
護衛艦フワデラは間もなく当初予定の航路に戻った。
私は士官室に調査隊メンバーを集め、遭遇した化け物についての分析を行った。冒険者だった白狼族の二人の情報を期待したが、彼らはあの化け物についてほとんど何も知らなかった。
「じゃ、邪教団が崇める海の、ま、魔神のようなものではないかと……何という教団だったか……えっと……」
ヴィルミカーラにつられてヴィルフォアッシュが何かを思い出したように語り始める。
「ダゴン教団……。 海の魔神とその眷属を崇拝する邪教団で、人を生贄に捧げる儀式を行っていると云われている。徹底した秘密主義で、なかなか表に出てこないとか」
私はさらに情報を聞き出そうと彼に促すが、ヴィルフォアッシュは首を横に振る。
「私もそれくらいのことしか知らないのです」
化け物について詳細な情報が得られなかったのは、仕方ないこととは言え残念だ。また同じ化け物が出てきた場合のことを考えると不安を拭えない。
気絶したのは映像を見たCICの面子だ。だが今しがた映像を見ても誰も失神することはなかった。
ということは、もう一つ何かの要因があったはずだ。
おそらくそれはあの化け物が襲ってきている間、私の身体と精神に重く伸し掛かってきたあの【圧】だろう。
あれは何だったのか。
化け物が沈んでからは消えてしまったが……魔法の類なのだろうか。魔法だとしたら、防ぐ方法を早く見つけなくては……。
「艦長!」
「へぁっ!?」
いつの間にか考え込んでいた私に平野副長が大きな声で呼び掛けてくる。
「艦長、とりあえず現時点で、あのように我々の意識を飛ばしてしまうような危険な生物がこの海にいることだけはハッキリとしました」
「そうだな。あれが魔法みたいな力によるものだった場合、我々にはどうしようもない」
「今の我々にはそうかもしれませんが、今後の調査で判明するかもしれません。それに奴に魚雷は有効でした。それは大きな収穫ではありませんか?」
「そうだな。それにダゴン教団という手掛かりも得られたのだから戦果は上々と言える。まずはこの勝利を祝うとしよう!」
私がグイッとサムズアップすると、平野やフワーデを始めその場の全員に笑顔が戻った。
そして――
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