ミサイル護衛艦が異世界転移!? しかも艦長が幼女になっちゃいましたけど?

帝国妖異対策局

文字の大きさ
66 / 214
第二章 古大陸編

第65話 妖異獣ヒュドラ

しおりを挟む
「タカツ! 艦から離れて! アイツが来る!」

 護衛艦フワデラの後甲板を視認したパイロットが着艦シーケンスに入ろうとした瞬間、操縦席にフワーデが現れた。

 フワーデの「アイツ」という言葉の語気で、私にはそれが港湾都市ローエンに向かう途中で襲ってきた海獣のことだというのが分かった。パイロットに合図してヘリをフワデラから離れさせる。

「ヒラノ! ワタシに船の制御を! あと水測も止めさせて! 何か仕掛けてきそうなの」

「艦長」
 
 インカムから平野の声が聞こえてくる。

「フワーデの言う通りにしよう。また気絶させられては叶わん」

「了!」

 その直後、インカムから突然フワーデの歌が大音量で流れて来た。私の左耳にどこかで聞いたようなアニソンっぽい音楽が響く。

『フッ、フッ、フワーデ、フワーデのー 乙女のハートがときめくのー!』(作詞作曲:山形P)

 おそらく艦の全員が呆然としている中、私の右耳は遠くから聞こえる獣の咆哮を捉えて――

「……」

「……して、目を覚まして!」

 フワーデの声に意識を取り戻す。一瞬、自分がどこにいて何をしているのか分からずに混乱したが、すぐに自分がヘリの中にいることを思い出した。

「私は意識を失っていたのか……ヘリは大丈夫か!?」

 パイロットが意識を失っているのではないかと、私が慌てて確認するとパイロットは私に向って親指を立てた。

 どうやら何事もなかったようだが、座席を見渡すとマーカスとヴィルフォランドールが目を回して気絶していた。

 青峰と相模はインカムを付けていたのでフワーデに起こしてもらえたのだろう。

「艦の皆は大丈夫なのか」

「ダイジョーブ! 今はみんな私のライブを視聴中だよ!」

 ほっとした瞬間、インカムからフワーデの歌が流れ続けていることに気が付いた。

 以前はCICのモニタに映った海獣の姿を見て気絶させられたが、咆哮でもこれほどの力があるのか。咆哮を聞かせまいとするフワーデの機転には感謝するしかない。

「タカツ! 魚雷撃って良い?」

「構わん! ぶちかましてやれ!」

「わかったー!」

 後の報告で、この時は山形砲雷科長はフワーデソングを口ずさみながら、フワーデフィルタを通して青いイルカで照準調整していたらしい。
 
「魚雷発射! ターゲットまで5、4、3、2……、えっ!? 爆発!?」

「何か海獣の前に飛び出してきたよ!」

 ヘリで上空にいる私たちからも、立ち昇る水柱と轟音で魚雷が爆発したことを確認していた。

「な、な、なんだ!? 何が起こってるんだ!?」

「わっ、俺、どうしちゃってたんだ!?」

 マーカスとヴィルフォランドールが魚雷の爆音で意識を取り戻した。

「妖異が襲ってきました。現在、護衛艦と交戦中です」

「大丈夫なのか?」
 
 私はマーカスの質問に答えず、インカムで平野に状況を確認する。どうやら海獣に魚雷が命中する直前、怪獣の周囲にいた多数の小型妖異が盾になったらしい。

「小型妖異って、この大陸に到着したときに襲ってきた半魚人みたいな連中か」

「そのようです」

「やっかいな。魚雷を打ってもまた防がれては……」

 フワーデが目の前に現れる。

「タカツ! 手伝って!」

「わかった。何をすればいい?」

「そのヘリには爆雷が2つ積んでるよね。次の魚雷をアイツの足元で爆発させるから、浮上してくるところに落として欲しいの」

「よし、それで行こう」

 私は即決した。さらに平野に魚雷発射後には命中の如何を問わず最大船速で、この海域から離脱するよう指示した。ここから十分離れた上でヘリを着艦させればいい。

さんの目と耳はわたしが守るから、タカツたちは目と耳を塞いでて! もし咆哮が聞こえても気をしっかり持っていれば我慢できるはずだよ!」

「わかった。頼んだぞフワーデ!」

「まかせて!」

 再び護衛艦フワデラから魚雷が発射される瞬間の様子をフワーデが操縦席のモニタに映してくれた。

 次の瞬間、モニタに「目を閉じて!」と笑顔で訴えるフワーデの姿に切り替わる。

「皆! 目と耳を閉じるんだ!」

 パイロットと副操縦士を除く全員が目を閉じ耳を塞いだ。
 
 ヘリが急速に高度を上げていくのを感じる。

 耳元ではフワーデが替え歌で現状を知らせていた。

「フッ、フッ、フワーデ、の魚雷さんー♪ 海獣の足元でー、足元でー、足元でー、足元でー」

 歌詞が思い浮かばんのかーい!とツッコミを入れた瞬間、

「どっかーん!」
 
 叫ぶフワーデの声と同時に、ヘリが急降下を始めた。

 微かな振動で爆雷がヘリから投下されたのを感じる。

 そして――

「そしてどかーん!どかーん! め、い、ちゅ、う、だー♪ やふー!」

 ヘリの中からでも爆発の振動が感じられた。
 
「フワーデ! もう目を開けていいか?」

「うん、もう大丈夫だよ! えっとターゲットキル?」

 目を開いて窓から海上を見下ろすと、そこには恐らく海獣のものと思われるいくつかの肉片とオイルのような液体が僅かに見えるだけであった。

 それも波に呑まれてすぐに消えてしまった。

 心に重く伸し掛かっていた圧もいつの間にか消えていた。

「勝った……のか」

 私が安堵のため息を吐いてから、目の前で必死に目を閉じ耳を塞いでいるマーカスとヴィルフォランドールの肩を叩き、二人を安心させた。

 そして私たちを乗せたヘリは、海域を離れつつある護衛艦フワデラの後を追った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...