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第四章 アシハブア王国
第96話 歓待!王国使節団御一行様
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ヴィルミアーシェさんの住む村長宅は、リーコス村司令部を兼ねていることもあって村で一番大きく堅牢な建物となっている。
外観は無骨なコンクリートで固められているが、一歩足を踏み入れると、帝国においても帝都でしか見られないような瀟洒な空間が広がっている。
我々の世界にあるモロッコ王国には、フェズという狭い地域に石の建物が密集した迷宮都市がある。
そこにある高級ホテルでは狭い空間を有効活用して、迷宮の中でも青空が吹き抜けるオシャレなカフェなどがあったりするのだが、それと同じような工夫がこの建物内に施されていた。
受付フロアの中央には、強化ガラスで囲まれた吹き抜けの小さな庭園があって、そこには色とりどりの花が咲き誇っている。
フロア全体は、落ち着いた照明と静かでゆったりとした音楽で包まれ、まるで高級ホテルのフロントにいるかのように感じる。
施設科の面々には「司令部としての機能も大事だが、ヴィルミアーシェさんが暮らしやすいような建物にしてあげてくれ」と、確かに私は言った。
だが完成した建物を見る限り、どうも彼らの趣味全開でデザイン・設計されているような気がしなくもない。というか趣味全開だろ!
事実、最上階に用意されたヴィルミアーシェさんの部屋なんて、ネットやTVでしか見たことのない超高級ホテルのスイートルームのような、いやスイートルームそのものだった。
そこで暮らすことになったヴィルミアーシェさんは、
「こんな王宮のようなところで寝起きするのは、どうにも落ち着きません」
と言って、最初のうちはベッドではなくソファで眠っていたそうだ。
ただ村長として超多忙な日々を送る彼女は、疲れのあまりベッドに倒れ込むことも多く、すぐにスイートルームでの生活にも慣れたらしい。
私に相談してくれれば、一緒に添い寝してあげたのにな。
そんなことを考えているうちに、受付カウンターからリーコス村の女性スタッフたちが出て来て、使節団一行を迎えた。
「使節団の皆様、リーコス村へようこそ。王女様がおつきになるまでの間、こちらのレストランでおくつろぎくださいませ」
彼女たちの洗練された仕草に使節団一行は全員が度肝を抜かれたかのような顔になる。
「「う、うむ……」」
もう今の時点で、使節団一行のたじろいでいる内心が見え見えだった。蔑んでいるはずの白狼族の女性に誘われるままに、彼らはレストランへと移動する。
護衛騎士団と侍女たちはレストランの対面にあるカフェに案内された。どちらもガラス張りなのでお互いの姿が見えている。
騎士の数人はガラスの仕切りが珍しいのか、手や顔を押し付けたり、こんこん叩いたり、物珍しそうに触れていた。
その様子を見たフロアにいる白狼族や乗組員たちが、手を口元に持ってきてクスクスと小さな笑いをこぼす。
高貴な貴族のご婦人が平民を小バカにする際にするようなあの仕草。間違いなくわざとやってるな。
それの様子が目に入った使節団一行の顔がしかめっ面になる。
だがしかめっ面になったのは私たちも同じだった。
臭い……のだ。
外にいるときには気にならなかったのだが、使節団一行からは異臭がしていた。
といっても、それはこの異世界の街では普通の、今では我々も十分に慣れ親しんでいる程度のものだ。というか、身分の高い彼らはまだマシな方ではある。
ただ、帝国そのものが再現されているようなこの空間に入ってしまうと、帝国での感覚が戻ってくるのだろう。
つまり彼らは臭《にお》っていた。
とはいえ、さすがに「皆さんお臭いですので、消臭スプレーさせていただきますね」と言うわけにもいかない。
ヴィルミアーシェさんへの侮辱の件を考えれば言ってやってもいいとは思ったが、ここは大人の対応を採ることにした。
~ 軽食タイム ~
護衛艦フワデラに王女を残していたのは、ギリギリまで後頭部ケアを続けるためだ。
植毛スタッフの血の滲むような努力によって、植毛自体は完璧に完成していたのだが、それでも万が一に備えてチェックとメンテを重ねていた。
最後の後頭部チェックが終了した王女は、今、侍女が持ってきた服に着替え終えて、ヘリに乗り込んでいるとの報告がインカムから伝わってきた。
一方、村長宅のカフェでは騎士や侍女たちの希望を聞いて、それぞれに軽い食事やスイーツ、ワイン等を提供している。
レストランの使節団の方も、同じく希望を聞いて、それぞれサンドイッチ等の軽い食事や甘味を提供。会談前ということもあってさすがにワインを希望する者はいなかった。
騎士団や侍女のいるカフェからは、出された食事を口に運んだ者が次々と感嘆の声を上がっていく。
「なんだこのスシ(ビッグマートお得用パック)という食べ物は! ラーナリアの楽園にかけて美味い!」
「これエクレア(ビックマートお得用パック)って言うの? まるで王族用のお菓子じゃない!」
「神よ! このワイン(ビッグマートお徳用サイズ)は貴方が御造りになられたのか!」
「美味い! 美味い! 美味い!」
騎士の中には何杯も牛丼(ビックマート業務用パック)を掻き込む者までいた。その目には感動の炎が燃えているのが見える。
騎士や侍女たちがはしゃぐ姿を苦々しそうに睨みつけながら、使節団一行が運ばれてきた料理を口に入れる。
その瞬間、彼らの目がカッと見開かれた。
恐らく美味い!と言いそうになっているのを必死に我慢しようとする姿は、まるで爆発した内臓が漏れ出ないよう抑えているかのようで、却って心配になるほどだ。
ドルネア公と若造1・若造2・中年1は身体をプルプルさせながら、
「ふむ。まぁまぁじゃな」
「まぁまぁだな」
「まぁまぁですな」
「まぁまぁね」
と、ギリギリ平静な風を装いつつ、次々と料理を平らげて言った。
美味しいなら素直にそう言えばいいのに、というかまずくても褒めるのが外交使節のお仕事じゃないのかな?
そんなことを考えながらニヤニヤする私の顔に気付いたドルネア公が、一瞬、憮然とした表情になる。
くくく。帝国の勝利だな。
「あれ? 平野副長はどこだ?」
ふと気づくと近くに平野がいない。
「あっ……あん! ふうぅっ! 山海の出会い新鮮リーコスクラブとパストラミのサンド……んっ、らめぇ……おいししゅぎりゅぅぅ……」
いつの間にか平野がカフェにいてトンデモないことをやらかしていた。
普段はクールビューティーな平野だが、こと食事に限ってはアヘ顔ダブルピース女に変身してしまうのだ。
いつの間にか平野の周りを男性騎士が取り囲んで、彼女が食事する様子を息を呑んで見つめていた。
そんな身内の醜態を見せられた私は、ついさっき使節団の連中がしていたのと同じように目をカッと開きながら、自制心を最大出力で発揮して声を押し殺す。
私の目の合図を受けた白狼族の女性スタッフが平野を両脇から掴み、こちらに引きずり戻してきた。
その様子を見たドルネア公の顔に余裕が戻る。
畜生!
平野ぉぉ、これで台無しだよ!
外観は無骨なコンクリートで固められているが、一歩足を踏み入れると、帝国においても帝都でしか見られないような瀟洒な空間が広がっている。
我々の世界にあるモロッコ王国には、フェズという狭い地域に石の建物が密集した迷宮都市がある。
そこにある高級ホテルでは狭い空間を有効活用して、迷宮の中でも青空が吹き抜けるオシャレなカフェなどがあったりするのだが、それと同じような工夫がこの建物内に施されていた。
受付フロアの中央には、強化ガラスで囲まれた吹き抜けの小さな庭園があって、そこには色とりどりの花が咲き誇っている。
フロア全体は、落ち着いた照明と静かでゆったりとした音楽で包まれ、まるで高級ホテルのフロントにいるかのように感じる。
施設科の面々には「司令部としての機能も大事だが、ヴィルミアーシェさんが暮らしやすいような建物にしてあげてくれ」と、確かに私は言った。
だが完成した建物を見る限り、どうも彼らの趣味全開でデザイン・設計されているような気がしなくもない。というか趣味全開だろ!
事実、最上階に用意されたヴィルミアーシェさんの部屋なんて、ネットやTVでしか見たことのない超高級ホテルのスイートルームのような、いやスイートルームそのものだった。
そこで暮らすことになったヴィルミアーシェさんは、
「こんな王宮のようなところで寝起きするのは、どうにも落ち着きません」
と言って、最初のうちはベッドではなくソファで眠っていたそうだ。
ただ村長として超多忙な日々を送る彼女は、疲れのあまりベッドに倒れ込むことも多く、すぐにスイートルームでの生活にも慣れたらしい。
私に相談してくれれば、一緒に添い寝してあげたのにな。
そんなことを考えているうちに、受付カウンターからリーコス村の女性スタッフたちが出て来て、使節団一行を迎えた。
「使節団の皆様、リーコス村へようこそ。王女様がおつきになるまでの間、こちらのレストランでおくつろぎくださいませ」
彼女たちの洗練された仕草に使節団一行は全員が度肝を抜かれたかのような顔になる。
「「う、うむ……」」
もう今の時点で、使節団一行のたじろいでいる内心が見え見えだった。蔑んでいるはずの白狼族の女性に誘われるままに、彼らはレストランへと移動する。
護衛騎士団と侍女たちはレストランの対面にあるカフェに案内された。どちらもガラス張りなのでお互いの姿が見えている。
騎士の数人はガラスの仕切りが珍しいのか、手や顔を押し付けたり、こんこん叩いたり、物珍しそうに触れていた。
その様子を見たフロアにいる白狼族や乗組員たちが、手を口元に持ってきてクスクスと小さな笑いをこぼす。
高貴な貴族のご婦人が平民を小バカにする際にするようなあの仕草。間違いなくわざとやってるな。
それの様子が目に入った使節団一行の顔がしかめっ面になる。
だがしかめっ面になったのは私たちも同じだった。
臭い……のだ。
外にいるときには気にならなかったのだが、使節団一行からは異臭がしていた。
といっても、それはこの異世界の街では普通の、今では我々も十分に慣れ親しんでいる程度のものだ。というか、身分の高い彼らはまだマシな方ではある。
ただ、帝国そのものが再現されているようなこの空間に入ってしまうと、帝国での感覚が戻ってくるのだろう。
つまり彼らは臭《にお》っていた。
とはいえ、さすがに「皆さんお臭いですので、消臭スプレーさせていただきますね」と言うわけにもいかない。
ヴィルミアーシェさんへの侮辱の件を考えれば言ってやってもいいとは思ったが、ここは大人の対応を採ることにした。
~ 軽食タイム ~
護衛艦フワデラに王女を残していたのは、ギリギリまで後頭部ケアを続けるためだ。
植毛スタッフの血の滲むような努力によって、植毛自体は完璧に完成していたのだが、それでも万が一に備えてチェックとメンテを重ねていた。
最後の後頭部チェックが終了した王女は、今、侍女が持ってきた服に着替え終えて、ヘリに乗り込んでいるとの報告がインカムから伝わってきた。
一方、村長宅のカフェでは騎士や侍女たちの希望を聞いて、それぞれに軽い食事やスイーツ、ワイン等を提供している。
レストランの使節団の方も、同じく希望を聞いて、それぞれサンドイッチ等の軽い食事や甘味を提供。会談前ということもあってさすがにワインを希望する者はいなかった。
騎士団や侍女のいるカフェからは、出された食事を口に運んだ者が次々と感嘆の声を上がっていく。
「なんだこのスシ(ビッグマートお得用パック)という食べ物は! ラーナリアの楽園にかけて美味い!」
「これエクレア(ビックマートお得用パック)って言うの? まるで王族用のお菓子じゃない!」
「神よ! このワイン(ビッグマートお徳用サイズ)は貴方が御造りになられたのか!」
「美味い! 美味い! 美味い!」
騎士の中には何杯も牛丼(ビックマート業務用パック)を掻き込む者までいた。その目には感動の炎が燃えているのが見える。
騎士や侍女たちがはしゃぐ姿を苦々しそうに睨みつけながら、使節団一行が運ばれてきた料理を口に入れる。
その瞬間、彼らの目がカッと見開かれた。
恐らく美味い!と言いそうになっているのを必死に我慢しようとする姿は、まるで爆発した内臓が漏れ出ないよう抑えているかのようで、却って心配になるほどだ。
ドルネア公と若造1・若造2・中年1は身体をプルプルさせながら、
「ふむ。まぁまぁじゃな」
「まぁまぁだな」
「まぁまぁですな」
「まぁまぁね」
と、ギリギリ平静な風を装いつつ、次々と料理を平らげて言った。
美味しいなら素直にそう言えばいいのに、というかまずくても褒めるのが外交使節のお仕事じゃないのかな?
そんなことを考えながらニヤニヤする私の顔に気付いたドルネア公が、一瞬、憮然とした表情になる。
くくく。帝国の勝利だな。
「あれ? 平野副長はどこだ?」
ふと気づくと近くに平野がいない。
「あっ……あん! ふうぅっ! 山海の出会い新鮮リーコスクラブとパストラミのサンド……んっ、らめぇ……おいししゅぎりゅぅぅ……」
いつの間にか平野がカフェにいてトンデモないことをやらかしていた。
普段はクールビューティーな平野だが、こと食事に限ってはアヘ顔ダブルピース女に変身してしまうのだ。
いつの間にか平野の周りを男性騎士が取り囲んで、彼女が食事する様子を息を呑んで見つめていた。
そんな身内の醜態を見せられた私は、ついさっき使節団の連中がしていたのと同じように目をカッと開きながら、自制心を最大出力で発揮して声を押し殺す。
私の目の合図を受けた白狼族の女性スタッフが平野を両脇から掴み、こちらに引きずり戻してきた。
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