ミサイル護衛艦が異世界転移!? しかも艦長が幼女になっちゃいましたけど?

帝国妖異対策局

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第四章 アシハブア王国 

第99話 初代艦長(フェイク)への献花式

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 王国使節団の滞在最終日、彼らがアシハブア王国に帰国するために出発するその日に、初代艦長の墓前で献花式が行なわれた。

 皆が粛々としてドルネア公の弔詞に耳を傾けていた。フェイク艦長の真実を知る乗組員やリーコス村の住人たちは、居心地悪そうにしている。 

「女神ラーナリアの導きにより遥か遠い異国の海より来りて、フィルモサーナを侵す魔を撃ち祓いし誠の勇者よ。その顔を見も知らぬ我らのために戦い、勝利し、数多の命を救い。そして異界の海に還る。女神ラーナリアよ、彼の者をその楽園へととく迎え入れ給え。彼の御魂が望むのであれば、彼の母なる国に英雄が返る処へと送り届け給え。あぁ、我らが英雄タカツユウジ艦長! 彼の者に栄あれ! その母国に栄あれ! アシハブア王国に栄あれ! ラーナリアの……」

 長いんじゃぁぁ!

 心のツッコミが思わず顔に出てしまった。

 その時、若者1と目が合ってしまったので、私は咄嗟《とっさ》に「クッ!」と顔を背けて手で涙を拭って嗚咽する……フリをする。やばかった。

 こっそり他の乗組員や村人を観察してみると、私と同じようなことをあちこちでやっているのが見えた。

 献花式が終わるまで突然「クッ!」と言いながら顔を覆う者は後を絶たなかった。

 ちなみにフェイク艦長タカツユウジが遺言によって指名した次の艦長が、彼の孫である私タカツユウ艦長ということになっている。

 フェイク艦長の見た目からすれば、今の私はひ孫といったところなのだが、「そこは老いてもなお、お盛んだった路線で行きましょうよ。英雄色を好むと言いますし」という山形の提案が通ってしまった。

 おかげでタカツユウジの名に謂れのない好色イメージがついてしまって悔しい。その悔しさを噛みしめた私は再び「クッ!」を繰り返す。

 献花式の後は、そのまま王国使節団の出立式が行われ、ついに出発する準備が整った。

 結局、リーコス村には、王女の他に若者1・若者2・中年3、そして4名の侍女が残ることになった。
 
 ブロロン! ブロロン! ブロロン!
  
 アシハブア王国に献上する3台の73式トラックがドルネア公の前に到着する。

 それぞれのトラックには白狼族のドライバーが搭乗していた。

 トラックに乗り込む前に、ドルネア公と私は固い握手を交わす。

 この議定書にサインするまでの激動の一週間で、ドルネア公と私は何度も額を激突させる議論を交わした。実際にお互いにたんこぶを作ったりもした。

 その過程で気が付いたのは、ドルネア公は亜人や獣人に対する偏見さえなければ、アシハブア王国に忠義を尽くす(尊大な)人物であるということだ。

 彼から尊大な態度だけは取れそうもないが、そこはまぁ個性として受け入れることにした。

 ドルネア公はタヌァカ氏のカリキュラムを経ていないが、代わりに護衛艦フワデラと妖異の戦闘記録、グレイベア村のドラゴンジャーの全動画視聴、そして対地戦を想定したフワデラの演習の視察を行っている。

 今の彼が、どれだけ本心から亜人や獣人に対する見方を変化させているのかは知りようがない。

 ただし、アシハブア王国の北面の脅威を排除しているのが、リーコス村を拠点とする護衛艦フワデラと、ドラゴンが守るグレイベア村の存在に依存していることは理解したはずだ。

「閣下、そろそろ出発しましょう」

 そう言ってドルネア公に声を掛けたのはタヌァカ氏だ。ドルネア公は帰路、その途中でグレイベア村に立ち寄ることにしたのだ。

「うむ。では案内のほどよろしく頼むぞ、タヌァカ騎士爵」

 リーコス村に到着したときの公爵と比較すれば、彼が魔族の村に立ち寄るなんてえらい変わりようだ。

 出立した使節団を見送りながら、平野副長がつぶやいた。

「大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だろ。タヌァカ氏も同行しているし、グレイベア村のルカ村長とはオンラインで顔合わせしているし……」
 
 私が途中で言葉を切ったので、平野が何事かと私の顔を覗き込む。

「何よりグレイベア村の温泉は最高だからな」

「なるほど。それなら大丈夫でしょうね……はぁ」

 そのまま会話が終わるのかと思いきや、平野副長が最後に大きなため息を吐いた。

 そのため息の理由を私は知っている。

「公爵の心配より、お前の方は大丈夫なのか?」

 平野は再び大きくため息を吐く。

「はぁ……。騎士団の方々から何枚も招待状を戴いたのですが、これどうすればいいのでしょう」

 平野の手には札束のように重なった封書の束が握られている。

「一応、全部断ったんだろ?」

「はい。なにぶん今は戦時下なので何もお約束することはできませんと……。それでも押し付けられてしまいました」

 平野は使節団の滞在中、そのほとんどを艦で過ごしている。式典があるときにチラっと顔を出すくらいだったはずだ。

 なのにこの別れ際に、数多くの騎士から求愛の意図が見え見えの招待状が平野の手元に集まっている。

「どうしてだろうな? 騎士連中と平野の接点なんて、ほとんどなかったのに……」

 まさか……使節団が到着した初日に平野がやらかしたカフェでの食事が原因か?

 まさかまさか、もしそうだとしたらアシハブア王国の騎士団は変態の集まりということに――

 というか絶対それだろ! 

「私も分かりません……はぁ」

 私は、隣でため息を漏らす平野に何も伝えることなく、一緒に分からないフリをした。

 だが、私の推測は半分しか当たっていなかった。

 騎士団が平野を口説こうとするまでに惚れ込んだのは、平野の食事風景だけが原因ではなかったのだ。彼らが平野崇拝者になった決定的な原因、それは――

 フワデラ乗組員(♂)とリーコス村住人(♂)の間で結成された謎の組織の陰謀だった!

 秘密結社「女王様の近衛兵団」による熱心な女王様推し活が、ほとんどの王国護衛騎士を平野信者へと洗脳していったのである。

 結局、事の真相が判明するのはこれよりずっと先のことになるのだが、

 この頃から、私と平野の知らないところで「女王様の近衛兵団」は勢力を驚異的な速度で拡大し続けていくのであった。

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