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第四章 アシハブア王国
第101話 神ネットスーパー練馬店
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タヌァカ夫妻がグレイベア村から戻ってくると、フワデラの乗組員やリーコス村の住人がワラワラと集まってきて、たちまちタヌァカ氏を取り囲んだ。
「お帰りなさい! もうお帰りが待ち遠しくて、待ち遠しくて!」
「やっと戻って来てくれたぁ!」
「タヌァカさん、お帰りなさい! 心待ちにしてました!」
二人が街で見つかったアイドルのような状況になりつつあったので、私は群がる追っかけ連中に注意する。
「タヌァカご夫妻は、戻ったばかりでお疲れなんだ。とりあえず二人を休ませてあげろ! 特に緊急でなければ用事は明日にしろ!」
結構大きな声を出したつもりだったが、追っかけ共の耳に届かなかったようなので、私はタヌァカ氏の前まで群衆の中を分け入っていった。
「こらっ! 二人はお疲れだ! 用事は明日! 解散! 解散! かいさーん!」
アイドルか何かのマネージャーになった気分だ。
二人の手をぐいぐいと引っ張りながら司令部に到着するころには、タヌァカ氏とライラさんだけでなく私までヘロヘロに疲れていた。
「それにしても、二人がこれほどまでにアイドルしてたとは驚いたよ。タヌァカさんもライラさんも大人気だね」
タヌァカ氏が何やらモジモジしながら私の方を見つめる。
「あの、えっと、艦長……俺、ぼくたちのことは呼び捨てで構いませんよ。というかそろそろ呼び捨てでお願いします」
「そうなの? 艦長、幼女だけどいいの?」
「えぇ、さん付けだと、なんかこそばゆいというか。それに幼女化しちゃったのは、ぼくのせいですし……。とにかくお願いします。あっ、できればシンイチで! タヌァカだと田中さんと被っちゃいますし」
「なるほど、わかった。それじゃシンイチ、ライラ、お帰り」
「「ただいまです、艦長」」
ニカッと笑って返事をするシンイチの笑顔は、帝国でよく見かける17歳の少年そのものだった。
彼をタヌァカ氏と呼んでいたときに持っていた青年のイメージがスッと消えていった。
護衛艦フワデラが帝国に戻るためには、恐らく二人の悪魔勇者を倒す必要がある。それを成し遂げるために、まさに要となる力を持っているのがシンイチだ。
たった17歳の少年なのだ。
フワデラの兵装で悪魔勇者を駆逐できるのであれば、それに越したことはない。だが魔法が存在するような未知の異世界で、それがどこまで通用するのかはわからない。
恐らく彼の持つスキル【幼女化】が必要になる場面が出てくるだろう。
映画やアニメでは、彼らのような少年が戦闘の最前線に立つ物語がある。また帝国の近代史においても、現実に学徒が命を散らした悲劇が存在する。
それを見守る大人の気持ちが、これほど苦々しく口惜しいものなのだと……
私は今更ながら感じていた。
まぁ、今は幼女なんだけど。
~ 人気の秘密 ~
士官用食堂でシンイチたちとお茶しつつ、簡単な報告を聞いていたら、シンイチが大人気の理由はすぐに判明した。
「あはは、みんな俺…ぼくのスキルが目当てなんですよ」
いつものようにハニカミながら、シンイチはそのスキルを見せてくれるという。
「シンイチ、もう『ぼく』じゃなく『俺』でいいぞ、そんなところで気を使わなくていいから」
「あっ、ハイ。えっと、俺のスキル【神ネットスーパー】は、練馬にあるあのショッピングモールの全店舗とAmazonoを利用することができるんです」
「そうらしいな。フワーデから聞いてるよ。そう言えば、それって我々が必要な物資の購入をお願いしたりできるのかな?」
「ショッピングモールは買い物カゴ5つという制限があって、今はそのほとんどをグレイベア村への毎日定期便に割り当てるので難しいですね。Amazonoの方も1日1点までの制限があって……なかなか皆さんの要望に応えることができなくて」
「なるほど。みんな、数少ないAmazono注文のチャンスを狙っているってことか」
私の言葉を聞いたシンイチは首を左右に振る。
「えっと、Amazonoの方もグレイベア村の資材購入に充てているので、みなさんの要望にほとんど応えることができていません。申し訳ないです」
「シンイチが謝る必要はない……んだが、ではどうして……」
私が言葉を言い切らないうちに、シンイチが声を上げた。
「あっ、来ました! 神ネコ配送です」
ブワァァン!
突然、シンイチの背後に謎の黒い空間が現れ、そこからエコバッグを引っさげた男の上半身がヌッと乗り出してきた。
「チーッス! 神ネコ配送便でーす!」
「ぬぉっ!?」
驚いて思わず腰を浮かす私を見て、男がカクッと首を傾げる。
「んっ? 自分のことが見える? ということは……もしかして護衛艦の人っすか!?」
「こんにちは佐藤さん、こちら護衛艦フワデラの高津艦長。今、神スパのことを説明してるとこ」
佐藤と名乗る男は、シンイチと私の顔を見比べるとうんうんと頷いて何かを納得していた。そして、頭の半分を黒い空間に戻し、
「由紀子さーん! いま、フワデラの艦長さんいらっしゃってるんで、ちょっと時間もらってイイっすかー! あっ、ええ、ちょっと説明を……ハイ、ありがとうございます」
こうして、私は神ネットスーパー練馬店で配送業務を委託されている神ネコ配送便の佐藤さんから、色々と話を聞くことができたのであった。
佐藤さんは、護衛艦フワデラの神業務ネットスーパー、ビックマートのことも知っていた。彼自身、時折応援でそちらの配送を手伝ったりすることがあるそうだ。
そしてついに私は、シンイチに乗組員や村人が群がる理由を知ることができた。
「なるほど……シンイチと佐藤さんが会っている間は、帝国とのネット通信が可能だということですか」
佐藤さんが頷く。
「天上界のフィルタが掛かりますけどね。基本的に、物であれ情報であれ、天上界から許可されていないものはやりとりできません。インターネットなんかは基本的にダウンロードだけっす」
何と意地の悪い仕組みなのだろうか。顔をしかめる私に、佐藤さんが慌てて付け加える。
「難しいことはよくわかんないっすけど、例え情報であっても異なる世界を渡らせるのは凄い危険なことみたいっす。やり過ぎると猟犬ってのが湧き出て来て、両方の世界がエライことになるって研修で聞きました」
そしてシンイチは、みんなに自分が群がられる理由を明かしてくれた。
「帝国の情報を見たくて、皆さんが俺のところにいらっしゃるんです」
なるほど。事情は把握した。帝国で我々の状況がどのように報道されているのか確認するために、スマホを取り出してニュース検索してみた。
「あれ? 私たちの情報がないな……」
情報が一切ないというわけではないが、護衛艦フワデラが行方不明になったというニュース報道が見当たらない。
というか……
「我々がこの世界に飛ばされた当日以降の情報がないんだが……」
その後の佐藤さんによる解説で、インターネットのみならず、神ネットスーパーでも、利用者が転移した当時までのものしか入手できないということが判明した。
その制限も、猟犬というのを呼び寄せないための配慮ということらしいのだが、それでも、天上界に対する好感度はダダ下がりするばかりだった。
そもそも天上界の都合で、こんな目にあっているわけで……。
今度、「EONポイント付与10倍キャンペーン」の要望をフワーデの神Botで要求しよう。そう心に誓う私だった。
佐藤さんが戻る前に、私は娘のSNSアカウントを閲覧した。以前、帝国海軍諜報部にいる同期に頼んで調べて貰ったのだ。
そこには、愛犬ペコちゃんの写真や、学校でのたわいない出来事といった、たわいのないことが投稿されていた。
そこには娘自身の写真はないものの、まるで娘がそこにいるかのような懐かしい感覚に、私の幼女の瞳に涙が溢れた。
「艦長さん、すんません。そろそろ失礼するっす……」
「あ、あぁ、勤務中なんだったね。申し訳ない」
そう言ってSNSを閉じようとしたとき、最後の更新情報が目に入った。
『さっき告白されちゃった! ずっと大好きだった人から!』
ブワン! 黒い空間と共に佐藤さんが消える。
ちょおおおおおおおおおおおい!
私はひとさし指に火が付くほどスマホの画面を上下に擦った。
ちょおおおおおおおおおおおい!
翌日、佐藤さんとシンイチに群がる他の乗組員と一緒に、私もスマホを持って群がった。しかし、娘のアカウントからそれ以上の投稿を確認することはできなかった。
ちょおおおおおおおおおおおい!
「お帰りなさい! もうお帰りが待ち遠しくて、待ち遠しくて!」
「やっと戻って来てくれたぁ!」
「タヌァカさん、お帰りなさい! 心待ちにしてました!」
二人が街で見つかったアイドルのような状況になりつつあったので、私は群がる追っかけ連中に注意する。
「タヌァカご夫妻は、戻ったばかりでお疲れなんだ。とりあえず二人を休ませてあげろ! 特に緊急でなければ用事は明日にしろ!」
結構大きな声を出したつもりだったが、追っかけ共の耳に届かなかったようなので、私はタヌァカ氏の前まで群衆の中を分け入っていった。
「こらっ! 二人はお疲れだ! 用事は明日! 解散! 解散! かいさーん!」
アイドルか何かのマネージャーになった気分だ。
二人の手をぐいぐいと引っ張りながら司令部に到着するころには、タヌァカ氏とライラさんだけでなく私までヘロヘロに疲れていた。
「それにしても、二人がこれほどまでにアイドルしてたとは驚いたよ。タヌァカさんもライラさんも大人気だね」
タヌァカ氏が何やらモジモジしながら私の方を見つめる。
「あの、えっと、艦長……俺、ぼくたちのことは呼び捨てで構いませんよ。というかそろそろ呼び捨てでお願いします」
「そうなの? 艦長、幼女だけどいいの?」
「えぇ、さん付けだと、なんかこそばゆいというか。それに幼女化しちゃったのは、ぼくのせいですし……。とにかくお願いします。あっ、できればシンイチで! タヌァカだと田中さんと被っちゃいますし」
「なるほど、わかった。それじゃシンイチ、ライラ、お帰り」
「「ただいまです、艦長」」
ニカッと笑って返事をするシンイチの笑顔は、帝国でよく見かける17歳の少年そのものだった。
彼をタヌァカ氏と呼んでいたときに持っていた青年のイメージがスッと消えていった。
護衛艦フワデラが帝国に戻るためには、恐らく二人の悪魔勇者を倒す必要がある。それを成し遂げるために、まさに要となる力を持っているのがシンイチだ。
たった17歳の少年なのだ。
フワデラの兵装で悪魔勇者を駆逐できるのであれば、それに越したことはない。だが魔法が存在するような未知の異世界で、それがどこまで通用するのかはわからない。
恐らく彼の持つスキル【幼女化】が必要になる場面が出てくるだろう。
映画やアニメでは、彼らのような少年が戦闘の最前線に立つ物語がある。また帝国の近代史においても、現実に学徒が命を散らした悲劇が存在する。
それを見守る大人の気持ちが、これほど苦々しく口惜しいものなのだと……
私は今更ながら感じていた。
まぁ、今は幼女なんだけど。
~ 人気の秘密 ~
士官用食堂でシンイチたちとお茶しつつ、簡単な報告を聞いていたら、シンイチが大人気の理由はすぐに判明した。
「あはは、みんな俺…ぼくのスキルが目当てなんですよ」
いつものようにハニカミながら、シンイチはそのスキルを見せてくれるという。
「シンイチ、もう『ぼく』じゃなく『俺』でいいぞ、そんなところで気を使わなくていいから」
「あっ、ハイ。えっと、俺のスキル【神ネットスーパー】は、練馬にあるあのショッピングモールの全店舗とAmazonoを利用することができるんです」
「そうらしいな。フワーデから聞いてるよ。そう言えば、それって我々が必要な物資の購入をお願いしたりできるのかな?」
「ショッピングモールは買い物カゴ5つという制限があって、今はそのほとんどをグレイベア村への毎日定期便に割り当てるので難しいですね。Amazonoの方も1日1点までの制限があって……なかなか皆さんの要望に応えることができなくて」
「なるほど。みんな、数少ないAmazono注文のチャンスを狙っているってことか」
私の言葉を聞いたシンイチは首を左右に振る。
「えっと、Amazonoの方もグレイベア村の資材購入に充てているので、みなさんの要望にほとんど応えることができていません。申し訳ないです」
「シンイチが謝る必要はない……んだが、ではどうして……」
私が言葉を言い切らないうちに、シンイチが声を上げた。
「あっ、来ました! 神ネコ配送です」
ブワァァン!
突然、シンイチの背後に謎の黒い空間が現れ、そこからエコバッグを引っさげた男の上半身がヌッと乗り出してきた。
「チーッス! 神ネコ配送便でーす!」
「ぬぉっ!?」
驚いて思わず腰を浮かす私を見て、男がカクッと首を傾げる。
「んっ? 自分のことが見える? ということは……もしかして護衛艦の人っすか!?」
「こんにちは佐藤さん、こちら護衛艦フワデラの高津艦長。今、神スパのことを説明してるとこ」
佐藤と名乗る男は、シンイチと私の顔を見比べるとうんうんと頷いて何かを納得していた。そして、頭の半分を黒い空間に戻し、
「由紀子さーん! いま、フワデラの艦長さんいらっしゃってるんで、ちょっと時間もらってイイっすかー! あっ、ええ、ちょっと説明を……ハイ、ありがとうございます」
こうして、私は神ネットスーパー練馬店で配送業務を委託されている神ネコ配送便の佐藤さんから、色々と話を聞くことができたのであった。
佐藤さんは、護衛艦フワデラの神業務ネットスーパー、ビックマートのことも知っていた。彼自身、時折応援でそちらの配送を手伝ったりすることがあるそうだ。
そしてついに私は、シンイチに乗組員や村人が群がる理由を知ることができた。
「なるほど……シンイチと佐藤さんが会っている間は、帝国とのネット通信が可能だということですか」
佐藤さんが頷く。
「天上界のフィルタが掛かりますけどね。基本的に、物であれ情報であれ、天上界から許可されていないものはやりとりできません。インターネットなんかは基本的にダウンロードだけっす」
何と意地の悪い仕組みなのだろうか。顔をしかめる私に、佐藤さんが慌てて付け加える。
「難しいことはよくわかんないっすけど、例え情報であっても異なる世界を渡らせるのは凄い危険なことみたいっす。やり過ぎると猟犬ってのが湧き出て来て、両方の世界がエライことになるって研修で聞きました」
そしてシンイチは、みんなに自分が群がられる理由を明かしてくれた。
「帝国の情報を見たくて、皆さんが俺のところにいらっしゃるんです」
なるほど。事情は把握した。帝国で我々の状況がどのように報道されているのか確認するために、スマホを取り出してニュース検索してみた。
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佐藤さんが戻る前に、私は娘のSNSアカウントを閲覧した。以前、帝国海軍諜報部にいる同期に頼んで調べて貰ったのだ。
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そこには娘自身の写真はないものの、まるで娘がそこにいるかのような懐かしい感覚に、私の幼女の瞳に涙が溢れた。
「艦長さん、すんません。そろそろ失礼するっす……」
「あ、あぁ、勤務中なんだったね。申し訳ない」
そう言ってSNSを閉じようとしたとき、最後の更新情報が目に入った。
『さっき告白されちゃった! ずっと大好きだった人から!』
ブワン! 黒い空間と共に佐藤さんが消える。
ちょおおおおおおおおおおおい!
私はひとさし指に火が付くほどスマホの画面を上下に擦った。
ちょおおおおおおおおおおおい!
翌日、佐藤さんとシンイチに群がる他の乗組員と一緒に、私もスマホを持って群がった。しかし、娘のアカウントからそれ以上の投稿を確認することはできなかった。
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