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第四章 アシハブア王国
第103話 中世の香り
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カトルーシャ王女には一度、ドルネア公が王都に戻ったタイミングに合わせてアシハブア王国へお帰り頂いている。
そのときは、護衛艦フワデラを王都から100kmの海上に移動させ、そこから出発したSH-60L哨戒ヘリが王宮へと降り立った。
バババババババババ
それは王女の無事を直接確認したいという王の要望と、フワデラの戦力の一端を直接見せつけておきたいという私の思惑が一致したことによって、実現した訪問である。
バババババババババ
王宮の内庭に降り立ったのは、カトルーシャ王女と私、スプリングス氏である。現地に駐在していた南大尉が率いる小隊の案内で、私たちはそのまま王宮へと案内された。
当初の滞在予定は一週間。その間に、カトルーシャ王女の大使任命式が行われ、晴れて護衛艦フワデラと王国を結ぶ外交大使となるはずだった。
「うっ……」
王国の歓迎を受け、我々三人がレッドカーペットの上を歩く中、王城内に入った際にカトルーシャ王女が発した一言が「うっ」である。
もちろん私も「うっ」と思ったし、スプリングス氏も同様のはずなのだが、大人な二人はそれを顔に出すことはなかった。
元の世界でも中世ヨーロッパの王城というのが非常にとても、とてつもなく「臭った」というのは広く知られている事実である。
上下水道が発達して水洗トイレが当たり前の帝国臣民には想像もつかない現実が、そこにはあるのだ。
王宮の床に藁が敷き詰められていた理由とか、歩きながらいたすのが普通とか、女性のドレスのスカートが超広い理由とか……地獄の様相について、ここでは語るまい。
手洗い?
ナニソレ美味しいの?
ということなのだが、ここで言う「手洗い」とは「外から帰ってきたら手を洗いましょうね」の手洗いではもちろんない。
その手洗いではないのだ!
ともあれ、王女が先に「うっ」と言ってハンカチで鼻を覆ってくれたおかげで、私は中世ヨーロッパの臭気について思い出すことができた。
おかげで出迎えてくれた人々の前で、失礼な行動を取らずに済んだのだが、正直、私は油断していた。
港湾都市ローエンでは、道端でンコに勤しむ人々を何度も目にしていたので、やはりここは中世なのだなぁと自覚はしていたつもりだったのだが……。
普段、私たちが活動しているリーコス村やグレイベア村は、帝国並みの生活インフラが整っている。忘れていたが、この二つの村はこの世界では異常な清潔空間なのだ。
二つの村以外では、直近に訪れた古大陸のボルヤーグ連合王国においては、恐らく転生者であろう先代王が、徹底的な公衆衛生の向上を実現していた。
なので古大陸で訪れた王都は、現代帝国臣民が夢想するであろう中世ヨーロッパの世界そのものだった。
つまり「えっ!? リアルの中世ヨーロッパってそこまでエンガチョなの!?」という状態が拭い去られた夢の中世風世界が実現されていたのである。
その古大陸での王都のイメージが、私の中では最新情報だったので「この世界の普通」というのが頭からすっかり抜け落ちていた
一応フォローしておくと、そこはやはり魔法のある世界。魔石を使った魔道具の工夫によって、それなりの努力はされている。
送風による換気や聖なる光を灯すことによる除菌?のようなことをするにはしている。
うん、頑張ってる。スライムの汚物処理なんかはエコな感じで悪くない。
でも、元世界にいるイマドキのすぐキれる若者なら、マスク等の対策なしでは30分も王城にはいられないだろう。
「うっ」と言ってハンカチで鼻と口を抑えるに留まっている王女の態度は、王族としてのマナーを長年に渡って叩き込まれた賜物なのである。
だが護衛艦フワデラとリーコス村でひと月以上の生活を過ごしてきた王女は、既に帝国クラスの衛生観念を身に着けてしまっていた。もう後戻りできない身体となってしまったのだ。
「うーっ! こんなに臭うところに一週間もいられませんわ!」
王族として長年しつけられてきた成果によって、イマドキの若者なら30分も耐えられなかったところを、王女は20時間も耐えて見せたのだ。
「臭っ! お父さま! 任命式を今すぐ始めてくださいな! 今すぐですわ! 臭っ! 」
「カトルーシャよ、そんなに急がずとも……準備はしておる明日にでも……」
「い・ま・す・ぐ! ですわ! 臭っ! 」
カトルーシャ王女はワガママを推し通し、とうとう到着から6時間後に任命式が実施されたのだった。
「さぁ、艦長! 帰りますわよ! 臭っ! 」
「「「ええぇぇ!?」」」
さすがにそれは許されなかったのだが、それでも翌早朝にはカトルーシャ王女はヘリで先にフワデラへと戻っていった。
私とスプリング氏はその後、三日間を王宮で過ごし、そのほとんどを様々な取り決めを交わす会合に費やした。
そして四日目の朝。
私たちを迎えに来たヘリには、大量の衛生用品が詰め込まれていた。
カトルーシャ王女たっての要望によって、彼女自身の私財を叩いて護衛艦フワデラから買い上げたものだ。大量の除菌消臭剤、洗浄剤、トイレットペーパー、エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、アルコールティッシュ、マスク、芳香剤、マウスウォッシュ、歯ブラシ、歯磨き粉、洗濯洗剤、シャンプーリンス、石鹸等がいくつもの段ボールに詰められていた。
それらの使い方については滞在中の小隊が説明することになった。
そしてこれらの荷物と入れ替わるようにして、私とスプリングス氏は護衛艦フワデラへと戻って行ったのである。
これ以降、アシハブア王国の王宮は、大陸でもっとも清潔な王城と評されるようになり、後に「清涼城」として大陸の歴史に名を遺すことになる。
そのときは、護衛艦フワデラを王都から100kmの海上に移動させ、そこから出発したSH-60L哨戒ヘリが王宮へと降り立った。
バババババババババ
それは王女の無事を直接確認したいという王の要望と、フワデラの戦力の一端を直接見せつけておきたいという私の思惑が一致したことによって、実現した訪問である。
バババババババババ
王宮の内庭に降り立ったのは、カトルーシャ王女と私、スプリングス氏である。現地に駐在していた南大尉が率いる小隊の案内で、私たちはそのまま王宮へと案内された。
当初の滞在予定は一週間。その間に、カトルーシャ王女の大使任命式が行われ、晴れて護衛艦フワデラと王国を結ぶ外交大使となるはずだった。
「うっ……」
王国の歓迎を受け、我々三人がレッドカーペットの上を歩く中、王城内に入った際にカトルーシャ王女が発した一言が「うっ」である。
もちろん私も「うっ」と思ったし、スプリングス氏も同様のはずなのだが、大人な二人はそれを顔に出すことはなかった。
元の世界でも中世ヨーロッパの王城というのが非常にとても、とてつもなく「臭った」というのは広く知られている事実である。
上下水道が発達して水洗トイレが当たり前の帝国臣民には想像もつかない現実が、そこにはあるのだ。
王宮の床に藁が敷き詰められていた理由とか、歩きながらいたすのが普通とか、女性のドレスのスカートが超広い理由とか……地獄の様相について、ここでは語るまい。
手洗い?
ナニソレ美味しいの?
ということなのだが、ここで言う「手洗い」とは「外から帰ってきたら手を洗いましょうね」の手洗いではもちろんない。
その手洗いではないのだ!
ともあれ、王女が先に「うっ」と言ってハンカチで鼻を覆ってくれたおかげで、私は中世ヨーロッパの臭気について思い出すことができた。
おかげで出迎えてくれた人々の前で、失礼な行動を取らずに済んだのだが、正直、私は油断していた。
港湾都市ローエンでは、道端でンコに勤しむ人々を何度も目にしていたので、やはりここは中世なのだなぁと自覚はしていたつもりだったのだが……。
普段、私たちが活動しているリーコス村やグレイベア村は、帝国並みの生活インフラが整っている。忘れていたが、この二つの村はこの世界では異常な清潔空間なのだ。
二つの村以外では、直近に訪れた古大陸のボルヤーグ連合王国においては、恐らく転生者であろう先代王が、徹底的な公衆衛生の向上を実現していた。
なので古大陸で訪れた王都は、現代帝国臣民が夢想するであろう中世ヨーロッパの世界そのものだった。
つまり「えっ!? リアルの中世ヨーロッパってそこまでエンガチョなの!?」という状態が拭い去られた夢の中世風世界が実現されていたのである。
その古大陸での王都のイメージが、私の中では最新情報だったので「この世界の普通」というのが頭からすっかり抜け落ちていた
一応フォローしておくと、そこはやはり魔法のある世界。魔石を使った魔道具の工夫によって、それなりの努力はされている。
送風による換気や聖なる光を灯すことによる除菌?のようなことをするにはしている。
うん、頑張ってる。スライムの汚物処理なんかはエコな感じで悪くない。
でも、元世界にいるイマドキのすぐキれる若者なら、マスク等の対策なしでは30分も王城にはいられないだろう。
「うっ」と言ってハンカチで鼻と口を抑えるに留まっている王女の態度は、王族としてのマナーを長年に渡って叩き込まれた賜物なのである。
だが護衛艦フワデラとリーコス村でひと月以上の生活を過ごしてきた王女は、既に帝国クラスの衛生観念を身に着けてしまっていた。もう後戻りできない身体となってしまったのだ。
「うーっ! こんなに臭うところに一週間もいられませんわ!」
王族として長年しつけられてきた成果によって、イマドキの若者なら30分も耐えられなかったところを、王女は20時間も耐えて見せたのだ。
「臭っ! お父さま! 任命式を今すぐ始めてくださいな! 今すぐですわ! 臭っ! 」
「カトルーシャよ、そんなに急がずとも……準備はしておる明日にでも……」
「い・ま・す・ぐ! ですわ! 臭っ! 」
カトルーシャ王女はワガママを推し通し、とうとう到着から6時間後に任命式が実施されたのだった。
「さぁ、艦長! 帰りますわよ! 臭っ! 」
「「「ええぇぇ!?」」」
さすがにそれは許されなかったのだが、それでも翌早朝にはカトルーシャ王女はヘリで先にフワデラへと戻っていった。
私とスプリング氏はその後、三日間を王宮で過ごし、そのほとんどを様々な取り決めを交わす会合に費やした。
そして四日目の朝。
私たちを迎えに来たヘリには、大量の衛生用品が詰め込まれていた。
カトルーシャ王女たっての要望によって、彼女自身の私財を叩いて護衛艦フワデラから買い上げたものだ。大量の除菌消臭剤、洗浄剤、トイレットペーパー、エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、アルコールティッシュ、マスク、芳香剤、マウスウォッシュ、歯ブラシ、歯磨き粉、洗濯洗剤、シャンプーリンス、石鹸等がいくつもの段ボールに詰められていた。
それらの使い方については滞在中の小隊が説明することになった。
そしてこれらの荷物と入れ替わるようにして、私とスプリングス氏は護衛艦フワデラへと戻って行ったのである。
これ以降、アシハブア王国の王宮は、大陸でもっとも清潔な王城と評されるようになり、後に「清涼城」として大陸の歴史に名を遺すことになる。
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