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第九話 『一閃』
しおりを挟むカエ・フレイヤは【不死の黄金鳥】のチームメイトで幼馴染みのティータから教えてもらったとおりに、揚げ玉の売っているという出店を探し歩いていた。
片側二車線の道路に近い広さのその通りはまだ本戦が始まる前だというのに、大変な賑わいを見せていた。
「たしかチータが言ってたのはここらへんだったと思うけど」
カエがキョロキョロと周囲を見渡し、目的の店を探しているとどこからか話し声が聞こえてきた。
「…いいじゃんかよー」
「…?」
この人混みの中、なぜか鮮明に耳へと入った声の主に惹かれたカエはその声が近くの路地の小道から聞こえてくるのに気がつき、その場を凝視した。
するとその小道から見たことのない格好をした軽薄そうな男が扇情的な格好の美女二人を両腕に侍らせながら現れた。
「なんてったって最強チーム【エヴォル】のビーなんだからな!」
現れてすぐに美女の肩から手を放つとビーはそう言い放った。
その一言にカエの頭の中でブチリと何かが弾けた。
「でも【田舎のエヴォル】でしょ?」
「…その呼ばれ方は不本意なんだよ」
長髪の艶やかな美女がそうからかうとビーはがくりと肩を落とした。
その様子を見てケラケラと笑った快活そうな短髪美女が続いた。
「じゃあ勝てたら呼び方考えてあげるよー」
「それにホントに強いなら優勝してよ。そしたら遊んであげるし?」
「ホント?それなら君たちのために頑張っちゃうよー!」
そんな美女二人からの激励に気を良くしたビーはわかりやすく張り切りだした。
すると何かを察した妖艶な美女が胸元から1枚の紙を取り出し、ビーに手渡した。
「期待しないで待っとくね?はいこれ」
「それじゃねー。バイバイ」
その紙を手渡したのを見ると快活そうな美女が離れることを理解して、別れを切り出した。
ビーがその受け取った紙を確認すると、いわゆるそういう店の名刺だったことに気づいた。
それを見て苦笑したビーはそのまま胸ポケットにその名刺を入れ、美女たちと別れの挨拶を交わした。
「おう!ちゃっかりしてる!」
その様子を見ていたカエは胸中に大きな怒りを
【エヴォル】という言葉には聞き覚えがある。
このあとの騎士杯本戦の初戦に戦うチームの名前と同じだ。
騎士になるための戦いの前にビーとかいうこの男は女にうつつを抜かし、あろうことか最強を騙った。
騎士にすらなれていない分際であの方々と並び立つような発言をするなんて。
…許さない。いや…許されない。
カエは燃え滾る心のままに行動した。
「ちょっと貴方」
「ん?おお!これはなんとも麗しいび…!」
ビーが呼び止められるままに、振り向くとそこには凛々しい出で立ちの美少女が仁王立ちしていた。
その姿を見た瞬間にビーの口は軽いおべんちゃらを紡ごうとしたが、言い切る前にビーの頬に快音が響いた。
「騎士杯に出場し、あまつさえ本戦にも進んでおきながら試合直前にナンパ行為とは…恥を知りなさい」
「…会って早々熱烈だねぇ。誰だ、あんた」
強烈なビンタが炸裂すると周囲にいた通行人たちが足を止め、なんだなんだとざわつき始めた。
侮蔑の目を向けながらカエはその問いに答えた。
「貴方の次の対戦相手…って言えばわかってもらえるかしら?」
「…ん?次の相手…?」
カエからそう返されたビーは、次の相手のことを思い出そうとすると、ふと周囲のざわつきが耳に入ってきた。
「…ねぇねぇ!あれカエ様よね!?」
「きゃー!『不死鳥』のカエ・フレイヤ様をこんな近くでお見かけできるなんて!」
ビーは観衆の反応で今相対している女性が【不死の黄金鳥】のカエ・フレイヤであることは理解した。
カエ・フレイヤのことは下馬評雑誌に書いてあったから知っていたが、実物は写真よりも美人なんだなと、そんな思いをビーは性懲りもなく胸中に抱いた。
するとまた違った囁きも聞こえてきた。
「…おいおい、『不死鳥』を怒らせてるあの奇妙な格好した馬鹿はなんなんだ?」
「お前、さっきの抽選会見てないのかよ。あいつは『田舎のエヴォル』だよ。なんでも…」
今度はビーにとってあまり聞きたくない話題まで聞こえてきてしまったため、カエに話しかけるのだった。
「へー。【不死の黄金鳥】のリーダーさんがこんなに愛らしい美人だったとはな」
その言葉を聞いた瞬間に、カエのこめかみに青筋が走った。
「…貴方には騎士とは何かを叩き込んで差し上げます。このあとの本戦はお覚悟を」
意識せずにビーの口からこぼれた言葉は見事に怒り心頭のカエを逆なでしてしまったのだ。
それを目の当たりにしたビーは言葉を残しながら踵を返した。
「…まぁ楽しみにしておくよ、お嬢さん」
そのまま立ち去りながらビーは少しだけ赤みの引いた頬をなでつつ呟いた。
「…騎士の何たるか…ねぇ…」
ビーの後ろ姿を親の仇であるようににらみつけるカエを追いかけてきた男たちが声をかけようとした。
「あぁ!カエちゃ…」
「シフさん待って!」
声をかけようとしたのはカエと同じ【不死の黄金鳥】のチームメイトで、先程別れたばかりのシフとティータだった。
カエがいることに気づいたシフが声をかけようとしたが、ティータがその場の空気がピリピリとひりついていたことに気づき、シフを留めた。
「…どうしたのティータくん?」
「このピリピリした空気は…一足遅かったみたい」
「え…ということはもう…?」
「うん。二人はもう遭っちゃってる」
その事実を確認した瞬間、二人の間に緊張感が走った。
あまりの緊張感に静まりかけた空気の中、シフが口を開いた。
「…ティータくん…今回も覚悟しておこうか」
「そうだね。あの空気のカエちゃんは嫌な記憶しかないから、たぶんこれは…」
「『作戦会議』…かなぁ」
二人はこのあとに起こるであろう悲劇に肩を落とした。
その後、どちらともなく二人で顔を見合わせ、頷きあうとカエに向かって一歩踏み出した。
近づくと振り向かないまま、カエは言葉を発した。
「チータ、シフさん…いますね」
「…いるよ」
「後ろにね」
まるでそこにいるのが自然であるかのように、まるで来てくれるのが当たり前だというように。
カエは振り返り、二人に提案した。
「これから『作戦会議』を行ないます。しかる後、対応した支度に移りましょう」
「…はい」
「…了解」
そんな三人の連帯感や信頼関係が垣間見える会話だったのだが、ティータとシフにとっては最悪の提案であることには変わりなかった。
かくして両陣営に勝利への道標が提示された瞬間だった。
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