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第十話 試合のゴングは何処から
しおりを挟む試合まで残り数十分という頃。
試合会場の通路にて、ビーたち三人は並んで控え室へ向かっていた。
「本当にあの作戦で上手く行くんですか?」
チーム【エヴォル】の面々は今しがた本戦初戦の作戦を話し合っていた。
シアは先ほどまで話していたその『作戦』についてビーへと確認したのだった。
それに対してビーは事もなげに答えた。
「俺の予想が正しければな」
「でもその予想が外れたら計画丸つぶれですよ?」
今度はリアに痛いところを突かれたビーは少しだけ声を張り上げた。
「…あぁもう!心配性だなお前らは…」
そのままビーは二人に伝えた。
「きっちりと勝算のある予想だから安心しろって」
「ならいいんですが…」
だが、炎使いである対戦相手だからか、シアから不安を完全に取り除くことはできなかった。
するとリアがあるものに気がついた。
「ん?なんか前から集団が来るよ?」
それは自分たちの進行方向から十数人規模の団体が歩いてきたのである。
そしてその団体の先頭を歩き、引き連れている人物にビーは気づいてしまった。
ビーはその人物を認識すると思わず声を上げた。
「…ゲ」
「貴方は…!」
ビーのもらした声で気づいたのか、集団の先頭を歩いていたカヤ・フレイヤが苦々しい声を上げた。
ビーたちの存在に気づくと同時にカヤはビーがまた女性を侍らせていることに気づいてしまった。
今度は遊女のような女性たちではなく、自分よりも年下に見える年端の行かない少女たちだったことにカヤのはらわたはしっちゃかめっちゃかになったような気分だった。
「今度はそんな少女たちを侍らせて…貴方は真正の外道ですね?」
「…生憎この二人はチームメイトでな」
汚物を見たような、明らかな嫌悪感をだだ漏れにしているカエの表情にビーはうんざりしながら返した。
ビーにそう返されるとカエはもう一度リアとシアを一瞥した。
カエに見られていることに気づいたリアたちは会釈で返した。
「…貴方がたがどのような間柄であっても私達には関係ありません。どうせこのあといなくなるのですから」
リアたちから発せられる空気から事実であることを感じたカエは自分の勘違いに気づきつつそう言い放った。
「…」
「…」
それからビーとカエは無言でにらみ合いをしていたが、不意にカエのすぐ後ろからささやく声が上がった。
「…フレイヤ様、このあとの支度がございますので、そろそろ…」
「…わかりました。では私達はここで」
にらみ合いをやめたカエたちは、そのまま三人の横をすり抜けるように進み去った。
ビーが横目でその集団が抜けるのを見ているそのまた横で見ていたシアが相棒の異変に気づいた。
「あら?どうしたのリア?」
「むっふっふー」
リアがこれでもかというほど溶けた笑みを浮かべて変な声を上げていた。
それにシアが訊ねると声を裏返しながら興奮気味に答えた。
「あの人今僕のことを女の子って!女の子って!」
「あーそういうことね。よかったよかった」
理由を聞いて納得したシアはリアの頭を撫でて落ち着かせようとした。
ただ頭を撫でられていることにリアは喜びが上乗せになり、あまり効果を及ぼしていなかった。
それに気づかず、シアはリアを撫でながらビーに話しかけた。
「ビーさん、あの人親の仇たいな目で見てきましたけどなんかやったんですか?」
「…あっ!もしかしてヤッちゃいました?」
「何をだよ!…さっきいろいろあったって言ったろ」
リアは撫でられつつも突然閃いたことを口走った。
そのあまりの不穏な言葉にビーは声を張り上げた。
「…それじゃああの人がカヤ・フレイヤなんですね?」
シアからかっぱらったリアの頭をぐりぐりしているビーにシアはそう確認した。
ビーはリアのおでこに最後の一発を入れてから答えた。
「あぁそうだ。彼女が【不死の黄金鳥】のリーダーだよ」
「いてて…なんか聞いてた話よりも可愛かったね」
ビーにぐりぐりとデコピンをされた頭を押さえつつリアもそう返した。
リアにそう言われるとビーは顔を締め直し、真面目な顔で言った。
「…どんなに可愛くても強さは据え置き。気ィ抜いたら負けるぞ」
「一番重要なのはビーさんですけどね」
そんなビーを見て、シアは少しだけからかうように言いながら微笑んだ。
「それはそうだが、お前らも重要なんだからな」
「任せてください。最低限の仕事はしますよ」
「うん!任せてよ、ビーさん」
自分の両側でそれぞれ自信満々に胸を張る二人に強張っていた顔が緩むのをビーは感じた。
「よし、俺たちも控え室に向かうか」
ビーがそう言うとリアとシアは頷き返し、三人歩調を合わせ、悠々と目的地へと進んでいった。
一方その頃、ビーたちと同様に自分の控え室へと向かっていたカエはその目的地に到着した。
「こちらです。フレイヤ様」
付き人の案内でカエが控え室に入ると中にはすでに先客たちがくつろいでいた。
先に着いていたのはシフとティータ、【不死の黄金鳥】の二人だった。
片やシフは思案顔で下馬評雑誌に目を落とし、読みふけっており、片やティータは自分の得物を丹念に整備していた。
部屋の扉が開いたのをシフが気づくと、入ってきたカエへ声をかけた。
「あっカエちゃんも来たね」
「どうも」
そのときシフは部屋に入ってきたカエから強烈な不機嫌オーラを感じ取った。
「…あれ?またなんかあった?」
「…えぇ。さっき対戦相手とすれ違いまして。おかげであの下衆男を八つ裂きにする決意が余計に固まりました」
「…あぁ。それは不運だったね」
そのやり取りで不幸にも対戦相手の嫌な部分をまた垣間見てしまったのかということにシフは気づき、苦笑した。
すると不機嫌を顕にしているカエのことには目もくれず、手入れに没頭するティータから片手間に声をかけられた。
「なんにせよ、やることは変わらずなんでしょ?」
「変わらないよ。チータもシフさんもよろしくね」
そんな決意に満ちあふれるリーダーからの言葉にシフはニコリと微笑み、ティータはまた片手間に掌を振ることで応えた。
控え室の外では熱気にあふれる怒号が鳴り響いている。
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