12 / 22
第十一話 怒涛の第四試合、開戦
しおりを挟む日が傾き始め、しばらく経った頃。
騎士杯の日程が進み、試合会場では観客たちの待ちに待った時間がようやく訪れた。
『皆々様…大変長らくお待たせいたしました…』
今日一日に渡って絶えず実況を行なっていたマイク・ジャベリンはのどを枯らせる様子もなく、貯めに貯めて実況を開始した。
そして観客たちは実況の貯めに合わせて自らの内に爆発物を溜め込んでいった。
『本日最後にして…今大会注目度ナンバーワンの対戦が始まります!』
その実況の一声が引き金となり、観客たちの爆発物は大歓声となり、会場が揺れたようにも錯覚させた。
その鳴り止まぬ大爆発を止めるべく、マイクは言葉を続けた。
『それでは改めて、騎士杯本戦、一回戦第四試合に参加する両チームのご紹介をさせていただきます』
マイクはそう言いながら白いゲートに向けて手を伸ばし、観客の視線を促した。
『ハクロウ側から入場いたしますのは、今大会初出場ながら本戦初進出という素晴らしい戦績を残しているチーム【エヴォル】!』
【エヴォル】が紹介されると先ほどの歓声に届かないまでもかなり大きな歓声が上がった。
そんな中、そのハクロウと呼ばれた白いゲートからはビーを先頭に、その後方でリアとシアが横並びになり、姿を現した。
ビーたち三人の格好は抽選会のときと大差はなかったが、リアだけは腰に身の丈以上もある長刀を帯びていた。
『実力、素性、共に未知数!その独特の衣装から遠く東の地よりの出場と噂されますが、その噂すらも実状は判明しておりません!一体どのような戦いぶりを我々に見せてくれるというのか、期待が高まります!』
そしてビーたちが指定された場所へと進むとマイクは調子を改め、ハクロウゲートの対面に座す黒いゲートの方向に手を伸ばし視線を求めた。
『対するは説明不要の優勝候補!』
【エヴォル】の対戦相手が紹介され始めると、今までにない大歓声が文字通り会場を大きく揺らした。
そのあまりに大きな歓声にビーとリアはぎょっとした。
「うへぇ…すげぇ歓声だな。俺たちの倍は声出てんじゃねえか?」
「それだけ人気が高いってことですよ」
ビーがげんなりした声を上げるとシアから静かな返しが来た。
『かの蛇王の愛弟子であり、【不死鳥】に愛されたリーダー、カエ・フレイヤ率いるチーム【不死の黄金鳥】、コクロウ側からの入場です!』
その実況の言葉を待ち、黒いゲートから【不死の黄金鳥】の三人が姿を現した。
華やかな真紅の衣装に身を包んだカエの後方には全体的に黒い軽装の男と、身の丈ほどもある盾を持つ軽鎧の男たちが追従していた。
威風堂々とした歩き姿に観客のボルテージはさらに高まっていった。
『それでは審判陣による試合前の最終確認が行なわれます。観客の皆様、もうしばらくお待ちください』
その声を受け、似たような意匠の格好をした男女五人が舞台に上がり、選手の待つ中央に歩み寄ってきた。
ルール上、審判陣が規約違反をしていないかの確認を舞台中央で行なう決まりになっており、その確認作業を先に【エヴォル】が受けることになった。
するとビーはその中の一人に気がついた。
「なんだ、あんたが審判だったのか」
「こう見えても最高主審でね」
その男は抽選会のとき、くじを引かせるべくビーに話しかけた人物だった。
その主審の男は同伴していた女性審判二人と男性審判の三人に目配せし、ビーたちの前に立たせた。
「それじゃ規約に沿って確認させていただく。女性たちにはそれぞれ女性審に確認してもらうから安心してくれ」
そう主審の男が言うと、ビーたちの前に立ったそれぞれ立っていた審判たちが一礼し、三人の体や服をペタペタと触り始めた。
されるがままにくすぐったそうにしているシアとリアを尻目に、ビーも審判の男から身体検査を受けた。
「…特に問題なしと。他の二人も問題なしだな?」
三人をある程度調べ、審判たちが主審の男に何かを耳打ちするとその審判たちを下がらせ、主審の男が話し始めた。
「それじゃ…相手は優勝候補。ここで負けても死ぬわけじゃない。気楽に砕けてこい」
「おいおい。それじゃ俺たちが負けるみたいじゃねえか」
そう主審の男に言われるとビーは苦笑した。
その反応を見て、主審の男は満足げに大笑いした。
「ハッハッハ!その気概なら大丈夫だ。三人に『大神の加護』があらんこと」
「…ああ。ありがとさん」
ビーたちは、審判陣が踵を返し進んでいくのを見届けた。
主審の男の背中が遠ざかると、少しだけ口角を上げたシアが切り出した。
「気のいい審判さんですね」
「そうだな。ああいう人は好ましい」
「あの人も強そうだったなぁ…」
嬉しさを滲ませながら話すビーに対して、少しだけがっかりしながら漏らすリアにビーとシアは呆れたような視線を向けた。
その視線に気づいたリアはてへへと頭をかいてごまかしたのだった。
一方で審判陣は【不死の黄金鳥】の三人の前に到着した。
「お前らは問題ないだろうが、規約上確認させてもらうぞ」
「お願いします、ガウスさん」
カエからガウスと呼ばれた主審の男は他の男性審二人と女性審に目配せし、【不死の黄金鳥】のメンバーに身体検査を行なわせた。
三人の検査は特に問題もなく終了した。
「…よし、問題なしだ。それじゃ…」
ガウスはそれを確認すると少しだけ顔を締めて続けた。
「三人とも気張れよ」
「…え?」
毎回初戦時にガウスが一言添えるのは彼らにとって毎度のことだったのだが、今回はガウス自身の雰囲気が違っており、カエは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
その反応に構わず、ガウスは続けた。
「抽選会じゃ感じなかったが、あの三人がここに立ってから妙に体がざわついてやがる」
「ガウスさん…?」
カエたちはいつにも増して真剣な表情のガウスに面食らってしまった。
「俺の気のせいだったら笑い話でいいんだが…頭の片隅にでも入れといてくれ」
そう言い終わるとガウスは表情を緩め、雰囲気を戻した。
そして最後の言葉をカエたちに向けた。
「じゃあ三人に『大神の加護』があらんこと」
そう言い残し、ガウスたち審判陣は指定の位置に移動していった。
その姿を眺めつつ、シフはカエに話を切り出した。
「ガウスさんにしては珍しいね」
「…もしガウスさんの予感が本当だったとしてもやることは変わりませんよ」
カエの燃えるような瞳はただ一点を見つめていた。
その視線の先では試合開始直前だというのに和気あいあいとした笑顔が溢れていた。
心の炎はくすぶるばかり。
「わかってるって。カエちゃんのやりたいようにやろう」
そんなカエの心情を知ってか知らずか、シフがはつらつと声を出した。
シフはカエが頷き返すのを確認するとシフの右側で相手の観察を無言でしていたティータに耳打ちした。
「それでティータくんはどっちに行く?」
「あの白い方の姉ちゃんかな。あの長物持ちだともし速かったときに俺だと対応できないから」
「じゃあ俺が長物持ちの男の子のほうに行くとするよ」
そう言い終えるとシフはスッと右手を握り、顔の横まで持ち上げた。
それを横目でちらりと確認したティータも同様に左手を握り、持ち上げた。
「僕らのリーダーのために道を作ろうか」
「あぁ、今回もよろしく」
そして軽く、だがしっかりとお互いの持ち上げた拳の甲を打ち合わせ、それぞれの定位置に向かった。
「…先生やガウスさんにあれだけ言わせるあの三人…一体何者なの?」
その一方でカエの小さなつぶやきは、後ろでやり取りしている仲間たちにすら届くことなく、再開された実況によってかき消された。
『それでは審判陣による確認が完了いたしましたので、主審ガウス・デイガーによる開始宣言で一回戦第四試合を始めたいと思います!』
実況のその言葉で会場はガウスの開始宣言を聞こうと静まり返った。
その静けさは両者の緊張感を高めていき、そして…。
「…はじめ!!」
ガウスの宣言は再び地響きすら感じる歓声を巻き起こし、それによって、試合の火蓋は切って落とされた。
歓声と同時に【エヴォル】側からはリアとシアが、【不死の黄金鳥】側からはシフとティータがそれぞれ動き出した。
動きは多少違えども、狙いは両者とも"各個撃破"だった。
そんな中、地面を滑るような動きをしているシアが口角を上げながらつぶやいた。
「本当にそうなりましたか。さすがはビーさんの大博打ですね」
「予定通りボクは短剣使いのほうに行くね!盾持ちよろしく!」
「はいはい。では手始めに」
少し離れたところを走っているリアにそう言われると、シアは手のひらを上に向けた状態で口元に運び軽く息を吹きかけた。
すると突然霧のようなモヤがフィールド上に広がった。
その霧に包まれる瞬間、シフとティータは思わず足を止めてしまった。
「霧!?コア反応もなしに!?」
「くっ…!」
「チータ!?シフさん!?」
相手に向かって走り出していた仲間たちがなすすべなく霧に包まれるとカエは思わず二人の名前を叫んだ。
その後、どうしようかとカエが逡巡する暇もなく、場は動き始めた。
「そこ!」
「ちぃっ!?」
リアの剣先が霧の中からティータの顔めがけて勢いよく飛び出した。
その突きの勢いは凄まじく、リアとティータの周囲の霧を吹き飛ばすほどだった。
それをティータは持っていた二本の短剣でとっさに軌道をずらし、二本の短剣を押さえつけることであわや顔面真っ二つな状況を回避した。
その一連の流れでリアとティータの周囲の霧は吹き飛ばされ、衆目にさらされた。
ティータの言葉にならない叫びはシフの耳にも届いた。
「ティータくん…!?」
「貴方の相手は私がさせていただきます」
シフがティータの声がしたほうに意識を向けた瞬間、後ろから冷たさを感じる声をかけられた。
とっさに振り向き、盾を構えると鈍い音が響かせながらたたらを踏んだ。
想像よりも重い攻撃に苦々しい顔をしながら気配のするほうに目を向けると周囲の霧がゆっくりと晴れてきた。
まるでその霧の中にいる人物に従って霧が薄れているようにシフが感じていると、霧の先では美女がどこから取り出したのか透明な長棒を手にしていた。
「いい反応ですね」
「…それはどうも」
シフは厄介な相手だと感じながら再び盾を構えるのだった。
こうして両翼では霧が晴れ、双方激突が始まる中、中央にはまだ霧が残る状態となった。
カエは姿の見えないビーを狙い、霧の中へと人一人は飲み込まれそうな火球を放った。
その火球は残った霧を吹き飛ばしながら砲弾のような速さで突き進んだ。
だが、その火球は風船が割れるようにパンッと消えたのだった。
そして火球も霧も消えた場所に立っていたのは拳に炎をまとい、その拳を振り抜いたままのビーだった。
「…なるほど」
そう言いながらビーは構えを解いた。
一言だけ、そのたった一言だけでカエは考えを改めた。
この人は強いのだと。
「…あなたも炎使いだったんですか」
「あぁ、これでもちょっとした端くれでね」
私の十八番を楽々消しといて端くれですか、とカエは眉間にしわを寄せつつ心の中で苦々しくつぶやいた。
カエとは逆に、口角を上げた挑戦的な笑顔をしているビーは軽く肩を鳴らしてから構えを取り直した。
「それじゃあ炎使いの同輩としてご教授願おうか、カエ・フレイヤさん?」
こうして怒涛の騎士杯一回戦第四試合は幕を開けたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
異世界のんびり放浪記
立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。
冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。
よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。
小説家になろうにも投稿しています。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる