龍×龍

結城 凛月ーきじょう りつきー

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薄情者

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「おまたせ」
助手席のドアを開け、乗り込む。
「...おぉ、かなり印象変わるな」
「そう?」
「喧嘩できるようには見えねぇけどな」
「褒め言葉だよそれ」
かなり印象変わったのは自覚してたけどこんなに目を見開くほど驚かれるとは思わなかった。
まーくんが車を発進させつつ会話する。
「喧嘩最強容姿端麗ねぇ...」
「ん?」
「...サイアク」
なんだ突然、何が言いたいかわかんない。
「なにが?」
「神はやっぱり平等に人間作ってねぇよ」
「...は?」
いきなり何、なんの話。どこから神出てきた?
やっぱりまーくんは掴みどころない、会話わけわかんない。それに天然っぽいとこもある。
「モデルとかやんねぇの?稼げるぞ」
「お金には困ってないの」
「頼まれたらやんのか?」
「うーん、頼まれる相手による、かな?」
「...ふぅん」
モデルねぇ、前の学校通ってた時に誘われたことあったけど、あんまり化粧とか好きじゃないから断っちゃったんだよね。それにその誘ってきた人が好きじゃなかったのもある。別に嫌いでもなかったけど。たとえ美人でも性格悪いのはどうも受け付けない。話してるうちにどうでもよくなっちゃう。
「お前さ、嫌いな奴いねぇだろ」
「うん、いないよ」
なんでわかったんだろう。
なんでだか昔から嫌いな人できないんだよね。いやまあ、好きな人もできたことないけどさ。
あたしに出来たことあるのは大切な人だけ。
んー、あたしと違ってまーくんは普通に嫌いな人いっぱいいそう。ものすごく態度に出やすそうだし、なんでもハッキリ言っちゃうから。
前の学校でも仲良し、とまで呼べる友達はいなかったけど、そこそこ話す人たちならいた。彼女らとも今のように嫌いな人の話をしていて、あたしがいないって言ったんだ。
「そしたら妃葵ちゃんは優しいねって言われたんだっけ」
「それは違ぇぞ、妃葵」
「え?」
「嫌いな人がいないって言うのは優しいわけじゃねぇ。お前が他人を嫌いになるまで関わってねぇの、興味ねぇんだよ。わかるか?お前は薄情者なんだよ」
まーくんに言われて考える。
確かに、今まで自分から近づいたことなんてなかったような気がする。魁皇の仲間だって七桜くんのお陰だし、前の学校の子たちも向こうからだった。
でも。
「...それは悪いことなの?」
「いーや。そういうわけじゃない」
「あたし、他人なんてどうでもいいんだ」
「うん」
「自分にとって大切な人が守れれば周りなんて刑務所行こうが死のうが関係ないと思ってる」
あたしのチームは喧嘩と暴走以外はほとんど御法度。つまりはまあ、暴走族の中ではまともな方だった。全国レベルのあたしらのチームには他の族の情報が勝手に流れてくる。その中には薬漬けになった奴が捕まったり、喧嘩の最中に敵によって殺されたり、という情報も含まれていた。魁皇下っ端の中でも上の方の奴らがそんな話をしてる時、あたしはどうにも関心が持てなかった。
そうなってくると薄々自分でも気づいてた。
「その考え方は別に否定しねぇよ。ただ、その考え方だとお前自身が傷付く」
「いいよ、守れるならなんでもいい」
魁皇は傘下のチームはたくさんいるけれど実質上メンバーは50人弱で、あたしは魁皇メンバー20人くらいと傘下のトップしか名前を知らない。魁皇メンバーに危険が及んだ時は真っ先に動くけれど、傘下のチームに何があったってあたしは動かなかった。
興味もなければ関心もない。
それに他のチームのことなんてどうでもよかった。
あたしの『鬼龍』っていう通り名。実は略称で。
『鬼のように冷徹で返り血に染まる姿は龍のよう』本来はそんな呼ばれ方だった。あたしは通り名なんて喧嘩に関係ないからどうでもよかった。いつだったか返り血に染まるあたしの姿を見た敵の頭が『赤鬼』と呼んだこともあった。それはどうでもよかったけど、あたしの仲間を見て、赤鬼の仲間なんてみんな怪物だ、と言った時。あたしは一度キレてしまった。その時は、今の魁皇幹部4人に押さえつけられてあたしはやっと正気に戻った。
ふと見た自分の手は潰れていて。
「なあ、妃葵」
「なぁに」
「何でもかんでも抱え込むなよ」
「...大丈夫だよ、あたしは強いから」
自分の手が潰れるまで相手の顔を殴ったらしい。
もう敵の頭の顔なんて覚えてない。でも空たちがあたしを見た顔は一生忘れられないと思う。
また、このこと思い出しちゃったな。
「...ま、耐えきれなくなったら俺んところでも天音んところでも駆け込めるところはあるから」
「うん、ありがとう」
「コンビニでも寄ってなんか買ってくかあ」
「まーくんの奢りね」
おどけるようにそう言えばノってくれる。
「ケッ、そういうところはしっかりしてんのかお前。仕方ねぇ、なんでも買ってやろうじゃねぇか」
「やった」
まーくんはやっぱりあたしのお兄ちゃんポジションだね、さっきまであたしのせいで出来てた暗い雰囲気が一気に吹き飛んだ。
昔キレたことを思い出して気持ち悪くならなかったのはこれが初めて。
まーくんが言葉にしないだけで伝わってる。
あたしに逃げ場を作ってくれてありがとう。
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