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「――届いているぞ」
足元に落ちていたエングローブ入りの銃弾を拾い、その細かさに目を奪われているところにおっさんの声。そしてカウンターに置かれた包み紙から産まれたのは、一挺の大型拳銃だ。
「帝都の新型にゃちと劣るが、これでも討伐隊で採用されていた実績ある銃だ。お前の壊した相棒よりも威力も取り回しも良い。が、女の手にはちとデカい」
「拾い物にしては立派なのね。私、ゴツいの好きよ」
「新品売り付けるつもりだったこっちとしては商売にならんのだがな」
「それ全部私が仕事ついでに持ってきたものでしょ? それを買うなら最初から取っているわよ」
手に取ってスッと構えてみると手に馴染む感じがする。私に惚れたのか、それとも私が惚れたのか。これから長い付き合いになりそうだ。
「次に向かうのは?」
「ブライアス村っていう辺境の廃村ね。聴いた話、ほとんど手付かずだから、神様がまだ眠っているとか。御神体、高めに見積りよろしく」
「あそこは今楽しいらしいぞ。帝都の軍隊と過激派宗教団体の教団兵がチェスゲームだ。そこに一人の神殺し……か。神様の奪い合いには大規模が過ぎる。一人で大丈夫なのか?」
「ベッドは広々と使いたいのよね」
ホルスターに新しいパートナーをしまい、金を投げて弾の棚へ。その目の前で扉が開いた。
「ああ、すみません……」
第一声、謝罪。長身の、ボサボサ頭で眼鏡の青年である。
「いらっしゃい。ここは見ての通り喫茶店じゃねえ。コーヒーは出ないぞ兄ちゃん」
「あ、いえ、護身用に一挺と思いまして……」
そんなひょろひょろの腕で撃てる銃なんてオモチャくらいだ。銃の似つかわしくない青年に、おっさんも困惑している。
「スタンガンならスーパーで売っているぞ」
「スタンガンでは、ダメなんです……。あ、その、威力あった方がいいかなと」
「こっちも商売だ。嘘つきに売るもんはねぇな。何をしようってんだ」
言われて押し黙っている辺り、やはり護身用は嘘みたいだ。というか、嘘、下手くそね。
「……すみません。ブライアス村を知っていますか?」
……なんだって?
「僕と妹がそこの出身でして……調査に行った妹が囚われたみたいなんです。すぐに向かわなくてはならないんですが、流れの腐れ神が徘徊しているという話ですし、倒すために武器をと……」
信仰されなくなった神は腐って堕ちる。大体は家庭で祀られているような力のない下級神だ。
「ブライアス村調査に出発したのは十数名規模の帝都軍、神霊研究者八名、民間人一名。民間人は村出身の協力者と聞く」
「それですっ。間違いなく、それがアンリですっ。お願いします、助けに行かせてください!」
「兄ちゃん土地勘は?」
「え? えーと、はい、廃村直前まで住んでいましたし、良く周辺調査はしていたのでそれなりには」
「……やっぱ武器は売れねぇ」
「そ、そんな……」
ご立派なお兄さんだ。『十数名規模の帝都軍』という単語は聴こえないらしい。ついでにいえば教団の歓迎付きだ。
「だが人は紹介してやる。―リズィー、銃の修理費は返す。弾はタダでいい」
「分かった。救助隊に連絡しておくわ」
おっさんのことだから振ってきそうなのは分かっていたけど、私は殺しが専門なのよね。
「ナビゲーター付きだ」
「邪魔者としては優秀ね」
「報酬は八」
「九」
「八、前金に武器トランク一つ追加」
「……デカいのを用意して。私の夢は大きくてね」
お祭りには花火が付き物。教団や帝都を動かす人気者を拝むチケット代にはなるだろう。最前列を頂こう。
「君は……?」
「妹を助けたいならあなたに選択肢はない。私を手伝うついでに妹を助けるぐらいしかね。なに、戦えとは言わないわ」
私の言葉を聞いて悩まず頷いて返した。ひょろひょろのわりに覚悟はあるみたいね。
「僕はスコット=サンズウィル。帝都神霊研究機関の研究員です。よろしくお願い致します」
「……リズィー=リンカネル。神殺しよ」
ブライアス村までは帝都から五時間は掛かる。元々行く準備はしていたけど、一人ではないとまた準備が変わる。特に慣れていない奴の御守りとなると。
「お待たせしました。……あれ、煙草吸うんですね」
「悪い?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
煙草を踏み潰すとヘッドセットとスロートマイクを投げ渡し、さっさとバイクに股がった。やはりスコットの目はお喋りなのか「女なのに」と言いたげだ。
「早く後ろに乗りな」
「は、はいっ。……これでどうでしょうか」
首に着けるスロートマイクは着け慣れていないと息苦しいものだ。サイズをちゃんと調整していれば問題ない。
「聴こえてる?」
「はい、聴こえますっ」
「うるさいから声は抑えて」
「す、すみません」
先が思いやられる。帝都を出て村に着くまでの間、村での計画を話すつもりなのだけど、大丈夫だろうか。
――別に何か難しいことがあるわけではない。村に着いたらスコットには隠れてもらい、状況をモニタリング、ルートを案内してもらう。私は腐れ神を倒し、スコットの妹であるアンリを救う。
私の狙いは腐れ神のなかでも鎮守神……村で信仰されていた神だ。村を守る規模の神になると、その御神体はとても値打ちもの。大体は腐った神が取り込んでいるので、腐れ神となった鎮守神を倒す必要がある。 スコットによれば調査団の兵は教団に敗れたらしい。援軍が現地入り、捕虜の奪還を目指している。
帝国は神を資材にする。エネルギー源にしたり、武器にしたり……。そのおかげで世界一の勢力となったわけだが、それを許さないのが反勢力の過激派宗教団体である。教団にとって神は崇めるもの。彼らによる『聖戦』と呼ばれるテロ行為は各地で行われており、帝国の軍事を司る帝都は教団兵の討伐に躍起である。
お互いに「悪魔」と呼び合う二つの勢力によるゲームは泥沼化し、人々の格差が大きくなった。酷いところでは奪い合い殺し合いを繰り返し貧しい生活を送っている人々もいる。金と力があれば大体はどうにかなるものだけど。
足元に落ちていたエングローブ入りの銃弾を拾い、その細かさに目を奪われているところにおっさんの声。そしてカウンターに置かれた包み紙から産まれたのは、一挺の大型拳銃だ。
「帝都の新型にゃちと劣るが、これでも討伐隊で採用されていた実績ある銃だ。お前の壊した相棒よりも威力も取り回しも良い。が、女の手にはちとデカい」
「拾い物にしては立派なのね。私、ゴツいの好きよ」
「新品売り付けるつもりだったこっちとしては商売にならんのだがな」
「それ全部私が仕事ついでに持ってきたものでしょ? それを買うなら最初から取っているわよ」
手に取ってスッと構えてみると手に馴染む感じがする。私に惚れたのか、それとも私が惚れたのか。これから長い付き合いになりそうだ。
「次に向かうのは?」
「ブライアス村っていう辺境の廃村ね。聴いた話、ほとんど手付かずだから、神様がまだ眠っているとか。御神体、高めに見積りよろしく」
「あそこは今楽しいらしいぞ。帝都の軍隊と過激派宗教団体の教団兵がチェスゲームだ。そこに一人の神殺し……か。神様の奪い合いには大規模が過ぎる。一人で大丈夫なのか?」
「ベッドは広々と使いたいのよね」
ホルスターに新しいパートナーをしまい、金を投げて弾の棚へ。その目の前で扉が開いた。
「ああ、すみません……」
第一声、謝罪。長身の、ボサボサ頭で眼鏡の青年である。
「いらっしゃい。ここは見ての通り喫茶店じゃねえ。コーヒーは出ないぞ兄ちゃん」
「あ、いえ、護身用に一挺と思いまして……」
そんなひょろひょろの腕で撃てる銃なんてオモチャくらいだ。銃の似つかわしくない青年に、おっさんも困惑している。
「スタンガンならスーパーで売っているぞ」
「スタンガンでは、ダメなんです……。あ、その、威力あった方がいいかなと」
「こっちも商売だ。嘘つきに売るもんはねぇな。何をしようってんだ」
言われて押し黙っている辺り、やはり護身用は嘘みたいだ。というか、嘘、下手くそね。
「……すみません。ブライアス村を知っていますか?」
……なんだって?
「僕と妹がそこの出身でして……調査に行った妹が囚われたみたいなんです。すぐに向かわなくてはならないんですが、流れの腐れ神が徘徊しているという話ですし、倒すために武器をと……」
信仰されなくなった神は腐って堕ちる。大体は家庭で祀られているような力のない下級神だ。
「ブライアス村調査に出発したのは十数名規模の帝都軍、神霊研究者八名、民間人一名。民間人は村出身の協力者と聞く」
「それですっ。間違いなく、それがアンリですっ。お願いします、助けに行かせてください!」
「兄ちゃん土地勘は?」
「え? えーと、はい、廃村直前まで住んでいましたし、良く周辺調査はしていたのでそれなりには」
「……やっぱ武器は売れねぇ」
「そ、そんな……」
ご立派なお兄さんだ。『十数名規模の帝都軍』という単語は聴こえないらしい。ついでにいえば教団の歓迎付きだ。
「だが人は紹介してやる。―リズィー、銃の修理費は返す。弾はタダでいい」
「分かった。救助隊に連絡しておくわ」
おっさんのことだから振ってきそうなのは分かっていたけど、私は殺しが専門なのよね。
「ナビゲーター付きだ」
「邪魔者としては優秀ね」
「報酬は八」
「九」
「八、前金に武器トランク一つ追加」
「……デカいのを用意して。私の夢は大きくてね」
お祭りには花火が付き物。教団や帝都を動かす人気者を拝むチケット代にはなるだろう。最前列を頂こう。
「君は……?」
「妹を助けたいならあなたに選択肢はない。私を手伝うついでに妹を助けるぐらいしかね。なに、戦えとは言わないわ」
私の言葉を聞いて悩まず頷いて返した。ひょろひょろのわりに覚悟はあるみたいね。
「僕はスコット=サンズウィル。帝都神霊研究機関の研究員です。よろしくお願い致します」
「……リズィー=リンカネル。神殺しよ」
ブライアス村までは帝都から五時間は掛かる。元々行く準備はしていたけど、一人ではないとまた準備が変わる。特に慣れていない奴の御守りとなると。
「お待たせしました。……あれ、煙草吸うんですね」
「悪い?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
煙草を踏み潰すとヘッドセットとスロートマイクを投げ渡し、さっさとバイクに股がった。やはりスコットの目はお喋りなのか「女なのに」と言いたげだ。
「早く後ろに乗りな」
「は、はいっ。……これでどうでしょうか」
首に着けるスロートマイクは着け慣れていないと息苦しいものだ。サイズをちゃんと調整していれば問題ない。
「聴こえてる?」
「はい、聴こえますっ」
「うるさいから声は抑えて」
「す、すみません」
先が思いやられる。帝都を出て村に着くまでの間、村での計画を話すつもりなのだけど、大丈夫だろうか。
――別に何か難しいことがあるわけではない。村に着いたらスコットには隠れてもらい、状況をモニタリング、ルートを案内してもらう。私は腐れ神を倒し、スコットの妹であるアンリを救う。
私の狙いは腐れ神のなかでも鎮守神……村で信仰されていた神だ。村を守る規模の神になると、その御神体はとても値打ちもの。大体は腐った神が取り込んでいるので、腐れ神となった鎮守神を倒す必要がある。 スコットによれば調査団の兵は教団に敗れたらしい。援軍が現地入り、捕虜の奪還を目指している。
帝国は神を資材にする。エネルギー源にしたり、武器にしたり……。そのおかげで世界一の勢力となったわけだが、それを許さないのが反勢力の過激派宗教団体である。教団にとって神は崇めるもの。彼らによる『聖戦』と呼ばれるテロ行為は各地で行われており、帝国の軍事を司る帝都は教団兵の討伐に躍起である。
お互いに「悪魔」と呼び合う二つの勢力によるゲームは泥沼化し、人々の格差が大きくなった。酷いところでは奪い合い殺し合いを繰り返し貧しい生活を送っている人々もいる。金と力があれば大体はどうにかなるものだけど。
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