硝煙にキスを

罪架風理。

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 部隊を引き連れて教会の敷地に現れたのは、ボサボサ頭で眼鏡を掛けた青年。寂しがりやなのね。
「スクリーンみたいな登場ね。黒幕はいつもそうやって出てきて死ぬわ」
「相変わらずふざけた口だな。だが言いたいことは分かる。そして直接観てみたいという黒幕の気持ちもね」
「手伝ってやったのよ。報酬くらいくれてもいいんじゃない?」
「……分かった。報酬に教えてやる。俺は神を操る血を開発し、それをアンリに施した。神を飼い慣らす実験は現在最終段階。君をサンドバッグにして終了だ」
 なるほど、つまり帝国は神様を材料にするのに飽きたらず、今度は戦いの駒にしようと。そうなれば教団どころか他国すら圧倒するだろう。
「次は君の話を聴かせてくれよ、リズィー。僕がただの妹想いな兄ではないことは分かっていたんだろ?」
「あなた下手なんだもの。スロートマイクを扱い慣れていたり、私を腐れ神のところへ誘導したタイミングで軍隊を向かわせたり。……まぁでも、一番のミスはおっさんに気付かれてしまったことね」
「武器屋の男に?」
「おっさんが廃村について情報を得ていたことは知っているはず。だったらその時点で『廃村寸前まで住んでいた』なんて嘘、変更するべきだった。なぜなら、ブライアス村が廃村となったのは製炭業が廃れてしまった五〇年ほど前のことなんだから」
 村に見えた製炭場や農業跡からして、村の出身なら若くても中年だ。
「そもそも私がブライアス村の情報を得たのは国境警備基地の武器輸送作戦のとき。私のことを知ったあなたは私を実験に加えようと、わざわざ武器屋で話を持ち出してきた。違う?」
「あのときは本当に困ったよ。たかが神殺し、御神体だけかと思ったら武器庫まで持っていかれるんだからね。大泥棒には頭を抱えた」
 ――大人しくなっていた腐れ神が動き出した。
「武器を寄越せ。安心しろ、三文芝居の詫びはするさ」
「これでも女なんで優しくしてほしいわね」
 スコットが銃口を向けると、隊員が私の身体検査を始め、ウエストバッグはもちろん、ジャケットやブーツに仕込んでいるものもまるごと取り上げられた。
「女のくせに大口径を使うとは……」
 弾倉を抜いて確認し、装填し直した。せめて新しい弾倉を入れてほしかったな。
「さぁ、実地試験を始めようか、リズィー試験官」
「利き腕、左なのね」
 耳飾りを弄りながらの脈絡のない言葉に、スコットは眉を動かした――その目の前で拳銃が爆発した。
「がっ! ぅあぁぁ!」
「実はその銃、壊れているの」
 それを合図に攻撃を開始した部隊。私は腐れ神をやり過ごして屋内に逃げ込んだ。
「リズィィィィィィー!」
 スコットの怒りが足音になって襲ってくる。操られた腐れ神は私を追って教会内を暴走。コールタール状のどす黒い液体を撒き散らしながら、振り回す腕が教会を壊していく。
 ――目だ。スコットが操っているにしても、見ていないものを追うことなどできない。私はゴーグルを掛けると踵を返し拳銃を握った。
 腐れ神の長い腕が振り下ろされる、それを避けて踏み込んだ。濁り腐った目に銃口をねじ込み、引き金。だが身を弾いた腐れ神はターンするように回転すると私から距離を離した。さすが人が操っているだけある。
「殺し甲斐がありそうね」
 巨体に走り込み、腐れ神の核、内側の御神体を狙う。しかし小回りでは勝るも、腐れ神にしては身体が硬いのか三発撃ち込んだところで体当たりされて突き飛ばされた。
「なるほどね、これはもう除霊師に頼むしかないわ」
 腐れ神を悪霊として祓う方法は昔にあった。特殊な紋様を書き込んだ札を貼って祓うらしいが、そんな旧時代の御守りは持ってきていない。まぁ持っていても、これだけ強力な腐れ神では貼るだけでは効果ないが。
 せめて血清瓶があれば……。
「ぅあっ」
 腐れ神の俊敏な動きを避け切れず、大きな手に握られた。さすが兵器にするだけある。普通の腐れ神とはまったく勝手が違う。
「エスコートがなってないわね……!」
 手首を撃ち抜いて脱出。腐れ神が人にも似た悲鳴を上げ、暴れ回る。おもむろに振り回す腕は、避けるには無理があった。勢い良く殴り飛ばされて壁に激突。落下したところに飛んできた大きな瓦礫を慌てて避けたものの、瓦礫の衝撃に耐えられなかったのか壁や天井が崩れ落ちてきた――

「――クライマックスには早すぎる」
 一瞬遠退いた意識を叩き起こして、瓦礫のなかから這い出た。寝心地の悪いベッドだ。座り心地の悪い瓦礫の山に腰掛け、崩れ損ねた壁に寄り掛かって割れたゴーグルを捨てた。
「幸運の女神様も愛想が尽きたのかしら。私に飽きるなんて贅沢な神様ね」
 弾倉を確認。……やはりか。気のせいにしたかった。
 ――遠くから聴こえる、人のものではない声。この世のものとは思えない蠢く異形が、どす黒いコールタールを撒き散らしながら悲鳴を上げていた。スコットに良いように自己改造されて、もはや腐れ神とは別物になっていた。
 崩れた礼拝堂の向こう、部隊共々撤退したのか、そこには誰もいない。私の物も持っていかれた。紳士なら弾倉のひとつくらい残してくれても良かったのに。サービスが悪いな。
 ポケットから出したケースには煙草が一本。やれやれだ。とびっきりのイケメンとデート中だというのに。
「……?」
 ケースのなかに二つの音。ライターと一緒に取り出して、煙草に火を着けた。
 ――女神様は芝居上手だ。
「良いドレスね。私にはないセンスをしている」
 煙草を咥え、弾倉を填め直す。煙を燻らせながら身を起こし、ため息混じりに銃を構えた。
「クライマックスには早すぎるよ、スコット」
 腐れ神がドタドタと駆け出した。スコットも弾倉を確認しているのだ。私に残された弾数は知っている。私がすべて使ってしまったことを、知っている。
「……」
 私は銃身をスライドし、目を細めて引き金を引いた。

 ――乾いた爆発音が響いた。

 足下を跳ねる彫刻入りの薬莢。
 煙草と一緒に昇る一筋の硝煙。
 動きを止めた腐れ神は胸元の砕かれた御神体を確かめると、微かに呻いて崩れるように消えた。
「女神がまだ生きていろってさ、悪いね死神様」
 休んでいる場合ではない。御神体を回収してすぐに向かおう。
 ――しかし、村を発とうとした私は舌打ちする。
「ちっ、バイクまで持っていかれたのね。武器を総取りしたの、相当キテるみたいだわ」
 さて、どうしたものか……。運命の女神様、もう少しサービスしてくれない?
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