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第1章 日本
13. 天使の恫喝
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幸希
俺の可愛い弟。
俺が望んで生まれてきた。
俺が名付けて、願いを込めた。
命をかけても惜しくない、大事な大事な俺の子。
もし叶うのなら・・・。
顔面を生暖かく柔らかいものがベチャベチャと撫でている。
耳元で聞こえるフンガフンガという息遣いと、時折聞こえるクゥ~ンクゥ~ンという甲高い鳴き声が耳障りで、灯雪はそれを無意識に手で払いのけながら、ゆっくりと目覚めた。
「・・・あれ?プン太?ん?俺、何で・・・。」
目の前には、心配気に顔を除くプン太がいた。
さっきまでの修羅場が嘘のような静寂と清涼に満ちた空気。
灯雪は真っ白に霞みがかった不思議な空間で、仰向けになって寝ていた。
「幸希はっ・・・クアァ・・・。」
記憶にある最後の光景を思い出し、焦った灯雪は慌てて上体を起こすが、グワングワンと脳みそを掻き回すようなひどい目眩に襲われ、冷や汗をかいて倒れてしまう。
「あぁ、無理するんじゃないよ。お前には、まだここは毒だからね。」
気がつくと、何も無かったはずの空間には1人の女性が立っていた。
すき透るような白い肌に、緩く波打つプラチナブロンドを胸まで垂らし、吸い込まれるようなスカイブルーの瞳を持った、絶世の美女だ。
ただ女のその姿は、眩いばかりの美貌すら霞ませる強烈なインパクトを灯雪に与えていた。
「特攻服・・・。」
そう、昨今日本でもあまりお目にかけなくなった特攻服を、白色人種の特徴色濃い彼女が完璧に着こなしていたからだ。
紫色のロング丈の特攻シャツと特攻ズボン、足元にはしっかりと足袋まで履いている。
灯雪は一度、アイドルのライブ会場を横切った時に遠目で特攻服姿のファンを見たことがあるが、間近で見るのは初めてであった。
ついついマジマジと見てしまう。
「イカしてるでしょ?」
そう言ってウィンクする美女は、傍らに膝をついて灯雪の首元に手の甲をそっと当てると、難しい顔をして溜息をついた。
「やっぱりまだ駄目だね。どんどん体温が下がってる。あまりここに長居できそうにないわ。」
「ここって・・・ここは何処なんだ?夢でも見てんのか?マジで・・・こんなとこで寝てる場合じゃないってのにっ・・・クソッ・・。」
「ほら、おとなしくしてな。具合が悪いんだろ?」
懲りずに起き上がろうとする灯雪を、美女が優しく介抱する。
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ、あんたの弟は・・・まぁ一応、今の所?無事だから。」
「無事?本当か!?本当に幸希は無事なんだな!?」
灯雪は恥も外聞もなく、必死に女の袖に縋り付いていた。
決して認めたくは無いが、心の奥底ではもうダメかもしれないという気持ちが確かにあったのだ。
そんな灯雪の姿に、美女は困ったように眉を下げる。
「あんた、よっぽど大事なんだね、その坊やが。」
「当たり前だろ。俺の弟だ。大事に決まってる。」
「弟・・・ね。」
焦燥を滲ませる灯雪の様子を見て、女はどこか寂しそうに呟いた。
すると今度は突然、反対側から鼻息を荒くした男が灯雪に向かって抱きついてきた。
不意を突かれた灯雪は成されるがままだ。
「おぉっ!!目覚めたか!!よう来たなぁ~よう来た!あぁ、具合が悪いんじゃな?かわいそうに、気持ち悪いか?頭が痛いか?かわいそうにのぉ・・・ウグゥオ・・・。」
何処からともなく現れた年老いた男は、そう言って灯雪を抱きしめ撫で回していたが、美女に胸ぐらを掴まれると、呆気なく引き剥がされた。
「おいジジィッ!!テメェ~勝手なことしやがって!!なんで灯雪をここへ呼んだ!余計なことすっとぶっ殺すぞ!!あ゛ぁん!?」
「ヒィ・・・、グッ・・お主・・神様に向かって・・・なんて恐ろしい子じゃ。」
特攻美女が老人の胸ぐらを締め上げながら立派なメンチを切っていた。
灯雪はクラクラする頭で、傍らで喘ぎ苦しむ老人から漏れ聞こえた言葉を、怪訝な顔をして呟く。
「神様・・・?」
白く波打つたわわな髭の、一見サンタクロースのようなその老人。
大柄で逞しい体を白い布で足元まで覆い、まるでギリシャ神話に出てくる天空神ゼウスのような出で立ちだ。
だが、その如何にもな姿が却ってコスプレ感を強めていて、灯雪の不信感を煽っていた。
悶着していた2人が、灯雪の呟きに冷静さを取り戻したのか、女は何かに耐えるように俯くと、背中を向けじっと佇んでしまう。
その背中には花吹雪に舞う美しい天女の刺繍が印象的に施されていた。
「フロラ、そろそろちゃんと説明せねば。もう時間がない、灯雪の体も限界じゃろ。」
「分かってる・・・。」
そう言ったものの、その場から動こうとしないフロラの代わりに自称神様は仕方がないといったように話し出す。
「お主は弟のことが本当に大切なようじゃな。」
「あのお姉さんは無事と言ってたが、弟は本当に生きているのか?」
灯雪がずっと引っかかっていたことだった。
さっきは何か含んだ様な言い回しだった。
何処か歯切れの悪い曖昧な言い方は灯雪を不安にさせる。
「今は無事じゃ。お主の弟が刺される寸前で地上の時を止めておるからの。」
「時を止めた?」
「そうじゃ。じゃが時を解放した瞬間、お主の弟は間違いなく死ぬじゃろ。」
「・・・・。」
にわかには信じがたいことだが、もし弟を救える可能性が僅かでもあるのならなんでもいい。
藁にもすがる思いだった。
「じゃあ、今帰れば弟を助けられるのか?」
自称神様はひとつため息をつくと、まぁそう焦るでないと、今度は厳しい顔を灯雪に向けた。
「時を止めた空間を歪めることは出来ない。じゃが救う方法は他にある。」
「・・・・・。」
「本来ならば、神であろうとも人の生き死にを左右する事は禁じられておる。じゃが、お主には生まれた時に与えられた加護がある。強く望めば、生涯で一度だけ望みを叶えるというものじゃ。もし弟を助けたいと望むのであれば、お主の命と引き換えに救う事はできる。つまり弟の身代わりとなってお主が刺されるという事じゃ。世界の帳尻を合わせるためには命の代償が必要なんじゃ。お主にその覚悟はあるかの?」
それで弟が助かるのであれば、灯雪の心はすでに決まっている。
「ちょっとあんた!簡単に命を投げ出すんじゃないよ!!」
突然割り込んだフロラが、ズカズカとやってきて灯雪の胸ぐらを掴みあげる。
体調の悪い灯雪は、心の中で悲鳴をあげた。
「命を賭けるのが美談とかっ、人間の考えることはよく分かんないけどねっ、あんたに命を与えた親の気持ちだって考えなさいよ!決死の覚悟で産んだ自分の息子が自ら死を選ぶなんて・・・あんたの親はそんな事望んでないんだよ!!」
怒りで加減が出来なくなりつつあるフロラ。
ギリギリと首を絞られる灯雪は、そう言うフロラ自身に殺されかけていた。
必死に腕をタップしギブアップを主張するが、興奮したフロラにそれは伝わっていない。
「これこれ」と、呑気に自称神様が2人を引き剥がす。
もっと早くに止めろよな!と、心で悪態をつき、マジでダメかと思ったとゼイゼイと肩で息をする。
一方のフロラの表情は苦悶に満ちていた。
あれだけ感情的になるのには、何か理由があるのだろう。
おそらくこの人は両親の事をよく知っている。
そう思うと彼女に対して申し訳なく思う灯雪だが、幸希を見捨てる気には全くなれない。
灯雪はようやく治った呼吸で、ポツリと話し始める。
「両親の事は、俺はほとんど記憶にないんだ。だから正直、親の気持ちと言われてもよく分からない。」
クッと、悔しそうに歯を食いしばるフロラ。
それでも分かって欲しくて、灯雪は率直な気持ちを伝えた。
「俺にとっての家族は、今一緒に住んでいる皆んななんだ。父さんと母さんが弟を連れて来てくれた時は、ホントに嬉しくて、無防備にスヤスヤと眠る弟は可愛くてしょうがなかったんだ。小さくて無力な弟を見ながら、何があっても俺が必ず守ってやるからなってそう思った。ある意味、俺にとって幸希は自分の子供のような存在なんだ。あの子が助かるのなら俺は何でもする。自分の命が必要だと言うのなら迷わず差し出す。分かんねぇけど・・・親っていうのはそんな気持ちになったりすんのかなって。」
基本、過ぎた事を気にしない性格の灯雪は、実の両親のこともあまり顧みることがなかった。
父親は交通事故で死んだと聞いている。
母親のことは知らないが、子供と別れなければならない何か事情があったのだろうと、今ならその苦渋が灯雪にも分かる気がしていた。
「お姉さん・・・。」
「フロラよ、フロラでいいわ。」
「フロラ・・・、俺の両親を知ってるのか?」
灯雪に残っている親の記憶は、幼い頃に父親らしき大人の男が側にいたなという、そんなボンヤリとしたものだった。
母親の記憶は全くない。
「お主の母親は、天使だったのじゃよ。」
言い淀むフロラの代わりに、気軽に会話に入ってきた自称神様は、またもや胡散臭い事を言い始める。
「・・・・・。」
ついつい胡乱な目を向けてしまう灯雪。
こんな異空間にいる時点で、大方の事は認めてしまった方が都合良いのは分かっているのだが、どうにもこの男へのきな臭さが拭いきれないでいた。
「お主の母親は禁忌を犯したのじゃ。人間との間に子供を儲けた。」
「・・・それが俺ってわけ?」
「そうじゃ。天人と人間の血を半分づつ受け継いだ子供は、天界にも下界にも馴染むことができない。天界の膨大なエネルギーは人の体では耐えきれず毒となる。」
「だからこんなに体がきついのか。」
「うむ。お主はまだ半分天人じゃからその程度で済んでおるが、本来生きた人間ならば即死じゃな。」
「ふ~ん。」
「・・・・。逆に下界ではお主の力は強すぎる。お主の力が地上で様々なものに影響を与えて均衡を崩す。」
「もしかして、やたらと腹が減ることとなんか関係あんのか?」
「お主から力が際限なく放出されているせいで、常に飢餓状態なのじゃろう。もとより天上人は飲食の必要がない。それも半分人間であるがゆえじゃ。」
「ふ~ん。」
「さっきからいまいちリアクションが薄いのう・・・、お主のことなんじゃが。」
「そんなこと言ってもよ、力だのエネルギーだの俺そんなん感じた事ねぇし。生まれた時からこの体で生きてきたんだ、聞いたところでへぇ~そうなんだって思うぐらいで、いまいちピンとこねぇんだよな。それに俺、もうすぐ死ぬんだろ?」
今更じゃん、と言う灯雪に対し、なんともこれが今時の子なんじゃろかと、呆れた様子でフロラに目配せするがガン無視される自称神様。
「その事なんじゃがな、お主はいずれ天使になるのじゃ。」
「・・・はぁ??」
灯雪の不信感は、ますます膨れ上がるばかりだ。
「天人は不老不死じゃ。ワシ自身、いつこの身が尽きるか知らぬ。半分天人のお主も例外ではない。」
「でも、俺は半分人間なんだろ?天界じゃエネルギーが強すぎて俺には毒だってさっき言ってたじゃねぇか。」
「そこで転生を繰り返すという訳じゃ。」
「・・・テン・・セイ・・・?」
テンセイをうまく変換できず、壊れかけのロボットのような反応をする灯雪。
立て続けに話された事全てが突拍子もなく、話についていけずにいる。
「何度も生まれ変わりながら、地上で力を培い天人として覚醒する時を待つんじゃ。」
「培うったって、どうすりゃ良いんだよ。今だって力なんて全く感じてないってのに。」
「心配せんでも力は着実についておる。覚醒するまではそれを実感する事は少ないじゃろうがの。大事な事はお主がどう生きるかという事じゃ。」
「・・・よく分かんねぇんだけど、その力ってのは一体何なの?」
RPGの様に敵を倒していけば確実にレベルアップしていくというモノならやりようもあるが、具体性や指標の一切ない話に灯雪はどこか物臭な気持ちになっていた。
「力というのは生まれた時から備わっている能力で、一人一人それぞれ個性があるんじゃ。例えばワシならば創世の力、全宇宙の支配と守護の力がある。言うなれば、全知全能というわけじゃな。」
「スゲェな。」
「まぁ、神様じゃからの。」
「・・・・。」
「そこにいるフロラには美と豊穣、季節と天気を司る力がある。他にも天人界には様々な能力を持った天使がおるわけでな・・・あぁ、ちなみに天使は、わしに仕える天人のことじゃ。いうてしまえば、天界では神であるわし以外は皆天使ということになるの。」
「あんたが支配者で、他の天人はみんなその役人てことか?」
「うむ・・・、なかなか皆言うことを聞かぬがの・・・。」
自称神様はどこか遠い目をして、疲れた顔でフッと笑った。
その姿には、何やらそこはかとない哀愁が漂っている。
「それで俺は?どんな力があるんだ?」
「おお、そうじゃった。お主には、愛と美と豊穣の力がある。」
「ふ~ん、なんかフロラと似てんだな。」
自称神様はフロラに般若の如く睨み付けられ、目をシロクロさせる。
「ま、まぁ、天人も数が多いからのぉ、能力がかぶる事もある。」
「へ~・・、そういうもんか・・・。じゃあ・・・ほ・か・・」
途端、意識がぼんやりとしてきた灯雪は、口を開くのも難しくなってくる。
「いかんっ、もう限界の様じゃの。お主、ひょうひょうとしてるから案外平気なのかと思っ・・グエッ!・・」
離れた場所で2人の会話を聞いていたフロラが自称神様を突き飛ばしながら駆け寄った。
「灯雪っ!!本当にいいんだね!?これがあんたの望みなんだね!?絶対後悔しないのね!?」
覆いかぶさる様に灯雪の手を握り込んだフロラは、これが最後の審問とばかりに真剣な表情で聞いてきた。
灯雪は力の入らない体で、ゆっくりと頷く。
「・・・そう。分かったわ。」
フロラはどこか諦めに似た表情で微笑んだ。
「頑固なところはあなたの父親にそっくりね。」
柔らかな手が愛おしそうに灯雪の頬を撫でる。
自分の知らない両親を知っているフロラ。
もう瞼も開けられない灯雪は、最後の力を振り絞ってフロラに聞く。
「俺の・・母さんは・・・今・・・。」
ハッと息を飲むフロラを側で感じ、灯雪は握られている手を僅かに握り返した。
「あなたの・・・あなたの母親は・・・ずっと見守っているわ。たとえ側に居なくても、あなたの事を思っている。」
今まで全く知り得ることの無かった母親の存在を感じ、灯雪の心は暖かく安らかな気持ちになった。
それがとても不思議だった。
「わしからもお主へ、いくつかの加護を授けよう。」
そう言うと、自称神様は灯雪の頭に口付けた。
やがて、灯雪の体は光輝き、足元から少しづつ霧散していく。
「また会おうぞ。我が愛子。」
その言葉を最後に、灯雪の体は完全に消え去った。
残された2人は、しばらく名残を惜しむかの様にその場を見つめていた。
・・・そして数分後。
「ぅあ゛ーーーーーーん!!!」
「フ、フロラっ!?」
俯いていたフロラが突然上を向いて大声で泣き始めた。
「こんなはずじゃ無かったのに!!まさか自分が授けた加護が息子の命を奪う事になるなんて!!!あ゛ーーーーー!!あんまりじゃない!!酷い死に方よ!!私が生んだ子よ!!!何してくれんのよーーーーー!!!!」
子供の様に泣きじゃくる姿に、アタフタと動揺する自称神様はフロラの肩をそっと抱きしめた。
「誰も想像できなかったことじゃ。灯雪は本来、人間界では存在し得ないはずの子。いかな影響を及ぼし与えるのかは、わしですら予測出来ぬことじゃ。」
「パパが灯雪を呼ばなければよかったのに!!」
すっかり駄々っ子になってしまったフロラに、自称神様は困った様にため息をつく。
「しょうがないじゃろ。それが灯雪の望みだったのじゃから。」
膝元にやってきたプン太が、フロラを慰める様にクゥ~ンクゥ~ンと鳴いていた。
それを見たフロラは、プン太の口の両端を思いっきり引っ張り罵声を浴びせる。
「この役立たずっ!!何の為にお前を側に置いていると思うの!!!プリンばっかりバクバクバクバク食いやがって、この穀潰しがっ!!!」
それを隣で聞いていた自称神様は、悪魔じゃと呟きひとり慄いていた。
「今度こそ、私があの子を守ってみせる。」
プン太を放り投げたフロラは、改めて決意する。
「フロラ、天人は人間の運命に介入してはならぬ。お主だってそのぐらいのこと分かっておるじゃろ。」
「パパが決めた掟でしょ?何にだって例外はあるわ。そもそもあの子の存在が人の運命を狂わせているのだから今更よ。」
「秩序を保つためには、守らなければならない決まり事が必要じゃ。例外を作るか作らないかは、この世界を取り纏めるワシが決める事。お主に許されたことでは断じてない。」
いつになく厳しい口調で嗜める自称神様の顔を、フロラはじっと眺めみるとフンッと鼻で笑った。
「はいはい、そうですね~。分かりましたよ~。」
そう、ちゃかした様に答えたフロラは、『頭の固いジジイが』と呟きながら、倒れるプン太を抱えてどこかへ去って行った。
呆然と立ち尽くす自称神様は、やりきれない気持ちで空(くう)を見つめる。
「なぜじゃ・・・、なぜわしの子供達はちっとも言う事を聞いてくれぬのだ。」
育て方を間違えたのかと1人自問する自称神様は憐れだ。
どこまでも続く眩しいほどの白と、混じり気のない澄みきった空間。
「なんかもう・・・神様やめたくなってきた・・・。」
失意の自称神様は項垂れ、ふて腐れていた。
足元に出来た衣服の皺を何気なく払うと、今しがたひとつの命が失われたのを感じ取る。
男がどこからともなく出した大きな杖を地面にトンとつくと、霞みがかった真っ白な異空間は轟々と音を立てながら、トグロを巻いて収束していく。
「生まれながらに罪を背負う禁忌の子。死をまといし浅ましき堕天使。」
ヒゲで覆われた顔に唯一覗く、深い彫りに隠れたグレーの瞳からは何の感情も読み取れない。
「はて、そなたは闇に染まる終焉の悪魔となるのか、夜明けを告げる黎明の神となるか。」
何もなくなった空間には、一切の音も光も存在しない。
「見物じゃの。」
そこには惨憺たる孤独と果てのない漆黒が、ただ無情に広がるのみであった。
俺の可愛い弟。
俺が望んで生まれてきた。
俺が名付けて、願いを込めた。
命をかけても惜しくない、大事な大事な俺の子。
もし叶うのなら・・・。
顔面を生暖かく柔らかいものがベチャベチャと撫でている。
耳元で聞こえるフンガフンガという息遣いと、時折聞こえるクゥ~ンクゥ~ンという甲高い鳴き声が耳障りで、灯雪はそれを無意識に手で払いのけながら、ゆっくりと目覚めた。
「・・・あれ?プン太?ん?俺、何で・・・。」
目の前には、心配気に顔を除くプン太がいた。
さっきまでの修羅場が嘘のような静寂と清涼に満ちた空気。
灯雪は真っ白に霞みがかった不思議な空間で、仰向けになって寝ていた。
「幸希はっ・・・クアァ・・・。」
記憶にある最後の光景を思い出し、焦った灯雪は慌てて上体を起こすが、グワングワンと脳みそを掻き回すようなひどい目眩に襲われ、冷や汗をかいて倒れてしまう。
「あぁ、無理するんじゃないよ。お前には、まだここは毒だからね。」
気がつくと、何も無かったはずの空間には1人の女性が立っていた。
すき透るような白い肌に、緩く波打つプラチナブロンドを胸まで垂らし、吸い込まれるようなスカイブルーの瞳を持った、絶世の美女だ。
ただ女のその姿は、眩いばかりの美貌すら霞ませる強烈なインパクトを灯雪に与えていた。
「特攻服・・・。」
そう、昨今日本でもあまりお目にかけなくなった特攻服を、白色人種の特徴色濃い彼女が完璧に着こなしていたからだ。
紫色のロング丈の特攻シャツと特攻ズボン、足元にはしっかりと足袋まで履いている。
灯雪は一度、アイドルのライブ会場を横切った時に遠目で特攻服姿のファンを見たことがあるが、間近で見るのは初めてであった。
ついついマジマジと見てしまう。
「イカしてるでしょ?」
そう言ってウィンクする美女は、傍らに膝をついて灯雪の首元に手の甲をそっと当てると、難しい顔をして溜息をついた。
「やっぱりまだ駄目だね。どんどん体温が下がってる。あまりここに長居できそうにないわ。」
「ここって・・・ここは何処なんだ?夢でも見てんのか?マジで・・・こんなとこで寝てる場合じゃないってのにっ・・・クソッ・・。」
「ほら、おとなしくしてな。具合が悪いんだろ?」
懲りずに起き上がろうとする灯雪を、美女が優しく介抱する。
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ、あんたの弟は・・・まぁ一応、今の所?無事だから。」
「無事?本当か!?本当に幸希は無事なんだな!?」
灯雪は恥も外聞もなく、必死に女の袖に縋り付いていた。
決して認めたくは無いが、心の奥底ではもうダメかもしれないという気持ちが確かにあったのだ。
そんな灯雪の姿に、美女は困ったように眉を下げる。
「あんた、よっぽど大事なんだね、その坊やが。」
「当たり前だろ。俺の弟だ。大事に決まってる。」
「弟・・・ね。」
焦燥を滲ませる灯雪の様子を見て、女はどこか寂しそうに呟いた。
すると今度は突然、反対側から鼻息を荒くした男が灯雪に向かって抱きついてきた。
不意を突かれた灯雪は成されるがままだ。
「おぉっ!!目覚めたか!!よう来たなぁ~よう来た!あぁ、具合が悪いんじゃな?かわいそうに、気持ち悪いか?頭が痛いか?かわいそうにのぉ・・・ウグゥオ・・・。」
何処からともなく現れた年老いた男は、そう言って灯雪を抱きしめ撫で回していたが、美女に胸ぐらを掴まれると、呆気なく引き剥がされた。
「おいジジィッ!!テメェ~勝手なことしやがって!!なんで灯雪をここへ呼んだ!余計なことすっとぶっ殺すぞ!!あ゛ぁん!?」
「ヒィ・・・、グッ・・お主・・神様に向かって・・・なんて恐ろしい子じゃ。」
特攻美女が老人の胸ぐらを締め上げながら立派なメンチを切っていた。
灯雪はクラクラする頭で、傍らで喘ぎ苦しむ老人から漏れ聞こえた言葉を、怪訝な顔をして呟く。
「神様・・・?」
白く波打つたわわな髭の、一見サンタクロースのようなその老人。
大柄で逞しい体を白い布で足元まで覆い、まるでギリシャ神話に出てくる天空神ゼウスのような出で立ちだ。
だが、その如何にもな姿が却ってコスプレ感を強めていて、灯雪の不信感を煽っていた。
悶着していた2人が、灯雪の呟きに冷静さを取り戻したのか、女は何かに耐えるように俯くと、背中を向けじっと佇んでしまう。
その背中には花吹雪に舞う美しい天女の刺繍が印象的に施されていた。
「フロラ、そろそろちゃんと説明せねば。もう時間がない、灯雪の体も限界じゃろ。」
「分かってる・・・。」
そう言ったものの、その場から動こうとしないフロラの代わりに自称神様は仕方がないといったように話し出す。
「お主は弟のことが本当に大切なようじゃな。」
「あのお姉さんは無事と言ってたが、弟は本当に生きているのか?」
灯雪がずっと引っかかっていたことだった。
さっきは何か含んだ様な言い回しだった。
何処か歯切れの悪い曖昧な言い方は灯雪を不安にさせる。
「今は無事じゃ。お主の弟が刺される寸前で地上の時を止めておるからの。」
「時を止めた?」
「そうじゃ。じゃが時を解放した瞬間、お主の弟は間違いなく死ぬじゃろ。」
「・・・・。」
にわかには信じがたいことだが、もし弟を救える可能性が僅かでもあるのならなんでもいい。
藁にもすがる思いだった。
「じゃあ、今帰れば弟を助けられるのか?」
自称神様はひとつため息をつくと、まぁそう焦るでないと、今度は厳しい顔を灯雪に向けた。
「時を止めた空間を歪めることは出来ない。じゃが救う方法は他にある。」
「・・・・・。」
「本来ならば、神であろうとも人の生き死にを左右する事は禁じられておる。じゃが、お主には生まれた時に与えられた加護がある。強く望めば、生涯で一度だけ望みを叶えるというものじゃ。もし弟を助けたいと望むのであれば、お主の命と引き換えに救う事はできる。つまり弟の身代わりとなってお主が刺されるという事じゃ。世界の帳尻を合わせるためには命の代償が必要なんじゃ。お主にその覚悟はあるかの?」
それで弟が助かるのであれば、灯雪の心はすでに決まっている。
「ちょっとあんた!簡単に命を投げ出すんじゃないよ!!」
突然割り込んだフロラが、ズカズカとやってきて灯雪の胸ぐらを掴みあげる。
体調の悪い灯雪は、心の中で悲鳴をあげた。
「命を賭けるのが美談とかっ、人間の考えることはよく分かんないけどねっ、あんたに命を与えた親の気持ちだって考えなさいよ!決死の覚悟で産んだ自分の息子が自ら死を選ぶなんて・・・あんたの親はそんな事望んでないんだよ!!」
怒りで加減が出来なくなりつつあるフロラ。
ギリギリと首を絞られる灯雪は、そう言うフロラ自身に殺されかけていた。
必死に腕をタップしギブアップを主張するが、興奮したフロラにそれは伝わっていない。
「これこれ」と、呑気に自称神様が2人を引き剥がす。
もっと早くに止めろよな!と、心で悪態をつき、マジでダメかと思ったとゼイゼイと肩で息をする。
一方のフロラの表情は苦悶に満ちていた。
あれだけ感情的になるのには、何か理由があるのだろう。
おそらくこの人は両親の事をよく知っている。
そう思うと彼女に対して申し訳なく思う灯雪だが、幸希を見捨てる気には全くなれない。
灯雪はようやく治った呼吸で、ポツリと話し始める。
「両親の事は、俺はほとんど記憶にないんだ。だから正直、親の気持ちと言われてもよく分からない。」
クッと、悔しそうに歯を食いしばるフロラ。
それでも分かって欲しくて、灯雪は率直な気持ちを伝えた。
「俺にとっての家族は、今一緒に住んでいる皆んななんだ。父さんと母さんが弟を連れて来てくれた時は、ホントに嬉しくて、無防備にスヤスヤと眠る弟は可愛くてしょうがなかったんだ。小さくて無力な弟を見ながら、何があっても俺が必ず守ってやるからなってそう思った。ある意味、俺にとって幸希は自分の子供のような存在なんだ。あの子が助かるのなら俺は何でもする。自分の命が必要だと言うのなら迷わず差し出す。分かんねぇけど・・・親っていうのはそんな気持ちになったりすんのかなって。」
基本、過ぎた事を気にしない性格の灯雪は、実の両親のこともあまり顧みることがなかった。
父親は交通事故で死んだと聞いている。
母親のことは知らないが、子供と別れなければならない何か事情があったのだろうと、今ならその苦渋が灯雪にも分かる気がしていた。
「お姉さん・・・。」
「フロラよ、フロラでいいわ。」
「フロラ・・・、俺の両親を知ってるのか?」
灯雪に残っている親の記憶は、幼い頃に父親らしき大人の男が側にいたなという、そんなボンヤリとしたものだった。
母親の記憶は全くない。
「お主の母親は、天使だったのじゃよ。」
言い淀むフロラの代わりに、気軽に会話に入ってきた自称神様は、またもや胡散臭い事を言い始める。
「・・・・・。」
ついつい胡乱な目を向けてしまう灯雪。
こんな異空間にいる時点で、大方の事は認めてしまった方が都合良いのは分かっているのだが、どうにもこの男へのきな臭さが拭いきれないでいた。
「お主の母親は禁忌を犯したのじゃ。人間との間に子供を儲けた。」
「・・・それが俺ってわけ?」
「そうじゃ。天人と人間の血を半分づつ受け継いだ子供は、天界にも下界にも馴染むことができない。天界の膨大なエネルギーは人の体では耐えきれず毒となる。」
「だからこんなに体がきついのか。」
「うむ。お主はまだ半分天人じゃからその程度で済んでおるが、本来生きた人間ならば即死じゃな。」
「ふ~ん。」
「・・・・。逆に下界ではお主の力は強すぎる。お主の力が地上で様々なものに影響を与えて均衡を崩す。」
「もしかして、やたらと腹が減ることとなんか関係あんのか?」
「お主から力が際限なく放出されているせいで、常に飢餓状態なのじゃろう。もとより天上人は飲食の必要がない。それも半分人間であるがゆえじゃ。」
「ふ~ん。」
「さっきからいまいちリアクションが薄いのう・・・、お主のことなんじゃが。」
「そんなこと言ってもよ、力だのエネルギーだの俺そんなん感じた事ねぇし。生まれた時からこの体で生きてきたんだ、聞いたところでへぇ~そうなんだって思うぐらいで、いまいちピンとこねぇんだよな。それに俺、もうすぐ死ぬんだろ?」
今更じゃん、と言う灯雪に対し、なんともこれが今時の子なんじゃろかと、呆れた様子でフロラに目配せするがガン無視される自称神様。
「その事なんじゃがな、お主はいずれ天使になるのじゃ。」
「・・・はぁ??」
灯雪の不信感は、ますます膨れ上がるばかりだ。
「天人は不老不死じゃ。ワシ自身、いつこの身が尽きるか知らぬ。半分天人のお主も例外ではない。」
「でも、俺は半分人間なんだろ?天界じゃエネルギーが強すぎて俺には毒だってさっき言ってたじゃねぇか。」
「そこで転生を繰り返すという訳じゃ。」
「・・・テン・・セイ・・・?」
テンセイをうまく変換できず、壊れかけのロボットのような反応をする灯雪。
立て続けに話された事全てが突拍子もなく、話についていけずにいる。
「何度も生まれ変わりながら、地上で力を培い天人として覚醒する時を待つんじゃ。」
「培うったって、どうすりゃ良いんだよ。今だって力なんて全く感じてないってのに。」
「心配せんでも力は着実についておる。覚醒するまではそれを実感する事は少ないじゃろうがの。大事な事はお主がどう生きるかという事じゃ。」
「・・・よく分かんねぇんだけど、その力ってのは一体何なの?」
RPGの様に敵を倒していけば確実にレベルアップしていくというモノならやりようもあるが、具体性や指標の一切ない話に灯雪はどこか物臭な気持ちになっていた。
「力というのは生まれた時から備わっている能力で、一人一人それぞれ個性があるんじゃ。例えばワシならば創世の力、全宇宙の支配と守護の力がある。言うなれば、全知全能というわけじゃな。」
「スゲェな。」
「まぁ、神様じゃからの。」
「・・・・。」
「そこにいるフロラには美と豊穣、季節と天気を司る力がある。他にも天人界には様々な能力を持った天使がおるわけでな・・・あぁ、ちなみに天使は、わしに仕える天人のことじゃ。いうてしまえば、天界では神であるわし以外は皆天使ということになるの。」
「あんたが支配者で、他の天人はみんなその役人てことか?」
「うむ・・・、なかなか皆言うことを聞かぬがの・・・。」
自称神様はどこか遠い目をして、疲れた顔でフッと笑った。
その姿には、何やらそこはかとない哀愁が漂っている。
「それで俺は?どんな力があるんだ?」
「おお、そうじゃった。お主には、愛と美と豊穣の力がある。」
「ふ~ん、なんかフロラと似てんだな。」
自称神様はフロラに般若の如く睨み付けられ、目をシロクロさせる。
「ま、まぁ、天人も数が多いからのぉ、能力がかぶる事もある。」
「へ~・・、そういうもんか・・・。じゃあ・・・ほ・か・・」
途端、意識がぼんやりとしてきた灯雪は、口を開くのも難しくなってくる。
「いかんっ、もう限界の様じゃの。お主、ひょうひょうとしてるから案外平気なのかと思っ・・グエッ!・・」
離れた場所で2人の会話を聞いていたフロラが自称神様を突き飛ばしながら駆け寄った。
「灯雪っ!!本当にいいんだね!?これがあんたの望みなんだね!?絶対後悔しないのね!?」
覆いかぶさる様に灯雪の手を握り込んだフロラは、これが最後の審問とばかりに真剣な表情で聞いてきた。
灯雪は力の入らない体で、ゆっくりと頷く。
「・・・そう。分かったわ。」
フロラはどこか諦めに似た表情で微笑んだ。
「頑固なところはあなたの父親にそっくりね。」
柔らかな手が愛おしそうに灯雪の頬を撫でる。
自分の知らない両親を知っているフロラ。
もう瞼も開けられない灯雪は、最後の力を振り絞ってフロラに聞く。
「俺の・・母さんは・・・今・・・。」
ハッと息を飲むフロラを側で感じ、灯雪は握られている手を僅かに握り返した。
「あなたの・・・あなたの母親は・・・ずっと見守っているわ。たとえ側に居なくても、あなたの事を思っている。」
今まで全く知り得ることの無かった母親の存在を感じ、灯雪の心は暖かく安らかな気持ちになった。
それがとても不思議だった。
「わしからもお主へ、いくつかの加護を授けよう。」
そう言うと、自称神様は灯雪の頭に口付けた。
やがて、灯雪の体は光輝き、足元から少しづつ霧散していく。
「また会おうぞ。我が愛子。」
その言葉を最後に、灯雪の体は完全に消え去った。
残された2人は、しばらく名残を惜しむかの様にその場を見つめていた。
・・・そして数分後。
「ぅあ゛ーーーーーーん!!!」
「フ、フロラっ!?」
俯いていたフロラが突然上を向いて大声で泣き始めた。
「こんなはずじゃ無かったのに!!まさか自分が授けた加護が息子の命を奪う事になるなんて!!!あ゛ーーーーー!!あんまりじゃない!!酷い死に方よ!!私が生んだ子よ!!!何してくれんのよーーーーー!!!!」
子供の様に泣きじゃくる姿に、アタフタと動揺する自称神様はフロラの肩をそっと抱きしめた。
「誰も想像できなかったことじゃ。灯雪は本来、人間界では存在し得ないはずの子。いかな影響を及ぼし与えるのかは、わしですら予測出来ぬことじゃ。」
「パパが灯雪を呼ばなければよかったのに!!」
すっかり駄々っ子になってしまったフロラに、自称神様は困った様にため息をつく。
「しょうがないじゃろ。それが灯雪の望みだったのじゃから。」
膝元にやってきたプン太が、フロラを慰める様にクゥ~ンクゥ~ンと鳴いていた。
それを見たフロラは、プン太の口の両端を思いっきり引っ張り罵声を浴びせる。
「この役立たずっ!!何の為にお前を側に置いていると思うの!!!プリンばっかりバクバクバクバク食いやがって、この穀潰しがっ!!!」
それを隣で聞いていた自称神様は、悪魔じゃと呟きひとり慄いていた。
「今度こそ、私があの子を守ってみせる。」
プン太を放り投げたフロラは、改めて決意する。
「フロラ、天人は人間の運命に介入してはならぬ。お主だってそのぐらいのこと分かっておるじゃろ。」
「パパが決めた掟でしょ?何にだって例外はあるわ。そもそもあの子の存在が人の運命を狂わせているのだから今更よ。」
「秩序を保つためには、守らなければならない決まり事が必要じゃ。例外を作るか作らないかは、この世界を取り纏めるワシが決める事。お主に許されたことでは断じてない。」
いつになく厳しい口調で嗜める自称神様の顔を、フロラはじっと眺めみるとフンッと鼻で笑った。
「はいはい、そうですね~。分かりましたよ~。」
そう、ちゃかした様に答えたフロラは、『頭の固いジジイが』と呟きながら、倒れるプン太を抱えてどこかへ去って行った。
呆然と立ち尽くす自称神様は、やりきれない気持ちで空(くう)を見つめる。
「なぜじゃ・・・、なぜわしの子供達はちっとも言う事を聞いてくれぬのだ。」
育て方を間違えたのかと1人自問する自称神様は憐れだ。
どこまでも続く眩しいほどの白と、混じり気のない澄みきった空間。
「なんかもう・・・神様やめたくなってきた・・・。」
失意の自称神様は項垂れ、ふて腐れていた。
足元に出来た衣服の皺を何気なく払うと、今しがたひとつの命が失われたのを感じ取る。
男がどこからともなく出した大きな杖を地面にトンとつくと、霞みがかった真っ白な異空間は轟々と音を立てながら、トグロを巻いて収束していく。
「生まれながらに罪を背負う禁忌の子。死をまといし浅ましき堕天使。」
ヒゲで覆われた顔に唯一覗く、深い彫りに隠れたグレーの瞳からは何の感情も読み取れない。
「はて、そなたは闇に染まる終焉の悪魔となるのか、夜明けを告げる黎明の神となるか。」
何もなくなった空間には、一切の音も光も存在しない。
「見物じゃの。」
そこには惨憺たる孤独と果てのない漆黒が、ただ無情に広がるのみであった。
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