GIGA・BITE

鵤牙之郷

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第2話【超獣誕生】

#1

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「では、引き続き捜索にあたります」

「宜しくお願いします」

 最後にメロが店を出てから2週間。

 翠は甥の帰宅を待ち続けているが、未だ有力な手掛かりは見つかっていない。

 2週間前の午後、魚市場の向こうから大きな爆発音が聞こえた。喫茶店からでもわかる程の轟音だ。ところが、警察が現場を捜査しても、爆発物らしき物は見つからなかった。水道管の破裂かとも思われたが損傷はない。

ただ、通報があった現場には、不可解なものが幾つも残っていた。

 運転手側のドアが外れたグリーンの軽自動車と、歩道に落ちていたそのドア。アスファルトに出来た人間の拳大の無数のへこみ。現在に遺された血痕。それから、停められた自転車。喫茶店が所有しているもので、デリバリーサービスのためにメロが使っているものだとわかった。

 あの道で何かが起きた。そして、メロがそれに巻き込まれた。直前に感じていた嫌な予感が当たってしまうなんて。

 警察が喫茶店に来てから、翠はほぼ一睡も出来ていない。数日は開店していたが、体への負担が大きくなり、喫茶店もここ数日は休業している。


 メロは何処にいるのだろう。
無事に帰って来てほしい。翠の願いはただそれだけだった。

                       ◇◇◇

 メロが変貌した老婆と運転手の争いに巻き込まれ、重傷を負ったあの日。
 ゾンビの猛攻により瀕死の状態、死を覚悟したが、突如現場が眩い光に包まれた。光の中で轟音を聞きながら、彼は意識を失った。



 あの時、現場に3機のドローンがやって来て閃光弾を放ったのだ。意識を失う直前に聞いた轟音は、ドローンがホバリングする音だった。


 通常の機体とは形状も機能も大きく異なる。
1機が閃光弾を投下、ゾンビらに電流を浴びせて牽制している間に、もう2機のドローンが担架を展開。攻撃を終えた1機からアームが伸びてメロを掴み、担架に乗せてその場から飛び去った。



 ドローンの向かう先は町外れの古びた病院。柵と壁で囲われた四角いスペースに、4階建のL字型の建物と、車の停まっていない駐車場。オレンジの煉瓦造りの建物はこのエリアでは目立っている。
 付近に団地や公園があるが、不気味なほどひと気がない。下手くそな落書きが散在することから、訪問者がいることは想像がつく。

 病院駐車場の辺りでドローンがホバリングしていると、地面の一部がスライドし、地下へ通じる大きな入口が現れた。
中に入ると、担架の役目を果たす2機が地下のスペースを飛びながらメロを移送、手術室のような部屋まで送り届けた。



 そこでメロを待っていたのが、よく喋る姿の見えない女性と、角の意匠がある仮面を着けた白衣の男だった。黒の仮面は目元のみ隠すタイプで、目の下側が赤いラインで縁取られている。

 男は運ばれて来た青年、綾小路メロの肉体と脳のデータを確認し、あることを実行した。

                       ◇◇◇

 そして、現在。

「バイタルに異常なし。何とかなった……」
 手術室の真横の部屋。
白衣の男がモニター前の椅子に腰を預けた。視線の先にはメロの身体データが表示されたディスプレイ。
『アタシにも感謝しなよ?』
 壁に取り付けられた液晶画面から女性の声がする。マイクを通して喋っているような機械的な音声だ。

『アンタみたいなポンコツ1人じゃどーなってたことやら。この、世界最高峰の知能を持つアタシのおかげで——』


「うるさい! ちょっと黙ってろ!」
『はぁ!? 何よその態度!』
「あぁもうっ! 勘弁してくれっ! こっちは頭ん中ぐちゃぐちゃなんだよ!』

 白衣の男は姿なき女性を怒鳴りつけると、黒い仮面を外して耳の付け根を掻いた。

見た目は40代で痩せ型。目の下にはクマが出来ている。
 男はフラフラと立ち上がり、ガラス張りの壁まで歩み寄った。壁で仕切られた隣の部屋は手術室のようで、視線の先には鉄製のベッド。そこにメロが、Tシャツを脱がされた状態で寝かされている。
体のほとんどの傷は癒えているが、目の周りがやや黒いのは気のせいだろうか。


 また、明らかに不自然な箇所がある。

左胸から腕にかけて、奇怪な装置が取り付けられている。胸の茶色い装置から黄色い線が伸び、メロの体に固定されている。その内2本は右胸に接続。その形はさながら心臓を守る鎧のよう。装置の中央には黒い円形の窪みがある。



 凶暴化した老婆が噛みつき、大きな傷を負った左腕は、薄緑色の装甲のようなもので完全に覆われている。患部を守ってはいるがとてもギプスには見えない。そして手首には、少し大きめの茶色い器具がはめられている。その形状は牙の突き出た顎のようにも見える。

 若者を見つめる男の息は少し荒い。手も小刻みに震えている。それを見かねた女性が声をかけた。
『おいおい、シャキッとしろよポンコツ。失敗したらアタシもアンタも……も終わりなんだから』
 彼女の言葉を聞いて男の目が大きく見開かれた。深呼吸して、頬を2回叩くと、天井を向いて女性に応えた。
「よし。やるぞ

 何を始めるつもりなのか、男は再び仮面を着けて手術室に移動した。
 メロが寝かされている鉄製のベッド。その傍の装置をいじると、頭が置かれている位置の下側、ベッドの側面から何かが出てきた。



 小さな引き出し。そこに、円柱形の小さな物体が保管されている。
単一電池2本を縦に並べたくらいの大きさ。本来は透明だが、内部に電気が流れているようで、青く輝いている。物体の両端は円錐形になっており、銀色に塗装されている。
その形状は、小さなヒューズのようだ。



 男が物体を慎重に取り上げ、メロの左側に回る。腕を上げ、手首に取り付けられた装置に触れる。
「一応、やっとくか」
 軽く咳払いをして、やや強張った口調でひと言。
「超獣システム、起動!」
『ハッ、な~に格好つけてんだか』

 姿なき女性……ノーラを無視して、男は顎型の装置を開け、そこにヒューズを横向きに取り付けた。

《Core Fuse, connected》

 男性の低い機械音声が装置から鳴った。
音声が鳴ったのを確認すると、博士が装置の上顎にあたる部分を押し込んだ。ヒューズは上下の顎と大きな牙でしっかりと固定された。

《BITE!》

 短い音声が鳴ると、ヒューズ内の電流が強くなり、上顎で隠れていた左右対称の小さな丸い窪みに光が灯る。次の瞬間、メロの両目がパッと開き、上半身を起こした。博士は歓喜の悲鳴をあげた。

「や、やった……やった! 成功だ!」

『アタシが手ぇ貸したんだからトーゼンでしょ』
「おい、おい聞こえるか——」
 メロに声をかけようとした途端、強い衝撃と共に白衣の男が吹き飛んだ。
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