GIGA・BITE

鵤牙之郷

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第2話【超獣誕生】

#2

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 吹き飛ばされ、壁に激突した男の前にメロが立っていた。装甲に覆われたその左手で博士を突き飛ばしたのだ。軽く押しただけで1人の男性が吹き飛ぶ威力。人間業とは思えない。


 強烈な痛みに耐えながら、白衣の男がゆっくり立ち上がる。かなりの衝撃だったはずだが無事らしい。その姿をメロが冷めた表情で見つめている。その目は酷く充血している。



「そ、そんな……」

 メロは男を見据えたまま近づいてくる。右手が男の胸ぐらに向かうところで、実験室の床と天井からワイヤーが伸び、メロの身体を捕らえた。
『間に合った……』
 勢いよく飛び出して人間を拘束する装置。どんな設備なのか不明だが、どうやらノーラが操作してメロを止めたようだ。
「ま、待てノーラ! きっと、まだ混乱してるんだ!」
『悠長なこと言ってる場合!? アタシが止めてなかったら——』

 そう、これで一安心、とはならない。メロは硬いワイヤーをいとも簡単に引きちぎってしまった。ワイヤーは派手に吹き飛び、天井の隅につけられた小さなモニターに直撃した。

 止められるものは何もない。
メロは男の首を右手で掴み、軽々と持ち上げた。

『博士!』


 ノーラが叫ぶ。博士と呼ばれた男も必死に暴れるが、力が強く抜け出せない。

 無感情のまま、メロが装甲で覆われた左手を構える。この左手に貫かれれば命はない。博士は強く目を瞑った。頭を必死に振ると、着けていた仮面が取れて床に落ちた。

 仮面が床に落下し、乾いた音が鳴り響くと事態は急変した。
 素顔があらわになった博士を見て、メロが目を大きく見開いた。その直後、首を掴んでいた右手が開き、解放された博士は床に落ちた。咳き込む男の横で、メロが戸惑いの表情を浮かべている。



 今度は天井付近のモニターから雑音。メロと博士が同時に視線を移す。
音が止むと、そこに映像が表示された。どうやら施設の外の様子らしいが、そこにゾンビらの姿が映っている。合計3人。その中にはメロを襲ったドライバーと老婆の姿も。



? 何故ここに?」
 おそらくゾンビを表す言葉だろう。3体のトキシムは駐車場で戦闘を始めた。

 ドローンを飛ばして救助した際、メロは左腕を大きく負傷していた。その血の匂いが彼等を呼び寄せたとノーラは推測する。

 あのとき、ドライバーも老婆も人間離れした動きを見せていた。トキシムになった人間は身体能力が向上するのかもしれない。それならば、血の匂いを追って来たことも納得がいく。


 おそらく1体がメロを追跡、戦闘していたもう1体がその個体を追う。そこへ更に別のトキシムが合流して、現在病院の敷地で乱戦を繰り広げている、といった具合だろう。

 画面を睨むメロ。次の瞬間、彼は獣のように咆哮し、実験室のドアに突進して部屋から飛び出した。トキシムさながら、覚醒したメロもまた超人的なパワーを身につけていた。


 博士が立ち上がるや否や、上側で大きな物音が聞こえ、地下が大きく揺れた。足場がブレて再び転倒する博士にノーラが呼びかける。

『ごめん、間に合わなかった』

「ば、バリケードか?」

 息も絶えだえに博士が尋ねる。
広大な地下施設にバリケード。この病院はどうなっているのやら。

『どうしよう、あの子外に出ちゃうよ!』
「嘘だろ? 止めろよ早く!」
『無理! 強すぎて拘束出来ない!』
 廊下の先から鉄を叩く音が聞こえてくる。メロが暴れているらしい。
『あの子は暴走してる。このままトキシムと鉢合わせて戦闘になったら、もうかも!』
「そんな!」



 ここで、手術室のモニターから雄叫び。
 どうやら、恐れていた事態が起きてしまったらしい。

                     ◇◇◇

 地下を駆け、壁をよじ登り、天井を拳で砕いてメロが飛び出した先は、3体のトキシムが戦っている現場だった。
 博士の言っていたバリケードだろうか、鉄の壁が競り上がり、病院の敷地を覆い隠している。異様な光景だが、近辺に民間人はおらず、誰にも気づかれていない。

 急に現れたメロを見て動きを止めるトキシム達。瞳がそれぞれ異なる色に染まっている。メロも3体の姿を確認、沈黙が訪れた。

 ドライバーだった個体が先に吠える。顔中傷だらけで、口を大きく開けると頬に穴が空いていることがわかる。

ドライバーの咆哮を聞くと、メロがキッと睨みつけ、ドライバーよりも大きな声で吠えた。3体が一瞬怖気付く程だ。


 その声に呼応するかのように、左手首の装置が電気を帯びる。バチバチと凄まじい音がしており、青白い電流がヒューズから流れ出る。


 メロは両腕をクロスさせた。左腕が前側、交差した箇所が、ちょうど胸の黒い窪みの前に来る形だ。
電流はより一層強く激しくなり、青い光となってメロの全身を包んでいく。
そして、再びメロが咆哮し、クロスさせた両腕を勢いよく広げた。

 光が消えた。

 そこに立っていたのは怪物だった。
怪物が両腕を広げた姿で、肩で息をしていた。
 左腕と同じ、薄緑色をした骸骨のような頭部。血のような赤いラインが何本も浮き出て模様を作っている。後頭部は玉ねぎのようなシルエットのプロテクターで守られている。プロテクターの下部には円形の突起が2つ、左右対称に付いている。



 上半身右側と脚は筋肉が露出したかのように赤く大きくなっている。腿と膝から下にも薄緑の装甲。腿の装甲は小さく、黄色く太い数本の線が側面から伸びて巻きついている。ギプスのように腕を守っていた装甲にも変化が生じ、刺々しいデザインになっている。


 恐ろしいのは、その白く大きな目。人間のそれよりも大きく、変異前と同じく充血している。

 メロだったものが3体を見据える。彼等も突如現れた敵を前に身構える。
一瞬の間があり、それぞれが相手目掛けて勢いよく走り出した。

 おぞましい鳴き声と共に、怪物達の戦闘が始まった。
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