GIGA・BITE

鵤牙之郷

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第2話【超獣誕生】

#3

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『は、始まっちゃった』

 博士が実験室の小さなモニターを見つめている。病院の入口付近で交戦中のメロとトキシム達を見つめている。
戦いは拮抗しているが、改造を施され、肉体も大きく変異しているメロの方が優勢だ。



「俺が止める」
 そう言って部屋から出ようとするが、博士は背中を押さえて動きを止めた。先程のダメージが残っている。
『そんな体じゃ無理でしょうが!』
「だとしても! これは、俺の役目なんだ!」
 ノーラに怒鳴る博士。気持ちを落ち着かせようと、深く息を吸い込み、下を向いて吐き出す。その時、ある物が視界に入った。
 首を絞められた時に落ちた仮面。博士の顔を見た瞬間、メロの表情が変わった。



『効くかわからないけど、ドローンの射撃で——』
「待て!」
 博士がノーラを制止する。ノーラも言い返そうとしたが、博士の表情を見て言葉を押し戻した。

 メロが攻撃を中止した理由。博士の脳内で考えが渦を巻く。無数のビジョンが集まり、2つの仮説が浮かび上がる。しかしそのうち1つを博士が消し去った。自分でも思わず笑ってしまう程、あり得ない仮説だったからだ。

 博士が導き出した答えはこうだ。
 トキシムらの戦闘に割って入った青年。
凶暴化した彼等を見てもなお、争いを止めようとしたあの姿。彼を突き動かしたのは恐怖よりも大きな、「人を守りたい」という思い。仮面が外れて素顔を晒したことで、メロの中に残された強い思いが呼び起こされた……のかもしれない。

「俺は信じる」
 仮面を手に取り、博士はゆっくり立ち上がった。
「彼は、まだ眠っているんだ」
 どことなくぎこちない口調。だが、モニターを見つめるその瞳には光が灯っている。実験室にはノーラのひときわ大きなため息が響いた。
『アタシも甘いなぁ~。その顔に弱いんだよね』
 確信した表情で、博士は変わり果てたメロに呼びかけた。
「起きろ、起きてみせろ」

                       ◇◇◇

 変異したメロの力は凄まじかった。

 彼を殴打した怪力のトキシムが、自慢の拳を構えて襲いかかるも、メロはその拳を右手で簡単に受け止めた。手を右に退け、ガードの無い相手の胸をすかさず左拳で突く。トキシムは吹き飛び、施設の壁に直撃した。その威力はコンクリート製の壁を砕くほどだ。



 2体を見つけて追って来たであろう、血に濡れたワイシャツを着た若いトキシム。黄色く瞳を光らせ、彼もメロに飛びかかる。しかしドライバーに比べて筋力が劣る彼は、いとも簡単にねじ伏せられてしまった。倒れたトキシムを、メロは容赦なく何度も踏みつける。



 その隙に、砕けたコンクリートから抜け出したドライバーが背後から迫る。トキシムの体は高い再生能力まで持ち合わせている。本当にゾンビのようだ。
不意打ちのつもりだろうが、吠えて飛びかかったために気づかれてしまった。
 メロは攻撃を交わすと敵の頭を鷲掴みにし、自身の頭部を強く打ち付けた。動物に近いトキシムの戦闘スタイルとは異なる攻撃だ。ドライバーは頭部を押さえてその場で悶えている。

 2体をねじ伏せたメロが次に狙いを定めたのは、あの老婆。
老婆も唸り声を上げると、素早く駆け回ってメロを翻弄する。しかし、その動きも全てメロに読まれている。

タイミングを見極め、目の前に老婆が来たところで強烈なキックを浴びせた。

 小さな悲鳴と共に老婆が鉄の壁まで飛ばされる。俊敏な動きで体力を消耗していた老婆は立ち上がることが出来ずにいる。

弱っている老婆にメロがジリジリと歩み寄る。

 動かなければ。本能的にそう感じるも、老婆は動くことが出来ない。身体能力が向上しても、再生能力を有していても、それを上回る威力の攻撃を食らい、トキシム達は劣勢に回っていた。



 情けない唸り声を上げる老婆目掛けてメロが走り出した。一気に距離を縮め、右手に力を込める。ダメージの回復に時間がかかっていることもあるが、元々互いに敵対していた者達だ。他の2体が助けに入ることは無い。

 老婆の眼前までメロが迫った、その時。
 
拳を振り下ろさんと構えた状態で、メロが硬直した。

 白く大きな目が捉えていたもの。それは老婆の顔。
 振り上げた腕が、ゆっくりと下がってゆく。
暴走したものの、彼の中には微かに、あの日の老婆の記憶が残っていた。
豹変し、ドライバーに襲いかかる姿を見てもなお、反撃を受けた老婆を助けようとした。その記憶が蘇ったというのか。

 小さく唸りながら、老婆の元からおぼつかない足取りで引き下がると、メロは上空を見上げ、力の限り吠えた。獣の咆哮というより、人間の怒号のようにも聞こえる。
その様子をモニター越しに博士も見ていた。ノーラも黙って状況を観察している。

 これを好奇と捉えたのか、回復した背後の2体がメロに襲いかかった。咄嗟のことで判断に遅れが出る。ワイシャツの青年にはやはり簡単に蹴りを入れられたが、ドライバーの攻撃を避けきれなかった。


 必死に抵抗するメロを、今度はドライバーが両手で押さえ、覚えたばかりの頭突きを食らわせた。メロは混乱しているようで、闇雲に攻撃を繰り出すが全く当たらない。

トキシムは更に攻撃を浴びせると、ふらついたメロの右肩を掴み、顔面目掛けて拳を勢い良く突き出した。

 真っ直ぐ、勢い良く吹き飛ばされる。その先にあったのは病院の敷地を囲う壁と、配電盤。

 配電盤に直撃したメロの体に電気が流れる。感電し、ビクビクと動いたあと、メロは頭をがっくりと落とし、動きを止めた。

 勝ち誇ったように吠えるドライバー。彼は再び、残る2体も始末しようと襲いかかった。
青年のトキシムを無理矢理起こし、首元に噛みつこうとした瞬間、

「い、いってぇ……」

 背後から聞こえた声にトキシムが反応する。
 コンクリートが小気味良い音を立てて崩れ落ちる。
そして頭を摩りながら、鎧をまとった怪物が立ち上がった。
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