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■本編 (ヒロイン視点)

レッスン2 理性と羞恥の味 -1-

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「あの、まずプロットを見ていただいてもいいですか?」

 リビングテーブルに並べた3つの作品を前に、二人は唸った。

「社会人俺様ヒーローの執着、幼馴染のじれじれ、王子様系男子の溺愛って感じですかね」

 ざっと目を通して、鳴瀬はそう分析する。

「はい、あんまり個性的な設定は思いつかなくて……」
「ある程度のテンプレは掴みとしていいと思いますよ。先生はどれを一番、描きたいですか?」

 懐かしいなと、琴香はふとエチプチでデビューしたときのことを思い出した。打ち合わせのとき鳴瀬はいつも、まず琴香が描きたいものを聞いてくれた。

「そう、ですね……。私が好きなのは純愛系なんですけど、挑戦したいのは俺様とか、強気なヒーローなんです。描いたことないし、え……っちが、激しいのがエチプチの売れ筋だって聞いたので。それで、その俺様のネームなんですけど。さっき描きあげたものがあって」

「なるほど。ではそちら拝見します」

 ネームを読み込む鳴瀬の伏せた睫毛や、真剣な表情をじっと見つめてしまう。

 ──どうだろう、この作品、面白いだろうか。

 どきどきする。けどこれは、琴香がいつも感じる仕事としての緊張とは、ちょっとだけ違う気もする。

「白石先生」
「はっ、はいっ!」
「その……今日はひとまず、こちらのネームをなぞるかんじでどうでしょうか」
「へっ? ……あ、ああ。なるほど! 勉強会の内容ですか?」
「そうすればヒロイン視点もヒーロー視点も確認できると思うので……臨場感をアップさせたいという先生の要望はクリアできるかなと」
「そうですね、充分です。ありがとうございます、こんなことにお付き合いくださって」

 そもそも今夜のことも先日のことも、鳴瀬にとってはなんのメリットもないのだ。それなのに琴香を助けてくれようとしている。感謝しかない。

「あの鳴瀬さん。どうか、不快に思ったらいつでも止めてください……」
「いえいえ、先生こそ気をつけてくださいね。やっぱり『初めて』は好きな人とがいいと思いますから」
「えっ!? あ、そ、そうですね、あはは」

 ははは。あはは。
 胸の微妙な痛みを、琴香は笑って受け流した。

 初めては、好きな人と。それは少女漫画好きの鳴瀬らしい線引きだと思う。でも言い換えれば琴香に対する優しい拒絶……ではないだろうか。
 あなたは対象外ですよ、と。

(そりゃ当たり前……いま私に大事なのは仕事、漫画の話。それだけ)

 なのに、どうして胸がざらつく。
 琴香は鳴瀬の笑顔からむりやり視線を引きはがして、頭を下げた。

「よろしく、お願いします」

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