【完結】 あの世で魔王が勇者の世話係をしています

まっさ

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11-3 街は生まれ変わる

 市長室の手前、秘書が応対する場へと扉を叩き開ける勢いでカキアは乗り込んだ。険悪さを感じ取った秘書はすぐさま立ち上がろうと腰を浮かすが、おざなりな手付きで座っていることを求める。どうせ秘書の存在ぐらいでは、ここから先の展開は左右されない。
 深い色合いの、木製の両開き扉を前に、カキアは足を止める。土台、超越的な存在の座す場などまともなものではない。何より、生半可な存在が至れる領域にない。濃い茶色の重厚感はそのまま、隔絶する境界を示している。
 この扉は来訪者を迎えるためにあるのではない。来訪者を退けるためにある。
 今までは。
「ロエ、この扉開けて」
 木目を睨み、カキアは頼む。後ろからついてきていたロエは、カキアの横を過ぎて扉に手をかけた。蝶番の向きを確認するまでもなく、ドアノブを捻って奥へと押していく。
 僅かな隙間が、何の抵抗もなく開いていく様に、カキアは目を一度閉じる。
「僕の神様、最高」
 称賛と共に、ロエの横で境の縁に立つ。
 先に見えるのは高級感のある革張りのソファ、重々しくも気品のある執務机、敷かれた厚みのある絨毯。
 そして、奥で椅子にかける存在。
 視覚情報で知らされる姿などあてにはならない。部屋とて張り付けたラベルが薄すぎて話にならない。情報の重さと満ちるエーテルの総量に、カキアの全身が硬直して足が踏み出せない。
 その肩に、柔らかく手が置かれる。
待機ステイは嫌だからな。一緒に行く」
 虚を突かれて動きを止め、それからカキアは深く口角を上げる。
「もちろん、一緒に来て。来てほしい」
 告げて、強張っていた喉を解いて、呼吸を整える。
 扉の先へ、足を踏み入れる。存在そのものを枯葉の如く弄んでくる質量を無視する。存在そのものを染め上げんとしてくる情報を拒絶する。
 存在そのもので、そして傍らの神と共に、すべてに反抗する。
 深い深い沼の中、永遠に湛え続けた淀みを、湧き立たせる。
 深緑の瞳を、今なお暗く濃く濁らせる。
「どうもぉ、市長ご無沙汰です。息子さんに聞きましたけど俺を飼ってくれる用意があるとか、クソくらえですねぇ。ゲストそっちのけで設定いじって、安定しかけてた奴ら引っかき回すポンコツの下じゃ、僕過労死しちゃいますよ。挙句適任者を選べなかった己は棚上げで、失敗した子に折檻するとか、子育て下手クソですか」
 対峙するのが何かなど、些末事と片付ける。必要な根源は、己がどう在りたいか。何を為したいか。一千年、カキアが貫いた在り方。
「僕もね、何も市長のお仕事を否定してるんじゃないんです。なるほど未確定の魂僕らの存在は曖昧で危うい。色々画策されたあげくにこうなった僕が思いますよ。危険を排除するため、彼らに錨をつけて街に留め、あわよくば曖昧性の解消か、経年劣化の沈没を狙うのは分からんでもない。かねての提案通り、そのお手伝いはやぶさかじゃないんです」
 可能性は厄災になりうる。街に呼ばれるのは、望もうと望まざると揺らぎを持って死した魂だ。人とも、精霊とも、呪いとも、祝福とも、確定せずに死んだ魂。死してなお可能性を残す者達。
 一つ間違えれば、未曾有の厄災を呼びかねない種。
 だがその可能性は、悪しくだけ語られるべきではない。
「でもね、多かれ少なかれ設計ミスみたいなとこあるでしょう、根本的に。ならもう少し優しくしてあげてもいいんじゃないですかね」
 持て余すほどの可能性を託したのは、元々神と名乗る者達の方だ。人間は時に無垢さの先、時に欲深な末、時に偶然境を飛び越えた。それは、創った者達自身が許した揺らぎだ。
 なのに今更その可能性を邪見にするとはどういうことだと、詰め寄る。
 可能性は良くも伸びうるもの。
「まぁそういうことなんで。たまには会議しましょう、市長」
 妥協点を告げる。ここまで来た理由。
 交渉事など通じないのは分かっている。だらだらと述べたのは本当に心底からの恨み言だ。
「お陰様でどっち規格の話でも助言できますよ。半端者が二人、第三者目線も搭載です」
 上げた手で──上がったかどうかも認識できない手で、傍らに存在を探す。返された温もりに縋って頼って、それでもこの場は己の戦場なのだと表立つ。
 カキアは望む。
「素敵な街作り、始めましょうね」
 身勝手な箱庭にノーを。
 停滞に安息を。選択に喝采を。反抗に応援を。

 ここに、可能性を。


                        結

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