みかげさまのこえがする。

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<第十三話・姉>

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 最初、鼻腔が嗅ぎ取ったその強烈な臭いが何であるのか、琴子は判断しかねた。料理をするので、生臭いというだけのものならば触れたことがないわけではないし(魚や肉を捌くくらいは日常茶飯事であるからだ)、一番近いとしたらソレであるのだが――どうにも、そんな生易しいものではないような気がする。もっと、腐った何か。もっとおぞましい何か。だが、深く判別出来る前に、その臭いは霧散してどこかに消えてしまっていた。
 そう、それこそ真知子と話した時のように――部屋を吹き抜けてどこかえと去っていった風のように。

――な、なんなの今の……気のせい?

 一瞬のことであった以上、琴子がそう考えたことを一体誰が責められるというのだろうか。残念ながらというべきか、美園同様琴子にも特別な霊感なんてものは一切なかった。むしろそんなものがひと欠片でもあったのなら、きっとオカルトを研究するようなサークルなんてものに入ってはいなかったことだろう。
 外に出ようとした時、ポロン、と携帯が音を鳴らした。ツニッターに新しい動きがあると、音を鳴らして通知してくれるように設定している。短い、木琴を鳴らすような音はその通知音だった。緊急事態かもしれないのに、と思いつつ、ついついいつもの癖で、すぐそこにあった携帯に手を伸ばしてしまう。充電は結構減ってしまっていたので、充電コードに繋いだままの状態である。



●ありあ@スリプリの続編全力待機 @suripuriiyaaaaa
 返信先: @kocchan1515
T県でいつくらいに起きた大災害かにもよるけど……もう少し狭い範囲に絞れれば何かわかるかもしれないですね。
その村とか町とかで起きた土砂崩れとか大火事とか飢饉とかようはそういうの。もし地名を晒すのがダメなら、こっちゃんさんが自分で検索してみるといいかもしれません



●北条マサマサ@おっぱい萌える @hojomoemoe
 返信先: @kocchan1515
みかげさまってなんぞ。知らないなー。
つか、どうして昔の人は、生贄捧げると災害が収まるとかそういう発想になったんだろうね。わけわかめ



●おとーふ @tofuwaumai5555
 返信先: @kocchan1515
日本の神様が生贄食って満足するような邪神扱いされててちょっと笑うな



●サークル部長N @rainbase8973
 返信先: @kocchan1515
よりにもよって、なんてことを書き込んでるんだ。
その名前はまずい。今すぐツイートを消せ。ただでさえ呼んでいるところをもっと強く引っ張り出す馬鹿がいる。
取り返しのつかないことになる。気づかれる前に早く



「え?」

 一般公開されているSNSであるので、本名を書き込むということはしなかったが――その口調に書き方、見覚えが十分にあった。
 サークル部長N――まさか、自分達が見返してやろうとしていた、あの新倉焔だろうか。イニシャルもあっている。ただ、彼にツニッターのアカウントなど教えた覚えはない。リアル生活の話題など、大学のサークルでレポートを書いているとか、ちょっとした友達関係のことくらいしか書いていないはずなのに――一体どうやって見つけたというのか。
 いや、それよりも。ツイートを消せって、一体どういうことなのか。



●こっちゃんでっす @kocchan1515
 返信先: @rainbase8973
え、ちょっとまってください、怪奇現象研究クラブの、N部長ですか!?なんであたしのアカウント知ってるんですか。
ていうか、その名前はまずいってどういうこと?また何か見えてるとでもいうんですか?



 さっき通知が来たばかりということは、まだこのツイートを彼が見ている可能性は十分ある。向こうも通知をオンにしていたら余計にすぐ気付くはずだ。ここまで来て、いっそ相手が起きているなら電話でも良かったのでは、と思ったが、それを実行する前に、異変が起きていた。
 琴子のツイートに、さらにレスが来たのである。それも。



●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
qf@unm3@:ogpvka@4tqo-v y4qj-」54ktgw@」pk5@ptpごjs64「y-09ほ@い:djへ9「05js:gぽtろ;gjq@4おう5mtv09う「0、jr5w、cじぇrjgej@owjvnsm[95rtjw[i54-0mqkim5trv[,-qwj5tv@jc5po]



●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
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●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
@w0v9nt・p8うm54q「@「0q45、ー4h9tr8dsgdh@てょえrtg@9qjdfg0@84900239う4r@03jtsgp:jんどfshc



●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
vなえお:いろngewpoqmcv5r90wuhうぇ95vんm@wvh@ow5cm0t9wsrfjogisc:p,sedkjreotgywtwrbv45yうkじぇr\yuej:r-,934cu9tasukegh@9enaa3[-9mcuqwレqvt-003kdfじゃp」ヴぁrぎ@そhtg4え5.「cq^0位青q、^t。あおー^¥l。cどs90「gくm5-09v53う09「cmr@あjfc「9x、d「ーくぇ9うqtmhc0dろhgc0あお、めrkz。j9nv[49qucn[f-905a,x-[54auvn[mea90,sjcx[50a9ncu[q0m9c[059,x[0954x,h[0qxh,q09c0q9un90[3rmvsodprjまc「049う0@7


 突然、意味不明なレスが大量につき始めた。明らかに、適当に打ち込んだだけ、あるいは文字化けしているような文字列ばかりがずらずら並ぶ。まるでツニッターが壊れてしまったように、何度も何度も同じ人物からのレスが続いた。

「え、え……え?」

 まるで、新倉部長のレスを見て、何かが焦ったかのよう。あるいは、これを契機にと仕掛けてきたよう。ツニッターが壊れてしまったのか、あるいは荒らしか。普段ならきっとその二択で考えた筈である。そして急いで鍵アカウントにするなり通報するなり、なんらかの処置を取ろうと冷静に考えることもできだだろう。
 だが、今の琴子にはその行動が思い浮かばなかった。
 これがただの、生きた人間のイタズラであるようには到底思えずにいた。謎の文字列はまるで、そこに隠された意味でもあるように、それが暗号か何かであるかのように延々と書き込まれ続けている。それを、琴子は無意識に目で追いかけ続けていた。何故か、目を逸らすことができなかった。視線が液晶画面に縫い付けられてしまったかのように離れない。眼球が、無意味な羅列を吸い寄せられるように追いかけ、左から右へ、左から右へと動き続ける。

――やだ、何?ねえ、なんなの、ねえ……!?

 やがて。永遠にも思えた時間に、終わりが来る。



●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
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●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
おいでことこちゃん
おねえちゃんがむかえにいくよ


「!!」

 ことこ。SNSでは明かしていないはずの本名にぎょっとした瞬間、再び廊下で駆け回るような足音が響いた。

「ひっ!」

 もう、廊下を走っているのが真知子だなんて、そんな楽観的なことは考えられなかった。そもそも彼女は、足は元気だがあそこまで走れるほどの体力はなかったはずである。歩くペースもいつもゆっくりだった。そもそも、彼女が走り回るのならあんな軽い足音にはならないだろう。真知子の体格は、どちらかというとやや太り気味に入るのだから。

「誰……?」

 これほど大きな音がしているのに、同じ部屋の美園は一行に起きる気配がない。そもそも酒を食らって倒れた後の彼女は、そこそこ大きな地震が来ようがサイレンが鳴ろうが微動だにしないことで有名だった。琴子は一人で、この恐怖に耐えるしかない。確かめるしかないだろうか。開けた障子の向こうから、青い青い月明かりが射し込んでいる。琴子は充電を繋いだままの携帯をその場に置いて、ゆっくりと廊下へ這い出していった。
 左右に長く伸びる廊下。あの足音は、どちらに行っただろう。なんとなく、居間へと続く方――琴子から左手側に体を向けて。
 ぎょっとすることになった。何か、ぼんやりと立っているものがあることに気づいたからだ。

「――っ!?」

 それは、長い髪の女性、であるようだった。ばさばさに荒れた長い髪を、顔を隠すように前に垂らし、首はがくんとうなだれている。そして、ピンク色の半袖のパジャマのようなものを着ているようだった。若い女性が好むような、ちょっと可愛いマスコットのようなものがついたパジャマの類である。この距離からでは、いくら琴子の目が一般人より良いと言っても、どんなキャラクターがついた服を着ているまでは判別がつかなかったが。
 いずれにせよそのパジャマは、気味が悪いほど汚れていて原型をとどめていなかった。
 胸元は赤黒く汚れ、ズボンは泥なのか排泄物なのかもわからぬものでぐちゃぐちゃになっている。そして、半袖からだらりと力なく垂らした腕はドス黒く変色し、枯れ枝のようにやせ細っていた。それどころか、あちこち皮が削げて中身の白いものが覗いている始末である。
 真知子では、なかった。
 それどころかどう見ても――“既に人間ではない”ことが明白だった。

「ひいいい!」

 何あれ、何なのあれ、なんて月並みな言葉さえ出てはこなかった。近づいてはいけない、どころかきっと見てもいけないものを見てしまったとわかった。逃げなければと思うのに、腰が引けてまるで足が動いてくれない。力が抜けて、立てる気配もない。ゆっくりと、それでも確実に“ソレ”は近づいてきているというのに!



●篠崎秋乃 @1nof;sdjeshuop;4gwk]@,rstoi
 返信先: @kocchan1515
おいでことこちゃん
おねえちゃんがむかえにいくよ



 ツニッターの言葉を思い出していた。
 ではあれは。あれは――“おねえちゃん”?

――やだ、やだ……やだああああああああああああああああ!

 そいつに真正面から、見下ろされた瞬間。
 ぶちり、と引きちぎるような音を立てて――琴子の意識は途絶えたのだった。
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