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<第二十六話・標>
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転げるように、琴子は台座から落ちた。その拍子に右腕を打ち付け、恐ろしい痛みが脳髄を駆け上がることになる。
「う、ううううううう!」
これ以上泣くな、と自分に言い聞かせた。そんな気力があるなら足を動かせ、と。縄を解き、釘を抜いてもらえただけで御の字なのだ。ここからは、自力でなんとかするしかない。
美園は、この洞窟の何処かにいる。恐らく、夏音が死ぬまで彷徨い続けたところに美園も放り込まれているはずなのだ。そこまで辿り付き、彼女を出口まで誘導する。それが自分の、きっと最後の役目であるはずなのである。
――多分、あたしがいるこの場所は、出口からそう遠くないはず。昏倒している生贄を運び込んで拷問するんだし、出口からあんまり遠かったら運ぶのも大変だもの。そんでもって、逃げ出してしまうかも、なんてことは想定に入ってないはず……!
視界が霞む。一歩進むたび、ぐちゃぐちゃに潰された両手から血が滴り、激痛が心臓を激しく苛んでいく。
何でこんなに頑張っているのか、自分でも正直わかってはいなかった。それでも意地の一つも張れないようでは多分、己は己が産まれてきた意味に納得できないのだろうということは薄々理解していたのである。
恐らくは、“みかげさま”がそうだったように。自分の産まれた意味と誇りを欲して、それがずっと続いてしまって、この現代に生贄などという風習を残してしまったように。村人達が過去の過ちを認めることも見直すこともできず、恐ろしい行いを続けることで正当化してしまったように。
それが、人間だ。人間には意地があり、プライドがある。
悪い方向にばかり働いてしまったこともきっとあって、その結果こんなことになっているのだろうけど。今、琴子の死にかけの体を動かしているものもきっと、そんな意地やプライドと呼ばれるものであるはずである。何故ならばそれが、それこそが“己”を創るものだからだ。己という存在が他と違うことの証明だからだ。譲れない誇りを守ることで、守りぬくことで、己が生きた証が作れると信じることで――息をすることができるようになる。それがきっと、愚かで美しい人間というイキモノなのである。
――って、あはは。なんて、ちょっとカッコつけて考えてみたけど。ようはただ、意地っ張りってだけ、なんだけどさ……。
ふらつきながらどうにか足を動かす。一度止まったらもう動けなくなる。倒れたら立ち上がれなくなる。ならば自分は、無理にでもこの足を動かして、道標を作るしかないのだ。
美園のところに届くまで。友達を、ちゃんと助けられるその時まで。
「……!」
自分が儀式を受けてきた広い空洞を抜け、狭い道を少し上っていくと。文字通りY字路になっている場所に到達した。真正面に太陽の光が差し込む、上り坂が見える。だが光が見えるほどだ、けして距離が長いというほどではない。そして琴子がやってきたのはYの字の、丁度左側であったようである。右側にもう一本通路が伸びているらしい。もしやそちらの道が、もう一人の生贄――磔にされず、地下に放置されて殺される者が投げ落とされる洞窟になるのだろうか。
――そうだとすると問題は、こっちの道は絶対迷路になってるって、そういうこと……なのよね。だって、ここに落とされた人が出口を見つけて、外に出てきちゃったら意味がないんだし。
見れば、右側の通路には鉄格子の扉が据付られている。勿論、そこには南京錠らしき鍵。流石にこれを開ける手段は、琴子にはない。
同時に、疑問にも思った。あの神官達は自分の儀式を中断して地上に引き上げていったが、それから一度も戻ってきてはいない。美園をこちらの洞窟に閉じ込めたのだとしたら、途中で鉢合わせになってもおかしくはないはずなのだが。
「そこは、予備の出口だから。基本的にそこから生贄を投げ込むことはない。迷いの洞窟は、三つの出入り口がある」
「!」
いつからそこにいたのだろう。鉄格子の扉のすぐ脇に、一人の少年が立っていた。スポーツでもやっていたのか、すらりと背が高いものの、顔立ちはまだ幼くあどけない。そしてその体は、向こう側が透けている――美園は彼を見た瞬間に“理解”した。彼もまた、生贄に捧げられた一人だと。そう、伝わってくる名前は。
「宮藤、俊輔……くん?」
自分達の、前の前の代。夏音、秋乃の姉妹を迎えに行く役目を任じられた“みかげさま”の一部。彼らは中学生のカップルと、少女の母親という組み合わせでこの村を訪れて、そしてみかげさまの生贄に三人揃って捧げられてしまったのだった。
「二人組であった場合、高い確率で一人はそちらの洞窟に落とされる。堂島美園もその一人。“迷”の文字を引き当てて、そちらに落とされた。死ぬまで迷い続けるように。そのために、わかりやすい出口から一番遠くに投げ込まれたはず」
「じゃあ、此処から遠いの?」
「逆だ。此処はこの通り頑丈な鍵がかかっているし、鉄格子も錆びて簡単に動かなくなっている。出口を見つけてもそうそう通ることはできない。だから、この出口の傍は安全と連中は思っている。他の出口二つから此処は遠いから」
言いながら、彼はすっと鉄格子を指差した。途端、がちゃん、と音を立てて南京錠が外れ、地面に落下する。そして、錆びて動かない筈の鉄格子の扉が、ぎぎぎぎ、と耳障りな音を立てて開いていった。
「あんた……」
自分が直接話したのは、篠崎夏音だけだ。けれど、この少年も協力してくれるというのか。――恐ろしい目に遭って死んだ筈だというのに。自分達と同じ苦しみを、美園にも味あわせようと思わないでいてくれるのか。
助けることに、協力してくれると、そう言うのか。
「……ありがとう。本当に、ありがとう……!」
その眼は無言で、行け、と言っている。さっきまでとは違う涙が滲みかけ、琴子は何度も何度も繰り返しお礼を言った。掠れて汚い、ちょっと前の自分ならあまりにも情けないと悶絶していたであろう酷い声であったけれど。
――行くんだ。背中を押してくれる人たちが、確かにいるんだから……!
気力を振り絞り、琴子は鉄格子の向こうへ行く。
死と腐臭が立ち込める、何人もの生贄達の苦痛を吸った、もう一つの地獄へと。
***
「!」
はっとして、美園は眼を開けた。先ほどまで見ていた真っ暗で――あまりにも悲しい夢は、瞼の裏にしっかりと焼きついている。
自分は確かに、“みかげさま”と話をしていたのだ。だったら、自分の傍に彼女はいるのだろうか――そこまで考えた時、鼻腔をついた凄まじい臭いに思わず激しく咳き込むことになった。
「うえっ……げほっ!げほっ!!」
人は、あまりにも強烈な臭いをくらうと、許容量を超えてまず咳き込むように出来ている。それも、今回はとても芳しいとは言えない臭いだ。
――こ、これ……!去年、冷蔵庫がブッ壊れた時の臭いに、よく似てるかも……!
去年、琴子と二人で広島旅行をしたのだが。一週間のうちに、冷蔵庫が完全に壊れて酷いことになっていたのである。中のものがみんなダメになってしまっていたが、特に酷いのが冷蔵庫に入れたまま忘れていた豚肉だ。いや、冷蔵庫に入れたからといって、冷凍もせず一週間忘れていたようではもう食べられるものではなかっただろうが――それを抜きにしても、とんでもない事になっていたのである。冷蔵庫を開けた途端、凄まじい臭いに思わず倒れそうになったのだから。
あの時、腐ったものは表面が糸を引いてねばねばしてくるんだ、納豆みたい――と思ってしまい、しばらく納豆を食べられなくなったのでよく覚えているのである。そう、あの時の泣きそうになる臭いに、とてもよく似ている気がする。正直、それを上回るレベルの酷さだとは思うけども。
――く、臭い……何、これ!
嘔吐きながら、どうにか体を起こす美園。そこまで来て自分が松明の明かりに照らされた洞窟らしき場所にいること、持っているのは己のバッグ一つであるということを悟るのだが(手に持っていた琴子の携帯は、何処かに落としてしまったらしかった)。今は、それよりも重要な問題がある。とにかく臭くて、吐きそうなのだ。
美園は口元を抑えて吐き気をこらえながら周囲を見回し――気づいた。気づいてしまった。この広間のようになっている場所の隅に、何かの塊が存在することに。
その塊が全体に白いつぶつぶとしたものに覆われ――それが現在進行形で蠢いていて。
その大量のナニカの山から僅かに――人の手のような形をした、白い骨が覗いているということを。
「う、げえええええええええ!」
気づいた瞬間、もう耐えることが出来なかった。一気に胃袋から溢れたものが口内を満たし、美園はその場に嘔吐してしまう。
それは、死体だった。もはや男か女かもわからぬ死体に、真っ白な蛆が大量に湧いて集っているのである。理解してしまった事実と凄まじい悪臭は、美園に十分過ぎるほど精神的ダメージを与えることになる。
胃液と昨夜の未消化物を吐き出しながら、理解した。此処は、そういう場所なのだということを。
自分は“みかげさま”のように磔にされて燃やされこそしなかったものの、この場所に落とされて――死ぬまで閉じ込められる刑を受けたのだ、ということを。
――このまま此処に居たら死ぬ……死んじゃう………私も、この人たちと同じように……!
そうなる前に、此処から脱出しなければいけない。同時に、この洞窟の何処かに囚えられているであろう琴子を捜して救出しなければ。幸い美園は拘束されてはいないし、まだ動ける体力もある。嘔吐したせいで少々服は汚れたしきっと自分自身が凄い臭いになっているだろうけど、今はそれに構っている暇もない。なんとか心が折れていないうちに、琴子を捜して脱出しなければ。
――諦めちゃだめ。動かなきゃ。どっち?どっちに、行けば……?
この開けば場所は、丁度美園の前後に二つ通路が伸びているらしい。だが、己がどちらの道から来たのかなどわからない。方向感覚などこんな洞窟で働く筈もない。
どちらに行くのが正しいのか。そう思った、その時だ。
じゃり。
「!!」
美園の背後から、砂を踏むような足音が聞こえてきたのは。
「う、ううううううう!」
これ以上泣くな、と自分に言い聞かせた。そんな気力があるなら足を動かせ、と。縄を解き、釘を抜いてもらえただけで御の字なのだ。ここからは、自力でなんとかするしかない。
美園は、この洞窟の何処かにいる。恐らく、夏音が死ぬまで彷徨い続けたところに美園も放り込まれているはずなのだ。そこまで辿り付き、彼女を出口まで誘導する。それが自分の、きっと最後の役目であるはずなのである。
――多分、あたしがいるこの場所は、出口からそう遠くないはず。昏倒している生贄を運び込んで拷問するんだし、出口からあんまり遠かったら運ぶのも大変だもの。そんでもって、逃げ出してしまうかも、なんてことは想定に入ってないはず……!
視界が霞む。一歩進むたび、ぐちゃぐちゃに潰された両手から血が滴り、激痛が心臓を激しく苛んでいく。
何でこんなに頑張っているのか、自分でも正直わかってはいなかった。それでも意地の一つも張れないようでは多分、己は己が産まれてきた意味に納得できないのだろうということは薄々理解していたのである。
恐らくは、“みかげさま”がそうだったように。自分の産まれた意味と誇りを欲して、それがずっと続いてしまって、この現代に生贄などという風習を残してしまったように。村人達が過去の過ちを認めることも見直すこともできず、恐ろしい行いを続けることで正当化してしまったように。
それが、人間だ。人間には意地があり、プライドがある。
悪い方向にばかり働いてしまったこともきっとあって、その結果こんなことになっているのだろうけど。今、琴子の死にかけの体を動かしているものもきっと、そんな意地やプライドと呼ばれるものであるはずである。何故ならばそれが、それこそが“己”を創るものだからだ。己という存在が他と違うことの証明だからだ。譲れない誇りを守ることで、守りぬくことで、己が生きた証が作れると信じることで――息をすることができるようになる。それがきっと、愚かで美しい人間というイキモノなのである。
――って、あはは。なんて、ちょっとカッコつけて考えてみたけど。ようはただ、意地っ張りってだけ、なんだけどさ……。
ふらつきながらどうにか足を動かす。一度止まったらもう動けなくなる。倒れたら立ち上がれなくなる。ならば自分は、無理にでもこの足を動かして、道標を作るしかないのだ。
美園のところに届くまで。友達を、ちゃんと助けられるその時まで。
「……!」
自分が儀式を受けてきた広い空洞を抜け、狭い道を少し上っていくと。文字通りY字路になっている場所に到達した。真正面に太陽の光が差し込む、上り坂が見える。だが光が見えるほどだ、けして距離が長いというほどではない。そして琴子がやってきたのはYの字の、丁度左側であったようである。右側にもう一本通路が伸びているらしい。もしやそちらの道が、もう一人の生贄――磔にされず、地下に放置されて殺される者が投げ落とされる洞窟になるのだろうか。
――そうだとすると問題は、こっちの道は絶対迷路になってるって、そういうこと……なのよね。だって、ここに落とされた人が出口を見つけて、外に出てきちゃったら意味がないんだし。
見れば、右側の通路には鉄格子の扉が据付られている。勿論、そこには南京錠らしき鍵。流石にこれを開ける手段は、琴子にはない。
同時に、疑問にも思った。あの神官達は自分の儀式を中断して地上に引き上げていったが、それから一度も戻ってきてはいない。美園をこちらの洞窟に閉じ込めたのだとしたら、途中で鉢合わせになってもおかしくはないはずなのだが。
「そこは、予備の出口だから。基本的にそこから生贄を投げ込むことはない。迷いの洞窟は、三つの出入り口がある」
「!」
いつからそこにいたのだろう。鉄格子の扉のすぐ脇に、一人の少年が立っていた。スポーツでもやっていたのか、すらりと背が高いものの、顔立ちはまだ幼くあどけない。そしてその体は、向こう側が透けている――美園は彼を見た瞬間に“理解”した。彼もまた、生贄に捧げられた一人だと。そう、伝わってくる名前は。
「宮藤、俊輔……くん?」
自分達の、前の前の代。夏音、秋乃の姉妹を迎えに行く役目を任じられた“みかげさま”の一部。彼らは中学生のカップルと、少女の母親という組み合わせでこの村を訪れて、そしてみかげさまの生贄に三人揃って捧げられてしまったのだった。
「二人組であった場合、高い確率で一人はそちらの洞窟に落とされる。堂島美園もその一人。“迷”の文字を引き当てて、そちらに落とされた。死ぬまで迷い続けるように。そのために、わかりやすい出口から一番遠くに投げ込まれたはず」
「じゃあ、此処から遠いの?」
「逆だ。此処はこの通り頑丈な鍵がかかっているし、鉄格子も錆びて簡単に動かなくなっている。出口を見つけてもそうそう通ることはできない。だから、この出口の傍は安全と連中は思っている。他の出口二つから此処は遠いから」
言いながら、彼はすっと鉄格子を指差した。途端、がちゃん、と音を立てて南京錠が外れ、地面に落下する。そして、錆びて動かない筈の鉄格子の扉が、ぎぎぎぎ、と耳障りな音を立てて開いていった。
「あんた……」
自分が直接話したのは、篠崎夏音だけだ。けれど、この少年も協力してくれるというのか。――恐ろしい目に遭って死んだ筈だというのに。自分達と同じ苦しみを、美園にも味あわせようと思わないでいてくれるのか。
助けることに、協力してくれると、そう言うのか。
「……ありがとう。本当に、ありがとう……!」
その眼は無言で、行け、と言っている。さっきまでとは違う涙が滲みかけ、琴子は何度も何度も繰り返しお礼を言った。掠れて汚い、ちょっと前の自分ならあまりにも情けないと悶絶していたであろう酷い声であったけれど。
――行くんだ。背中を押してくれる人たちが、確かにいるんだから……!
気力を振り絞り、琴子は鉄格子の向こうへ行く。
死と腐臭が立ち込める、何人もの生贄達の苦痛を吸った、もう一つの地獄へと。
***
「!」
はっとして、美園は眼を開けた。先ほどまで見ていた真っ暗で――あまりにも悲しい夢は、瞼の裏にしっかりと焼きついている。
自分は確かに、“みかげさま”と話をしていたのだ。だったら、自分の傍に彼女はいるのだろうか――そこまで考えた時、鼻腔をついた凄まじい臭いに思わず激しく咳き込むことになった。
「うえっ……げほっ!げほっ!!」
人は、あまりにも強烈な臭いをくらうと、許容量を超えてまず咳き込むように出来ている。それも、今回はとても芳しいとは言えない臭いだ。
――こ、これ……!去年、冷蔵庫がブッ壊れた時の臭いに、よく似てるかも……!
去年、琴子と二人で広島旅行をしたのだが。一週間のうちに、冷蔵庫が完全に壊れて酷いことになっていたのである。中のものがみんなダメになってしまっていたが、特に酷いのが冷蔵庫に入れたまま忘れていた豚肉だ。いや、冷蔵庫に入れたからといって、冷凍もせず一週間忘れていたようではもう食べられるものではなかっただろうが――それを抜きにしても、とんでもない事になっていたのである。冷蔵庫を開けた途端、凄まじい臭いに思わず倒れそうになったのだから。
あの時、腐ったものは表面が糸を引いてねばねばしてくるんだ、納豆みたい――と思ってしまい、しばらく納豆を食べられなくなったのでよく覚えているのである。そう、あの時の泣きそうになる臭いに、とてもよく似ている気がする。正直、それを上回るレベルの酷さだとは思うけども。
――く、臭い……何、これ!
嘔吐きながら、どうにか体を起こす美園。そこまで来て自分が松明の明かりに照らされた洞窟らしき場所にいること、持っているのは己のバッグ一つであるということを悟るのだが(手に持っていた琴子の携帯は、何処かに落としてしまったらしかった)。今は、それよりも重要な問題がある。とにかく臭くて、吐きそうなのだ。
美園は口元を抑えて吐き気をこらえながら周囲を見回し――気づいた。気づいてしまった。この広間のようになっている場所の隅に、何かの塊が存在することに。
その塊が全体に白いつぶつぶとしたものに覆われ――それが現在進行形で蠢いていて。
その大量のナニカの山から僅かに――人の手のような形をした、白い骨が覗いているということを。
「う、げえええええええええ!」
気づいた瞬間、もう耐えることが出来なかった。一気に胃袋から溢れたものが口内を満たし、美園はその場に嘔吐してしまう。
それは、死体だった。もはや男か女かもわからぬ死体に、真っ白な蛆が大量に湧いて集っているのである。理解してしまった事実と凄まじい悪臭は、美園に十分過ぎるほど精神的ダメージを与えることになる。
胃液と昨夜の未消化物を吐き出しながら、理解した。此処は、そういう場所なのだということを。
自分は“みかげさま”のように磔にされて燃やされこそしなかったものの、この場所に落とされて――死ぬまで閉じ込められる刑を受けたのだ、ということを。
――このまま此処に居たら死ぬ……死んじゃう………私も、この人たちと同じように……!
そうなる前に、此処から脱出しなければいけない。同時に、この洞窟の何処かに囚えられているであろう琴子を捜して救出しなければ。幸い美園は拘束されてはいないし、まだ動ける体力もある。嘔吐したせいで少々服は汚れたしきっと自分自身が凄い臭いになっているだろうけど、今はそれに構っている暇もない。なんとか心が折れていないうちに、琴子を捜して脱出しなければ。
――諦めちゃだめ。動かなきゃ。どっち?どっちに、行けば……?
この開けば場所は、丁度美園の前後に二つ通路が伸びているらしい。だが、己がどちらの道から来たのかなどわからない。方向感覚などこんな洞窟で働く筈もない。
どちらに行くのが正しいのか。そう思った、その時だ。
じゃり。
「!!」
美園の背後から、砂を踏むような足音が聞こえてきたのは。
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