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<16・作戦。>
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百鬼夜行もかくやだ。とにかく怪物の種類が多種多様すぎるのである。ずるずると這いずりながらこちらに向かって来る奴は、全身が紫色でどろどろに腐っている。かさかさかさかさと音を立てて進んでくる虫のようなやつは、昆虫よりも遥かに大量の足が生えているようだった。気持ち悪いのはその足が昆虫ではなく、人間の足そっくりの形状をしていることだったが。
「おおい、待ってくれよお」
中年男性の、どこか間延びした声が追いかけてくる。
「逃げられちゃうと困るんだ。私の実験室を、他の先生達に知られちゃうとね、あそこを取り上げられてしまうんだよ。そうなってしまうと研究が続けられなくなってしまう。だから君にも協力者になってもらわないと。大丈夫、君達もかわいくてかっこいいキメラにしてあげるよ。特別な能力を持った存在になってみたいだろ。君達小学生はそういうものにすごく憧れる年頃なはずだ、私と一緒に新たな生命を目指してみよう、な?」
ああ、こういう時ばかりは自分の人より優秀な聴力が憎いと花火は思う。何が楽しくて、マッドサイエンティストの狂った演説を一から十まで聞かされなくてはいけないのか!
「さっきの女の子はちょっと反抗的だったからお灸を据えなくちゃいけなかったんだ、わかっておくれ。君達が協力的になってくれるなら、なるべく痛い思いをさせたりしないと約束するよ。生きたままお腹を開いて内臓を一つずつ取り外していくなんてことはしないさ。ああ、せめて麻酔をすると約束しよう、ショック死されてしまったら困るのはこっちも同じだからねえ。そうだ、手足をもっとパワフルな生物と取り換えるのはどうだろう?そこの君の体格でゴリラの腕力ともなったら、かなり強力な生物になれると思うんだ。あとはそう、脳を少し改造してそれを生かせるようになれば……」
「誰がゴリラ女だっつーの!全力でお断り!!」
思わずツッコミをしてしまった。ツッコミできるということは、まだ自分には僅かばかりの余裕があるということなのだろう。幸いと言うべきは、奴らの追いかけてくるスピードがそこまで速くないということである。夜空はどうかはわからないが、花火がもう少し全力疾走すれば振り切るのは難しくないだろう。
振り切ってしまうわけにもいかないのが問題であったが。なんせ自分は奴らを倒さなければいけないからである。
「作戦はどうするんだよ、夜空!とりあえず多少引き離したけど!」
作戦らしい作戦をほぼ聞いていない。あんな怪物の群れに突っ込んでいくのは、正直花火もごめんだった。
「あの大量のキメラを連れていたのでは、本体を叩くのが難しい」
花火より体力はないのだろう、夜空の息はすでに上がり始めている。
「よって、キメラどもをあの本体……先生だな、あいつから引き離す。単体になったところを俺が奇襲で倒す」
「引き離すってどうやって!?」
「お前がいるだろう。俺は言ったはずだ、囮になれと」
「ハイ!?」
北階段の前から、南階段の前まで走ってきたところで、夜空はとんでもないことを言ってくれた。
「見たところ、お前はまだまだ体力に余裕があるな?好都合だ、奴らを引き連れて三階くらいまで走れ。本体よりもキメラたちの方が移動スピードが速い。お前が逃げれば、キメラたちだけ先にお前を追ってくるはず。俺は回り込んであの本体の後ろを取って奇襲を仕掛ける。引きつけてさえくれれば、直接戦闘しなくてもかまわない」
「待って待って待って!?聞いてないんですけど!?」
「言ってないから当たり前だ」
「そう言う問題じゃねえよ!?」
なんでそういうこと先に言っておいてくれないんですかね。そう思ったところで、しれっと階段の影に隠れる夜空。
「じゃあ、そのまま上の方の階まで走ってくれ、頼んだ!」
「おっまえ!!」
とはいえ、他に代案があるでもなし。花火がおろおろしている間に、大量のモンスターたちがすぐそこまで迫ってきていた。ああもう!とやぶれかぶれになる花火である。
「ああもう、走ればいいんだろ走れば!」
そしてモンスターたちを引きつけて、上の階へ向かう階段を駆け上がり始めたのだった。
***
逃げる途中で思ったことは。あれに拳や蹴りで応戦するのはぶっちゃけ嫌だ、ということだった。なんせ、腐った体液を垂れ零しているものや、排泄物のような匂いをさせているものまで多種多様の触りたくないモンスターだらけであるからである。触ったらこっちの手足まで腐りそうというのが本音だった。
場合によっては応戦しないわけにもいかないし、本格的にひきつけるともなれば離れた場所で戦うのも有効だろう。というわけで、武器が必要である。
――リーチ長い武器じゃないと意味ないんだけど、学校にそんな都合の良いものあるかなあ……!クトゥルフなら火かきボルグだ!って言うんだけど!!
残念ながら、自分の頭ではさほど有用なものは思いつかなかった。家庭科室に行けば包丁があるだろうが、リーチが短いし扱い慣れていない武器は逆に危険である。そもそも、自分達が調理実習で使う包丁でモンスターを退治するのは生理的にちょっときついものがある。
というわけで結局、四階まで上がったところで掃除用具入れに飛びつくことになったのだった。かなり頼りないが、ここは掃除用の床箒を引っ張り出すことにする。柄が長く、先端が横長のブラシ状になっているやつだ。
「折れたらごめん!」
体力の余裕はまだあったが、逃げ続けるのは難しいと気づいたところだった。というのも、この校舎は四階建、屋上はこの時間帯鍵がかかっていると思われる。教室なども施錠されているし、廊下やトイレくらいしか逃げ場がないのだ。多少は数を減らしながら動かないと、長く時間を稼ぐよりも前に自分が袋小路に追い詰められてしまう。
まったく、誰かさんも無茶を言ってくれる。これで自分が殺されたら恨んで枕元に立ってやるぞ、と半ば本気で思っていた。
「うげっ」
キメラたちの移動速度はかなりバラつきがあるようだった。いつの間にか連中の列が、百鬼夜行よろしく長く伸びている。床箒を取り出してすぐ、先発隊が追いついてきた。カサカサと床を這いまわる、蟲系のモンスターたちは特に足が速かったというわけらしい。ただしそのサイズは虫なんて可愛いものではなく、最低でも掌サイズの大きさはあるという気持ち悪さだったが。
「来るなばかー!」
叫びながら、床箒の先端を槍よろしく突き出した。大した攻撃力もないだろうと思いきや、赤いムカデのようなモンスターは軽々と吹っ飛んだ上、ほどけるように消えていく。
「え!?」
昨日の時と同じだ、と気づいた。拳や蹴りで白い人形達を殴りまくっていた時と。だが、今回は直接手で触れているわけではないというのに。
――よ、よくわかんないけど……武器を通じても、力が伝達してるとかそういうやつ?オーラを纏わせてます、みたいな?と、とりあえず有効なら話は早い!
もう一つ気づいたことがある。蟲モンスターは緑色の体液を噴出しながら吹っ飛んでいったのに、モンスターを吹っ飛ばした箒にはちっともその体液が付着していないということ。どうやら、箒全体を見えない力でガードしているらしい――自分でも意識しないうちに。
それなら話は早いというもの。実は、多少ならば武器を使って戦う方法も訓練はしている。あくまで空手の予備くらいであり、武器を持って相手が襲ってきた時にそれを奪う術と、得物を最低限扱う手段くらいなものだったが。
「うっし……!」
イケる。少しだけ気持ちも落ち着いてきたところで、腰を落として身構える花火。そして、槍のように箒を怪物たちに突き出して、連続攻撃した。
「うらあああああああああ!」
ドロドロの赤黒いスライムのようなモンスターも、巨大なゾンビネズミのようなモンスターも、人間の腸に目玉がついたような不気味なモンスターも。意外にも、どいつもこいつも非常に弱かった。昨日戦った人形たちの方がまだ手応えがあったほどである。
完全に見かけ倒しじゃねえか、と思ったところで花火は気づいた。
――!ひょっとして……本体が今夜空と戦闘しているから、こいつらに回す余力がなくて弱体化してる?あいつ、それを見越してあたしに囮を頼んだのか……?
この状況ならば、花火でも充分にキメラたちを倒せると見越したのかもしれない。そうだとしたら、案外彼が頼んだ無茶も無茶というほどではなかったということになる。
「とにかく、このままひとしきり片づける!」
ギアッ!と濁った悲鳴を上げて、巨大な粘土細工の腕のようなモンスターが弾けとんだ。そのままのモーションで、さながら大鎌を振るうように箒をぶんまわす。首のないアンティークドールのようなモンスターも、逆に肥大化した男の生首のようなモンスターも、骨の犬も尾が人間の腕になっている猫もみんなみんな吹っ飛び、光の束が解けるようにして消えていく。数が多いので手間は多少かかったが、むしろゲームで無双しているくらいで爽快なほどだった。
――よし……!これなら、本体と戦っても戦力になれるかもしれねえ!
やはり、本体の“白衣男”だけは追いかけてくる気配がない。夜空と相対しているのは間違いないようだ。今彼等はどこに、と思ったところで下の階から地響きが聞こえた。はっとして窓を開けて身を乗り出せば、一階の南階段布巾の窓ガラスが割れて煙がもくもくと出ている。あのあたりで戦っているということらしい。
――よし、合流しよう!
とびかかってきた最後の一匹(巨大な蟻みたいなモンスターだった)を薙ぎ払うと、花火は北階段を駆け下りはじめた。できれば、うまいこと白衣男の背後を取りたいものである。奇襲の一つも仕掛けて成功すれば、夜空だってきっと自分を認めざるをえないだろう。
ザコ戦が思いのほか楽勝だったことで、花火は少し調子に乗っていた。きっと本体も大したことないだろうとタカを括ったのである。――それが致命的な結果を招くとも知らずに。
――いた!
南階段から少し北側に移動したところで、白衣男と夜空が対峙しているのが見えた。硝子を割ったのが夜空の魔法なのか、それとも白衣男の力なのかはわからないが、廊下があちこち焦げ付いていてガラス片が飛び散っている。意外と夜空は苦戦しているようで、遠目からでも肩で息をしているのが見えた。白衣男は丁度こちらに向けている。絶好のチャンスだ。
――あたしの力を見せつけてやるぜ!……よし、このまま後ろから奇襲してやらあ!
掃除用具入れの影に隠れつつ、忍び足で相手の後ろから近付いていく。そして、白衣男の後ろで箒を振りかぶった時、相対している夜空と目があった。
そこで、ようやく花火は気づく。夜空の服があちこち破れ、血が滲んでいること。そして、その顔が一瞬恐怖の色に染まったことを。
彼の唇が動いた。
「よせ!」
え、と思った瞬間、奇怪なことが起きた。白衣男の首と右腕が、ぐにゃり、と不自然にこちらを向いたのである。関節を無視して、というより関節なんて最初からないように。
こちらを見た白衣男の顔は、既に人間のそれではなかった。耳まで裂けた口には、ずらずらと鋭い牙が覗き、その血走った目は三日月型に歪んでいる。おぞましい、人間のそれではないと明らかにわかる顔――表情。
攻撃寸前で、花火の手は止まった。ばきり、と嫌な音が響く。手の中で、床箒が折れる音だと気づいた時にはもう、目の前に男のメスを持った手が迫っていたのだ。
――や、やばい……!
殺される。花火は思わず、ぎゅっと目をつぶったのだった。
「おおい、待ってくれよお」
中年男性の、どこか間延びした声が追いかけてくる。
「逃げられちゃうと困るんだ。私の実験室を、他の先生達に知られちゃうとね、あそこを取り上げられてしまうんだよ。そうなってしまうと研究が続けられなくなってしまう。だから君にも協力者になってもらわないと。大丈夫、君達もかわいくてかっこいいキメラにしてあげるよ。特別な能力を持った存在になってみたいだろ。君達小学生はそういうものにすごく憧れる年頃なはずだ、私と一緒に新たな生命を目指してみよう、な?」
ああ、こういう時ばかりは自分の人より優秀な聴力が憎いと花火は思う。何が楽しくて、マッドサイエンティストの狂った演説を一から十まで聞かされなくてはいけないのか!
「さっきの女の子はちょっと反抗的だったからお灸を据えなくちゃいけなかったんだ、わかっておくれ。君達が協力的になってくれるなら、なるべく痛い思いをさせたりしないと約束するよ。生きたままお腹を開いて内臓を一つずつ取り外していくなんてことはしないさ。ああ、せめて麻酔をすると約束しよう、ショック死されてしまったら困るのはこっちも同じだからねえ。そうだ、手足をもっとパワフルな生物と取り換えるのはどうだろう?そこの君の体格でゴリラの腕力ともなったら、かなり強力な生物になれると思うんだ。あとはそう、脳を少し改造してそれを生かせるようになれば……」
「誰がゴリラ女だっつーの!全力でお断り!!」
思わずツッコミをしてしまった。ツッコミできるということは、まだ自分には僅かばかりの余裕があるということなのだろう。幸いと言うべきは、奴らの追いかけてくるスピードがそこまで速くないということである。夜空はどうかはわからないが、花火がもう少し全力疾走すれば振り切るのは難しくないだろう。
振り切ってしまうわけにもいかないのが問題であったが。なんせ自分は奴らを倒さなければいけないからである。
「作戦はどうするんだよ、夜空!とりあえず多少引き離したけど!」
作戦らしい作戦をほぼ聞いていない。あんな怪物の群れに突っ込んでいくのは、正直花火もごめんだった。
「あの大量のキメラを連れていたのでは、本体を叩くのが難しい」
花火より体力はないのだろう、夜空の息はすでに上がり始めている。
「よって、キメラどもをあの本体……先生だな、あいつから引き離す。単体になったところを俺が奇襲で倒す」
「引き離すってどうやって!?」
「お前がいるだろう。俺は言ったはずだ、囮になれと」
「ハイ!?」
北階段の前から、南階段の前まで走ってきたところで、夜空はとんでもないことを言ってくれた。
「見たところ、お前はまだまだ体力に余裕があるな?好都合だ、奴らを引き連れて三階くらいまで走れ。本体よりもキメラたちの方が移動スピードが速い。お前が逃げれば、キメラたちだけ先にお前を追ってくるはず。俺は回り込んであの本体の後ろを取って奇襲を仕掛ける。引きつけてさえくれれば、直接戦闘しなくてもかまわない」
「待って待って待って!?聞いてないんですけど!?」
「言ってないから当たり前だ」
「そう言う問題じゃねえよ!?」
なんでそういうこと先に言っておいてくれないんですかね。そう思ったところで、しれっと階段の影に隠れる夜空。
「じゃあ、そのまま上の方の階まで走ってくれ、頼んだ!」
「おっまえ!!」
とはいえ、他に代案があるでもなし。花火がおろおろしている間に、大量のモンスターたちがすぐそこまで迫ってきていた。ああもう!とやぶれかぶれになる花火である。
「ああもう、走ればいいんだろ走れば!」
そしてモンスターたちを引きつけて、上の階へ向かう階段を駆け上がり始めたのだった。
***
逃げる途中で思ったことは。あれに拳や蹴りで応戦するのはぶっちゃけ嫌だ、ということだった。なんせ、腐った体液を垂れ零しているものや、排泄物のような匂いをさせているものまで多種多様の触りたくないモンスターだらけであるからである。触ったらこっちの手足まで腐りそうというのが本音だった。
場合によっては応戦しないわけにもいかないし、本格的にひきつけるともなれば離れた場所で戦うのも有効だろう。というわけで、武器が必要である。
――リーチ長い武器じゃないと意味ないんだけど、学校にそんな都合の良いものあるかなあ……!クトゥルフなら火かきボルグだ!って言うんだけど!!
残念ながら、自分の頭ではさほど有用なものは思いつかなかった。家庭科室に行けば包丁があるだろうが、リーチが短いし扱い慣れていない武器は逆に危険である。そもそも、自分達が調理実習で使う包丁でモンスターを退治するのは生理的にちょっときついものがある。
というわけで結局、四階まで上がったところで掃除用具入れに飛びつくことになったのだった。かなり頼りないが、ここは掃除用の床箒を引っ張り出すことにする。柄が長く、先端が横長のブラシ状になっているやつだ。
「折れたらごめん!」
体力の余裕はまだあったが、逃げ続けるのは難しいと気づいたところだった。というのも、この校舎は四階建、屋上はこの時間帯鍵がかかっていると思われる。教室なども施錠されているし、廊下やトイレくらいしか逃げ場がないのだ。多少は数を減らしながら動かないと、長く時間を稼ぐよりも前に自分が袋小路に追い詰められてしまう。
まったく、誰かさんも無茶を言ってくれる。これで自分が殺されたら恨んで枕元に立ってやるぞ、と半ば本気で思っていた。
「うげっ」
キメラたちの移動速度はかなりバラつきがあるようだった。いつの間にか連中の列が、百鬼夜行よろしく長く伸びている。床箒を取り出してすぐ、先発隊が追いついてきた。カサカサと床を這いまわる、蟲系のモンスターたちは特に足が速かったというわけらしい。ただしそのサイズは虫なんて可愛いものではなく、最低でも掌サイズの大きさはあるという気持ち悪さだったが。
「来るなばかー!」
叫びながら、床箒の先端を槍よろしく突き出した。大した攻撃力もないだろうと思いきや、赤いムカデのようなモンスターは軽々と吹っ飛んだ上、ほどけるように消えていく。
「え!?」
昨日の時と同じだ、と気づいた。拳や蹴りで白い人形達を殴りまくっていた時と。だが、今回は直接手で触れているわけではないというのに。
――よ、よくわかんないけど……武器を通じても、力が伝達してるとかそういうやつ?オーラを纏わせてます、みたいな?と、とりあえず有効なら話は早い!
もう一つ気づいたことがある。蟲モンスターは緑色の体液を噴出しながら吹っ飛んでいったのに、モンスターを吹っ飛ばした箒にはちっともその体液が付着していないということ。どうやら、箒全体を見えない力でガードしているらしい――自分でも意識しないうちに。
それなら話は早いというもの。実は、多少ならば武器を使って戦う方法も訓練はしている。あくまで空手の予備くらいであり、武器を持って相手が襲ってきた時にそれを奪う術と、得物を最低限扱う手段くらいなものだったが。
「うっし……!」
イケる。少しだけ気持ちも落ち着いてきたところで、腰を落として身構える花火。そして、槍のように箒を怪物たちに突き出して、連続攻撃した。
「うらあああああああああ!」
ドロドロの赤黒いスライムのようなモンスターも、巨大なゾンビネズミのようなモンスターも、人間の腸に目玉がついたような不気味なモンスターも。意外にも、どいつもこいつも非常に弱かった。昨日戦った人形たちの方がまだ手応えがあったほどである。
完全に見かけ倒しじゃねえか、と思ったところで花火は気づいた。
――!ひょっとして……本体が今夜空と戦闘しているから、こいつらに回す余力がなくて弱体化してる?あいつ、それを見越してあたしに囮を頼んだのか……?
この状況ならば、花火でも充分にキメラたちを倒せると見越したのかもしれない。そうだとしたら、案外彼が頼んだ無茶も無茶というほどではなかったということになる。
「とにかく、このままひとしきり片づける!」
ギアッ!と濁った悲鳴を上げて、巨大な粘土細工の腕のようなモンスターが弾けとんだ。そのままのモーションで、さながら大鎌を振るうように箒をぶんまわす。首のないアンティークドールのようなモンスターも、逆に肥大化した男の生首のようなモンスターも、骨の犬も尾が人間の腕になっている猫もみんなみんな吹っ飛び、光の束が解けるようにして消えていく。数が多いので手間は多少かかったが、むしろゲームで無双しているくらいで爽快なほどだった。
――よし……!これなら、本体と戦っても戦力になれるかもしれねえ!
やはり、本体の“白衣男”だけは追いかけてくる気配がない。夜空と相対しているのは間違いないようだ。今彼等はどこに、と思ったところで下の階から地響きが聞こえた。はっとして窓を開けて身を乗り出せば、一階の南階段布巾の窓ガラスが割れて煙がもくもくと出ている。あのあたりで戦っているということらしい。
――よし、合流しよう!
とびかかってきた最後の一匹(巨大な蟻みたいなモンスターだった)を薙ぎ払うと、花火は北階段を駆け下りはじめた。できれば、うまいこと白衣男の背後を取りたいものである。奇襲の一つも仕掛けて成功すれば、夜空だってきっと自分を認めざるをえないだろう。
ザコ戦が思いのほか楽勝だったことで、花火は少し調子に乗っていた。きっと本体も大したことないだろうとタカを括ったのである。――それが致命的な結果を招くとも知らずに。
――いた!
南階段から少し北側に移動したところで、白衣男と夜空が対峙しているのが見えた。硝子を割ったのが夜空の魔法なのか、それとも白衣男の力なのかはわからないが、廊下があちこち焦げ付いていてガラス片が飛び散っている。意外と夜空は苦戦しているようで、遠目からでも肩で息をしているのが見えた。白衣男は丁度こちらに向けている。絶好のチャンスだ。
――あたしの力を見せつけてやるぜ!……よし、このまま後ろから奇襲してやらあ!
掃除用具入れの影に隠れつつ、忍び足で相手の後ろから近付いていく。そして、白衣男の後ろで箒を振りかぶった時、相対している夜空と目があった。
そこで、ようやく花火は気づく。夜空の服があちこち破れ、血が滲んでいること。そして、その顔が一瞬恐怖の色に染まったことを。
彼の唇が動いた。
「よせ!」
え、と思った瞬間、奇怪なことが起きた。白衣男の首と右腕が、ぐにゃり、と不自然にこちらを向いたのである。関節を無視して、というより関節なんて最初からないように。
こちらを見た白衣男の顔は、既に人間のそれではなかった。耳まで裂けた口には、ずらずらと鋭い牙が覗き、その血走った目は三日月型に歪んでいる。おぞましい、人間のそれではないと明らかにわかる顔――表情。
攻撃寸前で、花火の手は止まった。ばきり、と嫌な音が響く。手の中で、床箒が折れる音だと気づいた時にはもう、目の前に男のメスを持った手が迫っていたのだ。
――や、やばい……!
殺される。花火は思わず、ぎゅっと目をつぶったのだった。
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