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<第十七話>
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テクノは、自分のことを特に正義感が強い人間だとは思っていない。
フレイアのように、目の前で困っている人がいたらほっとけない、なんてことはないし、列車の座席で眠ったフリをするくらいには悪い意味で“普通の人間だ”とも思っている。それは、ある種テクノがリアリストであるからというのもあるだろう。人間、抱えられる範囲には限界があるのである。目に見えるもの全てを守ろうとしたって無理があるし、そもそも目に見えないところにだって助けを求めている人間はいるかもしれない。その全部を守るなんて到底出来ないことなのに、そのほんの一部を全力で救おうとすることにどれほどの意味があるだろうか。
そう、最初はテクノも――そう思っていたのである。誰だって自分が可愛いし、自分と自分の大切な人達を助けるだけで精一杯なのだ。他の誰かに手を差し伸べる余裕などあるはずもない。それが普通。見知らぬ他人に助けを求めるだけ滑稽なこと。自分を救えるのは自分だけ、その代わり自分は他の誰かを無闇に救う必要はない――そう、フレイアと出会うまでならば。
小柄で、拳闘士のジョブのわりに非力であっためいつも虐められてばかりだったテクノ。それを助けてくれたのは、フレイアだったのだ。幼い自分よりさらに年下だった彼は、勇猛果敢に虐めっ子達に挑みかかっていったのである。――白魔導師ジョブで、その才能もろくに開花していなかったフレイアが勝目のある相手ではなかった。そして、結局自分もフレイアも一緒にボコられて終わったのだが。
『ムカつくなら、殴っていいと思う。こっちばっかり、ボコボコにされるなんてふこーへーだろ!』
ぐったりと地面をだっこしておねんねしながら、それでもフレイアは腫れた頬で言い放ったのだった。
『お前、フマンなんだろ?お前だって、ムカつくし、こんなのイヤだって思ってるんだろ?だったら、やり返さねーとダメだ。自分のセカイは、自分で変えるしかないんだからさ!!って、テレビのヒーローが言ってたぞ!!』
無謀で、猪突猛進。頭が悪いわけではないのに、後先考えず信じた道を突っ走るのが彼だ。目を離しておけない。目を離したら、どれほど遠い場所まで置いていかれるかわかったものではないし、その先で、しょうもない理由でおっ死んでいてもおかしくない。
テクノが、フレイアと共に在ることを選んだのは、つまりそういう理由だった。他に夢が、やりたいことがなかったわけではない。スフィア工学に関してはまだまだ学びたいことは多々あったし、きっとあのまま研究室に留まっていれば新たな発見がきっとあったはずだと思わないではないのだ。それでも、彼の手綱を握れるのはきっと、自分だけだという確信があったから。テクノは自分のやるべき道を選び、今此処にいるのである。敵は世界政府かもしれない――そんなとんでもない状況であっても、フレイアに着いていくと決めたのだ。
それはどれほど綺麗事でも、無茶でも、無謀でも――正しいのはフレイアだと、そういう確信があるからこそである。
「本当に驚いたね。まさか、トリアスの弁護をしてくれようっていう物好きがいるとは思わなかったからさ」
そんなテクノは今、トリアスを匿ってくれていたという盗賊達の里にいる。盗賊の里、とはいうがジョブが盗賊である者ばかりではないし、実際にやっていることは義賊に近い。山賊やヤクザのような連中から金品を巻き上げ、貧しい人々や元の持ち主に返して回り、自分達も食べていくための金を稼いでいるという集団だった。
予想外にも、あっさり小屋の中に迎え入れてくれたのは。この集団のリーダーである女性、マリアンヌ=フォーオクロックである。日焼けした浅黒い肌に、筋肉が盛り上がった二の腕、がっしりとした体格。しかしその顔立ちは、キリっとしたすこぶる美人。彼女はどこか愉快そうに、テクノを見つめた。
「すみません、本当はフレイアさんが先に挨拶に来るべきでしたよね」
「そっちも忙しいんだろ。仕方ない仕方ない。あたしは、あの子の弁護をしてくれる人が現れたってだけで充分嬉しいんだ。何も問題はないよ」
「……疑わないんですか?僕達のこと」
マリアンヌは、最初からこんな調子だった。フレイアも言っていたが、盗賊の里に調査に行ったところで、自分達の身分を信じて貰える自信もなければ、協力してもらえる自信もなかったのである。勿論、フレイアの場合は弁護士バッチもあるし証明証も持ってはいるが、このご時世素人で見分けがつかない程度の偽装工作は簡単なのである。バッジも証明書も、悲しいかな偽物はそれなりに出回っているのだ。
それなのに、マリアンヌはあっさりとテクノを受け入れてくれていた。テクノに至っては正式な弁護士ですらない、ただのパラリーガルだというのに。
「あたしはこれでも二十年この村の長をやってるんでね。人を見る目ってヤツには自信があるんだ。あんたは悪いヤツじゃない、目を見てすぐわかった。だから招き入れたのさ、いけないかい?」
それにね、と彼女は少し嬉しそうに唇の端を持ち上げた。
「あの子が、冤罪で死刑になるかもしれないって聞いてさ、あたし達はみんな心を痛めてたんだよ。あたしらはみんなわかってる。トリアスは、誰かを平気で傷つけられるような子じゃない。無抵抗の相手を切り刻んだり、魔法で町ごと滅茶苦茶にしたり、そんな馬鹿なことするようなヤツじゃないんだ。……そこから助けてくれるっていうあんた達にさ、希望を託したくなるのは当然だろ」
その発言だけで――彼女達が、トリアスをどう思っていたのかは充分に伝わってくることだった。トリアスは、この村の者達にとても愛されていたらしい。指名手配写真のことを知っていたのか知らなかったのかはわからないが、知らなかったところで村の外から来た怪しいよそ者であったことには違いない。それでも彼を受け入れたのはきっと――それほどまでに、トリアスが誠実な態度を示し、それを純粋に受け止める心が彼らにあったからではないだろうか。
――それにしても、二十年長をやってるって。どういうことなの……。
テクノは思わず、心の中でツッコミを入れていた。目の前の女性はどう見たって三十代に届くか届かないかの年にしか見えない。実は、実年齢はずっと上であったりするのだろうか。自分もかなり年齢詐欺だと言われるクチだが、彼女もよっぽどである。肌も二の腕も綺麗だし、筋肉もピッカピカだ。二十代でも充分通りそうな見目だというのに。
まあ、女性に年齢のことで突っ込むことほど野暮なこともない。下手に地雷を踏んで機嫌を損ねたい相手でもないのだ。テクノは浮かんだ疑問をさらっとなかったことにしたのだった。
「……皆さんは、トリアスさんの無実を本気で信じて下さってるんですね」
素直な感想を漏らすテクノ。魔王というジョブを持つ人間は、存在そのものが悪に違いない――生まれつきのサイコパスがごろごろいるはずだと信じている者も少なくないご時世である。そんな彼を、魔王だということを知った上で受け入れてくれた人達がいた。それは、トリアスにとってどれほど強い心の支えになったことだろう。
「ジョブだの、肌の色だの、髪の色だの。そんなもんだけで、内面全部決め付けるほどあたしらは馬鹿じゃないさ。ていうか、そもそもあの子を匿おうと決めた経緯が経緯だったしね」
「何かあったんですか?」
「あったよ。うちの若いモンが、モンスターに襲われて食われそうになってたんだ。ここより更に北の山は、貴重なキノコがたくさん取れる反面協力なウルフ系モンスターの巣窟になってるからね。いいトコ見せようと一人で突っ込んでいいような場所じゃないんだよ。……あの子も追われていた身で、疑心暗鬼になっていてもおかしくないはずなのにね。躊躇いなくそいつの前に姿を現して、モンスターを倒してそのバカモンを村まで連れ帰ってくれたんだ。馬鹿は馬鹿でも、うちの仲間には違いない。トリアスは恩人なんだよ。しかもその恩人は品行方正で礼儀正しいときてるじゃないか。追い出す理由なんかないね」
「彼が、指名手配の魔王だとしても、ですか?」
「勿論知ってたさ。……トリアスには、自分が捕まった後で警察が来たら“指名手配犯だとは知らなかった、って言い張れ”って口が酸っぱくなるほど言われてそうするしかなかったけどね。……指名手配だとしても、それが冤罪だって確信できてるなら。あたしらが助けない理由なんかないんだよ、わかるかい?」
なんとなく。この女性がどうしてこの村のリーダーをしているのか、分かったような気がした。なんて懐が深いのだろう。きっと里の者達は、彼女の器の大きさに惹かれてここに集ったのだろうな、と思う。
この名前のない里にいる盗賊達は。多くの場合――何らかの理由でそれぞれの故郷を追われた者達なのだ、という話は既に調べがついていたことだった。
「それで、訊きたいことってのは何だい?トリアスのことだけじゃないんだろ?」
マリアンヌはガキ大将のような笑みを浮かべて言った。
「まあ、それでもいいんだけどね。あたしとしては、可愛いあの子の思い出エピソードは山ほどストックがあるもんだから。いつか外部のヤツに、胸焼けするほど語ってやりたいと思ってたんだよなあ」
「は、はは。それも気になりますけど……とりあえず、優先事項から言っていいですか、ね?」
なんとなく、目の前の彼女から“話が長いオバチャン気質”の電波をキャッチしたテクノは、引きつった笑みで話題を変えた。
「お尋ねしたいのは……そのトリアスさんが最初に起こしたとされる事件。アネモニ村の大量虐殺の犯人に、心当たりがないかどうか……なんです」
トリアスの犯行にしてはあまりにも違和感がありすぎた、あの一件。彼が犯人でないのなら、当然他にあの事件を起こした者がいるはず。それも、複数の集団とみてほぼ間違いないとフレイアは言っていた。
もしも強盗の類なら。悪者達をカモにしてきたマリアンヌ達が、知っている集団である可能性は大いに有り得るはずだ。
「アレだね。……実はあたしらも、独自に真犯人ってヤツは調べてみたんだよ」
事件の凄惨さは彼女も知っているのだろう。苦々しい表情になるマリアンヌ。
「あんたも疑ってるんだろうが。十中八九、それなりの規模の盗賊団の仕業だと思うね」
「どうしてですか?」
「これ、あんたらにトリアスは話したかな。アネモニ村の中心には、あの村の始祖が作った大きなフレア鉱石の石像があったんだ。一人じゃとても持ち運べない、隠すのも難しいくらいの石像で、村の守り神ってことになってたらしい。あの石は熱に滅法強い。燃やされた程度じゃ傷一つつかない代物だ。……その石像が、トリアスが村に駆けつけた時にはなくなってたらしい。焼け野原になっても、必ず焼け残っているはずの素材だってのにね」
「!!」
「フレア鉱石自体にかなり価値があるし、あの石像を作ったのは某大物彫刻家だ。価格は数千万Gをくだらないらしいよ」
アレがあるのを知ってたってことは、土地勘のあるヤツらってことさ、とマリアンヌは大きく息を吐いた。
「恐らく、犯人の集団は……あたしらの天敵。“スナップドラゴン盗賊団”だ」
フレイアのように、目の前で困っている人がいたらほっとけない、なんてことはないし、列車の座席で眠ったフリをするくらいには悪い意味で“普通の人間だ”とも思っている。それは、ある種テクノがリアリストであるからというのもあるだろう。人間、抱えられる範囲には限界があるのである。目に見えるもの全てを守ろうとしたって無理があるし、そもそも目に見えないところにだって助けを求めている人間はいるかもしれない。その全部を守るなんて到底出来ないことなのに、そのほんの一部を全力で救おうとすることにどれほどの意味があるだろうか。
そう、最初はテクノも――そう思っていたのである。誰だって自分が可愛いし、自分と自分の大切な人達を助けるだけで精一杯なのだ。他の誰かに手を差し伸べる余裕などあるはずもない。それが普通。見知らぬ他人に助けを求めるだけ滑稽なこと。自分を救えるのは自分だけ、その代わり自分は他の誰かを無闇に救う必要はない――そう、フレイアと出会うまでならば。
小柄で、拳闘士のジョブのわりに非力であっためいつも虐められてばかりだったテクノ。それを助けてくれたのは、フレイアだったのだ。幼い自分よりさらに年下だった彼は、勇猛果敢に虐めっ子達に挑みかかっていったのである。――白魔導師ジョブで、その才能もろくに開花していなかったフレイアが勝目のある相手ではなかった。そして、結局自分もフレイアも一緒にボコられて終わったのだが。
『ムカつくなら、殴っていいと思う。こっちばっかり、ボコボコにされるなんてふこーへーだろ!』
ぐったりと地面をだっこしておねんねしながら、それでもフレイアは腫れた頬で言い放ったのだった。
『お前、フマンなんだろ?お前だって、ムカつくし、こんなのイヤだって思ってるんだろ?だったら、やり返さねーとダメだ。自分のセカイは、自分で変えるしかないんだからさ!!って、テレビのヒーローが言ってたぞ!!』
無謀で、猪突猛進。頭が悪いわけではないのに、後先考えず信じた道を突っ走るのが彼だ。目を離しておけない。目を離したら、どれほど遠い場所まで置いていかれるかわかったものではないし、その先で、しょうもない理由でおっ死んでいてもおかしくない。
テクノが、フレイアと共に在ることを選んだのは、つまりそういう理由だった。他に夢が、やりたいことがなかったわけではない。スフィア工学に関してはまだまだ学びたいことは多々あったし、きっとあのまま研究室に留まっていれば新たな発見がきっとあったはずだと思わないではないのだ。それでも、彼の手綱を握れるのはきっと、自分だけだという確信があったから。テクノは自分のやるべき道を選び、今此処にいるのである。敵は世界政府かもしれない――そんなとんでもない状況であっても、フレイアに着いていくと決めたのだ。
それはどれほど綺麗事でも、無茶でも、無謀でも――正しいのはフレイアだと、そういう確信があるからこそである。
「本当に驚いたね。まさか、トリアスの弁護をしてくれようっていう物好きがいるとは思わなかったからさ」
そんなテクノは今、トリアスを匿ってくれていたという盗賊達の里にいる。盗賊の里、とはいうがジョブが盗賊である者ばかりではないし、実際にやっていることは義賊に近い。山賊やヤクザのような連中から金品を巻き上げ、貧しい人々や元の持ち主に返して回り、自分達も食べていくための金を稼いでいるという集団だった。
予想外にも、あっさり小屋の中に迎え入れてくれたのは。この集団のリーダーである女性、マリアンヌ=フォーオクロックである。日焼けした浅黒い肌に、筋肉が盛り上がった二の腕、がっしりとした体格。しかしその顔立ちは、キリっとしたすこぶる美人。彼女はどこか愉快そうに、テクノを見つめた。
「すみません、本当はフレイアさんが先に挨拶に来るべきでしたよね」
「そっちも忙しいんだろ。仕方ない仕方ない。あたしは、あの子の弁護をしてくれる人が現れたってだけで充分嬉しいんだ。何も問題はないよ」
「……疑わないんですか?僕達のこと」
マリアンヌは、最初からこんな調子だった。フレイアも言っていたが、盗賊の里に調査に行ったところで、自分達の身分を信じて貰える自信もなければ、協力してもらえる自信もなかったのである。勿論、フレイアの場合は弁護士バッチもあるし証明証も持ってはいるが、このご時世素人で見分けがつかない程度の偽装工作は簡単なのである。バッジも証明書も、悲しいかな偽物はそれなりに出回っているのだ。
それなのに、マリアンヌはあっさりとテクノを受け入れてくれていた。テクノに至っては正式な弁護士ですらない、ただのパラリーガルだというのに。
「あたしはこれでも二十年この村の長をやってるんでね。人を見る目ってヤツには自信があるんだ。あんたは悪いヤツじゃない、目を見てすぐわかった。だから招き入れたのさ、いけないかい?」
それにね、と彼女は少し嬉しそうに唇の端を持ち上げた。
「あの子が、冤罪で死刑になるかもしれないって聞いてさ、あたし達はみんな心を痛めてたんだよ。あたしらはみんなわかってる。トリアスは、誰かを平気で傷つけられるような子じゃない。無抵抗の相手を切り刻んだり、魔法で町ごと滅茶苦茶にしたり、そんな馬鹿なことするようなヤツじゃないんだ。……そこから助けてくれるっていうあんた達にさ、希望を託したくなるのは当然だろ」
その発言だけで――彼女達が、トリアスをどう思っていたのかは充分に伝わってくることだった。トリアスは、この村の者達にとても愛されていたらしい。指名手配写真のことを知っていたのか知らなかったのかはわからないが、知らなかったところで村の外から来た怪しいよそ者であったことには違いない。それでも彼を受け入れたのはきっと――それほどまでに、トリアスが誠実な態度を示し、それを純粋に受け止める心が彼らにあったからではないだろうか。
――それにしても、二十年長をやってるって。どういうことなの……。
テクノは思わず、心の中でツッコミを入れていた。目の前の女性はどう見たって三十代に届くか届かないかの年にしか見えない。実は、実年齢はずっと上であったりするのだろうか。自分もかなり年齢詐欺だと言われるクチだが、彼女もよっぽどである。肌も二の腕も綺麗だし、筋肉もピッカピカだ。二十代でも充分通りそうな見目だというのに。
まあ、女性に年齢のことで突っ込むことほど野暮なこともない。下手に地雷を踏んで機嫌を損ねたい相手でもないのだ。テクノは浮かんだ疑問をさらっとなかったことにしたのだった。
「……皆さんは、トリアスさんの無実を本気で信じて下さってるんですね」
素直な感想を漏らすテクノ。魔王というジョブを持つ人間は、存在そのものが悪に違いない――生まれつきのサイコパスがごろごろいるはずだと信じている者も少なくないご時世である。そんな彼を、魔王だということを知った上で受け入れてくれた人達がいた。それは、トリアスにとってどれほど強い心の支えになったことだろう。
「ジョブだの、肌の色だの、髪の色だの。そんなもんだけで、内面全部決め付けるほどあたしらは馬鹿じゃないさ。ていうか、そもそもあの子を匿おうと決めた経緯が経緯だったしね」
「何かあったんですか?」
「あったよ。うちの若いモンが、モンスターに襲われて食われそうになってたんだ。ここより更に北の山は、貴重なキノコがたくさん取れる反面協力なウルフ系モンスターの巣窟になってるからね。いいトコ見せようと一人で突っ込んでいいような場所じゃないんだよ。……あの子も追われていた身で、疑心暗鬼になっていてもおかしくないはずなのにね。躊躇いなくそいつの前に姿を現して、モンスターを倒してそのバカモンを村まで連れ帰ってくれたんだ。馬鹿は馬鹿でも、うちの仲間には違いない。トリアスは恩人なんだよ。しかもその恩人は品行方正で礼儀正しいときてるじゃないか。追い出す理由なんかないね」
「彼が、指名手配の魔王だとしても、ですか?」
「勿論知ってたさ。……トリアスには、自分が捕まった後で警察が来たら“指名手配犯だとは知らなかった、って言い張れ”って口が酸っぱくなるほど言われてそうするしかなかったけどね。……指名手配だとしても、それが冤罪だって確信できてるなら。あたしらが助けない理由なんかないんだよ、わかるかい?」
なんとなく。この女性がどうしてこの村のリーダーをしているのか、分かったような気がした。なんて懐が深いのだろう。きっと里の者達は、彼女の器の大きさに惹かれてここに集ったのだろうな、と思う。
この名前のない里にいる盗賊達は。多くの場合――何らかの理由でそれぞれの故郷を追われた者達なのだ、という話は既に調べがついていたことだった。
「それで、訊きたいことってのは何だい?トリアスのことだけじゃないんだろ?」
マリアンヌはガキ大将のような笑みを浮かべて言った。
「まあ、それでもいいんだけどね。あたしとしては、可愛いあの子の思い出エピソードは山ほどストックがあるもんだから。いつか外部のヤツに、胸焼けするほど語ってやりたいと思ってたんだよなあ」
「は、はは。それも気になりますけど……とりあえず、優先事項から言っていいですか、ね?」
なんとなく、目の前の彼女から“話が長いオバチャン気質”の電波をキャッチしたテクノは、引きつった笑みで話題を変えた。
「お尋ねしたいのは……そのトリアスさんが最初に起こしたとされる事件。アネモニ村の大量虐殺の犯人に、心当たりがないかどうか……なんです」
トリアスの犯行にしてはあまりにも違和感がありすぎた、あの一件。彼が犯人でないのなら、当然他にあの事件を起こした者がいるはず。それも、複数の集団とみてほぼ間違いないとフレイアは言っていた。
もしも強盗の類なら。悪者達をカモにしてきたマリアンヌ達が、知っている集団である可能性は大いに有り得るはずだ。
「アレだね。……実はあたしらも、独自に真犯人ってヤツは調べてみたんだよ」
事件の凄惨さは彼女も知っているのだろう。苦々しい表情になるマリアンヌ。
「あんたも疑ってるんだろうが。十中八九、それなりの規模の盗賊団の仕業だと思うね」
「どうしてですか?」
「これ、あんたらにトリアスは話したかな。アネモニ村の中心には、あの村の始祖が作った大きなフレア鉱石の石像があったんだ。一人じゃとても持ち運べない、隠すのも難しいくらいの石像で、村の守り神ってことになってたらしい。あの石は熱に滅法強い。燃やされた程度じゃ傷一つつかない代物だ。……その石像が、トリアスが村に駆けつけた時にはなくなってたらしい。焼け野原になっても、必ず焼け残っているはずの素材だってのにね」
「!!」
「フレア鉱石自体にかなり価値があるし、あの石像を作ったのは某大物彫刻家だ。価格は数千万Gをくだらないらしいよ」
アレがあるのを知ってたってことは、土地勘のあるヤツらってことさ、とマリアンヌは大きく息を吐いた。
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