魔王陛下の無罪証明

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<第十八話>

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 フレア鉱石。それは金色に輝く、北の険しい山脈でのみ取れる石である。鉱石と言うだけあって燃料としても優秀だが、それ以上に美しい見た目から宝飾品としての人気が高い。別名、太陽の石。固さはそこそこ程度だが、なんといってもこの石の特徴は圧倒的な炎熱耐性である。マグマに落としても溶けない石として知られているのだ。そして、石そのものも熱を蓄えることで知られている。火に炙ると燃えることはないものの、大きなエネルギーを産み出すということも、だ。
 そのフレア鉱石の大きな塊というだけで希少価値が高いのに、純粋なフレアで作られた石像とあればどれほどの値打ちがつくことか。しかも、製作者は“グラディウス”の名前で知られる正体不明の大物彫刻家。何故その作品がアネモニ村に寄贈されたかは謎だが――村にあることがわかれば、盗賊に狙われるのも必至であったことだろう。
 テクノはマリアンヌの話を聞きながら想像していた。小さな村の広場の中心に置かれた金色の石像を。グラディウスと言えば、女神像で有名な彫刻家であったはず。なら、その彫刻も女神の姿をしていたのだろうか。

「アネモニ村の周辺で最近被害を増やしていた盗賊集団。それが“スナップドラゴン盗賊団”だ。あいつらのやり方は、そんじょそこらの盗賊達とは訳が違う。とにかく、奪い尽くすためには何だってするし……はっきり言って手段なんか選ばない。あたしは魔王なんかより、連中の方がよっぽどクソだと思うね。金目のものを奪うために人を殺すなんて当たり前、ついでに見目がいい女子供を見つけりゃみんなで好き勝手に犯した後で見世物小屋に売り飛ばすと来たもんだ」
「う、売り飛ばすって……」
「生きたまま両手足を切り落として、ダルマにするとか。威勢がいいヤツなんかだと、拷問の生公開ショーに引っ張り出されたりするらしいよ。鉄檻の中に閉じ込めて生きたまま火炙りにするとか、扇風機が回る床の上を綱渡りさせるとか、両手両足にロープをくくりつけて生きたまま手足を引きちぎる、とかね。想像するだけでぞっとするだろ?その、感覚が当たり前さ。奴等は完全に人間としてネジがぶっ壊れちまってる。アネモニ村の人達は気の毒だったが……それでも私は、その場にトリアスがいなくて良かったと思わずにはいられなかったね」
「…………」

 酷い、なんてものではない。完全に狂っている。ただ。

「その盗賊団の仕業にしては……アネモニ村の様子はそんなに酷いものではなかったような印象なのですけど……」

 焼き払われた村を見て、それでも“酷いものではない”なんて言い方をするのは不謹慎なのかもしれないが。
 それでも、生きたまま拷問され殺されたとおぼしき者達は確認されなかった、というような話は聞いている。遺体はみんな、急所を刃物で刺されて死亡後に焼かれた模様だ、と。

「かもしれないな。殺してから火をつけてるだけ、普段の連中からすると恩情をかけているレベルだろうさ。まあ、それは何よりも今回の目的が殺人よりも強盗にあったってことなんだろうが。あるいは……誰かから大金で依頼されたって可能性もあるかもしれんかな」
「依頼された……」
「確実なことは私にも言えないさ。ただ、あたしは連中が犯人でほぼ間違いないと思ってるよ。ここ最近、あの盗賊団の副リーダーがフレア鉱石の欠片を大量に売りに来るんだって、闇市場のオヤジがぼやいてたからね」
「!」

 それは――確定と見て、いいのではないか。
 しかし、まさかせっかくの石像を粉々に砕いてバラ売りしていようとは。まあそのまま売ると即座に足がつくと踏んだ結果なのだろうが。

――そいつが売りに来たフレア鉱石と、奴等のアジトにある鉱石の残り。あわせた重さがアネモニ村にあった石像の重さと一致すれば……!

 証拠として、提出することも可能だろう。バラバラに砕けた石像を修復して再現することは大変時間がかかるが、それでも不可能ではないのだから。

――ただ……アネモニ村の襲撃がトリアスのものじゃないとわかっても、その後が問題だ。実行班であるスナップドラゴン盗賊団だけ捕まえても意味がない。黒幕も引きずり出して、こんなこと二度と起こさせないようにしないと……!

 まだ、足らない。裁判員裁判で、裁判員達を納得させられるくらいの証拠を取り揃えければならない。それが例え、状況証拠と言われる類いであったとしてもだ。
 フレイアは本気で、トリアスを救おうとしている。そのフレイアが愛したものならば、自分が救おうとするのも当然のことだ。なんせ自分はフレイアに着いていくことを決めて、そのためにスフィア工学の第一人者になるという夢さえも捨て、此処に立っているのだから。
 彼の役に立ちたい。そうしなければきっとまた、フレイアは命懸けで強大な敵に、たった一人でも立ち向かっていってしまうことだろうから。

「テクノ、って言ったっけね、あんた」

 考え込んでいたテクノに、唐突に投げ掛けられた声。顔を上げると、先程までのどこか軽い調子がなりを潜めた、マリアンヌの健康的な美貌が目の前にあった。
 そう、目の前のいえば、目の前。至近距離だ。あまりの近さにテクノは驚き、勢いよく椅子をひっくり返してしまう。

「う、うわぁっ!?」

 バターン!と大きな音がした。ひっくり返り、大股開きでお尻を晒した自らの有り様に顔が赤くなる。さすがにこんなに驚くとは思わなかったのか、慌てたようにマリアンヌが駆け寄ってきた。

「わ、悪かった!大丈夫か!?」
「い、いきなり目の前に美人の顔が飛び込んできて驚かない男はいませんからっ!あたたたた……っ、きょ、距離近すぎなんですよお!!」
「ご、ごめんって」

 堅物ゆえ、女の子と縁がないどころか付き合おうと考えたことさえないテクノである。女性への免疫なんて、あるはずもないのだ。

「わ、悪かったよ。その……な。あんた達がトリアスの弁護を引き受けてくれるってなら嬉しいし……あたしだってそのためならいくらでも証言台に立つよって言いたかったんだ。たださ」

 彼女は気まずそうに、頭をぽりぽりと掻いた。

「もし本当に……本当にだよ?政府が敵だったりしたらどうするんだろうなって思ってたさ。奴等だって、この一連の事件をトリアスの仕業だってことで納めたい気持ちはある。だからこんなことになってる。その事情も想像がつく。だったら、奴等はどんなテで出てくるかわかったもんじゃないぜ?例えば……」

 マリアンヌがそこまで言いかけた、その時だ。近い場所から、大きな爆発音が響いた。はっとしてテクノとマリアンヌは、二人同時にゆっくりと扉の方を見つめる。

「嫌な予感ってやつばっかり、妙に当たるんだよなあ」

 呆れるように、軽蔑するように――マリアンヌが立ち上がった。数瞬遅れてテクノも理解が追い付く。まさか、本当にここまでしてくるとでもいうのか。

――くそっ……!

 テクノは心の中で悪態をつきながらそれに従う。何がなんでも彼らに迷惑をかけるわけにはいかなかった。
 指名手配など知らなかった。彼が盗賊の村でそんな風に言えとトリアスが口が酸っぱくなるほど言い聞かせたのは、それこそこの住人たちに迷惑をかけたくなかったからに他ならない。
 ならばその、意思を汲むのが弁護士と言うものだ。意を決して、テクノもまたその場所から飛び出していったのである――。
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