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<8・勇気ある者達>
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予想はしていたとはいえ。角松、内田の二人から聞かされた内容は、全く喜ばしくないものだった。村松英太が、一週間すぎた今でも寮に戻ってこないままだというのだ。
「村松が生きているのかいないのか、既にもうわからない状況だ」
特に仲が良かったとされている角松の顔色は、青いを通り越して白いほどである。最初に話をした時はまだ、時間がすぎれば戻ってきてくれるはずだという希望があったのだろう。それが、“療養のため”という名目とはいえ一週間戻ってこないままともなると、最悪の可能性を考えるのは自然だ。
ステイからしても、全く笑い事ではない話だった。神子の仕事について調べれば調べるほどきな臭い話しか出てこないのに、調査に進展が見られない。焦りを覚えるなという方が無理がある。
「だが、俺はまだ諦めたくはない。内田と二人で何度も話し合ったが、やはり見捨てることなどできん」
「どうするんですか」
「神様、は地下にいるという。ならばどこかに、地下への入口があるはずだ。それを見つけて、村松を助け出す。ある程度、入口があるであろう場所に目星はつけてあるんだ」
角松は少し躊躇ったあと、一冊のメモ帳らしきものを丸ごとステイのポケットに突っ込んだ。ステイははっとする。――この休憩スペースにも、少ないとは言え防犯カメラがあるのだ。その死角を狙ったのだと気づいた。恐らく今のメモ帳に、彼が調べたことの詳細が書いてあるのだろう。
カメラに音声収集機能がついているかどうかはわからない。ただ、多少疑って調べていても、確定的な情報を掴んでいなければ恐らく簡単に消されることはないはずである。角松は、自分達の身を案じ、同時に自分達が消えたあとをステイ達に託そうとしているのだと気づいた。
――友達のために、命を賭けるつもりなのか、この二人……!
村松英太という先輩について、ステイが知っていることはあまりにも少ない。ハンド部で頑張っていたらしいということと、あの舞台上でのやつれ、パニックになった姿しか知らないのだ。ここにきて彼がどれほど人望のある人物であったのか、それを知ることになるなんてなんとも皮肉な話だが。
「……地下への場所を見つけても、“神様”はどうするんですか。人間じゃないことがほぼほぼ確定しているし、きっとやばい化け物だと思うんです。正体に全く心当たりがない、対策ゼロで乗り込むのは危険すぎると思うんですが」
ちらり、とステイの方を見た享は、角松がステイに渡した資料にも気づいているのだろう。無茶をするにしても、勝算ゼロなら全く話にならない。怪物、について彼らは何か掴んだのだろうか。
「残念だけど、俺達もそんな有力な情報が手に入ったわけじゃないんだ。……ていうか、正直時間切れが近づいて諦めたっていう方が正しいんだけど」
ほんの少し声を潜めて、詳しくはさっき渡したのに書いてあるけどね、と付け加えた。
「今ここで言えることだけ簡単に説明しとく。俺達なんだけど、二つのことに絞って調査をしたんだ。神様の正体と、それから村松の前の“神子”について」
「村松先輩の前……えっと三年生の先輩でしたよね?名前忘れちゃいましたけど」
「そうそう。倉橋大輔って先輩だ。軽音部の、チャラそうに見えて面倒見が良い人だって人気の人だったらしい。その先輩が同じようにくじ引きで村松の名前を引いて、村松が次の神子になったって寸法だったんだけどさ。……もし最悪の想像が当たってたなら、この倉橋って先輩も生きてない可能性が高いだろ。実際話を聞いて回ったら、やっぱり村松の代になってから誰も倉橋先輩を見ていないっていうんだ」
「卒業した、と?」
「表向きはそうなってるよ、他の神子同様に」
彼が本当はそう思っていないことは明らかだった。むしろ、誰もが同じ可能性を危惧しているだろう。
倉橋大輔は、殺された。
もしかしたら次の神子である村松に、“神様”が殺させたのかもしれない――と。
「人望のある先輩だったっていうなら、その人の友達も不審がって調べたりしたんじゃないですか?」
楓が尋ねると、その通りだ、と角松が頷いた。
「神子は夜、ほぼほぼ決まった時間に部屋を抜け出して“神様”のところへ行って“お祈り”をする。……いつも疲れ果てた様子の倉橋先輩を不審に思ったルームメイトが、夜中に抜け出す彼の後をつけてみたことがあったらしい。……そして、彼が何処に消えるのか、おおよその場所を突き止めた。ただ、そのあとをつけた先輩は……数日後、謎の失踪をしたらしいがな」
角松の目が一瞬、ステイのポケットの方を見る。ステイは理解した。あとを尾行した先輩がいたこと、それからその場所。その情報が残っているということはつまり、その人物が他の友人に情報を残した上で消されたということに他ならない。自分が神隠しされることを危惧していたからなのか、慎重な性格であったのかは定かでないが。
そして今も、角松と内田は同じことをしようとしているわけである。予め第三者に情報を残しておくことによって、自分達が万が一消されても情報が生きるように手を打っているというわけだ。
――なら、俺達も俺達で、万が一のために他にも“バックアップ”を残しておくべきか……?
生徒の中に、学校側のスパイがいないとは言い切れない。バックアップをそいつに渡してしまったら、計画実行前に消されて情報も握りつぶされるのがオチだろう。誰に情報を託しておくかは、慎重に選んだ方がいい。
「ルームメイトが失踪してから、倉橋先輩は他の親しいクラスメイトや軽音部仲間に、口がすっぱくなるほど“神子のことについて詮索するな、自分は大丈夫だから”と言い聞かせるようになったらしい。……ルームメイトが消されたのは、見せしめであり、神子への脅迫であったということだろうな」
「やり方が汚すぎるだろ、それ……!」
「全くだ、このような正義に悖る行為、断じて許しておくことはできん。……もう一つ、神様についてだ。神様とやらを最初に呼び出したのは、この学校の創設者であるという話まではお前も知っているんだったな?」
「は、はい。そこまでは」
「宗像誠心学園創設者・宗像藤之助が神様を魔術で召喚し、莫大な富を得たとされている。なら、宗像藤之助について調べていけば、召喚されたものについても何かわかってくるのではないかと思ったわけだ」
それは、自分達も考えたことだった。魔術で呼び出した、つまり宗像藤之助には魔術の才があったということである。問題は、彼が“どの”タイプの魔術師であったのか、学校関連資料だけでは一切見えてこなかったということだ。西洋魔術か、東洋魔術か、あるいはそのどちらとも違う全く新しい魔術なのか。それさえわからないのに、呼び出されたモノにアタリをつけることなどできるはずもない。
呼び出された存在が対価を要求し、それが残酷なものであるとすれば。実際は呼ばれたそれは神様というより、悪魔に近いものであったのではないかというのが楓の見解であるらしいが。悪魔、という考え方は西洋特有のもの。そもそも西洋では、悪霊の類も全て“悪魔”で分類されるため、“死んだ人間が祟る”という発想はほぼほぼ浸透していないらしいのだ。対価を要求しているのを“既に祟っている”とみなすべきかは定かではないが、要求した対価を支払わないと祟りを起こすぞというのは、どちらかというと日本の考え方に近いような気がしている。
もし教師達が、この学園の運営のみならず祟りを恐れて神様に従っているのだとしたら。それはどちらかというと、日本の方の魔術、呪術に類するものである可能性が高くなってくるのではないだろうか。
「……残念ながら、宗像藤之助とういう人物についても、そこまで深いことはわからなかった。図書館で本人の伝記なども片っ端から漁ったし、教師にもそれとなく話を聞いてみたんだがな。元は貧しい農民の出で、それが突然実業家として大成功し、最終的には学校を建築するに至る、と。ただ、いくつか引っかかったことがあってな」
二つ、と角松は二本指を立てた。
「まず、貧しい農民出身者が、実業家として大成功を収める経緯が少々謎だった。なんせ、資料にはその過程がほとんど描かれておらんのだ。一体どこから資金やコネクションを得た?」
「もしかして、宗像藤之助が神様を召喚したのは、学園設立よりもずっと前だったってことですか?」
「その可能性は十分ありうると思っている。しかもだ。宗像は男色家として有名であったようだが……宗像が実業家として成功する前後から、彼の住む村には奇妙な噂が立つようになったらしい。神隠しの噂だ。見目麗しい、若い男ばかりが消されるというな。……この学校の“神子”と重なる点があると思わんか?消された男たちは一人も帰ってこなかったというしな……」
それはやはり、神子=生贄である可能性が高まったということではないか。じわり、と背中に嫌な汗が浮いてくる。それほど長く、宗像藤之助に憑いているという“神様”――ろくなものであるはずがない。悪魔でないなら、怨霊。あるいは邪神、といったところだろうか。
「最終的に宗像本人も謎の失踪を遂げている。召喚した神様に食われたという説のあるし、純粋にどこかに旅に出て帰ってこなかったという話もある。……なんにせよ、農民の頃の宗像藤之助が住んでいた“綿抜村”。閉鎖的な村の人間が、海外の魔法の知識を手に入れられる可能性は低い。ならば、その村に元々“神様”に関する書物などがあったと考える方が自然だ。“神様”は西洋由来のものではなく、この国由来か地域由来のものであったと見てまず間違いあるまい」
少しだけステイは驚いた。いかにも脳筋、な見た目であるはずの角松がここまで丁寧な調査をしていたのが意外で仕方なかったからである。ひょっとしたら、隣の内田の功績かもしれないが、本人も一定以上知識をしっかり飲み込んでいる様子だ。
それほどまでに、村松を助けたいと必死になっているのかもしれない。その熱意は、素直に尊敬するし、感謝もしたいところである。彼らが調べてくれたことが、そのまま自分達の未来に繋がるのだから。
「神様の正体について、残念だけど俺達も明確に掴むことはできなかった」
でもね、と内田が続ける。
「時間があったら、調べたかったことがもう一つあるんだ。実は、神子に関わる不審な“神子以外”の失踪者なんだけどね。……先生にもいるんだよ、不自然に消えたらしい人が」
「え」
「しかも、村松の前の、高橋先輩が神子だった時にね。軽音部の顧問の、若い男性の先生が一人消えてる。若いって言っても、数年この学校に勤めてた先生だ。音楽の教科担任で、俺達も、多分君達も関わったことのない先生だと思うんだけど……知ってるかな。葵城遥先生」
「い、いえ……あ」
ステイははっとした。生徒達と先生では、明らかに立場が違う。神様の存在は、先生達全員でグルになって秘匿にしている可能性が高い。つまり、先生という存在は元々神様について突っ込んだことを知ることを許されていた存在だ。
それなのに消されたということはつまり、恐らく高橋を助けようとするなり、皆のルールを破ってしまって殺された可能性が高いということである。ならば。
「俺達と同じことを考えていたなら、葵城先生もどこかに情報を残している可能性がある。しかも、先生だから生徒である俺達よりずっと神様や学校の内情について詳しく知っていた可能性が高い」
ようやく、話が繋がった。彼らが自分達に、一番頼みたかったことが何であるのかを。
「その葵城先生が学校に残しているであろう“情報”を、俺らで探せばいいんですね?」
「そゆこと」
なるべく小さな声で、そう返せば。内田は満足そうに頷いた。
どこか腹を括った者の、強かな笑みで。
「村松が生きているのかいないのか、既にもうわからない状況だ」
特に仲が良かったとされている角松の顔色は、青いを通り越して白いほどである。最初に話をした時はまだ、時間がすぎれば戻ってきてくれるはずだという希望があったのだろう。それが、“療養のため”という名目とはいえ一週間戻ってこないままともなると、最悪の可能性を考えるのは自然だ。
ステイからしても、全く笑い事ではない話だった。神子の仕事について調べれば調べるほどきな臭い話しか出てこないのに、調査に進展が見られない。焦りを覚えるなという方が無理がある。
「だが、俺はまだ諦めたくはない。内田と二人で何度も話し合ったが、やはり見捨てることなどできん」
「どうするんですか」
「神様、は地下にいるという。ならばどこかに、地下への入口があるはずだ。それを見つけて、村松を助け出す。ある程度、入口があるであろう場所に目星はつけてあるんだ」
角松は少し躊躇ったあと、一冊のメモ帳らしきものを丸ごとステイのポケットに突っ込んだ。ステイははっとする。――この休憩スペースにも、少ないとは言え防犯カメラがあるのだ。その死角を狙ったのだと気づいた。恐らく今のメモ帳に、彼が調べたことの詳細が書いてあるのだろう。
カメラに音声収集機能がついているかどうかはわからない。ただ、多少疑って調べていても、確定的な情報を掴んでいなければ恐らく簡単に消されることはないはずである。角松は、自分達の身を案じ、同時に自分達が消えたあとをステイ達に託そうとしているのだと気づいた。
――友達のために、命を賭けるつもりなのか、この二人……!
村松英太という先輩について、ステイが知っていることはあまりにも少ない。ハンド部で頑張っていたらしいということと、あの舞台上でのやつれ、パニックになった姿しか知らないのだ。ここにきて彼がどれほど人望のある人物であったのか、それを知ることになるなんてなんとも皮肉な話だが。
「……地下への場所を見つけても、“神様”はどうするんですか。人間じゃないことがほぼほぼ確定しているし、きっとやばい化け物だと思うんです。正体に全く心当たりがない、対策ゼロで乗り込むのは危険すぎると思うんですが」
ちらり、とステイの方を見た享は、角松がステイに渡した資料にも気づいているのだろう。無茶をするにしても、勝算ゼロなら全く話にならない。怪物、について彼らは何か掴んだのだろうか。
「残念だけど、俺達もそんな有力な情報が手に入ったわけじゃないんだ。……ていうか、正直時間切れが近づいて諦めたっていう方が正しいんだけど」
ほんの少し声を潜めて、詳しくはさっき渡したのに書いてあるけどね、と付け加えた。
「今ここで言えることだけ簡単に説明しとく。俺達なんだけど、二つのことに絞って調査をしたんだ。神様の正体と、それから村松の前の“神子”について」
「村松先輩の前……えっと三年生の先輩でしたよね?名前忘れちゃいましたけど」
「そうそう。倉橋大輔って先輩だ。軽音部の、チャラそうに見えて面倒見が良い人だって人気の人だったらしい。その先輩が同じようにくじ引きで村松の名前を引いて、村松が次の神子になったって寸法だったんだけどさ。……もし最悪の想像が当たってたなら、この倉橋って先輩も生きてない可能性が高いだろ。実際話を聞いて回ったら、やっぱり村松の代になってから誰も倉橋先輩を見ていないっていうんだ」
「卒業した、と?」
「表向きはそうなってるよ、他の神子同様に」
彼が本当はそう思っていないことは明らかだった。むしろ、誰もが同じ可能性を危惧しているだろう。
倉橋大輔は、殺された。
もしかしたら次の神子である村松に、“神様”が殺させたのかもしれない――と。
「人望のある先輩だったっていうなら、その人の友達も不審がって調べたりしたんじゃないですか?」
楓が尋ねると、その通りだ、と角松が頷いた。
「神子は夜、ほぼほぼ決まった時間に部屋を抜け出して“神様”のところへ行って“お祈り”をする。……いつも疲れ果てた様子の倉橋先輩を不審に思ったルームメイトが、夜中に抜け出す彼の後をつけてみたことがあったらしい。……そして、彼が何処に消えるのか、おおよその場所を突き止めた。ただ、そのあとをつけた先輩は……数日後、謎の失踪をしたらしいがな」
角松の目が一瞬、ステイのポケットの方を見る。ステイは理解した。あとを尾行した先輩がいたこと、それからその場所。その情報が残っているということはつまり、その人物が他の友人に情報を残した上で消されたということに他ならない。自分が神隠しされることを危惧していたからなのか、慎重な性格であったのかは定かでないが。
そして今も、角松と内田は同じことをしようとしているわけである。予め第三者に情報を残しておくことによって、自分達が万が一消されても情報が生きるように手を打っているというわけだ。
――なら、俺達も俺達で、万が一のために他にも“バックアップ”を残しておくべきか……?
生徒の中に、学校側のスパイがいないとは言い切れない。バックアップをそいつに渡してしまったら、計画実行前に消されて情報も握りつぶされるのがオチだろう。誰に情報を託しておくかは、慎重に選んだ方がいい。
「ルームメイトが失踪してから、倉橋先輩は他の親しいクラスメイトや軽音部仲間に、口がすっぱくなるほど“神子のことについて詮索するな、自分は大丈夫だから”と言い聞かせるようになったらしい。……ルームメイトが消されたのは、見せしめであり、神子への脅迫であったということだろうな」
「やり方が汚すぎるだろ、それ……!」
「全くだ、このような正義に悖る行為、断じて許しておくことはできん。……もう一つ、神様についてだ。神様とやらを最初に呼び出したのは、この学校の創設者であるという話まではお前も知っているんだったな?」
「は、はい。そこまでは」
「宗像誠心学園創設者・宗像藤之助が神様を魔術で召喚し、莫大な富を得たとされている。なら、宗像藤之助について調べていけば、召喚されたものについても何かわかってくるのではないかと思ったわけだ」
それは、自分達も考えたことだった。魔術で呼び出した、つまり宗像藤之助には魔術の才があったということである。問題は、彼が“どの”タイプの魔術師であったのか、学校関連資料だけでは一切見えてこなかったということだ。西洋魔術か、東洋魔術か、あるいはそのどちらとも違う全く新しい魔術なのか。それさえわからないのに、呼び出されたモノにアタリをつけることなどできるはずもない。
呼び出された存在が対価を要求し、それが残酷なものであるとすれば。実際は呼ばれたそれは神様というより、悪魔に近いものであったのではないかというのが楓の見解であるらしいが。悪魔、という考え方は西洋特有のもの。そもそも西洋では、悪霊の類も全て“悪魔”で分類されるため、“死んだ人間が祟る”という発想はほぼほぼ浸透していないらしいのだ。対価を要求しているのを“既に祟っている”とみなすべきかは定かではないが、要求した対価を支払わないと祟りを起こすぞというのは、どちらかというと日本の考え方に近いような気がしている。
もし教師達が、この学園の運営のみならず祟りを恐れて神様に従っているのだとしたら。それはどちらかというと、日本の方の魔術、呪術に類するものである可能性が高くなってくるのではないだろうか。
「……残念ながら、宗像藤之助とういう人物についても、そこまで深いことはわからなかった。図書館で本人の伝記なども片っ端から漁ったし、教師にもそれとなく話を聞いてみたんだがな。元は貧しい農民の出で、それが突然実業家として大成功し、最終的には学校を建築するに至る、と。ただ、いくつか引っかかったことがあってな」
二つ、と角松は二本指を立てた。
「まず、貧しい農民出身者が、実業家として大成功を収める経緯が少々謎だった。なんせ、資料にはその過程がほとんど描かれておらんのだ。一体どこから資金やコネクションを得た?」
「もしかして、宗像藤之助が神様を召喚したのは、学園設立よりもずっと前だったってことですか?」
「その可能性は十分ありうると思っている。しかもだ。宗像は男色家として有名であったようだが……宗像が実業家として成功する前後から、彼の住む村には奇妙な噂が立つようになったらしい。神隠しの噂だ。見目麗しい、若い男ばかりが消されるというな。……この学校の“神子”と重なる点があると思わんか?消された男たちは一人も帰ってこなかったというしな……」
それはやはり、神子=生贄である可能性が高まったということではないか。じわり、と背中に嫌な汗が浮いてくる。それほど長く、宗像藤之助に憑いているという“神様”――ろくなものであるはずがない。悪魔でないなら、怨霊。あるいは邪神、といったところだろうか。
「最終的に宗像本人も謎の失踪を遂げている。召喚した神様に食われたという説のあるし、純粋にどこかに旅に出て帰ってこなかったという話もある。……なんにせよ、農民の頃の宗像藤之助が住んでいた“綿抜村”。閉鎖的な村の人間が、海外の魔法の知識を手に入れられる可能性は低い。ならば、その村に元々“神様”に関する書物などがあったと考える方が自然だ。“神様”は西洋由来のものではなく、この国由来か地域由来のものであったと見てまず間違いあるまい」
少しだけステイは驚いた。いかにも脳筋、な見た目であるはずの角松がここまで丁寧な調査をしていたのが意外で仕方なかったからである。ひょっとしたら、隣の内田の功績かもしれないが、本人も一定以上知識をしっかり飲み込んでいる様子だ。
それほどまでに、村松を助けたいと必死になっているのかもしれない。その熱意は、素直に尊敬するし、感謝もしたいところである。彼らが調べてくれたことが、そのまま自分達の未来に繋がるのだから。
「神様の正体について、残念だけど俺達も明確に掴むことはできなかった」
でもね、と内田が続ける。
「時間があったら、調べたかったことがもう一つあるんだ。実は、神子に関わる不審な“神子以外”の失踪者なんだけどね。……先生にもいるんだよ、不自然に消えたらしい人が」
「え」
「しかも、村松の前の、高橋先輩が神子だった時にね。軽音部の顧問の、若い男性の先生が一人消えてる。若いって言っても、数年この学校に勤めてた先生だ。音楽の教科担任で、俺達も、多分君達も関わったことのない先生だと思うんだけど……知ってるかな。葵城遥先生」
「い、いえ……あ」
ステイははっとした。生徒達と先生では、明らかに立場が違う。神様の存在は、先生達全員でグルになって秘匿にしている可能性が高い。つまり、先生という存在は元々神様について突っ込んだことを知ることを許されていた存在だ。
それなのに消されたということはつまり、恐らく高橋を助けようとするなり、皆のルールを破ってしまって殺された可能性が高いということである。ならば。
「俺達と同じことを考えていたなら、葵城先生もどこかに情報を残している可能性がある。しかも、先生だから生徒である俺達よりずっと神様や学校の内情について詳しく知っていた可能性が高い」
ようやく、話が繋がった。彼らが自分達に、一番頼みたかったことが何であるのかを。
「その葵城先生が学校に残しているであろう“情報”を、俺らで探せばいいんですね?」
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