愛憎シンフォニー

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<12・神主。>

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 その男性は、京堂神社の神主を名乗った。
 痩せ型で、ひょろりと背が高い。身長180cmはありそうで、ちょっとうらやましく思った。160cm代の夏樹からするとだいぶ目線が高い位置にあるからだ。身長が低い男性は人権ない、なんてことを発信して炎上したゲーマーが過去にはいたが、実際背が低いことにコンプレックスを感じる男は少なくないのである。夏樹はまだマシな方かもしれないが、それでも170は欲しいしもう少し伸びてくれないかなぁ、と常々思っているのだった。

「あたしは十崎蓮馬とざきれんまって言いまして。まあ、一応は神主やっとります」

 男性は、声も顔も完全に年齢不詳というやつだった。江戸っ子っぽい喋り方からするとそこそこの年齢行っていそうにも見えるが、髪は黒いし肌もキレイなような気がする。女性の年齢は化粧のせいでわかりづらいとよく言うが、男性であってもわかりにくい人はいるんだなぁ、なんて感想をぼんやりと抱く夏樹だった。

「あ、お祓いの依頼なら予約してくださいね。今は五月だからそんなに混んでないですけど、時期によっては何ヶ月待ちになったりもするんで気をつけて」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。お盆の時期とか凄いですよぉ。本当に祟られてる人なんか一部ですが……まあ、お盆の時期は何かが憑いてきそうって意識の人が多いんでしょうね。自分は取り憑かれてると思いこんでしまってる人がそりゃわんさかと。普通に病院行って来たほうがいいんじゃないの?的な顔色の人が縋ってくることもあります。あ、ここの病院っていうのは精神じゃなくて身体の方ねー」
「は、はぁ」

 よく喋る人である。このままだと、話がどんどん脱線していきそうだ。あの、と夏樹は遮るように声をかける。

「ちなみにお祓いじゃなくて、ちょっとした相談みたいなものも予約必要ですか?」

 彼の言葉でなんとなく思ったのだ。冬樹は神頼みじゃなくて、お祓いに訪れた可能性もないわけではない、と。もしそうなら、事故当日に予約をしていた可能性があることになる。

「取り憑かれてるかどうか、とか素人にはわからないじゃないですか。それをまず見てもらいたい人もいると思うんですが」
「うーん、そりゃ時期によりますねえ。あたしらが忙しい時は予約になるし、そうじゃない時期なら簡単な相談くらいは乗ったりします。まあ、あたしらもそんなすんごい霊能力者とかじゃないし、そんなに強い神様をお祀りしてるわけでもないし、祓うったって大したことできるわけじゃあないんですが」
「お盆の時期を外したら、予約無しで相談はできる、とか?」
「まあ、大体はそうなりますかねー?」

 弟の事故は秋に起きたものだ。なら、相談なしに神社に来ようとした可能性はある。夏樹は十崎に、ざっくりと事の経緯を説明した。三年前の秋に事故に遭った弟の足取りを辿っていること。その日付。弟がストーカーに遭って悩んでいたかもしれないことも含めて。

「……ふむ、なんか聞いたことある気がするな。ちょいと待ってくださいね」

 ちょいちょい、と彼は夏樹を社務所に招いた。そして事務所の椅子に座らせると紙コップにお茶を入れて出してくれ、少しだけ奥に引っ込む。
 やがて取り出してきたのは、青いプラスチック製のファイルだった。彼は、夏樹の正面の席にどっかり座り、ファイルを開く。

「相談を聞いたことのある人は、全部名前を聞いて書いておくことにしてます。“万が一”ってこともありますから」
「万が一?」
「世の中、幽霊より面倒なものなんていくらでもあるんですよ。幽霊に取り憑かれて酷い目に遭うなんてマシな方なんです。そういうのは、あたしらが祓えるなら祓って終わりになるでしょう?でも、幽霊が憑いてないのに、おかしくなってる人とかもいる。幽霊じゃなくて呪いだったり、そもそも以前触れてしまった神様の類が強烈すぎて穢れが残ってるパターンだったり。そういうのの謎を解いたり解決するために一番大事なのは情報ってやつですからね。誰が神社を訪れたかもわからないなら、元凶を調べようもないでしょう?」
「な、なるほど……」

 確かに言われてみると、ホラー映画なんかで“悪霊の正体を知る”ために、主人公たちがあっちこっち調べ物をしている場面は少なくない。正体を知らなければ呪いの儀式を破る方法も、オバケを封印する方法もわからないから、というやつだ。
 しかし、世の中の霊的現象と呼ばれるものは、なんでもかんでも幽霊のせいではないというのが驚きである。まあ、自分には霊感なんてものないので、今のところ“ふーんそうなんだ?”くらいの他人事認識でしかないのだが。

「……ああ、萬屋冬樹さん。一度うちに相談に来てますね。事故に遭ったっていう日よりも前に」
「え?」

 ページをぺらぺらと捲った十崎があっけらかんと言う。

「簡単な相談内容のメモもあります。……ああ、なんか視線を感じる気がするし、転ぶことも増えて、幽霊に呪われてるんじゃないかと心配になって相談した、と」
「幽霊?生霊、とかじゃなくて?ストーカーの相談でもなくて?」
「ストーカーってのは……ああ、思い出した。うーん、そういう話は聞かなかった気がします。ちょっと珍しいお客さんだったんですよ、萬屋冬樹さんは。確かにストーカーの生霊に悩まされてる、みたいな相談をする人はいましたけれどね。この人の場合は、完全に幽霊の相談でした。しかも、自分は呪われたんじゃないか、って」
「呪われた?」

 何だろう、話が一気にオカルトになってしまったような。
 冬樹の部屋をひとしきり調べたが、部屋の中に御札が貼りまくられていたなんてこともなく。特に、幽霊に呪われてるかもしれない、とびびっていたのがわかるメモもない。あのクマチ、という名前のメモがあっただけだ。
 一応十崎に尋ねてみたが、クマチ、なんて幽霊の名前に心当たりはないという。ならば、何かオカルト的な固有名詞ではないのだろう。

「あたしの目から見ると、特におかしなところはないように見えたんですよ。何か取り憑いてるとか、穢れに触れてるとか、呪われてるとか。……そもそも勘違いされがちなんですが、呪いやら祟りやらってそう簡単にできるもんじゃないんです。あれだって、素質がいるんですから」
「素質?」
「これ、超心理学とかそっち方向になっちゃいますかね?呪いって、触れないで対象の心身に危害を及ぼすものでしょう?それってサイコキネシスみたいな……正確にはちょっと違うんですけど、まあそういう超能力的な部類になるんです。ホラー映画とか見ます?ポルターガイスト現象ってあるでしょ。あれ、幽霊がやってる場合と生きた人間がやってる場合があるんです。どっちにしろ、手を触れないで家具をひっくり返したり花瓶を割ったりする。PKってやつですねえ」

 ポルターガイストが出てくる映画は、少し前に理貴を含めた男友達数人で見に行ったことがあるのでなんとなく想像がつく。怖がりの理貴が(お化け屋敷でも悲鳴を上げるくせに、何故ああもホラーを見たがるのか)大騒ぎしてちょっと面倒くさかった。あれは、幽霊が家の住人を追い出すためにポルターガイストを起こしているという話だったが。

「惨殺された人とかが、死に間際に犯人に“末世まで呪ってやるぞお!”とか脅すシーンあるでしょう?確かに強い恨みや執着を持った人間が、死後相手に危害を及ぼすようになるケースはあります。でも萬屋さん、強く願っただけで超能力的なものって、使えるようになると思います?」
「……俺は、自信ないです。スプーン曲げもできないかと」
「そういうことです。呪うだけ、恨むだけで何でもかんでも成就するほどこの世界は甘くない。死んだからって、本来のスペックに変わりはないですしね。死んだあとに呪いや祟りに成功する人間って、結局のところそれだけの素質があった人なんですよ」
「へえ」

 そういう発想はなかった。てっきり、幽霊になれば相手に取り憑くとか呪うとかは誰でもできるようになると思っていたのだが。

「萬屋冬樹さんには、確かに妙な“執着”の残り香はありました。けど、誰かに呪われてる気配はなかったですね。恐らく何か強烈な“死”に触れて、そのせいで気がそぞろになり、失敗したり転んだりするようになっちゃった。それを、本人が呪いと思い込んだってケースかと」

 それって、と夏樹はやや青ざめる。



『って言っても……実際あいつが事故ってポスト見なくなった後、家におかしな手紙とか来てない、よな?』



 土曜日に弟の部屋を探った時に、自分で思ったことを思い出した。
 彼が事故に遭ったあとで、特に嫌がらせの手紙がなかったのは。もしや、そのストーカーが死んでいたから、なんてこともあるのか?

「……弟の事故の後に。おかしなことなんて何もないんです。でも、何もないってことは、その……」

 言い澱む夏樹に、十崎は頷いた。

「ストーカーさん、死んでるかもしれませんね。散々追いかけ回されて愛を押し付けられて、でも弟さんは到底それを受け入れられなくて。で、そんなストーカーが死んだとわかったらそりゃ、そいつが死んでなお追いかけてくるかも?って怖くなるのはわからないことではないです」

 はぁ、と彼は深々とため息をついた。

「結局、あたしらいつも思うんですがね。生きた人間より、怖いものなんてないなぁって。悪霊より神様より悪魔より、よっぽど人間が人間を殺してるわけですから。弟さんもお気の毒です。警察に相談とかは?」
「して、なかったと思います」
「そうですか。本当に犯人が死んでるなら、犯人に呪うような素質がなかったなら……これ以上悪いことは起きないかもしれませんが。だからって、安心はできないかもしれませんね」
「というと?」

 弟がストーカーされていた。そして事故に遭った。それだけで惨劇に等しいのに、まだ何かあるかもしれないのか。
 夏樹がうんざりした思いで十崎を見ると、彼は“脅かすつもりではないんですが”と付け加えて言った。

「何度でも言いますが、生きた人間ほど怖いものはないんです。そういうストーカーは、外面はすごく良い人だったり普通の人だったりします。心の中でドロドログチャグチャのもの抱えていても、表向きはニコニコ笑ってる人なんて少なくない。そういう人間は往々にして、死んだあとも禍根を残す」

 ゆえに、と彼は夏樹の額の中心を指さした。

「貴方も気をつけてくださいよ?なーんか、ストーカーとかとは違うんですが……誰かに恨まれてるような気配を感じますんでね。最近出会った人には、注意してくださいよ?」
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