デッドエンド・シンフォニー

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
8 / 20

<8・ムッツノドア。>

しおりを挟む
『今、皆さんの前には六つのドアがあると思いマス。この部屋から外の出口に繋がっているのは、そのうちの一つノミ。あとの五つは偽物でございマス』

 アナウンスの説明が続く。

『それぞれのドアの向こうには、AIを搭載したロボットがおりマス。ドアをノックして質問をすると、ロボットがあなたの質問に“イエス”か“ノー”で答えマス。“イエス”と“ノー”で答えられない質問は無効。さらに、質問は全て、異なるものでなくてはいけまセン。例えば赤いドアをノックして“あなたのドアは出口につながっていますか”と質問した場合、別のドアのロボットに同じ意図の質問はできまセン』
「逢花さん、覚えられなさそうだったらメモを活用してください。メモ帳か携帯電話はありますか?」
「あ!う、うん。メモする!」

 少々ややこしいルールのようだ。逢花は慌ててスマホのメモ帳を取り出してメモをし始める。幸い、打つのは早い。ほぼブラインドタッチで行ける。

『注意するべきは、六体のロボットのうち、“ドアを閉じた状態で”本当のことを言うロボットは一体のみというコト。あとの五体は、全て嘘で答えます』

 この問題って、と逢花は眉をひそめる。確か、いつかの算数の授業でやったことがあるような気がする。いくつかの選択の中、誰が本当のことを言っているのか当てるゲーム。勉強はあまり好きではないが、この分野だけはパズルみたいで面白いなと思った記憶があった。
 ただ今回は、質問を自分で考えなければいけないこと。さらに本当のことを言う者が一人だけという点に注意が必要なのだろう。慎重に、質問の内容を精査しなければなるまい。

『ドアに鍵はかかっておりまセン。ドアを開けて問いを行うと、全てのロボットが“本当のこと”を語りマス。ただし、ドアを開けるとトラップが作動する可能性がありマス。それによって大きな怪我をしたり、命を落とす危険もあることに留意してくだサイ』
「なっ……!」
『出口は、ロボットが配備してある後ろのドアとなりマスが。間違ったドアに入っても、当然トラップは作動しマス。勿論、ドアを無理やり壊したり、ロボットを破壊したりするようなルール違反の行為を行えば即失格、その場合もトラップが作動して処刑されますのでご注意くだサイ……』

 予想できた範囲ではある、が。それでも滅茶苦茶すぎる。
 質問を考えるのも自分でやれ。どのドアを開けるかも自分でやれ、とは。普通の選択問題とは、趣が大きく異なっているではないか。

『ちなみに、ルール違反をした人がどうなったかは、過去のゲームの様子を見ていただければわかるでショウ』

 声がそう告げた途端、左側の壁に再びプロジェクターのごとく映像が浮かびあがった。一人の男が、部屋の中でイライラと頭をかきむしっている。彼の目の前にも、六つのドアが。同じゲームをさせられているのは間違いなさそうだ。

『わかんねーよこんなの!くそ、どれが本物の出口なんだよ畜生が!』

 部屋の中では、わん、わん、という音と共に赤い光が点滅している。男はしばしイライラと歩き回ったところで、そうだ!と名案を思い付いたように顔を上げた。

『トラップごと、ドアを壊しちまえばいいんじゃねえ!?そうだ、それがいい。全部のドアとトラップぶっ壊しちまえばよ、どれかは出口に繋がってるっつーことだろ!?トラップが壊れてりゃ、何も怖いことはないもんな!!』

 彼は己の腕輪に触れた。どうやら、能力を使って強引に解決するつもりであるようだ。そういうのをフラグって言うんだけど、と逢花は冷や汗をかきながら映像を見つめる。

『よし、“爆弾”作動!』

 まず赤いドアに触れると、彼は能力名らしきものを唱えた。そしてすぐさまドアから遠く離れた場所まで退避する。数秒後、轟音とともに吹き飛ぶ赤いドア。どうやら、己が触れたものに見えない爆弾を仕掛けることができる能力、らしい。数秒後に大きな威力で爆発する、といったところか。相手に触れなければいけないリスクはあるが、火力は申し分なさそうだ。

『これだけ派手に吹き飛ばせば、中のトラップも粉々になってるはずだろ!ふん、面倒な謎解きなんかやってられるかってんだ!』

 彼は満足そうに笑うと、そのまま赤いドアだった部屋の中へと入っていくその奥がどのように破壊されているのか、焼けただれているのかどうかなどは自分達の角度からはわからない。なんせ、映像は部屋を斜め上から撮影したものであるからだ。
 そして、予想できた惨劇が。

『げぼっ!?』

 濁った男の悲鳴が、中から響く。次にウイイイイイイイイイイイン、というチェーンソーが動くような音が響き始めた。

『ひ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!?な、なんで、なん、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 あっという間に、悲鳴は断末魔へと変わった。何かの機械が動く音と共に、バキバキ、ともねちょねちょ、ともつかぬ音色が断続的に響く。昔テレビで見た、古い精肉工場の音だ、と思ってしまい――逢花は思わず口元を抑えた。部屋の中で、恐らく人間がハンバーグにされている。音がひびくたび、ねっちょりとしたねばっこい血が、広間の中に飛び散っては跳ねていくのだ。赤いドアの空間の向こうは、一体どれほどの惨事になっているのか。

『ルール違反デス』

 アナウンスが繰り返し、赤いサイレンと共に響く。

『ルール違反デス。ルール違反デス。ルール違反デス。よって、参加者ナンバー168328号、処刑となりまシタ。繰り返しマス……』

 最後に、何か塊のようなものがべしょり、と部屋の中から吐き出された。とても小さくて見づらいが、五本の突起がついていることだけは見て取れる。切り刻まれた人の、手首から先なのだ。それがわかってしまい、逢花は吐き気を強引に飲み込む羽目となった。本当に、嘔吐しなかった自分を褒めたいほどである。

『おわかりになりましたカ?』

 映像が消失するころには、全身にびっしょりと汗を掻いていた。

『正攻法で攻略すれバ、貴方がたは助かりマス。それでハ、健闘を祈りマス』

 何が健闘を祈るだクソッタレ。口の中で汚い罵倒を噛み砕いた。本当に、連中は人の命を命とも思っていないらしい。こんな映像を小学生に見せるなと心の底から思う。確かに、実際に自分が見たのはほぼ血飛沫だけで、人が残酷にこねられている様をはっきり見せつけられたわけではないけれど。

「……相変わらず、甘いゲームはさせてくれないようで」

 ずっと黙り込んでいた葉流が口を開いた。

「正攻法で、ですか。……そう思うなら、ルールは全てはっきりと口で教えて頂きたいところですね」
「え?」
「わかりませんか?」

 彼の顔は険しい。ドアを指示しながら、このゲームですけど、と続ける。

「算数やパズルでやったことがあるならなんとなく想像がつくかもしれませんが……パズルなどでは、質問とその回答が先に示されていることが多いですよね。一つのドアにつき一つずつ答えが示されていて、“嘘をついている者が一人いる”とか“本当のことを言っているのは一人しかいない”とかそう記載があるのが一般的と思います。……そう、このゲームは、質問回数が限られていなければ成り立たないんです。何故なら一つのドアのロボットに対して無限に質問ができてしまうのなら、答えに到達することは非常に簡単になってしまうから」

 言われてみればその通りだ。
 それこそ赤いドアのロボットにばかり、“青いドアは出口か?”“黄色のドアは出口か?”みたいに質問を繰り返して行けば――赤いドアのロボットが言っている言葉が本当か嘘かに限らず、容易く出口を見つけ出してしまうだろう。何故なら本当ならば、一か所だけの出口を正確に答えるだろうし、嘘ならば偽物の出口を全て“出口である”と答えるに決まっているからだ。

「言われてないけど、回数制限がある可能性が高いってこと?」
「僕はそう考えてます。同時に、見えないけれどタイムリミットがある可能性も高いのではないでしょうか。先ほどの映像では、赤いサイレンが鳴り響いていました。一定時間以上部屋に滞在するか、一定回数以上質問をするとサイレンが鳴り響き警告をする……仕組みである可能性は非常に高いと思いますね」

 なるほど、ルールは全部教えろとも言いたくなるだろう。なんとも不親切設計すぎる。正確なタイムリミットも、回数制限も教えてくれないとは。

「どんな質問をするのかは、慎重に考えなくちゃいけない。でも、のんびり時間をかけているわけにもいかないってわけか……」

 さらに、考えるべきことはもう一つある。
 ドアを開けて、“問い”を行うべきかどうか、だ。アナウンスは言った。ドアを開けて行う質問には、どのロボットも本当のことを答えるだろう、と。ただし、その際にトラップが作動して死ぬ可能性があるので注意せよ、と。

――回数制限がややこしいな。全部のドアの住人に一回ずつ質問をするのは多分セーフ。でも、それはドアを開けて質問した回数が含まれるのか、どうか。……含まれると思っていた方がいいのかな、これは。

 勿論最終手段として、イチかバチかで六つのドアの一つに突撃して出口を目指してみるというのもあるだろう。ただ、六分の一という、けして高くはない確率であることを忘れてはいけない。せめて、ある程度ドアの数を絞ってからでなければお話にならないだろう。

「恐らくですが……本当の出口、に繋がるドアにはトラップがないか、死ぬ心配のない軽微なトラップしか仕掛けられていないと思われます。せっかくの正解を見つけたのに、ドアを開けた途端死んでしまってはゲームの意味がありませんから」
「あー……確かに」
「しかし、それを根拠にドアをかたっぱしから開けていくのは到底お勧めできません。あの物言いだと、六つのうち最低でも一つは即死トラップでしょうから」
「だ、だよねー……」

 その上で、考えなくてはいけない。
 どのドアに、どの質問を投げかけるのかどうか。ただし、ノックをした上で帰ってくる質問は、六分の五の確率で“嘘”であることを留意した上で。

「五つのドアに、ノックをして質問。一つのドアを開けて直接質問。……恐らくその数ならば、回数制限にギリギリ引っかからないでしょう。六つのドアすべてにノックごしに質問をした上で、ドアを開けて質問をするのも許されるのかどうか……は少々不確定ですしね」

 同じことを葉流も思っていたらしい。その上で、と彼は続ける。

「質問は相談して、慎重に決めましょう。……まずは逢花さん、あなたならどのドアに、どんな質問をしますか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

処理中です...