焔鬼

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<22・封印。>

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 記念館に来て大正解だった。
 どうして焔鬼様に願いを叶えて貰おうとすると殺されるのか――誰かが間違った儀式を広めていたと考えれば筋が通る。

「焔鬼様の封印、って名前だったから勘違いしてたんだね、みんな」

 梨華は呻いた。

「焔鬼様が封印されてるんじゃない。焔鬼様の力によって別の何かが封印されているのを壊す儀式を、怪談として広めた馬鹿がいたんだ……!」
「じゃあ、その怪異が、自分の空間に古鷹さんや磯風さん、巻雲さんを引きずり込んだってことだかんね?」
「そうだと思うよ、マイ。……やっぱり学校関係者が怪しい。超絶怪しい。学校にそんなやべーなにかを封印したものを運び込んで、もしくは利用して、みんなが呪われるような噂流すなんて!」

 るりはが「誰から儀式を聞いたのか」を覚えていれば話は早かったのに。そう考えたものの、すぐに「そうでもないか」と梨華は思い直した。
 そもそも噂というのは、発生源を特定するのが非常に困難である。
 誰かがなんとなく話しているのを耳にしたとか、知り合いの知り合いが言っていたから、とか。そう言われたら、どう頑張ったところで大本に辿り着くことは不可能だ。
 そもそも噂を広めた人間は面白半分であり、もう一度封印する方法なんてものは知らない可能性もある。人間の犯人に対しても非常に腹立たしい気持ちでいっぱいではあるが、今はまず一刻も早くるりはを救うことを考えなければいけない。
 もし、地下の呪物の正体が焔鬼様自体でないのなら。それこそ、神社の人にヘルプを求めても敵対しない可能性が考えられる。取れる選択肢も増えるというものだ。

「あの、ちょっと疑問なんだけど、梨華ちゃん」

 マイが首を捻って言う。

「二つほど引っかかってることがあって。やばい怨霊が箱に封印されていた。その封印を解く儀式を間違ってやった人達が呪われた……ここまではいいよ。でも、なんでそんなやばい箱とナイフが学校にあったんだろ。学校絡みの怨霊なのかな。それに、人を夢の中に引きずり込んで殺すなんて、相当強い怨霊じゃないとできなさそうだし……大体、焼き殺す、ってのはなんか焔鬼様のやり方っぽくない?だから、みんな別のオバケじゃなくて、焔鬼様の天罰だと思ったんだかんね?」
「あー……」

 確かに、矛盾が生じる。焔鬼様の力で封印されていたはずの怨霊に、まるで焔鬼様が手を貸しているようではないか、と。
 ともすれば、怨霊にも焔鬼のように、特定の対象を焼き殺すパイロキネシス的な力が備わっていたのだろうか。
 封印を直接解いただけではない、同じ部屋にいた人間をも異空間に閉じ込めて神隠しを起こす。最終的には焼き殺してその死体を現実世界に投げ戻す。――よくよく考えてみると、ちょっと凄い怨霊程度でできる所業なのだろうか?という疑問は残る。
 いや、梨華はその手のオバケが何をどこまでできるかについては詳しくないので、あまりアテにはならないのだが。

「あたし、やっぱり焔鬼様が無関係とは思えなくて」

 困った顔で続けるマイ。

「レンがさ、自分が見えちゃうタイプだからっていうのもあって、結構オバケ関係について調べてて知識も豊富なんだけど。オバケにできることの範囲ってわりと決まってるっていうんだよ。ほら、ラップ音とか、ポルターガイストってあるじゃん?音鳴らして住人に知らせたり、椅子とか花瓶とか動かしちゃったりとかさ」
「ああ、なんか心霊番組とかで見たことある気がするわ」
「オバケって、ようは死んだだけの普通の人間でしょ?人間、死んだだけでそういろんな悪さができるのかっていうと、レンいわく『そんなわけない』んだってさ。死んだだけで相手の心の中まで見えるようになったり、超能力で人を殺したり……っていうのは、死んでからものすごーく時間が過ぎた地縛霊とか、あと生きてる時からなんらかの強い素質があった人間に限られるっていうか」
「ほうほうほう。なんか興味深い話だねソレ」

 マイが何を言いたいのかわかった。つまり、今回起きている出来事は、ラップ音やポルタ―ガイストとは比較にならない、人間の幽霊ごときができる範疇を超えているということだ。

「複数の悪霊が集まって混ざり合って、大きな集合体になったならその限りではないみたいだけど。……るりはちゃんが見た箱って、抱えられるダンボールくらいだったって話だったよね?そのサイズに収まるくらいのオバケが、複数の怨念の集合体ではないんじゃないかなーって。大体、異空間にオバケが神隠しっぽいのをするのが超絶難しいらしいよ。生身の人間が壁を越えられるようにするだけでとんでもないパワーなのに、別の空間に連れ去っちゃうってどんだけ?ってかんじだかんね」
「なるほど。箱のサイズ云々で怨霊の強さが図れるかはともかくとして……神様の力でもなければ難しそう、か」
「うん」

 なら、やはりもう少し情報を集める必要がありそうだ。まず、その怨霊とやらの正体を突き止めなければいけない。
 二人は再び展示から情報を拾う作業に戻った。焔鬼様の儀式について、伝説について、この町の成り立ちについて。そして、過去儀式で使われたとされる道具や、神社の構造についてなど。さらには町全体や神社単体のミニチュアなんてのもあった。
 だが一番大切なのは、学校についてだ。そして、この町に封印された別の怨霊や邪神の類がいなかったかどうか。

「!」

 二人は同時に、一つのパネルの前で足を止めていた。それは、学校の成り立ちについてまとめたものである。
 自分達が通う学校の建物はどうやら二度、建て直しを与儀なくされていたらしい。一度目は、空襲でまる焼けになってしまった時。この時はまだ中学校ではなく小学校だったらしい。二度目は老朽化が進んで、木造建築の校舎をコンクリート造りに替えた時だ。
 そんな現・中学校で元小学校の地下にはかつて、人がたくさん死んだ防空壕があったという。

「ねえマイ。磯風さんたちがさ、学校の地下室で箱を見つけた、みたいなこと言ってたよね?」

 ちょいちょい、とマイに手招きしながら告げる梨華。

「その地下室ってさ、元防空壕だったぽくない?この記述だと」
「……それっぽい、んだかんね」
「だよねえ……」

 防空壕、というものの概念が梨華にはよくわかっていないが。空襲を避けるため地下に掘った穴、をすべからくそう呼ぶのであれば、学校の地下に掘られていた穴も間違いはないのだろう。
 そして戦争が始まって「こいつはやべえ」となって慌てて掘った防空壕は少なくなかったはず。そういった防空壕の中に食料品が備蓄されていたとは考えづらく、頑丈なつくりになっていたかといえばそれも微妙だったことだろう。当時は今のように、きっちりと計算して穴を掘れる大掛かりな機械もなければ、安全性を図る基準もなかっただろうから尚更に。
 実際、学校の地下にあった防空壕も作りは相当荒いものであったらしい。
 空襲の折、先生が中心となって子供達や近隣の人々を防空壕に誘導して避難したようだが、その防空壕には大きな欠陥があったようだ。つまり、閉めたまま、扉が開かなくなってしまったのである。
 そもそも上の校舎が崩壊して入口が埋まってしまったら、そのようになることは想定できたわけで。校庭ではなく、屋内に防空壕を作ってしまった時点で失敗だったのでは?と思わなくもなかったが。

「防空壕の中で、たくさん人が死んでるんだ……」

 梨華はぽつりと呟いた。

「上の校舎が激しく燃えて、扉が開かなくて……そのまま地下で一酸化炭素中毒になって、そうでない人は焼き殺されて……」

 校舎の瓦礫を撤去したあとでようやく、地下防空壕の扉も開かれたが。どうやら、中にまで焔は到達してしまっていたらしい。防空壕の中には、まるで炭のようになった大小さまざまな遺体が積み上がっていたという。
 さすがにそこまで生々しい展示はない。だが遺体を撤去したあと、あちこち焼け焦げた防空壕の内部の様子は写真として貼りだされていた。

――こんな狭いところに、何十人も閉じ込められて、焼き殺されて……どんだけ苦しかったんだろう。

 そう考えると胸が痛くなる。こんな死に方をしたならば、その人々が怨霊化してしまってもおかしくないかもしれない。
 しかし、どうして火傷まみれの女の姿で現れたのかは気になる。この防空壕で死んだ人、ではないのだろうか。

「ね、ねえ梨華ちゃん!見て!」

 マイが声を上げた。

「校舎の一回目の建て直しの時……妙な事故とか、幽霊の目撃情報がたくさんあったって。これじゃない!?」
「ほんとだ……」

 彼女が指さすパネルを注視する梨華。
 防空壕の遺体をすべて弔って、校舎を再びその土地に建て直したあと。工事中から、妙な出来事が多発したようだ。木材が落ちてきて怪我をする作業員がいたり、突然壁に穴が空いたり。出来上がった校舎でも、生徒たちや先生たちが『髪の長い、火傷まみれのモンペ姿の女』を目撃したという情報が多発。鏡に映ったのを見たけど振り返ったら誰もいなかった、なんてこともあったらしい。
 そしてその女に腕を掴まれると、火傷したように爛れる、とも。

「……目撃した人は、彼女が誰なのかを知っていた人もいた。……防空壕で焼け死んだ、“高雄文江たかおふみえ”先生じゃないか、と」

 高雄文江。
 死んだ人であるはずなのに、妙にくっきりと写真が出ている。長い髪を背中でまとめた、昔ながらの大人しそうな美人の先生だ。享年、二十九歳。彼女は率先して防空壕に子供達を誘導していた。防空壕が満杯になったとのことで入れなかった人には、ごめんなさいと何度も頭を下げている姿が目撃されている。
 また、彼女は教員になったが、祖父が神社の神主だったとのこと。――つまり血筋的には、霊的な素質が十分備わっていた、ということだ。生前幽霊を見たと話していたこともあったという。

「彼女は誰かを恨んで彷徨っているようだ、と神主が言った。そこで、焔鬼様の儀式を用いて彼女を箱に封印し、地下の防空壕後とともに封じた……ってことは、箱とナイフは最初から地下にあったのか!」

 確かに、るりはの話とも一致するところはある。どうやら沙耶は、女の幽霊に腕を掴まれたところから火傷が広がって、それで全身が燃えて死んでしまったようだと。腕を掴んだ人に火傷をさせる、それくらいの力は元々あった地縛霊ということだ。
 だが、わからない。封印される前と現在で起きている出来事が明らかに異なる。彼女は現実の世界で幽霊として出現してはいないし、起きている出来事の深刻度は総じて現在の方が上だ。
 まるで、彼女の恨みを、力を、誰かが強化したかのような。

「……レンくんたちと話をしよう」

 梨華はマイを振りかえり、告げた。

「例の地下室とやらをレンくんに見て貰えば、何かわかるかもしれない」
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