焔鬼

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<21・信仰。>

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 聞いた通り、今日は記念館は普通に開いていた。
 平日ということもあって人影はまばら。中学生かつ地元民は二重の割引もあってたった二百円で見学することができる。梨華とマイはさくっと受付でお金を払ってチケットを貰うと、目的の情報を探し始めたのだった。

「私、やっぱまだこの町に来て日が浅いからさ。知らないこと多いんだよね」

 梨華はなるべく明るい声を作って言う。

「勉強は好きじゃないけど、これから長らく住む土地なわけですし!こういうところ、新鮮だし興味あるよ。まあ、今回はオバケの正体を調べるっていうアレな動機だけどさー。いろいろ案内してよ、マイ。あんたは小学校の時から、社会科見学とかで来てるんじゃないの?」
「うん、まあ、そうだね……」
「ああ、でも社会科見学って短い時間でぱっぱと見なきゃいけないから、あんま覚えてないってのもありそう。とりあえず先に進もう」
「うん……」

 やっぱり、マイは元気がない。心配と同時に、少しだけ不思議でもあった。
 確かに、古鷹未散の死体を発見してしまったのは恐怖体験だっただろう。でも、現状一番危険なところにいるのはマイ本人ではないはず。そして、古鷹未散も巻雲沙耶も、彼女は親しい人間ではなかったはずなのだ。
 それなのに、ある意味るりはより落ち込んでいるように見えるのはどうしてだろう。今日の用事は記念館を見るだけで、それ以上何かをする予定はない。危ない真似をしている最中でもないというのに。

「ねえ、梨華ちゃん」

 事情を尋ねようとした時だ。大きな彫像の前に立って、マイは告げる。

「あたしが何で怖がりなのかって、梨華ちゃんに話したことあるっけ」
「え?……いや」
「オバケって、信じてない人間にとってはただの妄想で、架空の存在でしかないんだよね。妖怪も神様もそう。……怖いのは、本当にいるんだって思ってるってことなんだかんね。あたし、弟がアレだからさ。昔から、不思議な出来事ってのはあるんだって知ってたしさ……」

 まあ、姉のマイは弟のレンの霊感?らしき能力をたびたび目撃している。
 ありえないことは、ありえない。幽霊もいれば、超能力だってこの世に存在して然り。幼い頃から信じる土壌はあったというわけだ。

「それに加えて。この焔ヶ町に住む人間にとって焔鬼様っていうのは……すごくすごく、特別な守り神様なわけ」

 彼女が見つめる先には、焔鬼を象った彫像がある。ガラスが光ってしまっているので少々見づらいが、木製であるようだった。焦げ茶色の木に、細かな溝が多数掘られている。一見するとそれは、鬼のお面をつけたお釈迦様のような不思議な姿をしていた。さらには、背中に翼のようなものまで生えていて、天使っぽい雰囲気まで醸し出している。どちらも神道ではない別の宗教だというのに。
 鬼の面は恐ろしい顔をしているのに、妙な神々しさのせいかちっとも恐怖心を感じない。説明文を見れば、有名な彫刻家が作った想像上の焔鬼様の姿、であるらしい。
 焔鬼様の御神体は、神社の奥にしまわれたまま一般人の目に入ることがない。そのせいで、焔鬼様がどのような姿をしてるのか、住んでいる人にも明確なイメージがないのだろう。

「あたし達焔ヶ町の住人は、焔鬼様に守られている。本当の本当に困った時は、焔鬼様にお願いすれば助けて貰える……そう教わってきたの。怖いことなんでしない、優しい神様だって。人間が大好きで、人の願いを叶えることに喜びを感じるような神様なんだって」
「自ら生贄になったんだっけ。焔鬼様の元になった男の子は」
「そう。それが伝説だかんね。……焔鬼様は、みんなのためなら命さえ捨てられる男の子が神様になったもの。だからちっとも怖くない。あたし、そう信じてたし……だからこの町で安心して暮らしてたんだけど」

 なるほど、言いたいことはわかった。
 彼女にとって一連の出来事は、そんな焔鬼様のイメージが根幹から揺らぐものだったのだろう。
 もし焔鬼様が邪神になってしまったら。彼女は怖くて、故郷に住み続けることさえままならない。もし、調査によってその真実を知ってしまったら――恐らく、それに怯えているのだ。

「あたしは、レンとは違う。人のために、本気で頑張ろうとか思えるほど強くないし、優しいやつでもない。……磯風さんのことも見捨てて、さっさと逃げようとした。……そういうやつなの。そんな自分が、ものすごく嫌でさ。今、超絶自己嫌悪っていうか」

 同時に、儀式をしなければ自分達は安全、と口走ってしまったことを心底後悔しているということらしい。なんというか、マイらしいといえばらしいではないか。
 だって。

「マジで優しさの欠片もないやつは、そういうこと後悔したりしないと思うけどね、私は」

 ぽんぽん、と梨華はマイの肩を叩いて言う。

「自己保身のために人に嫌なことをしちゃった、って後悔するのは優しい人間だけだよ。自分を顧みる勇気をもっている人間だけだよ。私はそう思うけどな」
「梨華ちゃん……」
「それに、私はあんたが、人の気づかいができるいいやつだって知ってるから。あんま、自分を責めるんじゃないよ。つーか、あんた自身でも許さないからね、私の親友をイジめるのは!」



『こんにちは!あたし、五十鈴マイ!よろしくだかんね!』



 あの時マイが声をかけてくれなかったら、今の自分は此処にはいない。
 親友、なんて言葉は非常に照れ臭かったが、それでも今日はあえて勇気を出して口にしてみた。そんなちっぽけな言葉一つでも、目の前の彼女を救うことができれば儲けものなのだから。
 恩返しがしたい。そのためならちょっと危ないことでもできる自信がある。そう。
 退屈だけれど、平凡だけれど――当たり前のように続いていく仲間たちとの日々がどれほど貴いか。自分は、この町に来て誰より実感したのだから。

「……なんか、随分クサいこと言うじゃん」

 ふふ、とマイは少しだけ笑って言った。

「ありがと。……もうちょい、気合入れて頑張るんだかんね。レンも磯風さんも頑張ってるのに、年上があんまみっともないところ見せらんないのは確かだし」
「そうそう。あのおチビちゃんも頑張ってるんだから!お姉ちゃんもかっこいいところ見せないとねー」
「ちびちび言うとあいつマジで拗ねるかんね?本人は最終的に190cm超えを目指してるっぽいから!」
「お、おう。それは大変な……」

 冗談が言えるようになれば、あとは大分楽だ。二人は顔を見合わせてくすくすと笑い合ったのだった。



 ***



 焔ヶ町と焔鬼の歴史について記念館で一通り見て回ったが、やはりあの学校と焔鬼に直接の関連はないようだった。焔鬼の伝説についても、新しい情報はない。やはりご神体は神社に保管されているし、一般公開はされていないとのこと。ご神体が盗まれたなんて事件も過去には起きていない。ただ。

「焔鬼様の……神器?」

 梨華は思わず声に出していた。展示の中に、妙なものを見つけたからである。
 それは、青銅でできたナイフと木箱。木箱には、側面に蛇がうねるような妙な文様が墨で描かれているらしい。
 焔鬼様の封印、で噂になっていたあの神器がこれではなかろうか。



『それが、この学校に封印されているんだとかなんとか。それで、『焔鬼様の封印』。箱を見つけたら、願い事を言いながら刃を箱に突き立てる。すると、焔鬼様が何でも願いを叶えてくれるんだそうです。なんか怪談というよりおまじないっぽいんですけど』



「これだよね?マイ」
「う、うん。怪談にあったっていう、アレ。……でも、噂にあるのとちょっと違う」

 解説によると、この神器は、焔鬼様を封印するものではない。焔鬼様の力を借りるための神器だというのだ。使い方次第で様々なことができる。焔鬼様に願いを叶えて欲しい時は、箱とナイフを作ったあとで、箱の中にナイフを入れて祈を捧げるのが正しい方法だというのだ。残念ながら、その祈の言葉が何なのか、ナイフを作るにはどうすればいいのかという技術が現代は失われて久しいらしいが。
 つまり、怪談で聞いていたのは、正しい儀式の方法ではなかったということである。
 この箱の別の使い方。それは、箱の中に悪しきものを封印する、ということ。悪しきもののヒトガタを入れてナイフで箱に傷をつけ、それに縄をかけて祈を捧げると、焔鬼様の力で悪いものが出てこれないように閉じ込めてくれるという。逆に封印を破りたい時には――ナイフで縄を切り、箱に突き立てる。怪談にあった方法は、まさにこれに近いのではないか。

――何故学校にあの箱とナイフがあったのかはわからない、でも。

 理解できてしまった。梨華は唾をごくりと飲み込む。

――誰かが、願いを叶える方法と偽って……封印を破る方法を広めたんだ!怪談の一つとして!!

 あの箱の中には、焔鬼様ではない、何か別の悪霊か邪神が閉じ込められていたのではないか。
 それが破られてしまったのかもしれない。誰かが流した、偽りの怪談によって。
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