13 / 19
<13・取り憑かれる少女>
しおりを挟む
積み上がった椅子をよけてみたり、跳び箱を力技でどかしてみたり、ボールが入ったカゴを引っ張り出してみたり。そういうことを繰り返してみたが、結局目に見える位置にある窓とドア以外に、小屋の中に出入り口はないようだった。もしかしたら、二階に他にも窓が存在する可能性もあるにはあるけれども。
硝子も割れているようだし、基本的に窓というものは内側からしか鍵がかけられない仕組みになっている。ならばこちらから鍵をあけてしまえば、なんら問題なくそこから外に出られる筈であったのだが。
「うーんっ……うーん!」
あかるは窓を開けるべく、ぐいぐいと左に引っ張った。いわゆる“引き戸”型のスライド式窓である。レールに多少ゴミは詰まっていたが、ティッシュで拭けばかなりマシになったし、稼働を妨げるほどのものではないはずだった。
しかし、いくら引っ張っても叩いても、窓はぴくりとも動かない。鍵は開けてあるはずだというのに。
「何で、開かない、の!もう!」
段々本気で泣きたくなってくる。窓枠が歪んで開かなくなってしまっているだけなのかもしれない。でも、どうしてもこの場所の怪談を思い出すと、“本当にオバケに妨害されているのでは”という恐怖心が拭い去れないのだ。
確かに、怪談通りなら、無理心中をした女の霊とやらはこの小屋を壊そうとする人間以外に危害を加えることはないはずである。今までこの場所に誰かが閉じ込められた、なんて話も聴いたことはない。ならばこれは霊障などではなく、純粋に建物の老朽化の可能性が高いということになるだろう。
――で、でも。今まで誰も被害に遭わなかったからって、これからもそうとは限らないんじゃないの?
祈るような気持ちで、ぐいぐいと窓を引っ張る。
――それに、私が麻乃たちに聴いた話が間違ってる可能性だってあるじゃんか。本当はもっと恐ろしい怪談だったら?そもそも、本当に被害に遭った人はいないの?神隠しされた人が、この小屋のせいだってカウントされてないだけとか、そういうこともあるんじゃ……!
「緑さん、もういいって」
「で、でも!」
「手を痛めちゃいますよ、緑さんの力で引っ張っても無理なら、やっぱりダメなんですって」
「うう……」
怖がりのはずなのに、何故そんなに夢叶は冷静なんだろう。彼女に止められ、渋々あかるは窓枠から手を離す。
既に、硝子を割ることは試みた後だった。しかし、椅子を振り上げて叩きつけても、罅割れているはずの窓ガラスはうんともすんとも言わないのである。穴があいている部分から助けを求めてもみたが、そもそもこの旧体育倉庫は校庭の端の端にあるのだ。放課後で、生徒も多くが帰ってしまったはずである。警備員でも見回りに来てくれない限り、自分達の存在にも気づいてくれない可能性は高かった。
「やっぱり、こんなのおかしいよ……」
再びスマートフォンを見る。
液晶の最上部に表示されているのは、無情な“圏外”の文字だった。どうして、何で。頭の中でぐるぐると同じ言葉ばかりが回る。閉鎖空間とはいえ、ここは地下でもなんでもない学校の敷地内なのだ。何故、突然圏外になるなんてことになるのだろう。これでは本当に、悪霊が自分達を閉じ込めて、悪さをしようとしているようではないか。
いや、仮に老朽化のためなのだとしても。
このまま小屋が潰れて、ぺしゃんこなんて結末は洒落にもならないのである。そうでなくとも誰の助けも呼べず閉じ込められたままでは、いずれ餓死してしまう結果にしかならないだろう。夏の始まり、それぞれ飲み物は持ってはいるが、それでも1リットルの水筒を一本ずつ。どちらも残り半分程度しか入っていない。食べ物以上に、水を飲まずに生きられる時間は少ないと聞いたことがある。カラカラに干からびて死ぬなんて、どんだけ惨めなことであるか。
「やっぱり、二階を見てみるしかない気がします」
夢叶が視線を投げる先には、二階らしき空間へ続くハシゴが。一人ずつしか登れなさそうな、細い木製のハシゴである。正直気は進まない。それこそ、足をかけた瞬間にバキッ!と壊れるなんてことも十分にありそうである。
というか。それ以上に、こんなホラースポットの二階や屋根裏がまともな場所だとは思えないのだ。なんせ。
「い、嫌だよ……!だって、こういう場所のお約束じゃん、上に明らかにヤバげな神棚があるとか!あるいは御札だらけで封印された箱があるとか!見たら呪われるものでも置いてあったらどうすんの!?」
もう既に呪われてる気がしないでもないが、それはそれ。これ以上フラグなんぞ立てたくはないのである。
「だ、大体……この下の部屋でさえ、こんなばっちいのに!上の階はゴキブリとネズミだらけでもっと不潔かも……っ」
「私だって嫌ですけど、上からだったら出られる場所あるかもしれないんですよ?このまま下で干からびるまで待ちます?」
「う、ううう……!なんでそんなぐいぐい行けるんだよ茶木さんっ……」
案外、腹をくくれば強いタイプなのか、彼女は。正論なのは確かだが、今はその正論が滅茶苦茶きつい。まっすぐ見つめられてそんなことを言われてしまっては、あかるもこれ以上拒絶することはできなかった。本気で生き残りたいのなら、脱出に繋がる方法は全て探さなければいけないのも確かなことであるのだから。
この旧体育倉庫を見に行く、ということは夢叶以外には誰にも言っていない。そもそも本来立ち入り禁止の場所なのだから、誰かに言ったら叱られる未来しか見えないのである。つまり、このままここで待っていても、見回りの人が来てくれない限り見つけて貰えない可能性が高いということだ。もっと言えば、その見回りの人もこの中に子供が二人閉じ込められているなんて、そんな想定をしてくれるかどうか。最初に外から覗いた時にも思ったが、ここは狭い割に見通しの悪く、光が射しこみにくい空間である。近くを通っても、気づいてくれないことも十分あり得るのではなかろうか。
――こんなとこで死ぬなんて、嫌だ……!
そう思うなら、取りうる選択肢は一つしかないと言って良かった。
「わ、分かった……行く、行くから……!」
「ですよね。それしかないですもんね。じゃあ私、先に上に登りますね」
「度胸ありすぎぃ……!」
ああ、そんな力強く言われたら、こっちは本気で逃げ道がないではないか。恨めしい気持ちで、すたすた歩いて行く少女の背中を見送る。なんだか本当に、人が変わったようだ。いいところのお嬢様は、こういう土壇場に強かったりするのだろうか。確かに、大企業の人とか政治家とか、そういう人たちが参加するパーティに出て挨拶するくらいの経験はありそうではあるけれど。
ぎしぎしと軋むハシゴを、夢叶はさっさと登っていく。恐怖心ってものがないのだろうか。ワンピース姿の彼女のパンツが見えないギリギリの位置に立ち、あかるはため息を吐いた。こうなってはもう、自分も腹をくくって行くしかない。
「ちゃ、茶木さん、そこどんなかんじー?汚くない?」
先に登った彼女の姿が見えなくなったところで、思わず声をかける。ほんの少し遠いところから、“大丈夫ですー”という声が聞こえてきた。大丈夫とは、一体どういう意味の大丈夫なのだろう。思ったほど不潔ではないということなのだろうか。
意を決して、あかるもハシゴに足をかける。みしり、と嫌な音が響いて思わず体が震えた。明らかに、自分の方が夢叶より体重が重いのだ。ハシゴが折れたり外れたりしませんように、と祈りながら一歩ずつ、ゆっくりと上へ登っていく。
――こ、こんだけ怖い思いしたんだから!何の成果もないとか、ありませんように!
人間、二階くらいの高さから飛んでもそうそう死ぬことはないと聞いたことがある。ならば二階に窓があってくれたら、そこから飛んで脱出するという選択もあるだろう。祈るような気持ちでハシゴを上りきったあかるは、途端落胆することになるのだった。
「……なんだ。これ、二階じゃなくて、屋根裏なんじゃん……」
そこはただ、だだっぴろい木の床の空間が広がっているだけの場所だった。天井は三角形の形になっており、屋根に穴が開いているのかあちこちから夕焼けの光が射しこんできている。ゆえに、真っ暗ではないのだが、相変わらず薄暗いことに変わりはない。ゴキブリ大量発生という最悪の事態はないらしかったが、それでも埃っぽい事実は変わりなかった。
「べっくしょん!うう、下より、埃やばい……」
四つんばいになってハシゴから上がると、膝も手もぬるっとしたもので汚れた。埃と雨漏りが混ざったようなもの、なのだろうか。べたべたで非常に汚らしい。
同時に、気づいた。下の部屋と違って、この屋根裏空間に積もった埃はほとんど足跡らしいものがない。ついているものはただ一つ、屋根裏空間の中心に立つ夢叶のものだけだった。真ん中付近は屋根の一番高い場所にあたるのか、そこの位置なら子供一人立つことも可能なのである。
「何も、ないね」
完全に徒労ではないか。怪しげな神棚や封印の類もないが、脱出できそうな窓も何もない。あかるがため息をついて言うと。
「そんなことないわよ」
え、と思った。聞こえてきた声は夢叶のものだ。しかし――明らかに口調が違う。
「意味はちゃんとあったわ。だって、今まで誰も此処に来てくれなかったんだもの。私はずっと上で待っていたのに、この学校の子達はみんな意気地なしよね」
「へ……へ?」
「礼を言うわ、緑あかるさん。貴女のおかげで、私は自分の夢が果たせそうなんだもの」
子供の声とミスマッチな、まるで大人の女性のような口調。あかるは目を白黒させた。夢叶がゆっくりと顔を上げる。長い髪の下から現れた白い顔に浮かんでいたのは、笑顔。ただし、唇の端をきゅうう、と吊り上げ、目を三日月のように歪めた――それはそれは歪な笑みだった。生きた、小学生の少女には到底似つかわしくない類の。
「や、やめてよ、茶木さん。そんな悪ふざけ……」
ひきっつった声で、告げると。少女はがくん、と首を横に傾けた。まるでマリオネットにでもなったかのように。
「悪ふざけかどうか……確かめてみる?いいわよ、私もずっと退屈していたから……ちょっとくらい、お礼に遊んであげても」
「ひっ……!」
次の瞬間。恥も外聞もなく、あかるは悲鳴を上げていたのだった。
硝子も割れているようだし、基本的に窓というものは内側からしか鍵がかけられない仕組みになっている。ならばこちらから鍵をあけてしまえば、なんら問題なくそこから外に出られる筈であったのだが。
「うーんっ……うーん!」
あかるは窓を開けるべく、ぐいぐいと左に引っ張った。いわゆる“引き戸”型のスライド式窓である。レールに多少ゴミは詰まっていたが、ティッシュで拭けばかなりマシになったし、稼働を妨げるほどのものではないはずだった。
しかし、いくら引っ張っても叩いても、窓はぴくりとも動かない。鍵は開けてあるはずだというのに。
「何で、開かない、の!もう!」
段々本気で泣きたくなってくる。窓枠が歪んで開かなくなってしまっているだけなのかもしれない。でも、どうしてもこの場所の怪談を思い出すと、“本当にオバケに妨害されているのでは”という恐怖心が拭い去れないのだ。
確かに、怪談通りなら、無理心中をした女の霊とやらはこの小屋を壊そうとする人間以外に危害を加えることはないはずである。今までこの場所に誰かが閉じ込められた、なんて話も聴いたことはない。ならばこれは霊障などではなく、純粋に建物の老朽化の可能性が高いということになるだろう。
――で、でも。今まで誰も被害に遭わなかったからって、これからもそうとは限らないんじゃないの?
祈るような気持ちで、ぐいぐいと窓を引っ張る。
――それに、私が麻乃たちに聴いた話が間違ってる可能性だってあるじゃんか。本当はもっと恐ろしい怪談だったら?そもそも、本当に被害に遭った人はいないの?神隠しされた人が、この小屋のせいだってカウントされてないだけとか、そういうこともあるんじゃ……!
「緑さん、もういいって」
「で、でも!」
「手を痛めちゃいますよ、緑さんの力で引っ張っても無理なら、やっぱりダメなんですって」
「うう……」
怖がりのはずなのに、何故そんなに夢叶は冷静なんだろう。彼女に止められ、渋々あかるは窓枠から手を離す。
既に、硝子を割ることは試みた後だった。しかし、椅子を振り上げて叩きつけても、罅割れているはずの窓ガラスはうんともすんとも言わないのである。穴があいている部分から助けを求めてもみたが、そもそもこの旧体育倉庫は校庭の端の端にあるのだ。放課後で、生徒も多くが帰ってしまったはずである。警備員でも見回りに来てくれない限り、自分達の存在にも気づいてくれない可能性は高かった。
「やっぱり、こんなのおかしいよ……」
再びスマートフォンを見る。
液晶の最上部に表示されているのは、無情な“圏外”の文字だった。どうして、何で。頭の中でぐるぐると同じ言葉ばかりが回る。閉鎖空間とはいえ、ここは地下でもなんでもない学校の敷地内なのだ。何故、突然圏外になるなんてことになるのだろう。これでは本当に、悪霊が自分達を閉じ込めて、悪さをしようとしているようではないか。
いや、仮に老朽化のためなのだとしても。
このまま小屋が潰れて、ぺしゃんこなんて結末は洒落にもならないのである。そうでなくとも誰の助けも呼べず閉じ込められたままでは、いずれ餓死してしまう結果にしかならないだろう。夏の始まり、それぞれ飲み物は持ってはいるが、それでも1リットルの水筒を一本ずつ。どちらも残り半分程度しか入っていない。食べ物以上に、水を飲まずに生きられる時間は少ないと聞いたことがある。カラカラに干からびて死ぬなんて、どんだけ惨めなことであるか。
「やっぱり、二階を見てみるしかない気がします」
夢叶が視線を投げる先には、二階らしき空間へ続くハシゴが。一人ずつしか登れなさそうな、細い木製のハシゴである。正直気は進まない。それこそ、足をかけた瞬間にバキッ!と壊れるなんてことも十分にありそうである。
というか。それ以上に、こんなホラースポットの二階や屋根裏がまともな場所だとは思えないのだ。なんせ。
「い、嫌だよ……!だって、こういう場所のお約束じゃん、上に明らかにヤバげな神棚があるとか!あるいは御札だらけで封印された箱があるとか!見たら呪われるものでも置いてあったらどうすんの!?」
もう既に呪われてる気がしないでもないが、それはそれ。これ以上フラグなんぞ立てたくはないのである。
「だ、大体……この下の部屋でさえ、こんなばっちいのに!上の階はゴキブリとネズミだらけでもっと不潔かも……っ」
「私だって嫌ですけど、上からだったら出られる場所あるかもしれないんですよ?このまま下で干からびるまで待ちます?」
「う、ううう……!なんでそんなぐいぐい行けるんだよ茶木さんっ……」
案外、腹をくくれば強いタイプなのか、彼女は。正論なのは確かだが、今はその正論が滅茶苦茶きつい。まっすぐ見つめられてそんなことを言われてしまっては、あかるもこれ以上拒絶することはできなかった。本気で生き残りたいのなら、脱出に繋がる方法は全て探さなければいけないのも確かなことであるのだから。
この旧体育倉庫を見に行く、ということは夢叶以外には誰にも言っていない。そもそも本来立ち入り禁止の場所なのだから、誰かに言ったら叱られる未来しか見えないのである。つまり、このままここで待っていても、見回りの人が来てくれない限り見つけて貰えない可能性が高いということだ。もっと言えば、その見回りの人もこの中に子供が二人閉じ込められているなんて、そんな想定をしてくれるかどうか。最初に外から覗いた時にも思ったが、ここは狭い割に見通しの悪く、光が射しこみにくい空間である。近くを通っても、気づいてくれないことも十分あり得るのではなかろうか。
――こんなとこで死ぬなんて、嫌だ……!
そう思うなら、取りうる選択肢は一つしかないと言って良かった。
「わ、分かった……行く、行くから……!」
「ですよね。それしかないですもんね。じゃあ私、先に上に登りますね」
「度胸ありすぎぃ……!」
ああ、そんな力強く言われたら、こっちは本気で逃げ道がないではないか。恨めしい気持ちで、すたすた歩いて行く少女の背中を見送る。なんだか本当に、人が変わったようだ。いいところのお嬢様は、こういう土壇場に強かったりするのだろうか。確かに、大企業の人とか政治家とか、そういう人たちが参加するパーティに出て挨拶するくらいの経験はありそうではあるけれど。
ぎしぎしと軋むハシゴを、夢叶はさっさと登っていく。恐怖心ってものがないのだろうか。ワンピース姿の彼女のパンツが見えないギリギリの位置に立ち、あかるはため息を吐いた。こうなってはもう、自分も腹をくくって行くしかない。
「ちゃ、茶木さん、そこどんなかんじー?汚くない?」
先に登った彼女の姿が見えなくなったところで、思わず声をかける。ほんの少し遠いところから、“大丈夫ですー”という声が聞こえてきた。大丈夫とは、一体どういう意味の大丈夫なのだろう。思ったほど不潔ではないということなのだろうか。
意を決して、あかるもハシゴに足をかける。みしり、と嫌な音が響いて思わず体が震えた。明らかに、自分の方が夢叶より体重が重いのだ。ハシゴが折れたり外れたりしませんように、と祈りながら一歩ずつ、ゆっくりと上へ登っていく。
――こ、こんだけ怖い思いしたんだから!何の成果もないとか、ありませんように!
人間、二階くらいの高さから飛んでもそうそう死ぬことはないと聞いたことがある。ならば二階に窓があってくれたら、そこから飛んで脱出するという選択もあるだろう。祈るような気持ちでハシゴを上りきったあかるは、途端落胆することになるのだった。
「……なんだ。これ、二階じゃなくて、屋根裏なんじゃん……」
そこはただ、だだっぴろい木の床の空間が広がっているだけの場所だった。天井は三角形の形になっており、屋根に穴が開いているのかあちこちから夕焼けの光が射しこんできている。ゆえに、真っ暗ではないのだが、相変わらず薄暗いことに変わりはない。ゴキブリ大量発生という最悪の事態はないらしかったが、それでも埃っぽい事実は変わりなかった。
「べっくしょん!うう、下より、埃やばい……」
四つんばいになってハシゴから上がると、膝も手もぬるっとしたもので汚れた。埃と雨漏りが混ざったようなもの、なのだろうか。べたべたで非常に汚らしい。
同時に、気づいた。下の部屋と違って、この屋根裏空間に積もった埃はほとんど足跡らしいものがない。ついているものはただ一つ、屋根裏空間の中心に立つ夢叶のものだけだった。真ん中付近は屋根の一番高い場所にあたるのか、そこの位置なら子供一人立つことも可能なのである。
「何も、ないね」
完全に徒労ではないか。怪しげな神棚や封印の類もないが、脱出できそうな窓も何もない。あかるがため息をついて言うと。
「そんなことないわよ」
え、と思った。聞こえてきた声は夢叶のものだ。しかし――明らかに口調が違う。
「意味はちゃんとあったわ。だって、今まで誰も此処に来てくれなかったんだもの。私はずっと上で待っていたのに、この学校の子達はみんな意気地なしよね」
「へ……へ?」
「礼を言うわ、緑あかるさん。貴女のおかげで、私は自分の夢が果たせそうなんだもの」
子供の声とミスマッチな、まるで大人の女性のような口調。あかるは目を白黒させた。夢叶がゆっくりと顔を上げる。長い髪の下から現れた白い顔に浮かんでいたのは、笑顔。ただし、唇の端をきゅうう、と吊り上げ、目を三日月のように歪めた――それはそれは歪な笑みだった。生きた、小学生の少女には到底似つかわしくない類の。
「や、やめてよ、茶木さん。そんな悪ふざけ……」
ひきっつった声で、告げると。少女はがくん、と首を横に傾けた。まるでマリオネットにでもなったかのように。
「悪ふざけかどうか……確かめてみる?いいわよ、私もずっと退屈していたから……ちょっとくらい、お礼に遊んであげても」
「ひっ……!」
次の瞬間。恥も外聞もなく、あかるは悲鳴を上げていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※noichigoさんに転載。
※ブザービートからはじまる恋
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる