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<15・探される少女>
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「ええ?あそこの鍵ぃ?」
用務員室は、体育倉庫がある場所からさほど離れていないところに位置している。校舎の一階の、はしっこのはしっこだ。刹那が匠たちと一緒に押しかけると、頭が禿げ上がった太っちょのおじさんは困ったように眉を潜めた。
「困るよ、あそこ子供は絶対近づけるなって言われてるんだから。大体危ない。危ないのはよくない、うん」
「そう思うなら、何でさっさと取り壊さないんですか」
「私にそんなこと訊かれても困るよ。大人にはいろいろ事情があるんじゃない?いろいろと。うん」
なんともテンプレートなお返事どうも、と呆れてしまう。危ないから近づくな、はある一定のお年頃のの子供にとっては“近づけ”と同義であると何故学ばないのだろう。行くな、遊ぶな、そう言われるとやってみたくなっちゃうのが小学生男子なのだ。そりゃ、真面目ないい子はその限りではないのだが、刹那も含めクラスの男子の大半は“やっちゃダメと言われると盛り上がってしまう”典型である。それは本当に危険な理由に、イマイチピンと来ていないからというのもあるのだろうけれど。
――絶対子供を近づけたくないなら、さっさと取り壊すか、もっと頑丈な柵でも作れっての。
あんなカラーコーンにロープ巻きつけただけの囲いと南京錠だけで、セーブできると思っているのがおかしい。というか、南京錠はどっか行っちゃっていたわけで。
「鍵なくなっちゃってたんです。それなのに、ドア開かないなんて意味不明なことになってて。もしかしたら友達が仲で閉じ込められてるかもしれないんです。俺達じゃ開けられないんで、おじさんなんとかしてください。他に鍵あるなら開けて欲しいです」
「でもねえ、本当にその子達そっちに入ったの?普通は近寄らないよ、あんなボロ小屋」
「おじさん知らないんですか?あそこ、学校の七不思議の有名スポットなんですよ?中で儀式をすると、好きな子と両想いになれるとか言われてるんです。女の子ならむしろ興味持ちそうだと思いません?」
「ええ?女の子の方が聡明だろ?しかも高学年だし。そんな馬鹿な真似しないと思うんだけどなあ」
ああいえばこう言う。これだから大人ってやつは頭が固くていけない。
「なあ、青海。これダメだって、諦めた方が……」
用務員の頑なな態度に、匠もついにそう声をかけてくる。しかし、ここで退くわけにいかないのが刹那だった。
これはもう、ほぼ直感のレベルだ。
あそこにあかるはいる。何故か、強く強くそんな気がしてならないのである。
「駄目だよ。今は夏だよ?あんなエアコンもないところに長く閉じ込められてたら、子供なんかあっという間に死んじゃうよ」
自分の記憶通りなら、二人はランドセルを持ったままだったはずだ。ならば水筒も持っているだろう、とは思うが。ランドセルに入れて持ち運べる水筒のサイズなどたかが知れたものである。この夏場にごくごく飲んだらあっという間になくなってしまう。そして、人間は水がなくなったら三日ももたないのだ。
勿論食べ物だってないだろうし、トイレだって困るはずである。特に男子と違って女子は、そのへんに立ってするなんてこともできないのだから尚更だ。命が助かっても、可哀相なことになっていたらどうしてくれるのか。
「その子達が閉じ込められてるって証拠でもあるの?ないだろ、うん」
おじさんは、危機感ゼロでぽりぽりと頭を掻いている。よっぽどあそこに近づくな、子供を近づけるなと言われているらしい。あるいは万が一本当に子どもが閉じ込められていたら責任を問われるのではと恐れているのかもしれない。が、そんな大人の事情なんぞ、それこそこっちは知ったことではないのだ。
仕方ない、やりたくはなかったが最終手段を発動するしかなさそうだ。
「……本当に、だめ?」
ぐいっ、とおじさんの前に近づき、目を潤ませて上目使いでお願いする。
刹那最大の特技、嘘泣きとおねだり。泣こうと思えば三秒もなく泣ける。自分子役に向いてるんじゃね、と時々思う所以だ。
「友達を助けたいんだ。女の子なんだよ?きっと今も怖くて泣いてるかも。俺だって、あんなところに閉じ込められて出られなかったら怖くて泣いちゃうよ。お願いおじさん、た・す・け・て?」
「――っ!」
おじさんの顔が、みるみるうちに赤くなった。男は大抵、どっかしらにロリコンの要素を持っている。そんな残念すぎる説は、案外的を射ているのかもしれない。噂によればこのおじさんも既に結婚していたはずなんだけどなあ、とちょっとしょっぱい気持ちになりつつ。
「し、仕方ないな!か、確認しにいくだけだからな、うん!」
それはそれ。今は作戦成功を喜ぶべきだろう。おじさんが真っ赤な顔を隠すようにして軍手を嵌め、鍵と道具箱を用意するのを見て刹那は内心ベロを出した。
せっかく持ってる武器ならば、使わなければ損というものである。
「お前、怖いな……」
青ざめた匠がぼそっと呟いたのは、とりあえず聞かなかったことにしよう。そう思った次の瞬間だった。
『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!』
天をつんざくような、少女の悲鳴。
すぐに気づいた、あかるの声だと。
「今の声!」
「お、おい!?」
友人達が止めるのも聴かず、刹那は一気に走りだしていた。悲鳴は時折途絶えながらも、物音と共に響き続けている。やはり、自分の考えは間違っていなかった。あかるは本当に、あの場所に閉じ込められていたのだと。
「あかるちゃん!」
雑草をかき分け、ドアの前に立つ。中から、どたんばたんと転げるような音が聞こえてくる。窓の中から覗き込むも、既に日が落ちた室内は真っ暗で殆ど何も見えなかった。何が起きているのだろう。助けて、こわい、やめて。そんな切実な声が響き続けている。おかしい、さっきからあかるの声しか聞こえてこない。夢叶と一緒にいたのではなかったのか。
「あかるちゃん、あかるちゃん!聞こえてる!?ここ開けて!!俺だよ、青海刹那!!」
どんどんとドアを叩いて叫べば、向こうもこちらに気づいた気配があった。
「お、青海君!?なんで……っ」
「なんででもどうしてでもいいから!ここ開けて、助けるから!」
「開かないのっ!」
どかっ!とドアの向こうから衝撃があった。彼女がドアを叩いたのか、あるいは物がぶつかったのか。
「開かないの……!何回も開けようとしたんだけど、全然ダメだったんだ!鍵なんかかけてないのに、ドアも窓も開かない!閉じ込められちゃってるの、お願い助けてっ!」
どういうことだ、とあかるの言葉に唖然とする。てっきり内側から鍵がかかっているから開けられないとばかり思っていたのに、ドアのみならず窓も開かないとは。まさか、本当に幽霊みたいなものがいるとでも?それで、彼女らはその悪霊に襲われている、とか?
一緒にいたはずの夢叶がどうなったのかも気になる。幽霊にしろ、老朽化でドアやら窓やらが歪んだにせよ。このままでは危険であることに変わらない。
「や、やだもう来た!やだ、やだぁ!?」
「あかるちゃん!?」
声が、ドアのあたりから離れていく。どうやら、何かから逃げ回っているようだった。暗闇の中で何が起きているというのだろう。
――ざっけんなよ……!
噂通りの怪談なら、せめて噂通りに振舞えよバカ野郎と言いたい。彼女らはあくまでおまじないを試そうとしただけで、この小屋を壊そうとか悪霊を除霊しようとしたとか、そういうわけではないはずである。それなのに何故、危害を加えられなければいけないのだろう。何でよりにもよってあかるが、こんな目に遭わなければいけないのか。
理不尽だ。あまりにも、理不尽がすぎる。
――自分の不幸に、他人巻き込んでるんじゃねえ!あかるは関係ないだろーが、ボケ!
無我夢中だった。落ちていた木の椅子を振り上げると、思いきりドアに向かって叩きつける。一回、二回、三回、四回。バキバキっ!と嫌な音がした。ドアではなく、椅子の背もたれが砕けた音である。我ながら火事場の馬鹿力凄いな、なんて感心している場合ではない。こんなボロっちく見える木製のドアが、傷一つつかないとはどういう了見なのか。本当に、幽霊による結界が貼られているとでも?
「そんなもんにっ!」
役に立たなくなった椅子を放り出して、刹那はドアから少し離れた。
「そんなもんに、屈してたまるか、クソ野郎!!」
自分は腕力も体格もないが、それでも脚力と体力なら並み以上にあるはずだ。物体がぶつかる力は、速度にも非礼する。力いっぱい助走をつけて体当たりすれば、こんなドアくらい十分壊せるはずだ。
「はあああああああああっ!」
肩から、思いきりぶつかった。途端全身に伝わる衝撃と激痛。まるで鋼鉄のドアが、意思を持って弾き飛ばしてきたかのように刹那は吹っ飛ばされた。
「いてっ!」
「お、おい!何やってんだよ青海!」
「き、君!あんまり無茶、は!」
少年たちと、そこからだいぶ遅れて用務員のおじさんが走ってくる。見た目通りと言うべきか、相当足も遅いし体力もなかったらしい。ぜえぜえと息を切らしながらこちらに近づいてくる姿をちらっと見て、再び刹那は体当たりの態勢に入った。
「声がしたんだ、あかるの!窓もドアも開かないって泣いてる!」
体は軋むが、そんなこと言っている場合じゃない。
「絶対、絶対絶対絶対、助けるんだ、俺が!」
再び中から絶叫が響いた。今度は、おじさんと他の生徒達にも聞こえたことだろう。青ざめた匠が、意を決したように椅子のもう一つを持ち上げて窓に叩きつけた。しかし。
「うっそだろ!?」
罅割れたガラスは、びくともしない。勢いよく投げつけられた椅子が、ごろごろと雑草の中を転がっただけだった。しかも、椅子の足の方が折れている。一体どういう理屈なのだろう。ますますホラーだとしか言いようがない。
だとしたらもう、打ち破る方法なんて一つしかあるまい。
「はああああああああああ!」
生きた人間の想いの強さで、地縛霊とやらの悪意を上回ること。それだけだ。
――待ってろよ、絶対、助けてやっからな!
肩から鈍い音がしても、痛みに呻いても、刹那は体当たりを続けた。その行動に、必ず未来が伴うと信じて。
用務員室は、体育倉庫がある場所からさほど離れていないところに位置している。校舎の一階の、はしっこのはしっこだ。刹那が匠たちと一緒に押しかけると、頭が禿げ上がった太っちょのおじさんは困ったように眉を潜めた。
「困るよ、あそこ子供は絶対近づけるなって言われてるんだから。大体危ない。危ないのはよくない、うん」
「そう思うなら、何でさっさと取り壊さないんですか」
「私にそんなこと訊かれても困るよ。大人にはいろいろ事情があるんじゃない?いろいろと。うん」
なんともテンプレートなお返事どうも、と呆れてしまう。危ないから近づくな、はある一定のお年頃のの子供にとっては“近づけ”と同義であると何故学ばないのだろう。行くな、遊ぶな、そう言われるとやってみたくなっちゃうのが小学生男子なのだ。そりゃ、真面目ないい子はその限りではないのだが、刹那も含めクラスの男子の大半は“やっちゃダメと言われると盛り上がってしまう”典型である。それは本当に危険な理由に、イマイチピンと来ていないからというのもあるのだろうけれど。
――絶対子供を近づけたくないなら、さっさと取り壊すか、もっと頑丈な柵でも作れっての。
あんなカラーコーンにロープ巻きつけただけの囲いと南京錠だけで、セーブできると思っているのがおかしい。というか、南京錠はどっか行っちゃっていたわけで。
「鍵なくなっちゃってたんです。それなのに、ドア開かないなんて意味不明なことになってて。もしかしたら友達が仲で閉じ込められてるかもしれないんです。俺達じゃ開けられないんで、おじさんなんとかしてください。他に鍵あるなら開けて欲しいです」
「でもねえ、本当にその子達そっちに入ったの?普通は近寄らないよ、あんなボロ小屋」
「おじさん知らないんですか?あそこ、学校の七不思議の有名スポットなんですよ?中で儀式をすると、好きな子と両想いになれるとか言われてるんです。女の子ならむしろ興味持ちそうだと思いません?」
「ええ?女の子の方が聡明だろ?しかも高学年だし。そんな馬鹿な真似しないと思うんだけどなあ」
ああいえばこう言う。これだから大人ってやつは頭が固くていけない。
「なあ、青海。これダメだって、諦めた方が……」
用務員の頑なな態度に、匠もついにそう声をかけてくる。しかし、ここで退くわけにいかないのが刹那だった。
これはもう、ほぼ直感のレベルだ。
あそこにあかるはいる。何故か、強く強くそんな気がしてならないのである。
「駄目だよ。今は夏だよ?あんなエアコンもないところに長く閉じ込められてたら、子供なんかあっという間に死んじゃうよ」
自分の記憶通りなら、二人はランドセルを持ったままだったはずだ。ならば水筒も持っているだろう、とは思うが。ランドセルに入れて持ち運べる水筒のサイズなどたかが知れたものである。この夏場にごくごく飲んだらあっという間になくなってしまう。そして、人間は水がなくなったら三日ももたないのだ。
勿論食べ物だってないだろうし、トイレだって困るはずである。特に男子と違って女子は、そのへんに立ってするなんてこともできないのだから尚更だ。命が助かっても、可哀相なことになっていたらどうしてくれるのか。
「その子達が閉じ込められてるって証拠でもあるの?ないだろ、うん」
おじさんは、危機感ゼロでぽりぽりと頭を掻いている。よっぽどあそこに近づくな、子供を近づけるなと言われているらしい。あるいは万が一本当に子どもが閉じ込められていたら責任を問われるのではと恐れているのかもしれない。が、そんな大人の事情なんぞ、それこそこっちは知ったことではないのだ。
仕方ない、やりたくはなかったが最終手段を発動するしかなさそうだ。
「……本当に、だめ?」
ぐいっ、とおじさんの前に近づき、目を潤ませて上目使いでお願いする。
刹那最大の特技、嘘泣きとおねだり。泣こうと思えば三秒もなく泣ける。自分子役に向いてるんじゃね、と時々思う所以だ。
「友達を助けたいんだ。女の子なんだよ?きっと今も怖くて泣いてるかも。俺だって、あんなところに閉じ込められて出られなかったら怖くて泣いちゃうよ。お願いおじさん、た・す・け・て?」
「――っ!」
おじさんの顔が、みるみるうちに赤くなった。男は大抵、どっかしらにロリコンの要素を持っている。そんな残念すぎる説は、案外的を射ているのかもしれない。噂によればこのおじさんも既に結婚していたはずなんだけどなあ、とちょっとしょっぱい気持ちになりつつ。
「し、仕方ないな!か、確認しにいくだけだからな、うん!」
それはそれ。今は作戦成功を喜ぶべきだろう。おじさんが真っ赤な顔を隠すようにして軍手を嵌め、鍵と道具箱を用意するのを見て刹那は内心ベロを出した。
せっかく持ってる武器ならば、使わなければ損というものである。
「お前、怖いな……」
青ざめた匠がぼそっと呟いたのは、とりあえず聞かなかったことにしよう。そう思った次の瞬間だった。
『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!』
天をつんざくような、少女の悲鳴。
すぐに気づいた、あかるの声だと。
「今の声!」
「お、おい!?」
友人達が止めるのも聴かず、刹那は一気に走りだしていた。悲鳴は時折途絶えながらも、物音と共に響き続けている。やはり、自分の考えは間違っていなかった。あかるは本当に、あの場所に閉じ込められていたのだと。
「あかるちゃん!」
雑草をかき分け、ドアの前に立つ。中から、どたんばたんと転げるような音が聞こえてくる。窓の中から覗き込むも、既に日が落ちた室内は真っ暗で殆ど何も見えなかった。何が起きているのだろう。助けて、こわい、やめて。そんな切実な声が響き続けている。おかしい、さっきからあかるの声しか聞こえてこない。夢叶と一緒にいたのではなかったのか。
「あかるちゃん、あかるちゃん!聞こえてる!?ここ開けて!!俺だよ、青海刹那!!」
どんどんとドアを叩いて叫べば、向こうもこちらに気づいた気配があった。
「お、青海君!?なんで……っ」
「なんででもどうしてでもいいから!ここ開けて、助けるから!」
「開かないのっ!」
どかっ!とドアの向こうから衝撃があった。彼女がドアを叩いたのか、あるいは物がぶつかったのか。
「開かないの……!何回も開けようとしたんだけど、全然ダメだったんだ!鍵なんかかけてないのに、ドアも窓も開かない!閉じ込められちゃってるの、お願い助けてっ!」
どういうことだ、とあかるの言葉に唖然とする。てっきり内側から鍵がかかっているから開けられないとばかり思っていたのに、ドアのみならず窓も開かないとは。まさか、本当に幽霊みたいなものがいるとでも?それで、彼女らはその悪霊に襲われている、とか?
一緒にいたはずの夢叶がどうなったのかも気になる。幽霊にしろ、老朽化でドアやら窓やらが歪んだにせよ。このままでは危険であることに変わらない。
「や、やだもう来た!やだ、やだぁ!?」
「あかるちゃん!?」
声が、ドアのあたりから離れていく。どうやら、何かから逃げ回っているようだった。暗闇の中で何が起きているというのだろう。
――ざっけんなよ……!
噂通りの怪談なら、せめて噂通りに振舞えよバカ野郎と言いたい。彼女らはあくまでおまじないを試そうとしただけで、この小屋を壊そうとか悪霊を除霊しようとしたとか、そういうわけではないはずである。それなのに何故、危害を加えられなければいけないのだろう。何でよりにもよってあかるが、こんな目に遭わなければいけないのか。
理不尽だ。あまりにも、理不尽がすぎる。
――自分の不幸に、他人巻き込んでるんじゃねえ!あかるは関係ないだろーが、ボケ!
無我夢中だった。落ちていた木の椅子を振り上げると、思いきりドアに向かって叩きつける。一回、二回、三回、四回。バキバキっ!と嫌な音がした。ドアではなく、椅子の背もたれが砕けた音である。我ながら火事場の馬鹿力凄いな、なんて感心している場合ではない。こんなボロっちく見える木製のドアが、傷一つつかないとはどういう了見なのか。本当に、幽霊による結界が貼られているとでも?
「そんなもんにっ!」
役に立たなくなった椅子を放り出して、刹那はドアから少し離れた。
「そんなもんに、屈してたまるか、クソ野郎!!」
自分は腕力も体格もないが、それでも脚力と体力なら並み以上にあるはずだ。物体がぶつかる力は、速度にも非礼する。力いっぱい助走をつけて体当たりすれば、こんなドアくらい十分壊せるはずだ。
「はあああああああああっ!」
肩から、思いきりぶつかった。途端全身に伝わる衝撃と激痛。まるで鋼鉄のドアが、意思を持って弾き飛ばしてきたかのように刹那は吹っ飛ばされた。
「いてっ!」
「お、おい!何やってんだよ青海!」
「き、君!あんまり無茶、は!」
少年たちと、そこからだいぶ遅れて用務員のおじさんが走ってくる。見た目通りと言うべきか、相当足も遅いし体力もなかったらしい。ぜえぜえと息を切らしながらこちらに近づいてくる姿をちらっと見て、再び刹那は体当たりの態勢に入った。
「声がしたんだ、あかるの!窓もドアも開かないって泣いてる!」
体は軋むが、そんなこと言っている場合じゃない。
「絶対、絶対絶対絶対、助けるんだ、俺が!」
再び中から絶叫が響いた。今度は、おじさんと他の生徒達にも聞こえたことだろう。青ざめた匠が、意を決したように椅子のもう一つを持ち上げて窓に叩きつけた。しかし。
「うっそだろ!?」
罅割れたガラスは、びくともしない。勢いよく投げつけられた椅子が、ごろごろと雑草の中を転がっただけだった。しかも、椅子の足の方が折れている。一体どういう理屈なのだろう。ますますホラーだとしか言いようがない。
だとしたらもう、打ち破る方法なんて一つしかあるまい。
「はああああああああああ!」
生きた人間の想いの強さで、地縛霊とやらの悪意を上回ること。それだけだ。
――待ってろよ、絶対、助けてやっからな!
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