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<16・追い詰められる少女>
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「色々大変だったのよ、あちこち手を回すのは」
ぎしり、と床板が軋む。あかるは座り込んで、ただただ後ずさる以外に術はなかった。汚い床に手とお尻をつくなんて、少し前の自分なら絶対に考えられなかったのに。今は生理的嫌悪よりにも何よりも、とにかく、目の前の“得体のしれない存在”から逃げたいという気持ちが勝っている。
怖い。
今まで生きてきた人生でここまでの恐怖を感じたことが、あっただろうか。
「鍵を壊すことくらい訳なかったけれど、見張りは毎日来るでしょう?数回は誤魔化せても、そのうち鍵が壊れていることくらいはバレてしまうのよね。そして、子供達をこの場所に招き入れることは成功してもなかなか儀式までやってくれる子はいなくて……もっと言うと、上の階まで覗いてくれる子は一人もいなかったのよ。私の本体は屋根裏部屋にいるから、そこまで誰かに来て貰えないと真価を発揮できないのに」
何を言ってるのか、さっぱりわからない。長い黒髪が、風もないのに揺れている。声は確かに茶木夢叶のそれなのに、口調は普段の彼女とは似ても似つかないものだった。まるで、大人の女性に乗り移られたかのよう。
否。もうこれは、認めるしかないのではないか。
夢叶はこの場所にいた悪霊に取り憑かれた。これが演技なら、アカデミー賞ものである。
「いつの時代も、恋に悩む子は多いのよね。だから、両想いになれるおまじないを試したいと願う子そのものは少なくない。ただ、本気でその想いを遂げたいと願う子は多くはないの。私と通じ合うことができるのは、本気で想いを遂げたいと願う子だけ。この子は幼いけど、本当の本当に“灰崎猛くん”のことが好きだったのね。若い子の恋っていいわ。私も応援したいって思っちゃうもの」
「お、応援……」
「そう、応援。あなたも応援してあげるわ。だって貴女、そのためにこの場所に来たんでしょう?ただ、この子の付き合いのためだけだったわけじゃないわよね?閉じ込められたと思って怖くなっちゃって、自分のおまじないをする余裕がなかっただけで」
「うっ……」
正直。あかる自身は何もなかったらおまじないを実行したかどうか、怪しいところではある。
だって本気の恋なんて、したことはない。
刹那のことが気になっているのは確かだけれど、それが恋愛感情かなんてわからない。カッコいい姿と、人をからかってふざける姿。結局どっちが彼の本当の姿なのかわからなくて、自分はひたすら翻弄されているばかりなのだから。そもそも、デートする?なんて意味深なことを言っておいてそのまま放置といった状態である。どこまで本気かわかったものではない。自分のことなんて玩具としか思っていないかもしれない相手を、好きになんてなってたまるもんか――そう思う気持ちが、強いブレーキをかけている。
――そういうことをすれば、夢叶ちゃんに付き合って儀式をやれば、自分も何か踏み出せるかな……なんて、思ってたのは確かだけど、でも。
果たして、本当にそれは“勇気”だったのだろうか。
結局夢叶を言い訳にして、自分で何かを変えようとしたわけではなかったのではないか。
「複雑に考えなくてもいいのよ」
少女は妖艶に髪を掻き上げる。
「その子とずっと一緒にいたいか、そうじゃないか。友情と愛情の境界線が曖昧なのも、子供なら珍しくないわ。時間をかけて、その気持ちの正体を見定めていけばいいだけでしょう?そう。相手を自分の“モノ”にしてから、じっくり考えればいいの」
「じ、自分のモノって」
「あら、両想いになれるおまじない、なんてものを試そうとしてたのに、そこにちっとも思い至らなかったわけ?」
滑稽ねえ、と彼女は嗤い声を上げた。
「だってそうでしょ?貴女が相手の子を好きでも、相手の子が貴女を好きではなかったら?それを捻じ曲げて“両想い”にするって、つまり相手の意思を無視して書き換えるってことでしょ。書き換えてもいいから、自分のモノにしたいってことでしょう?」
「!!」
「あらやだ、本気で気づいてなかったの?おまじないってそういう残酷さがあるのよ。……でも気にしなくていいわ。恋はいつだって自分勝手なもの。自分が相手を好きで、その相手が自分を望むように愛してくれたらそれでいい。それ以上の幸せはない。元の相手の意思がどうであったかなんて、そんなの関係ないわよね。大事なのは相手の幸せじゃなくて、自分自身の幸せなんだもの。当たり前よ、人はそういう生き物。いつだって自分が一番可愛いわ。そう、だから……」
ざわり、と空気が変わった。
「だから、時に。己の利益を守るために、愛し合う男女を引き裂いても心を痛めない悪魔も存在する。それが、人間の本質だものね」
果たして、この小屋でかつて住んでいたという男女の物語――がどこまであかるの聴いた通であったのかどうかはわからない。自分は聴いた話は相当脚色されていた可能性が高いし、実際この小屋で人が死んだなんて事実はなかったのかもしれない。それこそ、この場所で死ななくても、非業の死を遂げた女性が思い出の場所に戻ってきて取り憑く、なんてことも普通にあり得ることなのかもしれないからだ。
ただ。
もし夢叶が本当に悪霊とやらに取り憑かれていて、その幽霊が本当に“かつて親の都合で想い人との関係を引き裂かれ、悲しみのまま死んだ女性”だったと仮定したならば。彼女のこの冷たい殺意にも、説明がつくような気がするのは確かだ。彼女は恋を成就させるためならば、悪魔に魂を売ることさえも厭わなかったということなのだから。
彼女はそうまでして、愛する人と共にいたかった。だから、本気の恋をする人間に共感する気持ちは少なからずあるのだろう。同時に。
――相手の意思を無視して、身勝手な恋をする人間には……強い憤りも、ある……。
おまじないが本物だとして。それを実行するということはつまり、相手の意思を上書きして捻じ曲げてしまうこと。そんな発想、まったく考えもしていなかった。そうだ、どうして考えなかったのだろう。確かに夢叶は猛とお似合いに見えたが、それは夢叶を応援したいあかるの視点だ。実際猛は、夢叶に対して友達以上の感情は持ち合わせていなかったかもしれない。恋よりもずっとサッカーをしていたい気持ちが勝っていたかもしれないし、ひょっとしたら自分達が知らないだけで、他に好きな子がいたなんてこともあるかもしれない。
もっと極端なことを言えば、彼が本当に“女の子”を好きとも限らない。一見異性愛者に見える人間が、実際は必死で本当の恋愛対象を隠しているだけなんてこともある。以前漫画に、そういうキャラクターが出てきたことがあるから知っているのだ。ましてや今はLGBTQへの認識が強く広まりつつあるご時世だから尚更である。
――それから、青海君に関しても。
自分は彼を、可愛いものが好きなだけの“普通の男の子”と解釈していた。でも、それは本人が“そう”だと語っただけかもしれない。実際は女の子になりたい男の子だという可能性もゼロではないし、まだあかるに隠している本当の姿があってもなんらおかしくはないのだ。
いや、そうではなかったとしても。あかる以外に好きな子がいたとしたら。自分がおまじないをして、無理やりその意思を書き換えて振り向かせるなんてことがもし可能なら。それは、人の心を“殺す”こととなんの違いがあるだろう。
本当に相手を愛しているのなら、その心を尊重することなど当たり前。相手の立場になって考えましょう、なんてことは幼稚園から教わることであるはずなのに、どうして自分はそんなことも気づかなかったのだろうか。
「……ごめん、なさい……」
そんな、深いことを考えていたわけではなかった。おまじないのことなんか半信半疑だったし、“片思いを成就させる”ことの本当の意味なんて考察できるほど大人であったわけではない。でも。
人の尊厳を踏みにじることに、子供も大人もない。そんなことは言い訳にもならないのだ。
本当に相手と結ばれたいのなら、超常的な力に頼ることなどせず――自分を磨くことで、相手を振り向かせなければ意味などなかったというのに。
『ダメだな。誰かに追いかけて貰うとか、助けて貰うとか、そういう妄想する前に……本当は、自分が変わらないといけないのにな』
『何か、ないかな。自分を変えていけるようなこと』
――……馬鹿だ、私。
何が、きっかけを作る、だ。
最初からわかっていたではないか、答えなんて。本当の恋がしたいなら、誰かに愛されたいなら。自分がまず、愛されるに値する魅力的な人間にならなくちゃいけないということくらい。
それなのに、おまじないを夢叶に教えて、言い訳しながら入ってはいけない小屋に入って大騒ぎして。それで何かを変えようとした、なんて本末転倒もいいところだ。
誰かを本気で救う勇気が出せなければ、自分も、自分の世界を変えていくこともできるはずがなかったというのに。
『あんた、痴漢してるよね。……言い逃れしても無駄だよ、全部動画に撮ったから』
『二番目だろうと、あんたは動いたじゃん。あんたが追っかけてくれなかったら、痴漢は逃げちゃってたかもだよ?だから十分、誇っていいと思うけどな』
そうだ、自分は刹那のようになりたかった。
あんな風に、カッコよく誰かを助けて偉ぶらない、そんなヒーローになれたら。そう強く強く、そう思ったはずなのだ。勇気を出すという行為に、大人も子供も男も女もない。少なくともあの日の刹那は、あかるより非力なのに真っ先に痴漢に立ち向かっていったのだから。
――考えるんだ。
ギリ、と唇を噛み締める。
――この悪霊から、どうやって逃れるのか考えるんだ。ううん、ただ無様に逃げ回っているだけじゃない。取り憑かれてる茶木さんを傷つけず、助ける方法を考える。そうしなきゃ、それくらいできなきゃ……私は私を変えられない!
彼女の様子と言葉にビビって屋根裏から逃げてきて、この小屋の中を逃げ回っていることしかできなかったが、それだけでは何の解決にもならない。
「あかるちゃん、あかるちゃん!聞こえてる!?ここ開けて!!俺だよ、青海刹那!!」
「!!」
そう、まさにその時だったのである。
ドアの向こうから、刹那の声が聞こえてきたのは。
ぎしり、と床板が軋む。あかるは座り込んで、ただただ後ずさる以外に術はなかった。汚い床に手とお尻をつくなんて、少し前の自分なら絶対に考えられなかったのに。今は生理的嫌悪よりにも何よりも、とにかく、目の前の“得体のしれない存在”から逃げたいという気持ちが勝っている。
怖い。
今まで生きてきた人生でここまでの恐怖を感じたことが、あっただろうか。
「鍵を壊すことくらい訳なかったけれど、見張りは毎日来るでしょう?数回は誤魔化せても、そのうち鍵が壊れていることくらいはバレてしまうのよね。そして、子供達をこの場所に招き入れることは成功してもなかなか儀式までやってくれる子はいなくて……もっと言うと、上の階まで覗いてくれる子は一人もいなかったのよ。私の本体は屋根裏部屋にいるから、そこまで誰かに来て貰えないと真価を発揮できないのに」
何を言ってるのか、さっぱりわからない。長い黒髪が、風もないのに揺れている。声は確かに茶木夢叶のそれなのに、口調は普段の彼女とは似ても似つかないものだった。まるで、大人の女性に乗り移られたかのよう。
否。もうこれは、認めるしかないのではないか。
夢叶はこの場所にいた悪霊に取り憑かれた。これが演技なら、アカデミー賞ものである。
「いつの時代も、恋に悩む子は多いのよね。だから、両想いになれるおまじないを試したいと願う子そのものは少なくない。ただ、本気でその想いを遂げたいと願う子は多くはないの。私と通じ合うことができるのは、本気で想いを遂げたいと願う子だけ。この子は幼いけど、本当の本当に“灰崎猛くん”のことが好きだったのね。若い子の恋っていいわ。私も応援したいって思っちゃうもの」
「お、応援……」
「そう、応援。あなたも応援してあげるわ。だって貴女、そのためにこの場所に来たんでしょう?ただ、この子の付き合いのためだけだったわけじゃないわよね?閉じ込められたと思って怖くなっちゃって、自分のおまじないをする余裕がなかっただけで」
「うっ……」
正直。あかる自身は何もなかったらおまじないを実行したかどうか、怪しいところではある。
だって本気の恋なんて、したことはない。
刹那のことが気になっているのは確かだけれど、それが恋愛感情かなんてわからない。カッコいい姿と、人をからかってふざける姿。結局どっちが彼の本当の姿なのかわからなくて、自分はひたすら翻弄されているばかりなのだから。そもそも、デートする?なんて意味深なことを言っておいてそのまま放置といった状態である。どこまで本気かわかったものではない。自分のことなんて玩具としか思っていないかもしれない相手を、好きになんてなってたまるもんか――そう思う気持ちが、強いブレーキをかけている。
――そういうことをすれば、夢叶ちゃんに付き合って儀式をやれば、自分も何か踏み出せるかな……なんて、思ってたのは確かだけど、でも。
果たして、本当にそれは“勇気”だったのだろうか。
結局夢叶を言い訳にして、自分で何かを変えようとしたわけではなかったのではないか。
「複雑に考えなくてもいいのよ」
少女は妖艶に髪を掻き上げる。
「その子とずっと一緒にいたいか、そうじゃないか。友情と愛情の境界線が曖昧なのも、子供なら珍しくないわ。時間をかけて、その気持ちの正体を見定めていけばいいだけでしょう?そう。相手を自分の“モノ”にしてから、じっくり考えればいいの」
「じ、自分のモノって」
「あら、両想いになれるおまじない、なんてものを試そうとしてたのに、そこにちっとも思い至らなかったわけ?」
滑稽ねえ、と彼女は嗤い声を上げた。
「だってそうでしょ?貴女が相手の子を好きでも、相手の子が貴女を好きではなかったら?それを捻じ曲げて“両想い”にするって、つまり相手の意思を無視して書き換えるってことでしょ。書き換えてもいいから、自分のモノにしたいってことでしょう?」
「!!」
「あらやだ、本気で気づいてなかったの?おまじないってそういう残酷さがあるのよ。……でも気にしなくていいわ。恋はいつだって自分勝手なもの。自分が相手を好きで、その相手が自分を望むように愛してくれたらそれでいい。それ以上の幸せはない。元の相手の意思がどうであったかなんて、そんなの関係ないわよね。大事なのは相手の幸せじゃなくて、自分自身の幸せなんだもの。当たり前よ、人はそういう生き物。いつだって自分が一番可愛いわ。そう、だから……」
ざわり、と空気が変わった。
「だから、時に。己の利益を守るために、愛し合う男女を引き裂いても心を痛めない悪魔も存在する。それが、人間の本質だものね」
果たして、この小屋でかつて住んでいたという男女の物語――がどこまであかるの聴いた通であったのかどうかはわからない。自分は聴いた話は相当脚色されていた可能性が高いし、実際この小屋で人が死んだなんて事実はなかったのかもしれない。それこそ、この場所で死ななくても、非業の死を遂げた女性が思い出の場所に戻ってきて取り憑く、なんてことも普通にあり得ることなのかもしれないからだ。
ただ。
もし夢叶が本当に悪霊とやらに取り憑かれていて、その幽霊が本当に“かつて親の都合で想い人との関係を引き裂かれ、悲しみのまま死んだ女性”だったと仮定したならば。彼女のこの冷たい殺意にも、説明がつくような気がするのは確かだ。彼女は恋を成就させるためならば、悪魔に魂を売ることさえも厭わなかったということなのだから。
彼女はそうまでして、愛する人と共にいたかった。だから、本気の恋をする人間に共感する気持ちは少なからずあるのだろう。同時に。
――相手の意思を無視して、身勝手な恋をする人間には……強い憤りも、ある……。
おまじないが本物だとして。それを実行するということはつまり、相手の意思を上書きして捻じ曲げてしまうこと。そんな発想、まったく考えもしていなかった。そうだ、どうして考えなかったのだろう。確かに夢叶は猛とお似合いに見えたが、それは夢叶を応援したいあかるの視点だ。実際猛は、夢叶に対して友達以上の感情は持ち合わせていなかったかもしれない。恋よりもずっとサッカーをしていたい気持ちが勝っていたかもしれないし、ひょっとしたら自分達が知らないだけで、他に好きな子がいたなんてこともあるかもしれない。
もっと極端なことを言えば、彼が本当に“女の子”を好きとも限らない。一見異性愛者に見える人間が、実際は必死で本当の恋愛対象を隠しているだけなんてこともある。以前漫画に、そういうキャラクターが出てきたことがあるから知っているのだ。ましてや今はLGBTQへの認識が強く広まりつつあるご時世だから尚更である。
――それから、青海君に関しても。
自分は彼を、可愛いものが好きなだけの“普通の男の子”と解釈していた。でも、それは本人が“そう”だと語っただけかもしれない。実際は女の子になりたい男の子だという可能性もゼロではないし、まだあかるに隠している本当の姿があってもなんらおかしくはないのだ。
いや、そうではなかったとしても。あかる以外に好きな子がいたとしたら。自分がおまじないをして、無理やりその意思を書き換えて振り向かせるなんてことがもし可能なら。それは、人の心を“殺す”こととなんの違いがあるだろう。
本当に相手を愛しているのなら、その心を尊重することなど当たり前。相手の立場になって考えましょう、なんてことは幼稚園から教わることであるはずなのに、どうして自分はそんなことも気づかなかったのだろうか。
「……ごめん、なさい……」
そんな、深いことを考えていたわけではなかった。おまじないのことなんか半信半疑だったし、“片思いを成就させる”ことの本当の意味なんて考察できるほど大人であったわけではない。でも。
人の尊厳を踏みにじることに、子供も大人もない。そんなことは言い訳にもならないのだ。
本当に相手と結ばれたいのなら、超常的な力に頼ることなどせず――自分を磨くことで、相手を振り向かせなければ意味などなかったというのに。
『ダメだな。誰かに追いかけて貰うとか、助けて貰うとか、そういう妄想する前に……本当は、自分が変わらないといけないのにな』
『何か、ないかな。自分を変えていけるようなこと』
――……馬鹿だ、私。
何が、きっかけを作る、だ。
最初からわかっていたではないか、答えなんて。本当の恋がしたいなら、誰かに愛されたいなら。自分がまず、愛されるに値する魅力的な人間にならなくちゃいけないということくらい。
それなのに、おまじないを夢叶に教えて、言い訳しながら入ってはいけない小屋に入って大騒ぎして。それで何かを変えようとした、なんて本末転倒もいいところだ。
誰かを本気で救う勇気が出せなければ、自分も、自分の世界を変えていくこともできるはずがなかったというのに。
『あんた、痴漢してるよね。……言い逃れしても無駄だよ、全部動画に撮ったから』
『二番目だろうと、あんたは動いたじゃん。あんたが追っかけてくれなかったら、痴漢は逃げちゃってたかもだよ?だから十分、誇っていいと思うけどな』
そうだ、自分は刹那のようになりたかった。
あんな風に、カッコよく誰かを助けて偉ぶらない、そんなヒーローになれたら。そう強く強く、そう思ったはずなのだ。勇気を出すという行為に、大人も子供も男も女もない。少なくともあの日の刹那は、あかるより非力なのに真っ先に痴漢に立ち向かっていったのだから。
――考えるんだ。
ギリ、と唇を噛み締める。
――この悪霊から、どうやって逃れるのか考えるんだ。ううん、ただ無様に逃げ回っているだけじゃない。取り憑かれてる茶木さんを傷つけず、助ける方法を考える。そうしなきゃ、それくらいできなきゃ……私は私を変えられない!
彼女の様子と言葉にビビって屋根裏から逃げてきて、この小屋の中を逃げ回っていることしかできなかったが、それだけでは何の解決にもならない。
「あかるちゃん、あかるちゃん!聞こえてる!?ここ開けて!!俺だよ、青海刹那!!」
「!!」
そう、まさにその時だったのである。
ドアの向こうから、刹那の声が聞こえてきたのは。
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