チート勇者が転生してきたので、魔王と共に知恵と努力で撃退します。

はじめアキラ@テンセイゲーム発売中

文字の大きさ
27 / 42

<27・墜落の拾秒前>

しおりを挟む
 分析通りだ、と紫苑は内心でほくそ笑んだ。
 マサユキに関しては、アヤナも“迷惑な勇者”という認識で一致していたはずである。彼を例に出して考察してみせること、そこからアヤナ自身への推察に向かうことで明らかにアヤナの関心を引くことに成功した。――自分の目的は、これで半分以上が達成されたも同然である。
 紫苑の話に興味を引かせ、“もっと詳しく聞きたい”と思わせること。できればアヤナに“この女には利用価値がある”と考えさせること。そしてできれば――こいつに、己の言葉を話してみたいと思わせること。最初から、紫苑の目的はそこにあるのである。
 彼女は気づいているだろうか。
 彼女も、彼女の兵士達も。無意識に武器を下ろし、警戒を下げているということに。

――僕は貴方達と比べればあまりにも弱い。だからこそ、油断を誘いやすい。そして。

 戦いになったら、即座に殺されるならば。
 そもそも、戦いにならないような状況を作ればいいこと。向こうが“こいつなんかいつでも殺せる”と思っていれば、そもそも武器を向け続ける必要性を感じなくなるわけで。そして、簡単に殺してしまえばもったいないと思わせている限りは、無用な戦闘意欲そのものを削ぐこともできるのである。
 戦いになったら負けるとしても。そうならないように動くことならば、自分にもできる。最初から紫苑の武器は“言葉”ただ一つだけであるのだから。

「アヤナさんの容姿は、顔立ちも含めて日本人っぽいものではないですよね。聞くところによると前世では特にハーフであったわけでもないとのこと。高い確率で、女神によって転生するときに容姿を変えて貰ったと予想することができます」

 それだけ見ても、彼女が前世で己に対して自信を持っていなかったタイプであることは容易く想像がつく。少なくとも己の容姿に愛着や自信があったのなら、転生しても同じ容姿にしてくれるよう女神に望むはずなのだから。

「ゆえに、貴女は前世では己の容姿に自信がなかった……好きではなかったことがわかる。いえ、自信を持っていなかったのは己の容姿だけではないのでしょう。でなければ、“望んだ異性を恋奴隷にする”なんてものではなく、別のチート能力を望んだはずです」
「何が言いたいの」
「己の力だけで、異性を虜にする自信がなかったからこそ、その能力を選んだのでは?ということですよ。僕みたいな凡人からするとどうしても不思議で仕方ないんです。そんな能力などなくても、貴女ほどの美しさがあれば虜にできる男などいくらでもいそうなものですのに。貴女が自ら望んでその容姿になったということは、その姿はアヤナ、貴女が想像しうる最高の美少女であるに違いないのに。……それでも自信が持てなかった。一体どうして?」

 ちらり、とアヤナの顔色を伺ってみる。自分に自信がなくてチートに頼ったんだろ!と解釈されても仕方のないことを言った自覚をある。機嫌を損ねられても仕方ない方向に話を持っていったのは間違いない。だが。
 アヤナは何も言わない。明らかに、視線が泳いでいる。腹を立てる以前の問題で、見抜かれたことへの動揺が隠せないといった様子だ。
 あと、ひと押し。

「前世で起きた出来事が、貴女から……外見のみならず、内面での自信さえも奪ってしまったのですね」

 すっと、自然に一歩前へ。
 アヤナはおろか、アヤナの奴隷達も咎めない。狙い通りだ。

「多くの男性を従えたいのは、そうすることで自分の正当性に、己の力に自信を持つことができるから。そして、僕のことを当初あまり快く思えなかったのは僕が魔王の手下であるからというだけではなくて……いや、それ以上に。僕が若い女であるという事実に、嫌悪感があったからだ」



『御託はいいわ、紫苑とやら。私、女とだらだら話す趣味はないの。元々お喋りな女って好きじゃないのよね』



 必ずしもそうとは限らないが、それでも男性より女性の方が圧倒的に“お喋り”が好きである者が多いのは事実としてある。
 勿論あまり長話をしたがらない者もいるといえばいるが、その分類には“静かでいることの方が好き”な者もいれば、“話すことが苦手”というケースなど様々なものが含まれていることだろう。
 彼女の場合は、恐らく。多くのことを喋る女性という存在そのものに、嫌悪感を抱いている。己の話だけを聴いて欲しいから、他人に長時間話されるのが不愉快だからという可能性もあるが、恐らくこの場合は。
 お喋りな女性、という存在に、嫌な思いをさせられたことがあるから、だ。

「女とだらだら話す趣味はない、と仰いましたね。一見すると単純に“同性に興味がない”という意味にも聞こえますが……こうも付け加えられた。“お喋りな女は好きではない”と。つまり、そこに該当しない女性は例外だ、とも受け取ることができるわけです。」

 言葉尻を捉えた自己解釈。間違っている点もあるだろう。しかし、こういう小さな違和感や直感は存外馬鹿にならないものなのだ。

「貴女は、人の話そのものを聞くことそのものが嫌いなわけではない。現に今、僕の長い話にしっかりと耳を傾けてくださっているのですから」

 さらに一歩、前へ。あと少し。
 自分が縮めたいのはアヤナを倒せるような、物理的な距離ではない。――縮めるべきは、彼女の心の距離。倒すべきは、彼女の精神だ。

「……アーリア様の目的は、貴女に現世に帰ってもらって無事にこの世界を収めること。でも僕は……僕自身は、必ずしもその必要はないと思います。どうしても帰りたくない事情がある貴女に、無理に現世に戻れというのはあまりにも酷なことではありませんか。だから、どうか。話して頂けませんか。きっと事情がわかれば、アーリア様も納得してくださいますよ」
「わ、私は……」
「勿論、元の世界に戻りたいと思ったならそれはそれ。……僕が貴女だったなら、異世界で平穏に暮らすこと以上に……きっと別のことをも望んでしまうから。それは、元の世界でないと果たせないことですから」
「別の、こと?」
「ええ、別のこと、です」

 何だと思いますか?とアヤナに微笑みかける。いつの間にか、アヤナと紫苑の距離は歩数にして三歩程度の距離まで近づいていた。あと少しで、手が届くほどの距離。それなのに、他の奴隷達が動かない。
 紫苑に殺意がないことを察知しているのか。それならそれで好都合。実際、紫苑はこの場でアヤナを傷つける気など微塵もないのだから。――少なくとも、体の方は。

「復讐ですよ」

 まだ、アヤナは気づかない。いや、気づけないのか。
 紫苑が現世で、アヤナの前世に関する情報をくまなく集めた上で此処にいるのだ、という事実に。

「僕は、どうしてもそれが気になって仕方なかったんです。この世界にいれば、確かに貴女を過去に傷つけて苦しめた女達、貴女を見もしなかった男達と離れて……誰よりも貴女“だけ”を愛してくれる美しい男達に囲まれて、幸せに暮らすこともできるのかもしれません。でも、いいんですか?……元の世界で、貴女を散々苦しめ傷つけた連中が……何の罰も受けず、のうのうと暮らしているのを放置しておいて」
「そ、それは……!」
「復讐なんか良くないと、名探偵は言う。復讐で受けた傷は癒されないと正義の味方は言う。でも僕は。憎しみを、復讐を否定しません。傷つけられて、傷つけた相手を恨むことの何がおかしいのです?そんな綺麗事で、苦しみを飲み込んで……一体誰が、救われるというのですか?」

 憎んでいいのですよ、と言う。
 それは正しいと。間違いないではないのだと。過去の彼女の傷を暴き、晒し、そこにそっと手を差し伸べてみせるのだ。
 それはつまり、復讐すること――現世に転生しなおすことでしか成し遂げられない“裁き”があることを彼女に思い出させるための。甘い甘い、罠。
 そこから一体誰が逃げられるものか。紫苑は実際、己自身で“間違っていると思ったことは一言も言っていない”。真実だけで、本心だけで今、アヤナにトドメを刺そうとしているのだから。

「話したいことは、ありませんか?……僕なら、貴女の言葉を聞くことができます。現世の、混沌にまみれたあの世界を知っている、同じく異世界人である僕だからこそ……」

 さあ、と手を伸ばすのだ。その折、それとなく自分自信の腕時計を見ていた。
 耳に取り付けた小さな受信機に、紫苑にだけ聞こえるかすかな音が響く。我ながら役者だ。いい頃合ではないか。

「そ、そんなことを言っても、私は……私には……!」

 彼女の手が、宙を彷徨う。視線が泳ぐ。紫苑を見、己を見、それから、それから――。



「勇者・アヤナ」



 今、天国から。



「王手です」



 地獄へ。



「え?」

 次の瞬間、アヤナの周囲にいた恋奴隷の男性達が、一斉に消失した。体が青くノイズのように分解され、どこかえ消え失せる現象。彼女にもし魔法の知識があったなら気づいただろう。たった今、自分の周囲に転送魔法が発動したことに。そして、屋敷と屋敷の周辺にいた全ての男性が、一気にどこかに飛ばされたということに。

「クラリス!」
「了解!」

 次の瞬間、クラリスが床を蹴っていた。護衛を失ったアヤナが悲鳴を上げる。彼女の手には、銃。しかし、元より戦闘は全て恋奴隷頼みにしていたアヤナである。平和な日本暮らしの前世の知識しかない彼女に、まともに武器が扱えるはずもない。引き金を引くよりも前に、クラリスに押さえ込まれ完全に制圧されてしまっていた。

「ど、どういうことよ!何がどうしてどうなってるの!」

 屈強なクラリスに押さえ込まれ、彼女は身動き取れずに藻掻く。その眼には、涙が滲んでいた。

「あんた、私を騙したの!?理解者になるみたいな顔をしておいて!!」
「そんなこと、僕は一言も申し上げておりませんが?」

 彼女は最後まで、気づかなかったようだ。クラリスを連れてきたのは本当のところ紫苑の護衛ではなく、最終的にアヤナを即座に制圧するための尖兵であったということ。
 そして、この長いお喋りが全て――紫苑という最大の“囮”に彼女と護衛達の眼を集中させるためであったということに。

「最初から僕の策はこれ一つです。戦いは、僕が東の大地に到着した時には始まっていたんですよ」

 紫苑は、囮。
 自分に集中させ、注目させ――その間に、空間転送魔法の陣を仲間達が引き終えるまでの、時間稼ぎ。最初から、紫苑は言葉だけを剣と盾にして乗り込んできていたのだ。
 アヤナに悟らせないために。同時に、今まで平気で人を傷つけてきたであろうアヤナに相応の罰を与えるために。

「罪もない男性達を弄び、奴隷にして傷つけ……その家族をも苦しめた罰を受けるといい。彼らは皆、北の大地にまで飛ばされています。東の地を抜ければ全ての洗脳は解ける……貴女もご存知でしょう?」

 絶望の色を瞳に浮かべるアヤナ。その彼女を見下ろして、紫苑は宣言する。

「己の力を過信した、貴女の負けです」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...