愛憎の香鈴

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<13・百合、開ク>

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 元々、藍蘭は紅帝のことなど全く好きではないが。特にこういう晩は――憎しみにも近い感情を抱きたくなるのだ。
 異国から取り寄せたという、得体のしれぬ薬。何故あのようなものを、“大事な后”に使おうなどと思えるのだろう。藍蘭は知っている。本で読んだのだ――子の性別を決めたり、子を孕みやすい孕みにくいは、必ずしも女の側だけに問題があるわけではないということを。むしろ男の種が少ないことや、その種の種類で決まることが大半であると聞く。ならば何故、女ばかりを産んだことを、藍蘭のせいなどと責められなければならないのか。
 いや、言葉にして、責め立てられたわけではないことはわかっている。それでもだ。怪しげな薬を使われ、子の元となる卵のある場所をぐりぐりと圧され、子袋を揉まれながら――男子を宿せ、男子を宿せなどと呪うように言われてしまっては。全く、呆れる他ないし、忌々しいとしか言い様がないのである。自分が一番、あの男の嫌いだと思うところ。それは、彼が己の過ちをほぼほぼ認めようとはしない、臆病者であるということだ。そして、失敗の責任をすぐ他人の押し付けたがるのである。
 お前みたいな奴がいるせいで、藤蘭はあれほどまで追い詰められたのだぞ、と何度言ってやりたくなったことだろう。緑蘭とて気の毒なことだ。彼女が一番、紅帝との間に御子を望んでいるというのに。紅帝と来たら、歓迎してもいない藍蘭のところにばかり来るのである。そして緑蘭を呼んだかと思えば、最近は拷問じみた酷い仕打ちばかりしていると聞く。いくら彼女に被虐趣向があるからといって、子袋の穴を竹串で責めるなど正気の沙汰とは思えない。しかも、そのようなことをしておいて、実際彼女の胎には一滴の種もやらないということも珍しくないという(どうにもそれで出血する騒ぎになったらしく、女官たちが噂をしていたのを聞いてしまった。香鈴はともかく、残念ながら一部の女官たちは非常に口が軽いと見える)。

――ああ、本当に……情けない。何故、私はこのような目に遭わなければならないのか。今も昔もそう。誰も、望んで男を誘ったことなどないというのに。

 情けなさと恥ずかしさで、死んでしまいそうである。香鈴の白百合のような美しい手が自分に触れ、あられもなく乱れた夜着を脱がせていく。そして、ふらつきながら湯殿に向かう間も、ぽたりぽたりと浅ましく股間から垂れる雫。淫らな蜜と、それからあの男の欲望の残滓。恥ずかしさと悔しさで、目の前が滲む。何故、可愛い藍蘭に、自分は女として一番どうしようもない姿を見せなければならないのだろうか。
 いつも言われていた、お前が悪い――と。誘うような目をしているお前がいけないのだ、と。
 初めて男に抱かれた幼い日を思い出す。ガリガリで痩せっぽっちで、物乞いをするしかなかった少女を。その男は僅かばかりの銭を投げて寄越す代わりに、強引にボロ布のような布地を剥ぎ取って足を開かせたのだ。あの時は恐怖しかなかった。快楽などひとかけらもない。体の中心から引き裂かれるような痛みに泣き叫び――そう、あの時はまだ自分は月のものさえ来ていなかったのではないか。そんな自分を、男は鼻息荒く押し倒し、ひたすら腰を振って喘いでいたのである。もう顔も思い出せないその男のせいで、藍蘭の未来は決定づけられてしまったと言っても同然だった。お前が悪い、お前の顔と身体は男を誘う罪なのだと。そう言われて、そうなのかもしれない、とボロボロの心は屈し、諦めてしまったのである。
 これが、その日のわずかな食費にでも変わるというのなら。一時、恐ろしい思いや痛い思いを我慢すればどうにかなるというのなら。幼い自分が生きていく術は、それしかないのではないかと思われた。今から思えば、それが完全に運の尽きというやつであったのだろう。藍蘭がまだ、七つにもならぬ頃の話である。

――自分が取り立てて美しい女とは思っていない。目の前の香鈴の方が、余程凛として美しい娘ではないか。どうして誰も彼も、私のような女に固執する?頭がいいわけでもない、愛想が良いわけでもない、こんな私に。

 結局、幼い頃からやっていることは何も変わっていない。要するに、客が帝一人になった、それだけのこと。昔と違って子を産む安全な環境が用意されていて、生きていくため雨風をしのぐ寝所と食事には困らないというそれだけのことである。
 自分は、産んだ我が子を自らの乳で育てることも叶わないのだ。自分が産み落とした娘たちは、今頃どうしているのだろう。年に数回、会うことが許されるだけである。彼女たちにとっては、たまにしか会わぬ自分よりもよほど乳母の方が母親のように慕わしいに違いない。子を産んだ証に乳は張るし、子供のための栄養を懸命に作り出そうと母親としての準備をしてしまうのに。

――また、産まねばならぬのか。愛してもいない男の子を、このような苦しい陵辱の果てに。私は何だ。本当に、何のために此処にいるのか。

「う、うう……!」

 今日の薬は、一際強かったようだ。紅帝は満足して眠ってしまったのに、自分は身体が疼いて疼いて眠るどころではない始末である。夜風にでも当たれば多少マシになるかと思ったがそうではなかった。なんせ、ただ歩いているだけでも大切なところが洪水のように濡れてしまうのである。まるで小水を漏らしてでもいるかのような有様で、出歩くことなどできるはずがなかった。そもそも、酷い汗で全身が気持ち悪くてならない。この状態で、自室まで戻って来れた己を褒めたいくらいである。
 藍蘭が薬を盛られたことは、香鈴も分かっていることだろう。淫乱と罵られても仕方ない有様を見ても、文句ひとつ言わずに湯をかけて全身を洗ってくれた。いつもより随分温い風呂は、火照った身体には非常に心地よいものである。問題は――洗っても洗っても、この熱が冷める気配がないということ。
 それどころか、浅ましい身体はまだ内側を満たしてくれるものを求めているということである。

「藍蘭様、お辛いのですか」

 香鈴の、鈴が鳴るような声が響く。ああ、なんて甘く優しい声。あの男とは大違いだ、と思う。そう。
 いっそ、香鈴が男で、帝であったなら。
 毎晩自分を抱く相手が彼女であったなら、どれだけ夜伽が楽であったことだろう。むしろ自分も、その快楽を楽しむことさえもできたかもしれないというのに。
 誰にも言ってはいないことであるが。藍蘭はその実、男性のみならず女性とも経験のある女である。むしろ、女性相手でも恋愛の真似事を楽しめる性質であった。両刀使い、などと人は呼ぶのだろうか。実際、愛し合えるのであれば相手の性別など問わぬのが藍蘭であった。そう。
 正直に言えば。香鈴は、藍蘭にとっては極めて“好み”と言って過言でない見目の娘であったのである。女性にしてはややキリリと目つきが鋭く、それでいて女性らしいまろみを持ち、甘い声を持つ娘。加えて、性格も実に面白く、あの緑蘭にも真正面から向かっていくほど勇猛果敢と来ている。
 惹かれている、のかもしれなかった。友としてだけではなく、もっと深い意味でも。
 少なくとも確かであることは、人の身体を乱暴に暴き、種をつけ欲望を満たすことしか考えぬあの男より――よほど香鈴の方が好ましい存在であると思っている事実である。

「香鈴……」

 ああ、恥さらしめ、と藍蘭は思った。
 自分は気づいている、本当は。香鈴もまた己に対して、多少なりに劣情に近いものを抱いてくれているということに。

「頼む。少しだけ、付き合ってはくれんか。女人である君が相手ならば、浮気をしたことにはならない。そうだろう?あくまで、私を助けるための“治療”だと思ってくれればそれでいい」
「え」
「頼む。もう、辛くて辛くて。このままでは、一人善がりながら、一睡もできずに朝を迎えることになりかねないのだ。この薬は、欲を発散しなければ抜けることがないものであるらしい……頼む」

 最低だった。己は帝の后――この身体は全て、帝のために捧げられなければならないものだと知っているのに。今、香鈴の優しさを利用して、彼女にあられもない誘いをかけようとしているのである。
 湯殿でもまだ、香鈴の方は夜着を纏ったままである。その合わせをそっと引っ張り、お椀のような形をしたささやかで美しい乳房をそっと撫でて見せた。ふるり、と震える少女の身体。なんて初々しく、可愛らしい反応であることか。自分とは、大違いだ。それでいて。

「なあ、香鈴……助けて?」

 目を潤ませながら頼み込めば。その瞳には、男子のそれとなんら変わらぬ、欲情の焔が灯るのである。

「……帝に、どう、言い訳をするおつもりで?」

 それでも、ギリギリの理性を保っている様子の香鈴は。顔を真っ赤にしながらも、震える声でそう返してきた。ゆえに香鈴は、己の無駄に大きいな胸をそっとその腕に押し付けながら言うのである。

「后の湯浴みを手伝うのは、本来女官の仕事だろう?いつもは手伝って貰っていないが、今夜は特別だ。体調の悪い后の身体を女官が洗うことの、何がおかしなことというのか?」

 言い訳などいくらでも立つ。そもそもこの風呂場には、自分と彼女しか存在していないのだから。藍蘭が耳元でそう囁くと、それで彼女の理性は完全にぶちりと切れたらしかった。自ら、濡れることも厭わずに――まるで男性のように豪快に夜着を脱ぎ捨てて見せたのである。
 穢れを知らぬ処女の、無垢な肢体が現れる。いや、今の彼女はむしろ“童貞”と呼んだ方が相応しいだろうか。藍蘭の手首を掴む力は鍛え上げられて強く、眼は雄のそれを思わせるようにギラついている。明らかに今、食われる側の立場であるのは藍蘭の方だった。

「……後悔しても、知りませんよ」

 ああ、後悔などあるはずもない。
 だって望んだのは自分だ――帝に穢された身体を清めて欲しいと、香鈴に頼んだのは自分なのである。
 彼女は荒々しく湯殿の広い床に藍蘭を押し倒すと、藍蘭の豊満な胸を思い切り掴んだ。そして、激しく揉みしだく。紅帝もよく、そうやって藍蘭の胸を愛でるのが好きだった。あの男の手と思うと気持ち悪いばかりなのに、細く美しい香鈴の手と思うと背徳感で背筋がぞくぞくと泡立つのはどうしてだろ。
 既に、胸の先端は触ってもらいたがって、ツンと赤く主張している。その先をピン、と香鈴の人差し指で思い切り弾かれた。それだけで、甲高い声を上げて軽く極めてしまう藍蘭。

「ひっ……!」
「藍蘭様のお胸は、とても綺麗でらっしゃいますね。まるで餅のように柔らかかくてきめ細やかで。ああ、その先に乗っている果実は、どれほど甘い味がすることでしょう。御子様に差し上げる、お乳の味が滲むのでしょうか?私、お腹がすいてしまいました。食べてもよろしいでしょうか?」

 そして、藍蘭の許可を得ることもなく――ぱくり、とその先端を口に含んでしまった。

「ひんっ!あ、ああ、あん、ひい!」

 情けない声がひっきりなしに喉から漏れる。舌でやわやわと転がされ、時折歯が掠めるたび微かに痛みが走る。まだ胸だけしか触られいないのに、子袋がきゅうきゅうと欲しがって収縮しているのがわかる。下半身と快楽で繋がっているよう。腹の底から、気持ちよさが爆発して止まらなくなってしまう。
 そして、トドメと言わんばかりに、コリ、と柔く噛み付かれた。瞬間。

「あ、ああああああああ!」

 藍蘭は、頭が真っ白になるほどの快楽の極みに、上り詰めていたのだった。
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