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<20・ナイトグールにて。>
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バー、“ナイトグール”。自分達の学校のOBが経営するこの場所が、“ネオ・ソルジャー”のたまり場である。地下にあるため、多少騒いでも外に音が漏れる心配がない。そして、立地的にも警察に見つかって面倒になることが少ない。やっちゃいけないとわかりつつ、未成年ながら祥一郎が最初にお酒を飲んでしまったのもこの場所だったなと思い出す。黒白チェックのタイルと白い壁、黒曜石のように黒いテーブルにカウンター。モノトーンな色合いがなんとも大人っぽくてお洒落なバーだ。
店主もオーナーもOBで、それなりのワルだったと聞いている。おかげさまで自分達への理解も厚い。ここで未成年なのに酒飲んでることは言い触らさないでくれよー、なんて冗談半分にオーナーには言われているが。
「なんだなんだ?今日は随分真面目な顔してんな、祥一郎君よ」
そんな風に声をかけてきたのは、バーテンダー兼店主の桐嶋マサトである。二十八歳だがちょびヒゲを生やしていることもあってか、実年齢より若干上のオジサマキャラに見える人物だ。細身に見えて、手足の筋肉はぱんぱんに張っている。昔はここら一帯を一匹狼で荒らし回った“孤狼の桐嶋”として有名だったらしい。自分達にこのたまり場を提供してくれている上、秘密もきっちり守ってくれる頼れる大人の一人だ。
「見たところ、今日は幹部だけ引きつれてるってかんじだな。幹部会でもするってか?」
「まあ、そんなところだ。あ、桐嶋サン、今日はノンアルで」
「……酔わねーでしたい大事な会議ってなわけだ。戦争かよ?」
「もしかしたらそうなるかもしんねー」
腕をぶんぶん回して言う桐嶋に、祥一郎は苦笑いするしかない。ネオソルジャーを結成して周囲のチームを潰して回った時も、俺も参加してーなーなんて笑っていた人物である。昔の血が騒ぐのだろう。
ネオ・ソルジャー全員を巻き込むかもしれない話だ。そういう場合はまず、幹部全員に話して協力を仰ぐのが筋というものである。何故なら、ネオ・ソルジャーはギャングチームでありながら、それぞれ幹部が率いる小部隊で編制されているからだ。
まず、トップの祥一郎。
その下に、幹部であり部隊長であるメンバーが四人。
小柄な特攻隊長の嘉島鈴之助。
冷静沈着な参謀の参道颯。
祥一郎ばりの巨漢、圧倒的なタフネスを誇る窪塚義春。
それから、エセ関西弁が特徴、キレたら手がつけられない瞬殺王の日高揚羽。
この四人の下に、それぞれ兵隊が何十人かずつついて部隊を編制している。有事の際はこの四部隊の隊長に指示を出し、彼等が兵隊を率いてそれぞれの場所から攻撃を仕掛ける――というスタイルを取るのだ。全員がタイプは違えど、喧嘩の腕に関しては一級品とも言うべき実力を誇っている。まあ、それぞれ得意なことは異なるのだが。
「この五人で幹部会なんて、ほんまに久々やなあ」
椅子にどっかりと座る揚羽の隣には、傍に仕えるように立つ義春の姿が。義春が縦にも横にもでかいのに加えて揚羽が華奢な体格なので、なんとも凸凹な印象を受ける二人である。しかし、元々はこの二人、ヤクザ相手にも容赦なく喧嘩を仕掛けて打ち勝ってきたという恐るべしコンビでもあったりする。たった二人だけ、特にチームを名乗るでもない。ただ、絶対に一般人に手は出さないし弱い者イジメだけはしない――という妙に正義感の強いスタイルだったのが気に入って、祥一郎からスカウトをかけたという経緯がある。
まあ、簡単にネオ・ソルジャー入りをOKしてくれなかったので、なかなか面倒なステップを踏むことにはなったのだが。
「うちの町は比較的平和やと思ってたんやけど、また何か面倒なことありましたん?兵隊集めんとあかんほどの」
「仕事なら、する」
「おお、やる気になってくれてて嬉しい限りだわ。まあ、今回お前らが望むような活躍ができるかどうかわかんねーし……この件でチームを動かしていいもんかどうかってのもあって、お前らを招集したんだけどな」
「んん?」
こて、と首を傾ける揚羽。義春も無言で同じようにしたので、なんだか笑ってしまった。義春と揚羽が、どういう経緯で出会ったのかは知らない。ただ、どうにも義春がずっと無言で揚羽に付き従ってきたらしいこと、まるで兄弟のような関係であるらしいということはなんとなくわかっている。揚羽の方が義春より一つ年下だから余計にそうなのだろう。
彼等にもまた、人には語れない過去があるだろうということはわかっている。というのも、チームに入ってすぐ揚羽が“自分、既に両性なんで”と告白してきたからだ。薬を飲んでいるということは、誰かに無理やり飲まされたか、かつて伴侶がいたということである。ひょっとしたら出産経験もあるのかもしれない。まだ十五歳の少年と考えるなら、何か事情があるのは語るまでもないことだろう。
「とりあえず、今この町で起きてることと……それから俺が知ってることを全部話す。俺が今付き合ってる、白峰光流のことも含めてな」
その名前を出すと、颯と鈴之助は揃って“やっぱりその件か”という顔をした。彼等は多少事情を知っているので、想像がつくところもあったのだろう。
祥一郎も、まだ迷っていることはある。果たして本当に、自分達が介入していい件なのかどうか。正しい解決方法はなんなのか。
だが、自分は正直賢い方じゃない。筋肉馬鹿と揶揄されることもあるタイプだということはわかっている。だから。
「お前らを信頼している。だから相談したい」
悩んだ時は、一人で解決するべきではないのだ。
幸い自分には、頼れる仲間がいるのだから。
***
流石に、光流と一線を越えたことはびみょーに伏せたが(まあ颯や揚羽は気づいてそうな気もするが)。それ以外のことは、ひとしきり語ったつもりだ。嵐の金星のこと、そのボスの灰崎ルイのこと。そして春華高校にある、恐るべき伝統行事のこと。
全てを話すと、四人はそれぞれ渋い顔でこちらを見た。鈴之助に関しては、わかりやすぐ“ゲロ吐きそう”というような顔である。自分も多分今、似たような表情になっているのだろうけども。
「……いくらなんでも、倫理観ぶっとびすぎなんとちゃう?」
呆れたように口を開いたのは揚羽だった。
「そら、春華高校の生徒はんなんて将来有望やろなーとは思うけど。だからって無理やり子供作らせて、それを無理やり攫って英才教育するって。……母親の意思もへったくれもあらへんやんか。気色悪ぅ。そもそも、両性の人間が子供産むのって、昔の女性の出産よりリスクがあるってこと知らへんのやろか。女性より死ぬ確率高いんやけど?ごっつ痛いし」
まるで、自分には出産経験があるというような物言いだった。実際そうなのかもしれない。両性になる薬は、一度飲んでしまえばまず元には戻ることができない。子供を作る直前に、そのためだけに薬を飲むのが一般的だ。
「何とも惨たらしい。……白峰光流が、真実を隠したがったのも頷けるな。なるほど、だから自分が狙われる理由は金目てだ、なんて嘘をついていたわけか」
ため息をつきながら颯が言った。
「実際は、嵐の金星は……最初から白峰光流に復讐する目的で結成されたと考えても良さそうか。あるいは、他にも目的はあるのかもしれないが。……恐らく彼を拉致して集団レイプでもして、自分と同じ地獄を味あわせてやろうという魂胆なんだろう」
「いくらなんでも行き過ぎてるじゃないっすか、そういうの!そりゃ、白峰クンは逃げちまったのかもしれねーけど、でも押し付けるために逃げたわけじゃないし…天実際何も知らなかったわけだし!」
「それでも、他に怒りの持っていきようがなかったんだろうさ。……復讐なんてそんなものだ。やったら空しいってことくらい誰だってわかってる。失ったものは戻ってこない、時間も巻き戻らない。それでも復讐するしか想いの生き場がない人なんかいくらでもいるというものだ」
「だ、だけど、でも……」
動揺しきった様子の鈴之助、それを嗜める颯。こっちもこっちで兄弟みたいだな、と思う。どちらが兄で弟かなど言うまでもない。
「……きちんと計算するなら、本来灰崎ルイは妊娠八か月?それくらいになってないとおかしい。だが、あいつはそんな腹が膨らんでる様子もなかった。ストレスで子供が流れたってのは本当かもな」
口にするだけで、あまりにもキツすぎる事実。母親にとって子供が死ぬことは最大の悲劇の一つだ。例え望んだ子供でなかったとしても、灰崎ルイが受けた苦痛は察するに余りあるものだろう。
しかもその件で、今まで自分を尊重し育ててきてくれたであろう家族からも冷遇されるようになったというのが本当ならば尚更に。
「多分そうだろうな。さらにその経験を踏まえるなら、灰崎ルイが相当深刻なPTSDを負っているだろうということも想像に容易い」
颯が補足するように告げる。
「レイプされた人間が、そのトラウマを無理やり補うようにセックス中毒になるというのはままある話だ。あれは自分にとって苦痛ではなかったと思い込むためらしい。不良チームのリーダーにしては、色仕掛けを駆使したやり方に違和感があったが……そういうことなら納得もいく。しかも、俺が聞いた噂通りなら、それ以降も何度か流産経験があったはずだ。病院に担ぎ込まれたらしいという目撃情報がある。避妊もせずにそういうことを繰り返してきた、ってことだろうな」
「……両性体で男と寝たら、妊娠の可能性があるのは間違いないもんな。というか、昔の女より妊娠確率が高いんだったか」
「ああ。まともな精神状態じゃないのは確かだ。……自分で自分の傷を抉り続けているようなものだろう。それも立派な自傷行為の一つと言える」
その上でだ、と。
彼はまっすぐに、祥一郎を見た。
「ボスはどうしたいんだ。……白峰光流を、嵐の金星から救いたい。灰崎ルイをぶちのめして奴らをこの町から追い出したい。……だから俺達を収集したのか?それとも他にも目的があるのか?」
この様子だと、既に祥一郎の考えなど全て読まれているということなのだろう。なんとも話の早い参謀様だこと、と笑いたくもなる。
おかげで、説明がスムーズで助かるのも事実だが。
「……俺は、光流を救いたい。でもそれだけじゃねえ」
取り繕う必要はない。此処にはそういう仲間が揃っていると確信している。だから、祥一郎ははっきりと告げたのだ。
「クソどもをぶっ飛ばしてえ。誰のためじゃなく、俺がムカつくからって理由でな」
店主もオーナーもOBで、それなりのワルだったと聞いている。おかげさまで自分達への理解も厚い。ここで未成年なのに酒飲んでることは言い触らさないでくれよー、なんて冗談半分にオーナーには言われているが。
「なんだなんだ?今日は随分真面目な顔してんな、祥一郎君よ」
そんな風に声をかけてきたのは、バーテンダー兼店主の桐嶋マサトである。二十八歳だがちょびヒゲを生やしていることもあってか、実年齢より若干上のオジサマキャラに見える人物だ。細身に見えて、手足の筋肉はぱんぱんに張っている。昔はここら一帯を一匹狼で荒らし回った“孤狼の桐嶋”として有名だったらしい。自分達にこのたまり場を提供してくれている上、秘密もきっちり守ってくれる頼れる大人の一人だ。
「見たところ、今日は幹部だけ引きつれてるってかんじだな。幹部会でもするってか?」
「まあ、そんなところだ。あ、桐嶋サン、今日はノンアルで」
「……酔わねーでしたい大事な会議ってなわけだ。戦争かよ?」
「もしかしたらそうなるかもしんねー」
腕をぶんぶん回して言う桐嶋に、祥一郎は苦笑いするしかない。ネオソルジャーを結成して周囲のチームを潰して回った時も、俺も参加してーなーなんて笑っていた人物である。昔の血が騒ぐのだろう。
ネオ・ソルジャー全員を巻き込むかもしれない話だ。そういう場合はまず、幹部全員に話して協力を仰ぐのが筋というものである。何故なら、ネオ・ソルジャーはギャングチームでありながら、それぞれ幹部が率いる小部隊で編制されているからだ。
まず、トップの祥一郎。
その下に、幹部であり部隊長であるメンバーが四人。
小柄な特攻隊長の嘉島鈴之助。
冷静沈着な参謀の参道颯。
祥一郎ばりの巨漢、圧倒的なタフネスを誇る窪塚義春。
それから、エセ関西弁が特徴、キレたら手がつけられない瞬殺王の日高揚羽。
この四人の下に、それぞれ兵隊が何十人かずつついて部隊を編制している。有事の際はこの四部隊の隊長に指示を出し、彼等が兵隊を率いてそれぞれの場所から攻撃を仕掛ける――というスタイルを取るのだ。全員がタイプは違えど、喧嘩の腕に関しては一級品とも言うべき実力を誇っている。まあ、それぞれ得意なことは異なるのだが。
「この五人で幹部会なんて、ほんまに久々やなあ」
椅子にどっかりと座る揚羽の隣には、傍に仕えるように立つ義春の姿が。義春が縦にも横にもでかいのに加えて揚羽が華奢な体格なので、なんとも凸凹な印象を受ける二人である。しかし、元々はこの二人、ヤクザ相手にも容赦なく喧嘩を仕掛けて打ち勝ってきたという恐るべしコンビでもあったりする。たった二人だけ、特にチームを名乗るでもない。ただ、絶対に一般人に手は出さないし弱い者イジメだけはしない――という妙に正義感の強いスタイルだったのが気に入って、祥一郎からスカウトをかけたという経緯がある。
まあ、簡単にネオ・ソルジャー入りをOKしてくれなかったので、なかなか面倒なステップを踏むことにはなったのだが。
「うちの町は比較的平和やと思ってたんやけど、また何か面倒なことありましたん?兵隊集めんとあかんほどの」
「仕事なら、する」
「おお、やる気になってくれてて嬉しい限りだわ。まあ、今回お前らが望むような活躍ができるかどうかわかんねーし……この件でチームを動かしていいもんかどうかってのもあって、お前らを招集したんだけどな」
「んん?」
こて、と首を傾ける揚羽。義春も無言で同じようにしたので、なんだか笑ってしまった。義春と揚羽が、どういう経緯で出会ったのかは知らない。ただ、どうにも義春がずっと無言で揚羽に付き従ってきたらしいこと、まるで兄弟のような関係であるらしいということはなんとなくわかっている。揚羽の方が義春より一つ年下だから余計にそうなのだろう。
彼等にもまた、人には語れない過去があるだろうということはわかっている。というのも、チームに入ってすぐ揚羽が“自分、既に両性なんで”と告白してきたからだ。薬を飲んでいるということは、誰かに無理やり飲まされたか、かつて伴侶がいたということである。ひょっとしたら出産経験もあるのかもしれない。まだ十五歳の少年と考えるなら、何か事情があるのは語るまでもないことだろう。
「とりあえず、今この町で起きてることと……それから俺が知ってることを全部話す。俺が今付き合ってる、白峰光流のことも含めてな」
その名前を出すと、颯と鈴之助は揃って“やっぱりその件か”という顔をした。彼等は多少事情を知っているので、想像がつくところもあったのだろう。
祥一郎も、まだ迷っていることはある。果たして本当に、自分達が介入していい件なのかどうか。正しい解決方法はなんなのか。
だが、自分は正直賢い方じゃない。筋肉馬鹿と揶揄されることもあるタイプだということはわかっている。だから。
「お前らを信頼している。だから相談したい」
悩んだ時は、一人で解決するべきではないのだ。
幸い自分には、頼れる仲間がいるのだから。
***
流石に、光流と一線を越えたことはびみょーに伏せたが(まあ颯や揚羽は気づいてそうな気もするが)。それ以外のことは、ひとしきり語ったつもりだ。嵐の金星のこと、そのボスの灰崎ルイのこと。そして春華高校にある、恐るべき伝統行事のこと。
全てを話すと、四人はそれぞれ渋い顔でこちらを見た。鈴之助に関しては、わかりやすぐ“ゲロ吐きそう”というような顔である。自分も多分今、似たような表情になっているのだろうけども。
「……いくらなんでも、倫理観ぶっとびすぎなんとちゃう?」
呆れたように口を開いたのは揚羽だった。
「そら、春華高校の生徒はんなんて将来有望やろなーとは思うけど。だからって無理やり子供作らせて、それを無理やり攫って英才教育するって。……母親の意思もへったくれもあらへんやんか。気色悪ぅ。そもそも、両性の人間が子供産むのって、昔の女性の出産よりリスクがあるってこと知らへんのやろか。女性より死ぬ確率高いんやけど?ごっつ痛いし」
まるで、自分には出産経験があるというような物言いだった。実際そうなのかもしれない。両性になる薬は、一度飲んでしまえばまず元には戻ることができない。子供を作る直前に、そのためだけに薬を飲むのが一般的だ。
「何とも惨たらしい。……白峰光流が、真実を隠したがったのも頷けるな。なるほど、だから自分が狙われる理由は金目てだ、なんて嘘をついていたわけか」
ため息をつきながら颯が言った。
「実際は、嵐の金星は……最初から白峰光流に復讐する目的で結成されたと考えても良さそうか。あるいは、他にも目的はあるのかもしれないが。……恐らく彼を拉致して集団レイプでもして、自分と同じ地獄を味あわせてやろうという魂胆なんだろう」
「いくらなんでも行き過ぎてるじゃないっすか、そういうの!そりゃ、白峰クンは逃げちまったのかもしれねーけど、でも押し付けるために逃げたわけじゃないし…天実際何も知らなかったわけだし!」
「それでも、他に怒りの持っていきようがなかったんだろうさ。……復讐なんてそんなものだ。やったら空しいってことくらい誰だってわかってる。失ったものは戻ってこない、時間も巻き戻らない。それでも復讐するしか想いの生き場がない人なんかいくらでもいるというものだ」
「だ、だけど、でも……」
動揺しきった様子の鈴之助、それを嗜める颯。こっちもこっちで兄弟みたいだな、と思う。どちらが兄で弟かなど言うまでもない。
「……きちんと計算するなら、本来灰崎ルイは妊娠八か月?それくらいになってないとおかしい。だが、あいつはそんな腹が膨らんでる様子もなかった。ストレスで子供が流れたってのは本当かもな」
口にするだけで、あまりにもキツすぎる事実。母親にとって子供が死ぬことは最大の悲劇の一つだ。例え望んだ子供でなかったとしても、灰崎ルイが受けた苦痛は察するに余りあるものだろう。
しかもその件で、今まで自分を尊重し育ててきてくれたであろう家族からも冷遇されるようになったというのが本当ならば尚更に。
「多分そうだろうな。さらにその経験を踏まえるなら、灰崎ルイが相当深刻なPTSDを負っているだろうということも想像に容易い」
颯が補足するように告げる。
「レイプされた人間が、そのトラウマを無理やり補うようにセックス中毒になるというのはままある話だ。あれは自分にとって苦痛ではなかったと思い込むためらしい。不良チームのリーダーにしては、色仕掛けを駆使したやり方に違和感があったが……そういうことなら納得もいく。しかも、俺が聞いた噂通りなら、それ以降も何度か流産経験があったはずだ。病院に担ぎ込まれたらしいという目撃情報がある。避妊もせずにそういうことを繰り返してきた、ってことだろうな」
「……両性体で男と寝たら、妊娠の可能性があるのは間違いないもんな。というか、昔の女より妊娠確率が高いんだったか」
「ああ。まともな精神状態じゃないのは確かだ。……自分で自分の傷を抉り続けているようなものだろう。それも立派な自傷行為の一つと言える」
その上でだ、と。
彼はまっすぐに、祥一郎を見た。
「ボスはどうしたいんだ。……白峰光流を、嵐の金星から救いたい。灰崎ルイをぶちのめして奴らをこの町から追い出したい。……だから俺達を収集したのか?それとも他にも目的があるのか?」
この様子だと、既に祥一郎の考えなど全て読まれているということなのだろう。なんとも話の早い参謀様だこと、と笑いたくもなる。
おかげで、説明がスムーズで助かるのも事実だが。
「……俺は、光流を救いたい。でもそれだけじゃねえ」
取り繕う必要はない。此処にはそういう仲間が揃っていると確信している。だから、祥一郎ははっきりと告げたのだ。
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