優等生には秘密があります。

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<中編>

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 勇次郎と出会ったのは、実は高校からではない。二人は同じ中学だったのだ。でもって同じクラスだったのである。
 しかし同じクラスだからといって、接点があるかどうかというのは全くの別問題だろう。生真面目で、勉強と読書くらいしか趣味がなかった涼貴と、運動系はなんでもできるが勉強はからっきし駄目だった勇次郎。誰とでも分け隔てなく友達になれる彼は、そこに“不良生徒だから付き合わない”とか“お硬い奴だから近寄らない”なんて選択肢など浮かびもしない人間である。それでもその勇次郎をもってしても、自分が彼の輪になかなか入ることがなかったというのには――当然、理由があるのだ。
 自分達の公立中学は、良くも悪くも普通だった。ものすごい頭の良い品行方正な生徒ばかりが通うような学校でもなければ、露骨に不良ばかりで窓ガラスがいつも割れているなんてこともない。その結果、ほんの少しものすごく優秀な生徒がいて、ホンの少し非常に不真面目な生徒がいるという、どこにでもある光景が広がっていたのだった。
 勇次郎自身の素行はけして悪くなかったものの、彼の友人にはその“非常に不真面目”な生徒が何人もいたのである。煙草を吸っている奴だろうが、喧嘩に明け暮れる奴だろうが、誰彼構わず懐に入れてしまうのが勇次郎だった(本人もかなり喧嘩は強いのだろうが、自分で喧嘩をするということは滅多になかったはずである)。そんな彼の噂を聞いて、元教員の父と元公務員の母が良い顔をするはずがないのだ。

『悪い子じゃないとは思うけど。その勇次郎って子とは付き合わないでね』

 母は至極真っ当そうな顔で、涼貴にそう告げてきたのである。

『友達は選ぶべきじゃないってよく道徳の教科書とかでは載っていたりするそうだけど。私もそこは、お父さんと同意見なの。友達は選ばないといけない。悪い友達と付き合えば、無理やり悪い遊びに誘われてしまうこともある。断れないせいで、普通の子が薬に溺れてしまったり、暴力事件に巻き込まれたりすることだって珍しくない。涼ちゃんは、そこをちゃんとわかってるわよね』
『……ええ、でも、勇次郎本人は、不良行為をしているわけではないようですが』
『本人が良い子でも、その友達のことまでお母さんは信用することはできないの。地元のギャングチーム……だっけ?に所属しているような子もいるんでしょ?いつも生傷だらけで学校に来るような子も、その勇次郎って子の友達にはいるらしいじゃないの。その勇次郎君が、いつその子達に感化されて、悪いことを始めてしまうかもわかったもんじゃないでしょ。貴方は優しい子だけど、その優しさを向ける対象は選ばないとね。……学校の成績が全てではないとは知っているけれど、成績が良い子に外れはないって私たち知ってるの。偏差値が高い学校はそうそう荒れたりしないでしょ?つまり、そういうことなのよ』
『……』

 両親の気持ちは、分からないことではなかった。けれど、彼らの理屈は少々行き過ぎていると涼貴は思うのである。
 勇次郎の友達がどうだから、ということまで気にかけていたら。結局自分は、誰とも友達になれないということではないだろうか。だって普通は、友達の友達がどういう人間かまで考えて誰かと付き合うわけでもない。一見品行方正に見える子だって、涼貴の知らないところでどんなネットワークを持っているかなどわからないではないか。

――疲れるなあ、そういうのは。

 そんな話をされた中一の頃は、涼貴も別に勇次郎を特別視していたわけではなかった。勇次郎は有名人だったが、その時は同じクラスというわけでもなかったからである。
 クラスが一緒になったのは二年生から。しかし、二年生になってからも自分たちに大きな繋がりができるようにはならなかった。勇次郎は自分にも話しかけてくれてはいたが、やんわりと涼貴の方が壁を作っていたからである。理由はいくつかある。両親の言葉に一応の配慮をしたというのもなかったわけではない。ただ、最大の理由は――もっと後暗い感情があったから、ゆえだ。
 勇次郎と同じ暮らすになることによって、わかってしまったのである。どうして彼が、あんなにも人気があるのか。皆の心を鷲掴みにして離さないのか。
 成績なら間違いなく涼貴の方がいいし、容姿だって自慢じゃないが己が美形の枠に入ることを知っている涼貴である。勇次郎もイケメンではないとは言わないが、自分と比べたらさほど特別格好の良い顔をしているというわけではないだろう。彼が自分に唯一勝るものがあるとしたら運動神経くらいだ。負ける要素などそれだけだろうと、プライドの高い涼貴はそれまで当然のように思っていたのである。
 だが、実際そうではなかった。近くにいるようになって気づいてしまったのだ。――何もかも、彼の方が人間として格上であったということに。

『先生!好きな人同士で班を組ませるの、やっぱりやめてほしい!』

 班分けや席替えをどのようにするか?それは昔から変わらぬクラスのテーマであったりする。小学校から高校まで――それこそ、授業を個々で選択するようになる大学に入る前までは、永遠に立ちふさがってくるもんだいであろう。
 友達の多い者や、いつも必ず一緒に組むと決めている友人が数人いる者は必ず“好きな人同士で班分けさせてください”と言い出すのがわかっている。気心の知れた間柄と同じ班になれば、ディベートをするにしても共同作業をするにしてもやりやすいのは間違いない。近くの席になればそれだけで話しやすいのは確かなことだ。
 が、それはあくまで“それなりに交友関係がうまくいっている人間”に限定されるのである。もしくは“どうしても同じ班になりたくない相手がいる”場合もそうなるだろうか。とにかくどんなクラスにでも必ずいる“班分け作業をすると必ず一人ぼっちになって溢れてしまう生徒”の場合は、その“好きな人同士での席替え、班分け作業”を命じられることは最大の恐怖であり避けて通りたい道であったりするのだ。
 だが、そういうおとなしかったり、クラスで浮いている人間が積極的に声を上げることは大層難しい。仮に声を上げたところで、最終的な決議が多数決になるのは目に見えている。先生に決めてほしい、番号順にしてほしい、あるいはくじ引きに――なんて意見を出したところで、多くの生徒に賛同は得られない。結果、より一層本人が浮いて終わるという、最悪の事態を招くことになるのである。
 幸いにして、涼貴は友人の数こそさほど多くはないものの、“数人は話の合う相手”がいる生徒だった。好きな人同士での班分けを積極的に推奨したいほどではないが、そうなったところで特に困るでもない中堅層である。そう。
 だから誰もが驚いたことだろう。その“仲間同士での班分け”で、明らかに誰よりも困らないと思われる生徒が――勇次郎が、積極的に手を上げてその意見を言ってきた時には。

『ええ、勇次郎君なんで?好きな人同士になるのは嫌?』

 少し困った顔で告げてきたのは、二年生の時のそのクラスで中心的人物だった少女だった。はっきり言って、涼貴が好きではない類の人間である。はっきりとイジメをしているというほどではないが、特定の人間をわかりやすく嫌い、それが恥ずべきとも全く思わない人種だった。彼女は仲間と一緒の班になりたいのと同時に、どうしても一緒の班になるのが生理的に耐えられない相手がいる――だから自分達で班分けを任せて欲しい、そう考えるタイプの人間であったのである。
 彼女からすれば、このまま多数決で“好きな人同士で組ませて欲しい”のが本音であったはず。それなのに、男子の中心である勇次郎に反対されるのは、心外以外の何物でもなかったのだろう。

『嫌っていうか、つまらないと思ってさ。だって、いつも仲の良い奴とか、よく話す奴とかとばっかり同じ班になったら、新しい友達増えねーじゃんか!』

 そんな彼女の心理を、勇次郎はどこまで察していたのだろうか。彼はにこにこと、“新しい班分け”の有用性を説いて見せたのである。

『俺は、今まで話したことのあんまりない奴とむしろ同じ班になってみたいぞ!でもってさ、できればみんなもそういう挑戦をして欲しいなって思ってる。全員で仲良くなれるだなんて思ってないし、どうしても相性の悪い人間ってのはもちろんいると思うけど……それは、関わってみてから判断してもいいことだろ?話したこともないのに誰かを嫌ったり、思い込みで苦手だって決め付けるのってすごくもったいないことじゃねーかなあ?』

 彼は、とても正義感が強い人間だった。同時に、綺麗事をさも当然のごとく信じている人間でもあった。
 気づいていたのだろう――クラスに、いつも一人でぽつんといる生徒がいることを。“なんとなく近寄りがたい”“なんとなく気持ち悪い”――そんなぼんやりした理由だけで、嫌われがちになってしまっている者達がいるという事実を。
 このままいつもの仲間同士で班分けしてしまったら、その者達がまた同じように溢れてしまい、嫌な思いをさせてしまうということを。

――そりゃあ、僕だって気づいてはいたけど。だからって、みんなの前で堂々と言える奴がいるだなんて……。

『なあ里埼。お前もそう思わないか?今まで話したことのないヤツは、きっとお前の知らない新しい世界を持ってるぞ。それを知ってみるのって、面白そうだと俺は思うんだけどな。それともお前は、このクラスには話す価値も関わる価値もない生徒がいる、だなんて本気で思っていたりするのか?』

 里埼、と名指しされたリーダー格の少女は。少し赤面して、そんなつもりじゃないけど、と慌てて弁明した。自分の醜い部分を見抜かれたようで恥ずかしかったのと、真正面から勇次郎に見据えられて照れてしまったのと両方あったのだろう。
 その結果、いつものように好きな相手同士で班分けするのはやはり良くないのではないか、という流れになり。
ぽつりぽつりと勇次郎の意見に賛成する者が出て――最終的には、誰より仲間達のことを見ている勇次郎に班分けを託そう、なんてとんでもないレベルで話が落ち着いたことに涼貴は驚かされることになるのである。くじ引きでもなく、番号順でもなく、だ。それは、勇次郎という一人の人間が、このクラスでどれほど信頼されているかがよくわかった一幕であった。
 何が驚きって、この出来事が起きたのが六月だったということである。つまり、同じクラスになってたったの二ヶ月で、彼はクラス中の人間の心を掴んでみせたのだった。

――それは、僕にはけして持てない才能だった。……彼は紛れもない天才だ。僕はそれを、認めざるをえなくなっていた。

 その時勇次郎と同じ班になったのは、いつも溢れてしまいがちの男子生徒と女子生徒、それからその時点で勇次郎とさほど喋ることのなかった涼貴だった。彼は間違いなく、クラス全体の空気をよく見ていたのである。恐らく、全部分かっていながら我関せずを決め込んでいた涼貴のことも。
 勇次郎の才能に気づいてしまえば、そこから先はとてつもない嫉妬に襲われる日々だった。
 自分の方が、多くの能力で上回っているはず。見た目も悪くないはず。それなのに、影でできているファンクラブの人数も、もらうラブレターの数も、当然友達の数も――どうして勇次郎の方が上なのだろうか。
 涼貴はそれからずっと、勇次郎の凄さの秘密を探るべく彼を観察、研究するようになったのである。もっとフレンドリーになればいいのか?人の気持ちを考える努力をすればいいのか?あるいは、彼のように体を鍛えてスポーツができるようになればいいのか?
 だが、どれもこれも挑戦しようとしたところで、涼貴の無駄に高いプライドが道を阻んできたのである。特に最大の問題は、涼貴が普通の生徒よりも体が弱かったことだった。体育でやる程度の運動なら、本気にならない限り大きなダメージを負うことはない。だが彼に近づこうとして始めたジョギングは、三日目に十キロ走ったところでダウンして終わってしまったのである。

――どうして僕は、駄目なんだ。勇次郎みたくなれないんだ。

 それは、中学二年も終わりにさしかかった時期のこと。ぐったりして公園のベンチで休んでいた涼貴に、声をかけてきた人物がいたのである。

『あれ?涼貴、お前もジョギング始めたのか?』

 日差しを浴びて、汗だくのはずの彼はキラキラと輝いて見えた。勇次郎はまるで太陽のように、にっかりと眩しい笑顔を向けてきたのである。
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