旅鉄からの手紙

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山陰本線

丹波国を通って~名将・明智光秀公~

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山陰本線で福知山から京都まで初めて乗ったのは中学校1年生の冬休みの正月に、列車に乗ってあちこちの景色を見たりしているだけで満足してしまうくらいの鉄道好きの従兄(以後乗り鉄の従兄と記す)に、青春18きっぷを使った普通列車や快速列車乗り継ぎの旅に連れて行って貰った時である。

丹波の国の車窓は福知山、園部、亀岡と比較的広めの盆地に広がる一部の市街地などの平地以外は北寄りでは由良川、南寄りでは桂川を時々見ながら(特に京都方面から来て園部駅を過ぎた辺りから)いくつもの山や谷を繰り返す。
京都から園部まで電化する直前に福知山から京都までディーゼルカーに乗って旅をするのが目的であった。福知山から山陰本線経由の京都行きの列車に一緒に乗った乗り鉄の従兄から、

「この辺り(丹波国)の景色は小高い丘のような山と谷を繰り返す。」

という意味の話を聞いたが、この辺りの複雑な地形により、戦国時代には頑固で視野が狭く外界の情報に明るくない小豪族がいくつも点在し、名将明智光秀公でさえ丹波攻略を手こずらしたことまでは、学校で習った歴史と光秀公が信長公に殴られるシーンなどの本能寺の変までの物語をテレビの時代劇で見たり、歴史小説を読んだりした影響で

「光秀は信長に酷いことをされたからって君主信長公を討った裏切り者だから悪者である。」

と思い込んでいた当時の私には想像できる訳がなかった。

「思い込み(先入観)は悪」

「無知の知(無知を知る事から始まる)」

という格言の意味を、今改めて噛み締めようと思う。

明智光秀公は丹波の国にもゆかりがあるが、元々は美濃(岐阜県南部)で斎藤道三公に仕えていた。道三公が蝮の如く美濃一国を乗っ取ったという汚名も仇となり息子の義龍公に討たれた後は、野に下り浪人となり諸国を歩き回り見聞を広めた。諸国放浪後、京の都にも近い越前の名門朝倉家に仕えながら足利将軍を擁して上京する機会を伺っていたが、その時の当主義景公は腰をあげなかった。その頃道三公と義龍公亡き美濃を攻略した織田信長公の目は京の都を足がかりとした天下統一へと向けられるようになった。朝倉家を見限った光秀公は信長公に仕え足利将軍を擁して上京する目標を信長公に託した。信長公が15代将軍になる義昭公を擁して上京するのに大いに貢献した。一説では光秀公と言えば信長公と並んで、油売り商人の身分でありながら、美濃の国を乗っ取り大名になり、美濃の蝮と恐れられた斎藤道三公から天下統一の野望を託された後継者のような存在であり、光秀公は信長公に仕えながらも、信長公に対してライバル意識や、自分の方が信長公よりも学があると優越感を抱いていたとも言われているくらいである。いずれにせよ信長公には信長公の死後に天下統一をする秀吉公と同等に人並みを超えた能力を買われ、信長公の下で粉骨砕身して働いた。先述したように苦労しながらも丹波の国を信長公の手中に納めさせて信長公の命により丹波の国も治めた。亀岡では「亀岡光秀まつり」や「ききょうの里」福知山では「福知山御霊大祭」と今日でも光秀公を偲ぶ祭りが行われている。持ち前の学の高さなどを活かして丹波地方に善政を敷いた現れであろう。恐らく戦国時代に小田原城を拠点に関東地方にて独自に政治を行った北条早雲公、氏綱公、氏康公のような感じだったのかもしれない。思わず「東の北条、西の明智」とも言ってしまいそうだ。

秀吉公と並んで信長公の一家臣の器を超えていた光秀公が何故後に「本能寺の変」と言われる謀叛を起こして、信長公を自害に追いやってしまったのか?光秀公が信長公への恨みが動機なのだろうか?信長公に将軍を擁して上京させ、さらに自身の手柄で勝ち取った丹波とその周辺に善政を敷くほどの大器であった光秀公が、会社の部下がパワハラをされた上司に抱くような恨みだけで君主を討つであろうか?私には幕末の動乱と同様に外国勢力の影響を受けていたように思える。当時鉄砲やキリスト教を日本に伝えて来たポルトガルとは戦に使われていた鉄砲の火薬や鉛弾の原料や人身売買も含めて交易が全国各地で盛んに行われていた。信長公も堺を直轄地にするなどしてポルトガルとの交易を盛んに行い多くの利益を得ていた。そのポルトガルが、信長公が天下統一を進めている真最中にスペインに併合されてしまう。サッカーの代表チームでも無敵艦隊とも言われているスペインの大躍進であった。これまでポルトガルと交易を行っていた信長公は、今度はスペインと交易関係を結ぼうとする。ところがスペインはその交易関係を築く交渉の中で信長公に対してスペインの明国(中国)の征服のために日本から出兵させるように要求する。信長公は当然スペインの要求を拒んだのではないか。信長公はイエスズ会と断絶し家来や領民達に自分を神として崇めるように求めた。それによりスペインの一部の権力者にとっても信長は邪魔な存在となったに違いない。

それだけではなく信長公に味方していた高山右近や黒田官兵衛も含めたキリシタン大名や今までポルトガルとの交易(南蛮貿易)で利益を上げていた商人達が信長公を見限り始めたことによりこれまで追い風に乗るように天下統一を進めていた信長公の政権に逆風が吹き付けるようになったのかもしれない。その逆風をさらに強めたのが信長公が武田氏を滅ぼした時に朝廷ともゆかりのあった甲斐国に建てられていて恵林寺を焼き討ちし和尚らも焼き殺したことだったのかもしれない。武田家のみならず天皇にも縁が深かったお寺を焼き僧を焼き殺すことは天皇の権威を否定することであった。信長公を見限った朝廷は信長公を討ち京の都から信長公により追放された将軍足利義昭公を立て室町幕府の再興を計ったのかもしれない。光秀公もその室町幕府再興計画に組み込まれたのかもしれない。

光秀公の謀反を起こす事を見抜いていたかのように備中(岡山県)で毛利氏と戦をしていた秀吉公は信長公が討たれた事を知ると直ちに毛利氏と和睦をし「中国大返し」という離れ業で本能寺の変から僅か10日程で山崎の合戦(京の都の近くの天王山)にて光秀公を破った。信長公の仇を討ったように見えた秀吉公がやがて天下統一を果たす。光秀公が君主の信長公を討った本能寺の変は発生から400年以上経った今でも事件の黒幕など真相は謎に包まれたままであるが、少なくとも朝廷や海外勢力の影響によるものではないかと察しがつく。

こうして光秀公は政治の表舞台から姿を消した。しかし山崎の合戦後に光秀公を殺したことにして出家させて生き続けさせたことも充分あり得る。比叡山には僧侶としての光秀公の名がはっきり記載されている本能寺の変の後の書物があるという。

東照宮が建てられている日光市街から中禅寺湖に向かういろは坂を登ったところに華厳の滝や中禅寺湖さらに男体山など奥日光の自然の眺めが素晴らしい「明智平」というスポットがある。その地名を名付けたのは家康公の側近として徳川家に仕えた僧侶「天海」と言われている。天海が実は光秀公であり自分の名を後世に残したくて名付けたという説もある。たとえそれが作り話だとしても光秀公と彼を敬う方々の「無念」と「誇り」からなる胸中が察せられる。

よく「本能寺の変」が起きなければ信長公はそのまま天下統一が出来たのではという声をあちこちで聞くが、私にはそうは思えない。若い頃「尾張のうつけ者」と多くの周りの方々から呼ばれる程ガキ大将の如く、後に自身の家来になる前田利家公らも含めた周りの若者達を率いて、野山を駆け回っていた信長公は、多くの方々がイメージされる通り、尾張の国の統一や今川義元公を討った桶狭間から始まり、自らが先頭に立って軍を率いて領土を広げて行った。ところがある程度領土が広がるとイエスズ会とゆかり深い大名も含めて家臣達も力をつけてくるし、古くから日本の地位のトップに位置してきた天皇を中心とした組織である朝廷や日本と交易をしている海外勢力との良好な関係も必須となり、やがて自らが先頭に立つだけではさらに領土を広げられなくなるなど織田家を抱えきれなくなって来たのではないか。仮に光秀公が本能寺で謀叛を起こさなくてもいずれは他の家臣など力をつけた勢力に討たれていたかも知れない。光秀公も誤ったタイミングで信長公を討つくらいだから、天下統一の野望を持つ信長公の下で必死に働いたうえ、丹波の国やその近辺にて善政を敷いてしっかりと治めるので手いっぱいだったのではないか。先述したように信長公と光秀公は油売りから一国の大名になった道三公が自身の後継者として大いに買うほど大器であった。そんな彼らでさえ天下を統一するのは難しかったに違いない。戦国の世は足利将軍家の権威が衰えて殆どの地域が無法地帯に近い状態で、ある場所では小田原の北条氏を始め数々の有力な大名などが、表向きは足利将軍を一番としながらも実質は独立して政治を行っていた。山陰本線の車窓から、人や馬が越えるだけでも苦労しそうな、いくつもの小高い丘のような山や谷などからなる丹波地方独特の複雑な地形を見るだけでも

「天下を統一への道のりの長さは我々の想像を遥かに超えてしまう」

と気が遠くなる。
それを考えるだけでも信長公や光秀公も本当に大したお方だと思う。彼らが粉骨砕身して築いて来た下積みなしで秀吉公による天下統一や家康公による250年以上も続くことになる平和で安定した政権(江戸幕府)の樹立があり得なかったのは言うまでない。
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