12 / 14
魔王様故郷へ帰る
しおりを挟む
「お久しぶりですね、シュトリ」
端麗な顔に微笑を浮かべるセーレは美しく、恐ろしかった。
彼を知らない者ならば見惚れてしまう美貌はシュトリには意味がない。生まれた時から美しい母と姉を見て育った彼の審美眼は肥えていた。
身構えるレジーを背後に庇う。シュトリがセーレに敵うわけがないが、彼の盾くらいにはなりたかった。
「久しぶり。あの、何しに来たの」
敢えていつもと変わらぬ態度で切り出す。相手の出方を見たかった。
「……何しに、ですか?」
「うん。手紙読んだでしょ。私は」
「魔王を辞める?」
うん、と頷くシュトリの両肩をセーレの手が掴む。骨の軋む音が鳴る程に力が込められ、シュトリは顔を歪めた。
「いっ、」
「おいお前」
「許さない」
痛みに呻くシュトリに反応するレジー。無表情に呟くセーレ。一触即発の瞬間に、割り込んできた存在によってその場は凌がれた。
「シュトリごめーん。負けちゃった」
わざとらしく間延びした声を上げ、ヴィネとバアルを連れたベリアルだった。
「ひっ……」
セーレだけでなくヴィネもバアルも勢揃いとあっては流石のベリアルでも敵わない。実際そう諦めたからバアル達と共に戻って来たのだろう。
小さな悲鳴を上げて怯えるシュトリを、今度こそレジーは助けた。介入者が現れようとも変わらずシュトリを掴むセーレの手を掴み、退けようとする。悪魔の馬鹿力に勝てず、僅かも動かないそれに驚くレジーへ、セーレはようやく目を向けた。
「何だお前」
「この人は私の恩人で……」
「シュトリの新しい男だ」
セーレに答えるシュトリを遮り、ベリアルが笑顔で言い放った言葉に三人が眉を顰め、空気が凍った。
「シュトリ。本当ですか? こんな人間ごときが?」
嘲るような声にシュトリが眉を寄せる。自分を貶されるのは慣れているが、自分のものを貶されるのは腹が立った。
「……そうだよ。レジーは私の男だ。魔王じゃなくても、何の力もなくて……弱くて役に立たない私でもいいって言ってくれるような人だ」
恐怖も忘れてセーレを睨み、自分の男を擁護するシュトリに、セーレは内心動揺していた。シュトリがセーレに対して本当の怒りを向けたことはなかった。
「そう。私は魔王じゃない。元々そんな器じゃない。調子に乗って好き勝手したから、殺されるのは仕方ないけど」
「……殺される?」
「お前達、私を殺しに来たんだろう?」
そもそもの勘違いはここでようやく終わりを迎えることになる。怪訝そうなバアルの声に答えたシュトリへ向けて、男達は表情を変えた。
笑うベリアル。納得顔のバアル。驚くヴィネ。呆然とするセーレ。何となく察し始めたレジー。
それぞれ異なる反応を見せられ、シュトリは首を傾げたが、大切な主張は忘れない。
「私を殺すのは構わないけど、レジーやベリアルは許してやってほしい。二人は私を助けてくれただけだから」
「殺しませんよ! いえ、ベリアルは殺したいですけど」
突っ込んだのはヴィネだった。思わずといった様子で声を荒げている。
「え? じゃあ何しに来たんだ?」
「シュトリ」
頭を抱えたバアルに呼ばれ、反射的に姿勢を正す。魔王であった頃からバアルには逆らえず、逆らうつもりもなく、自然と行儀良くしていた。
「それも一緒に連れてっていいから、帰るぞ」
それ、と指されたのはレジーである。帰るというのは魔界しかない。
バアルの言うことといえど、素直に頷くことは出来なかった。
「何で。私は帰らない。レジーと一緒にこっちに残る」
「帰るんだよ。お前は魔王様だろうが」
「魔王は辞めたって言ってるでしょう。だいたい私じゃなきゃいけない理由もないし、もっと……姉さん達みたいな、綺麗で強い魔王を担ぎ上げればいいじゃないか。皆で探せばすぐ見つか」
バアルがシュトリへ向けて指を掲げると、不自然にその口が止まった。瞼が閉じ、力が抜けて倒れそうになった体をレジーが抱き支える。
何が起きたのかと心配するレジーの耳にぐうぐうと気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。睡眠魔術だった。
「レジーといったか。面倒だからお前も来い」
レジーとシュトリが高度の魔力に包まれる。バアルによって魔界へ送られていった二人を追うように、ヴィネとベリアルもその姿を消した。
「お前はいつまで呆けているんだ」
「……シュトリが、私を睨んで。ああ……ああ……」
白く美しい手で己の顔を覆いながら、セーレの体がわなわなと震え始める。
バアルの知るシュトリは優しい、というより他者に怒り慣れていなかった。不快があっても口に出さず他者へ向けず、自分の中に留めて考え悩む。持ち前の卑屈さから他者へ強く出れないのだ。
そんなシュトリが自分の男を貶され、怒り、睨み付けてきた。まだ付き合いの短いバアルはシュトリの怒りを初めて見たが、下手をするとセーレすら初めてのことだったのではないかと、今のセーレを見ていて思う。
「睨んできた! 睨んできたんですよ! シュトリが! 私を見上げて、きっ! と睨んで! ああっ可愛いっ!」
思い出して喚くセーレを置いてバアルも魔界に戻っていった。
端麗な顔に微笑を浮かべるセーレは美しく、恐ろしかった。
彼を知らない者ならば見惚れてしまう美貌はシュトリには意味がない。生まれた時から美しい母と姉を見て育った彼の審美眼は肥えていた。
身構えるレジーを背後に庇う。シュトリがセーレに敵うわけがないが、彼の盾くらいにはなりたかった。
「久しぶり。あの、何しに来たの」
敢えていつもと変わらぬ態度で切り出す。相手の出方を見たかった。
「……何しに、ですか?」
「うん。手紙読んだでしょ。私は」
「魔王を辞める?」
うん、と頷くシュトリの両肩をセーレの手が掴む。骨の軋む音が鳴る程に力が込められ、シュトリは顔を歪めた。
「いっ、」
「おいお前」
「許さない」
痛みに呻くシュトリに反応するレジー。無表情に呟くセーレ。一触即発の瞬間に、割り込んできた存在によってその場は凌がれた。
「シュトリごめーん。負けちゃった」
わざとらしく間延びした声を上げ、ヴィネとバアルを連れたベリアルだった。
「ひっ……」
セーレだけでなくヴィネもバアルも勢揃いとあっては流石のベリアルでも敵わない。実際そう諦めたからバアル達と共に戻って来たのだろう。
小さな悲鳴を上げて怯えるシュトリを、今度こそレジーは助けた。介入者が現れようとも変わらずシュトリを掴むセーレの手を掴み、退けようとする。悪魔の馬鹿力に勝てず、僅かも動かないそれに驚くレジーへ、セーレはようやく目を向けた。
「何だお前」
「この人は私の恩人で……」
「シュトリの新しい男だ」
セーレに答えるシュトリを遮り、ベリアルが笑顔で言い放った言葉に三人が眉を顰め、空気が凍った。
「シュトリ。本当ですか? こんな人間ごときが?」
嘲るような声にシュトリが眉を寄せる。自分を貶されるのは慣れているが、自分のものを貶されるのは腹が立った。
「……そうだよ。レジーは私の男だ。魔王じゃなくても、何の力もなくて……弱くて役に立たない私でもいいって言ってくれるような人だ」
恐怖も忘れてセーレを睨み、自分の男を擁護するシュトリに、セーレは内心動揺していた。シュトリがセーレに対して本当の怒りを向けたことはなかった。
「そう。私は魔王じゃない。元々そんな器じゃない。調子に乗って好き勝手したから、殺されるのは仕方ないけど」
「……殺される?」
「お前達、私を殺しに来たんだろう?」
そもそもの勘違いはここでようやく終わりを迎えることになる。怪訝そうなバアルの声に答えたシュトリへ向けて、男達は表情を変えた。
笑うベリアル。納得顔のバアル。驚くヴィネ。呆然とするセーレ。何となく察し始めたレジー。
それぞれ異なる反応を見せられ、シュトリは首を傾げたが、大切な主張は忘れない。
「私を殺すのは構わないけど、レジーやベリアルは許してやってほしい。二人は私を助けてくれただけだから」
「殺しませんよ! いえ、ベリアルは殺したいですけど」
突っ込んだのはヴィネだった。思わずといった様子で声を荒げている。
「え? じゃあ何しに来たんだ?」
「シュトリ」
頭を抱えたバアルに呼ばれ、反射的に姿勢を正す。魔王であった頃からバアルには逆らえず、逆らうつもりもなく、自然と行儀良くしていた。
「それも一緒に連れてっていいから、帰るぞ」
それ、と指されたのはレジーである。帰るというのは魔界しかない。
バアルの言うことといえど、素直に頷くことは出来なかった。
「何で。私は帰らない。レジーと一緒にこっちに残る」
「帰るんだよ。お前は魔王様だろうが」
「魔王は辞めたって言ってるでしょう。だいたい私じゃなきゃいけない理由もないし、もっと……姉さん達みたいな、綺麗で強い魔王を担ぎ上げればいいじゃないか。皆で探せばすぐ見つか」
バアルがシュトリへ向けて指を掲げると、不自然にその口が止まった。瞼が閉じ、力が抜けて倒れそうになった体をレジーが抱き支える。
何が起きたのかと心配するレジーの耳にぐうぐうと気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。睡眠魔術だった。
「レジーといったか。面倒だからお前も来い」
レジーとシュトリが高度の魔力に包まれる。バアルによって魔界へ送られていった二人を追うように、ヴィネとベリアルもその姿を消した。
「お前はいつまで呆けているんだ」
「……シュトリが、私を睨んで。ああ……ああ……」
白く美しい手で己の顔を覆いながら、セーレの体がわなわなと震え始める。
バアルの知るシュトリは優しい、というより他者に怒り慣れていなかった。不快があっても口に出さず他者へ向けず、自分の中に留めて考え悩む。持ち前の卑屈さから他者へ強く出れないのだ。
そんなシュトリが自分の男を貶され、怒り、睨み付けてきた。まだ付き合いの短いバアルはシュトリの怒りを初めて見たが、下手をするとセーレすら初めてのことだったのではないかと、今のセーレを見ていて思う。
「睨んできた! 睨んできたんですよ! シュトリが! 私を見上げて、きっ! と睨んで! ああっ可愛いっ!」
思い出して喚くセーレを置いてバアルも魔界に戻っていった。
23
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
完璧な計画
しづ未
BL
双子の妹のお見合い相手が女にだらしないと噂だったので兄が代わりにお見合いをして破談させようとする話です。
本編+おまけ後日談の本→https://booth.pm/ja/items/6718689
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる