風流先生

桜井雅志

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風流先生 7日目 2番目の彼女の話

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    風流先生 7日目 2番目の彼女の話


登場人物

風流先生(58)
自宅の一室で生徒に勉強を教えてる塾講師。

高木結(ゆい)(20)
風流先生のところでアルバイトしている女子大生。


1.
今日はY市の港の花火大会。
先生はなんと、花火が見えるレストランに連れて行ってくれた。
「綺麗ですね、食事もすっごくおいしかった」
私たちは食後にワインを飲んでいた。
「2番目の彼女には、僕はかわいそうなことをしてしまったんだ」
先生はそう言うと、下を向いて、ぽつりぽつりと話し始めた。

2.
「僕は、大学の2年、3年、4年と3回北海道に行って、2番目の彼女と出会ったのは4年のとき、場所は小樽だった。レンガ倉庫を一緒に歩いて、北一硝子で僕はアルコールランプを買ったよ」
「当時から風流だったんですね」
「東京で会う約束をした。彼女は八木純子さんと言って僕より3つ年上で世田谷の小学校で先生をやってた。当時僕は大学で弁理士を受ける勉強をしてた」
「ベンリシ?」
「弁理士は特許を申請する資格で、弁護士資格に次ぐ難しさだった。弁理士は高収入が見込める資格だったから、その資格の準備を学生のときから始めてた僕を彼女は高く評価してくれて、快く付き合ってくれた」
「将来有望の若い学生ですね」
「彼女は美人だったし、頭もよく料理も上手で、ピアノも弾けた文句のつけようのない人だった。ところが、僕はその弁理士の勉強をしてるうちに、だんだん物書きになりたいって思うようになってしまったんだ」
「何でまた」
「弁理士の資格って論文形式で、文章を書くのが勉強なんだよ」
「ああ、それで文章に目覚めてしまった」
「今自分がしてる弁理士に受かるための勉強に疑問を持ち始めて、それで彼女に話したんだ。弁理士になるのをあきらめて作詞家を目指したいって」
「当然、反対ですよね」
「彼女、すごく悲しんで、お願いだからやめて、作詞家なんてなれるの?って言った。だけど、僕はどうしても作詞家を目指したくて、勤めていた特許事務所もやめてしまった」
「それで彼女さんはどうなったんですか?」
「家に電話があったんだけど、僕は出なかった」
「なぜ?」
「やっぱり、僕がしたいってことに反対してる人とは、一緒にいられないって思ったんだ」
「かわいそう」
「ひどい話だよね」
「それでどうなったんですか?」
「僕が留守の時に家にやってきて、二冊の大学ノートを置いていった。中を開くと、彼女の思いがびっしりと書いてあった」
「何て書いてあったんですか?」
「僕にはそのノートを読むことはできなかった。かと言って捨てることもできなくて、
洋服ダンスの一番下に押し込んだ。僕は、彼女の全てから逃げたんだ」
先生はそうつぶやくと、ワイングラスを空けた。
外に目をやると、暗闇の中で、花火が悲しそうにまばたいた。


風流先生 7日目 2番目の彼女の話 終わり
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