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第二話「トイレには花子さんがいるらしい」
4.心ちゃん、ひばりちゃんと出会う
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「ええと……あなた、お名前は?」
「あ、綾里心です! 四年生です!」
八重垣ひばりちゃんは、双子のお兄さんの孔雀くん共々、学校の有名人だった。
まだ五年生なのに、六年生の誰よりも背が高くて、大人っぽい美形の兄妹として、下級生の間でも知らない人がいないくらいだ。
だから、心ちゃんはとっても緊張していたのだが――。
「……四年生?」
「はい。四年の三組です」
ひばりちゃんは、何か信じられないものを見るような目つきで、心ちゃんのことをじぃっと見つめてきた。
気のせいか、心ちゃんの胸のあたりを見ているようだったが……心ちゃんが不思議そうに首を傾げると、何かにハッと気が付いたような表情になって、「で、うちの神社になにか御用かしら?」と尋ねてきた。
「うちの神社? ……って、ここ、八重垣さんのおウチだったんですか~!?」
「ええ、そうよ。学校でも比較的有名な話だと思ってたのだけれど……。私の顔と名前を知っていて、そっちを知らない人なんていたのね。で、御用は何かしら?」
「あ、そうだ! ええと……お守りを、ください!」
心ちゃんは、ようやく神社へやってきた目的を思い出した。お化け――花子さんを退治するために、お守りを買いに来たのだ。
「お守り? 色々あるわよ? 家庭内の円満を願う『家内安全』。病気や災害を避けたい時は、『無病息災』。勉強をがんばりたい時は、『学業成就』。……それとも、恋愛がらみかしら?」
「ええと、そういうのじゃなくて~。……あの~、『悪霊退散』のお守りとか、ないですか?」
「……悪霊退散?」
心ちゃんの言葉に、ひばりちゃんが首を可愛らしく傾げる。一方の心ちゃんは、「笑われたらどうしよう!」と気が気ではなかったが――。
「ああ、なるほど。今、学校中のうわさになっているものね。お守りの一つでも身に着けておけば、きっと大丈夫よ」
そう言いながら、ひばりちゃんは受付の窓を開けて中からお守りを一つ取り出し、心ちゃんに手渡してくれた。お守りには「無病息災」と書かれている。
「お金はいらないわ。その代り、またお参りに来てちょうだい」
「え、いいんですか~? ありがとうございます~!」
感激した心ちゃんは、お守りを手渡してくれたひばりちゃんの手を握って目をキラキラさせた。「なんてステキな人なんだろう!」と、ひばりちゃんに尊敬のまなざしを向ける。
手を握られたひばりちゃんの方はというと、少し困り顔だった。ひばりちゃんは、他人からベタベタ触られるのはあまり好きではないのだ。けれども、心ちゃんの手を振りほどくわけにもいかない。
「さて、どうしたものか」とひばりちゃんが困り果てた、その時。
『ニャァ~』
神社の境内に、甲高い猫の鳴き声が響いた。
その鳴き声に、ひばりちゃんが周囲を見回すと――いつの間にか、石畳の上に一匹の猫が、ちょこんと座っていた。
全身真っ黒で、鼻の周りと胸とお腹、足の一部だけが白い猫が。そして――。
「ああ~、可愛いにゃんこ! 八重垣さんの猫ちゃんですか~?」
心ちゃんも猫の姿に気付くと、ひばりちゃんの手をぱっと離して猫の方へ駆け寄り、そっとその頭をなで始めた。
猫はなでられて嬉しいのか、ゴロゴロと喉を鳴らしはじめた。
けれども、それを見ていたひばりちゃんはひどく驚いていた。なぜならば――。
「あなた……。綾里さん。まさか、その子が見えているの?」
「ほえ~?」
心ちゃんは、心底不思議そうに首を傾げた。それも無理もない話だった。眼の前にいる、今まさにナデナデしている猫のことを「見えているの?」などと聞かれたら、誰だって戸惑うことだろう。
けれども、本当に戸惑っているのは、ひばりちゃんの方だった
――その猫は、普通の猫ではないのだから。
「……綾里さん。あなた、もしかして小さな頃から、他の人には見えないものが見えたりする?」
「えっ!? ええと……その……」
「隠さなくてもいいわ。私もそうだから」
「ええっ!?」
今度は心ちゃんが驚く番だった。
今まで、近所のお兄さん以外でお化けを見ることができた人はいなかった。それが、こんなところに――しかも同じ学校の上級生にいたのだから。
「どうやら、お守りを渡して『はい、さよなら』で済む話ではなさそうね。綾里さん。あなた、ただ『トイレの花子さん』を怖がっているんじゃなくて、実際に見たのね?」
「……はい。あの! 信じてもらえないかもしれないけど、花子さんが出たのは、きっとあたしのせいなんです!」
「ふむ……くわしく話を聞かせてもらっても、いいかしら?」
ひばりちゃんの言葉にうなずくと、心ちゃんは「トイレの花子さん」を見てしまった、あの日の出来事を静かに語り始めた。
「あ、綾里心です! 四年生です!」
八重垣ひばりちゃんは、双子のお兄さんの孔雀くん共々、学校の有名人だった。
まだ五年生なのに、六年生の誰よりも背が高くて、大人っぽい美形の兄妹として、下級生の間でも知らない人がいないくらいだ。
だから、心ちゃんはとっても緊張していたのだが――。
「……四年生?」
「はい。四年の三組です」
ひばりちゃんは、何か信じられないものを見るような目つきで、心ちゃんのことをじぃっと見つめてきた。
気のせいか、心ちゃんの胸のあたりを見ているようだったが……心ちゃんが不思議そうに首を傾げると、何かにハッと気が付いたような表情になって、「で、うちの神社になにか御用かしら?」と尋ねてきた。
「うちの神社? ……って、ここ、八重垣さんのおウチだったんですか~!?」
「ええ、そうよ。学校でも比較的有名な話だと思ってたのだけれど……。私の顔と名前を知っていて、そっちを知らない人なんていたのね。で、御用は何かしら?」
「あ、そうだ! ええと……お守りを、ください!」
心ちゃんは、ようやく神社へやってきた目的を思い出した。お化け――花子さんを退治するために、お守りを買いに来たのだ。
「お守り? 色々あるわよ? 家庭内の円満を願う『家内安全』。病気や災害を避けたい時は、『無病息災』。勉強をがんばりたい時は、『学業成就』。……それとも、恋愛がらみかしら?」
「ええと、そういうのじゃなくて~。……あの~、『悪霊退散』のお守りとか、ないですか?」
「……悪霊退散?」
心ちゃんの言葉に、ひばりちゃんが首を可愛らしく傾げる。一方の心ちゃんは、「笑われたらどうしよう!」と気が気ではなかったが――。
「ああ、なるほど。今、学校中のうわさになっているものね。お守りの一つでも身に着けておけば、きっと大丈夫よ」
そう言いながら、ひばりちゃんは受付の窓を開けて中からお守りを一つ取り出し、心ちゃんに手渡してくれた。お守りには「無病息災」と書かれている。
「お金はいらないわ。その代り、またお参りに来てちょうだい」
「え、いいんですか~? ありがとうございます~!」
感激した心ちゃんは、お守りを手渡してくれたひばりちゃんの手を握って目をキラキラさせた。「なんてステキな人なんだろう!」と、ひばりちゃんに尊敬のまなざしを向ける。
手を握られたひばりちゃんの方はというと、少し困り顔だった。ひばりちゃんは、他人からベタベタ触られるのはあまり好きではないのだ。けれども、心ちゃんの手を振りほどくわけにもいかない。
「さて、どうしたものか」とひばりちゃんが困り果てた、その時。
『ニャァ~』
神社の境内に、甲高い猫の鳴き声が響いた。
その鳴き声に、ひばりちゃんが周囲を見回すと――いつの間にか、石畳の上に一匹の猫が、ちょこんと座っていた。
全身真っ黒で、鼻の周りと胸とお腹、足の一部だけが白い猫が。そして――。
「ああ~、可愛いにゃんこ! 八重垣さんの猫ちゃんですか~?」
心ちゃんも猫の姿に気付くと、ひばりちゃんの手をぱっと離して猫の方へ駆け寄り、そっとその頭をなで始めた。
猫はなでられて嬉しいのか、ゴロゴロと喉を鳴らしはじめた。
けれども、それを見ていたひばりちゃんはひどく驚いていた。なぜならば――。
「あなた……。綾里さん。まさか、その子が見えているの?」
「ほえ~?」
心ちゃんは、心底不思議そうに首を傾げた。それも無理もない話だった。眼の前にいる、今まさにナデナデしている猫のことを「見えているの?」などと聞かれたら、誰だって戸惑うことだろう。
けれども、本当に戸惑っているのは、ひばりちゃんの方だった
――その猫は、普通の猫ではないのだから。
「……綾里さん。あなた、もしかして小さな頃から、他の人には見えないものが見えたりする?」
「えっ!? ええと……その……」
「隠さなくてもいいわ。私もそうだから」
「ええっ!?」
今度は心ちゃんが驚く番だった。
今まで、近所のお兄さん以外でお化けを見ることができた人はいなかった。それが、こんなところに――しかも同じ学校の上級生にいたのだから。
「どうやら、お守りを渡して『はい、さよなら』で済む話ではなさそうね。綾里さん。あなた、ただ『トイレの花子さん』を怖がっているんじゃなくて、実際に見たのね?」
「……はい。あの! 信じてもらえないかもしれないけど、花子さんが出たのは、きっとあたしのせいなんです!」
「ふむ……くわしく話を聞かせてもらっても、いいかしら?」
ひばりちゃんの言葉にうなずくと、心ちゃんは「トイレの花子さん」を見てしまった、あの日の出来事を静かに語り始めた。
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