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第三話「校庭の隅っこには火の玉が出るらしい」
1.火の玉事件
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「鎌倉西小学校ミステリー倶楽部」が発足して、約一年。
彼らは既に、いくつもの事件を「解決」に導いていた。
「夜中に踊る骨格標本」事件。
「毎日向きが変わる美術室の石膏像」事件。
円堂茉佑ちゃんから依頼された「誰もいない音楽室からピアノの音が」事件も、その一つだ。
いずれの事件も、うわさ話から生まれた「本当はいないもの」達の仕業だった。
けれども、孔雀くんの「推理」と、ひばりちゃんによる「退治」によって、どの事件も「誰かのいたずら」や「偶然」として処理されている。
孔雀くんたち三人以外は、誰も事件の「本当の真相」を知らないのだ。
今回は、そのいくつかの事件の中から、少し「変わり種」の事件を紹介したい。
その名も、「火の玉」事件――。
***
『校庭の隅っこで火の玉を見た』――そんなうわさ話が流れたのは、孔雀くんたちが六年生になった春のことだった。
ちょうど、円堂茉佑ちゃんからの依頼「誰もいない音楽室からピアノの音が」事件を解決した後くらいのことだ。
鎌倉西小学校の校庭には、その端を縁どるように雑木林が隣接している。
この雑木林は、西小学校が住宅街のただ中にあるため、目隠しとして作られたものだ。鎌倉に自生する様々な種類の木々が植えられ、雑木林の中を縫うように人工の小川まで作られている。
中々に本格的な雑木林だった。
その雑木林の中で「火の玉」がうごめているのを、何人もの児童たちが目撃していたのだ。日が落ちて暗くなってからのことだという。
本来は、下校時刻を過ぎた後の児童の学校への立ち入りは禁止されている。
けれども、何人かの児童はその規則を破って、日没後に校庭へと忍び込んで、こっそり遊んでいることがあった。
「火の玉」を目撃したのは、その児童たちだったらしい。
なんでも、雑木林の薄暗闇の中で、小さな光がいくつもいくつも、ユラユラと動き回っていたというのだ――。
「――でさ~、それを先生たちに言ったのに、誰も真剣に聞いてくれないんだぜ? それで校庭で遊んでたことだけ怒られてさぁ。孔雀もひどいと思わないか!?」
そう話すのは、孔雀くんのクラスメイトである坂城《さかき》くんだ。
今は放課後。ミステリー倶楽部の部室の中である。
坂城くんは、放課後に校庭へ忍び込んだグループのリーダー的存在で、先生たちの間では「悪ガキ」と評判の少し困った男の子だった。
野球をやっているわけでもないのに頭は「スポーツ刈り」で、冬以外の季節は半袖短パンで過ごしている。
いつもいたずらばかりしているし乱暴者でもあるので、女子からの受けはとっても悪い。なので、部室には今、ひばりちゃんも心ちゃんもいない。二人とも「ちょっと用事が」などと言って、どこかへ行ってしまっていた。
そんな坂城くんが「火の玉を見た!」と騒ぎ立てても、先生たちはきっとまともに受け取らなかったことだろう――と、孔雀くんは顔には出さず思った。
けれども、少し気になる点もある。
「それで、先生たちは見回りとかもしてくれなかったのかい?」
「えっ? え~と……オレたちを校門から追い出して……どうかな? 誰かが見回りに行く、みたいな話はしてなかった……かな?」
しどろもどろに答える坂城くん。おそらく、そこまで細かいことは覚えていないのだろう。
――けれども、孔雀くんにとってはそれだけで十分だった。
いくら坂城くんのような信用のない男子の話だとしても、「雑木林の中に火の玉が見えた」と聞けば、先生たちはもっと慌てたのではないか? と孔雀くんは思った。
雑木林の中に「火の玉」のような光が見えた――つまり、そこには確実に何か光を放つものがあったはずなのだ。
不審火や不審者の可能性もある。本当ならば、すぐさま誰かが見回りに行かなければならない案件だ。
それなのに、先生たちには見回りに行くような素振りが無かったという。
いくら坂城くんに信用がないからと言っても、その動きは少し不自然だった。
「なるほど、確かにそれは少し気になるね」
「だろっ!? なあ、頼むよ孔雀ぅ! 『火の玉』の謎、解いてくれよ。いつもみたいにさ~。じゃないともう、怖くて夜の校庭で遊べねぇよ~!」
「そもそも夜の校庭に忍び込んで遊ぶのを止めてみては?」と思いつつも、孔雀くんはあえて口には出さなかった。
正直、そこまで坂城くんの行動に興味がないのだ。
それよりも孔雀くんは、「火の玉」とやらの正体に興味があった。
いつもの怪奇現象なのだろうが、それにしても先生たちの無関心さが気になる。何か裏がありそうだ。
「それで坂城くん。その火の玉というのは、どれくらいの大きさなんだい?」
「ん~分かんねぇ! 見たっつっても遠くからだしよぉ。林の中に、チラチラ小さな光が見えて、動いてたんだよ!」
「小さな光……じゃあ、具体的な大きさや形は分からないんだね? 色は?」
「ん~……オレンジ色、かな? それもよく分かんねぇや。あ、でもでも! 動いてたのは確かだぜ!」
もう少し情報を引き出してみようと思った孔雀くんだったが、どうにも坂城くんの話はおおざっぱで情報量が少ない。
目新しい情報と言えば「火の玉はオレンジ色だった」くらいだが、それすらもあやふやなようだった。
孔雀くんは、坂城くんはからはこれ以上の情報は得られないと判断して、「火の玉」を見たという場所だけ聞き出して、現地へ向かうことにした――。
彼らは既に、いくつもの事件を「解決」に導いていた。
「夜中に踊る骨格標本」事件。
「毎日向きが変わる美術室の石膏像」事件。
円堂茉佑ちゃんから依頼された「誰もいない音楽室からピアノの音が」事件も、その一つだ。
いずれの事件も、うわさ話から生まれた「本当はいないもの」達の仕業だった。
けれども、孔雀くんの「推理」と、ひばりちゃんによる「退治」によって、どの事件も「誰かのいたずら」や「偶然」として処理されている。
孔雀くんたち三人以外は、誰も事件の「本当の真相」を知らないのだ。
今回は、そのいくつかの事件の中から、少し「変わり種」の事件を紹介したい。
その名も、「火の玉」事件――。
***
『校庭の隅っこで火の玉を見た』――そんなうわさ話が流れたのは、孔雀くんたちが六年生になった春のことだった。
ちょうど、円堂茉佑ちゃんからの依頼「誰もいない音楽室からピアノの音が」事件を解決した後くらいのことだ。
鎌倉西小学校の校庭には、その端を縁どるように雑木林が隣接している。
この雑木林は、西小学校が住宅街のただ中にあるため、目隠しとして作られたものだ。鎌倉に自生する様々な種類の木々が植えられ、雑木林の中を縫うように人工の小川まで作られている。
中々に本格的な雑木林だった。
その雑木林の中で「火の玉」がうごめているのを、何人もの児童たちが目撃していたのだ。日が落ちて暗くなってからのことだという。
本来は、下校時刻を過ぎた後の児童の学校への立ち入りは禁止されている。
けれども、何人かの児童はその規則を破って、日没後に校庭へと忍び込んで、こっそり遊んでいることがあった。
「火の玉」を目撃したのは、その児童たちだったらしい。
なんでも、雑木林の薄暗闇の中で、小さな光がいくつもいくつも、ユラユラと動き回っていたというのだ――。
「――でさ~、それを先生たちに言ったのに、誰も真剣に聞いてくれないんだぜ? それで校庭で遊んでたことだけ怒られてさぁ。孔雀もひどいと思わないか!?」
そう話すのは、孔雀くんのクラスメイトである坂城《さかき》くんだ。
今は放課後。ミステリー倶楽部の部室の中である。
坂城くんは、放課後に校庭へ忍び込んだグループのリーダー的存在で、先生たちの間では「悪ガキ」と評判の少し困った男の子だった。
野球をやっているわけでもないのに頭は「スポーツ刈り」で、冬以外の季節は半袖短パンで過ごしている。
いつもいたずらばかりしているし乱暴者でもあるので、女子からの受けはとっても悪い。なので、部室には今、ひばりちゃんも心ちゃんもいない。二人とも「ちょっと用事が」などと言って、どこかへ行ってしまっていた。
そんな坂城くんが「火の玉を見た!」と騒ぎ立てても、先生たちはきっとまともに受け取らなかったことだろう――と、孔雀くんは顔には出さず思った。
けれども、少し気になる点もある。
「それで、先生たちは見回りとかもしてくれなかったのかい?」
「えっ? え~と……オレたちを校門から追い出して……どうかな? 誰かが見回りに行く、みたいな話はしてなかった……かな?」
しどろもどろに答える坂城くん。おそらく、そこまで細かいことは覚えていないのだろう。
――けれども、孔雀くんにとってはそれだけで十分だった。
いくら坂城くんのような信用のない男子の話だとしても、「雑木林の中に火の玉が見えた」と聞けば、先生たちはもっと慌てたのではないか? と孔雀くんは思った。
雑木林の中に「火の玉」のような光が見えた――つまり、そこには確実に何か光を放つものがあったはずなのだ。
不審火や不審者の可能性もある。本当ならば、すぐさま誰かが見回りに行かなければならない案件だ。
それなのに、先生たちには見回りに行くような素振りが無かったという。
いくら坂城くんに信用がないからと言っても、その動きは少し不自然だった。
「なるほど、確かにそれは少し気になるね」
「だろっ!? なあ、頼むよ孔雀ぅ! 『火の玉』の謎、解いてくれよ。いつもみたいにさ~。じゃないともう、怖くて夜の校庭で遊べねぇよ~!」
「そもそも夜の校庭に忍び込んで遊ぶのを止めてみては?」と思いつつも、孔雀くんはあえて口には出さなかった。
正直、そこまで坂城くんの行動に興味がないのだ。
それよりも孔雀くんは、「火の玉」とやらの正体に興味があった。
いつもの怪奇現象なのだろうが、それにしても先生たちの無関心さが気になる。何か裏がありそうだ。
「それで坂城くん。その火の玉というのは、どれくらいの大きさなんだい?」
「ん~分かんねぇ! 見たっつっても遠くからだしよぉ。林の中に、チラチラ小さな光が見えて、動いてたんだよ!」
「小さな光……じゃあ、具体的な大きさや形は分からないんだね? 色は?」
「ん~……オレンジ色、かな? それもよく分かんねぇや。あ、でもでも! 動いてたのは確かだぜ!」
もう少し情報を引き出してみようと思った孔雀くんだったが、どうにも坂城くんの話はおおざっぱで情報量が少ない。
目新しい情報と言えば「火の玉はオレンジ色だった」くらいだが、それすらもあやふやなようだった。
孔雀くんは、坂城くんはからはこれ以上の情報は得られないと判断して、「火の玉」を見たという場所だけ聞き出して、現地へ向かうことにした――。
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