社員旅行は、秘密の恋が始まる

彼の部屋

通い慣れた彼のマンションへと入る。交通の便が良い一等地に立つ地上30階建のデザイナーズマンションに住む彼の合鍵といっても金属の鍵ではなくーープラスチックのカード型非接触キーを、エレベーターのを読み取り装置にかざすと、行きたい階を押さなくても勝手に動く。
このカード型非接触キーのおかげで、エントランスの自動ドアもインターホンを押さなくても通れるのだけど。
目的の階、彼の住む23階の廊下を歩くと、ひとつの扉の前に立つ。大理石のネームプレートには、ローマ字で"芝田"とある。彼しか住人がいない23階は彼専用のフロアだ。
これも非接触キーなので、扉のノブに手をつければ自動で鍵が開く。
5帖ほどの玄関で靴を脱ぎ揃えて隅に置き、私専用のスリッパを履く。そのまま廊下を歩いて、リビングのドアを開くと、30帖の広いリビングと端から端一面の窓ガラスが外の夜景を映し出す。
ドアを背にして右側には、10人は座れそうな黒の本革のL字のソファーに、ガラスのテーブル、70型の壁掛けTVと向かい合っている。
左側は、両端のどちら側からも出れるアイランドというタイプで、流しの横にIHコンロが嵌め込まれ1枚の大きな黒大理石のカウンター付きで、目の前に仕切りが一切ないセミフロートの対面キッチンだ。仕切りがないので、コンロの前でも食事が出来る造りになっている。
キッチンの前にある2人が使用する椅子も黒で、ガラスのテーブルだ。全体的に黒で統一している部屋のインテリアは、高級感漂って未だに慣れない。
私の定位置の黒の椅子に荷物を置き、手を洗い部屋着に着替えるために、一度リビングから出た。
リビングを出てすぐ右の部屋に入ると、彼が私の部屋と称して、真っ白で大きな化粧台や大きなウォークインクローゼットにはお泊まりの服や下着、バッグなど並んでいる。もちろんベッドなどない。
クローゼットを開け、部屋着に着替えリビングへと向かう。
スマホを取り出し彼に、家に着いた事をメッセージを送り知らせ、キッチンの横の扉を開き備蓄品やお米や水など置いている部屋にある私のエプロンを取り、身につけた。
すると、私のスマホが鳴り通話ボタンを押す。
『着いた？』
「うん、今からご飯作るところだよ」
『そっか、楽しみにしてる…帰りは…１９時になると思う』
「わかった、気をつけてね」
『はい、終わったらまた連絡する』
「うん、じゃあね」
『ああ、また』
プツンと切れた通話に、彼が帰るまでの時間を計算して、料理に取り掛かった。



料理をしていると、無心になれるから好き。
例えば…そう、
もう半年も付き合っているとか、
寂しい夜を思い出さなくていいからとか。


「ただいま」
ガチャっと開くリビングのドアから、健吾がネクタイを緩め入ってきた。
「おかえりなさい」
今丁度盛り付けをしていた私は、一度菜箸を置き彼の元へ向かう。彼の鞄を持ちジャケットを脱がせるのを手伝う。振り向いた彼が私の唇に触れるだけのキスをして、「ありがとう」とお礼を言ってくれる。
私から荷物を取ると、着替えてくると、リビングから出る。
その間に盛り付けを完成させ、2人の使用するテーブルに置いて、白いご飯をよそい、味噌汁もテーブルに置いた。
「美味しいそうだなぁ」
丁度全て並べ終わった頃に、ラフな格好になった彼が、私を背後から抱きしめ肩に顎を乗せる。
「味は…美味しいといいなぁ」
クスクス笑い、彼の口癖を真似ると、お腹を抱く力が強くなり彼も笑う。
「食べようか」
と囁く彼に、うしろを振り向き、うんと答えた。