ソロキャンプと男と女と

狭山雪菜

文字の大きさ
4 / 4

リクエスト 2人でキャンプ ソロキャンプ

しおりを挟む
「…本当にいいの?」
「大丈夫だから、いってらっしゃい、」
「あぅー、あぅー」
「…でも」
「夫婦水入らず、たまには息抜きも必要よ、それに珠央たまおちゃんが虫に刺されたら大変よ」
心配そうに玄関先で悩む私――長崎匠ながさきたくみは、この実家に、この春の生まれたばかりの娘、珠央を預けに来たのだが、生まれた時から一緒にいる珠央と離れるのが不安になってしまったのだ。

30歳を過ぎても結婚の、"け"の字もなく、付き合っている人もいない気配を出していた娘に、32歳で結婚したかと思えば、今年の春に子供が産まれ、匠の両親――だけじゃなく、夫の龍未たつみのご両親も――喜び、初めての育児に奮闘している私達夫婦を手伝ってくれていた。

しかし、今回は手伝いとはちょっとだけ違う、完全に娘を両親に預けて、しかもお泊まりなのだ。
「…でも…」
いざ娘と離れる時間になると、とっても寂しくなり、なかなか玄関から立ち去れなくなってしまう。
「…匠…?…お義母かあさん、こんにちは、今日はすいません、よろしくお願いします」
私が戻るのが遅くて、心配になった夫の龍未――たつくんが私のところにやってきた。私で隠れていたお母さんを見て、慌てて挨拶した。
「あらっ、龍未さん、ええ、しっかり見ますよ、だから安心していってらっしゃい」
あう、あう、としかまだ言葉を発しない娘の手を、お母さんは持ち上げてバイバイと横に振った。
「…でも」
「匠、ほらっ行きなさい」
それでもなお渋る私の背を、母は押したのだった。




***************


今日は秋の連休を利用して、龍くんとのキャンプをする日だ。本当は珠央も連れてくるはずが、キャンプに行くことを母に伝えたら、赤ちゃんを連れて行くなんて!と言われ、一泊だけ預ける流れとなってしまったのだ。
今日は動きやすいように、ポニーテールにした紺色の長袖のシャツとグレーのパーカー、長ズボンと運動靴を履いている。実は紺色の長袖のシャツは龍未とはペアで購入したもので、彼も同じのを着ていて、ジーンズを履いている。彼は暑がりだから、パーカーは荷物の中に入れてある。
「この先の信号を右に曲がれば駐車場だよ」
実家から出発して数時間経つと森や川が見え、自然豊かな風景が車内から見える。携帯のナビを頼りに、助手席に座った私はナビの表示の通りに龍くんに伝えていた。
「結構近いね」
元々龍くんは車を持っていなかったけど、結婚してしばらくして4人乗りの紺色の軽自動車を購入した。私が妊娠したのもあったけど、引っ越した先が郊外となったからだ。すでに車の後部座席にはチャイルドシートがあり、固定されていて、その横に今日の荷物を載せている。
「そろそろか」
信号を曲がってしばらくすると、駐車場の案内看板が見えて車が入っていく。30台は停められる駐車場は、すでに数台止められていて、入り口と書かれた看板も設置されていた。

「行こう」
龍くんは駐車した後、後部座席に乗った2人分の荷物を軽々持って、大きめのリュックを背負った私に手を差し伸べる。彼の手を取り歩き始めた私達は、入り口と書かれた大きな看板の先に行き、整備されていない遊歩道を進む。川のそばにあるキャンプ地に到着すると、丸太で建てられたキャンプ地の本部に向かう。
ガラッとスライド式のドアを開くと、カウンターにいたのは50代くらいのポニーテールの女性だった。
「いらっしゃい」
「予約していた、山崎です」
にこっと笑う受付の人は、龍くんが言った名前をバインダーに挟んだ紙のリストの中から探した。
「…はい、山崎さんね、こちらが参加する際の注意点が書いてある紙ね、場所は好きなところでいいけど、ゴミだけはしっかりと持って帰って…あと何かあったら本部まで来て、それか…この番号に電話を――」
チラッと彼を見ると、キャンプ地の女性の話をうんうんと頷きながら聞く龍くんは、185センチの身長と大きな体格で前髪が目に掛かって、ぱっと見何を考えているのか分からない。そんな彼に受付の人は、特に気にする事もなく、慣れた説明をすらすらと口にする。

キャンプ用品を有料でレンタルする場所も教えてもらい、私達はキャンプ地の端へと移動した。少し小高い所から見下ろすと、数箇所テントが張ってある。
「…ココでいっか」
ドサッと荷物を下ろした彼は、持ってきた荷物からテントを出し組み立てていく。私は彼の手伝いをしながら、持ってきた寝袋や折り畳みの椅子を出して設置した。
椅子に座った私は、持ってきた大きめなリュックから食材を取り出し、底にまとめた調理器具を出した。
スマホを取り出し、前から作ろうと思っていた動画配信でキャンプ料理の動画を再生する。
ミニバーベキューコンロを設置すると龍未がやってきて、今度は火を起こし始めた。
「これ作るの?」
彼が石炭の火をうちわで仰いでいる間に、お肉と調味料を出していく。家から作ってきた塩おにぎりは主食だ。
「うん、焼くだけみたいだから、お昼にいいかなって」
朝ごはんを食べてから随分経っているし、トイレ休憩以外は車に乗っていたから何にも食べていなかった。
動画通りに揃えた調味料の薄ピンク色の塩と胡椒を、分厚いお肉に振る。
「美味しそうだね」
「でしょ?」
火を起こし終わった彼がコンロの上に銀色の網を置いたので、私は網が温まった頃を見計らってトングで挟んだお肉を網の上に載せた。
ジュー、とお肉の焼ける静かな音がして、白い煙とお肉の匂いが漂う。トングを彼に渡すと、彼はコンロの前に座った。私も彼の横に座り一緒にお肉が焼けるのを待っていた。



「…眠い?中で寝る?」
「うーん…ごめんちょっと寝る」
ご飯も食べ終わると満腹感から眠くなって、コクンコクンと船を泳いでいると、彼の腕に頭がぶつかってしまった。心配そうに言う彼にちゃんとした返事をしたかったけど、眠さが勝ってしまって、テントの中で寝ることにしたのだった。
2人用のテントの中は寝袋を二つ並べると、それ以外の物は置けない狭さだった。
右手の濃緑の寝袋と左手にあるド派手なピンクの寝袋は、色違いの同じブランド品でこの日のために揃えたキャンプ用品の一つだ。
自分の寝袋の上に寝転び、あっという間に眠りについてしまった。


ガサッと、音が聞こえて意識が浮上した。ゆっくり目を開けると、薄暗いテント内で大きな影からだんだんと色が付き、龍未の姿となる。
「…悪い、起こしちゃった?」
「ううん…今何時?」
寝袋の上に横になった龍未が、動いた拍子に出した音みたいだ。
「もうすぐ17時だよ」
そう言って足を曲げて横になる龍未は、右手を頭の下にして私の方を向いていた。
「結構寝ちゃった…ごめん…すごい静か…だね」
「疲れてたからね、いつもなら珠央が泣いてるからね」
龍未が私に手を伸ばし、私の頬をゆっくりと撫でる。
まだ生後6ヶ月とはいえ、赤ちゃんの珠央は数時間おきに起きては泣いていて、子供が産まれ週3日の在宅ワークになったシステムエンジニアSE龍未は、徹夜はお手のものだからと、夜に珠央を見てくれるようになった。
ある程度睡眠は取れてはいるけど、やっぱり眠いものは眠いのだ。
上下に摩る彼の手先に、うっとりとしてしまう。こうした時間も久しぶりなような気がすると、今更ながら気がついた。
「…本当2人っきりだね」
思ったよりも、彼を求めるような甘い声が口から出てしまい、愛おしそうに私の頬を撫でていた龍未の雰囲気が一変した。前髪が目にかかって顔の表情がよく見えないのに、何となく何を考えているのが分かる。
――なんだか嬉しい…かも
起き上がった龍未は私の顔に自分の顔を近づけ…瞳を閉じた私の唇に柔らかな唇が重なった。

彼の首の後ろへと腕を回し、舌の絡まる濃厚なキスに夢中になっていると、彼の手が私の背中をなぞり腰までいくと、また背中へと戻る。身体を浮かせると、私の背中に彼の両腕が入った。ポニーテールにしているゴムを外し、彼の前髪を下から掬うと前髪をゴムで結んだ。凛々しい眉は太く、吊り上がった奥二重の下三白眼の目元が露わとなった彼の顔を、うっとりと見つめる。
――毎日一緒にいて…毎日好きになる、毎日カッコよく見えて、ドキドキするのがやめられない
彼の頬を両手で挟み、触れるだけの口づけをする。
「龍くん…カッコいい」
「匠可愛い、好き」
ちゅっ、ちゅっ、と啄むキスをしていると、彼の身体が私の寝袋に移る。両手を彼の頬から彼の肩へ、彼の胸板から腰に下ろし、シャツの裾を握りたくし上げる。起き上がった彼に合わせて私も起き上がり、彼の服を脱がせる。龍未くんが、カチャカチャとズボンを寛げている間に、私はパーカーを脱いだ。シャツを脱ごうとすると、彼の手が私の手に重なった。
「後は、俺が」
そう言って口を塞ぎながら私をまた押し倒すと、頬や顎のラインに唇を寄せてキスをしながら舌を這わす。擽ったくて、くすくすと笑っていると、面白くないのか首筋を甘噛みしつつ、強く吸い付きチクリとした痛みを残す。
「ンッ」
声が出てしまいそうになり、口元に手を置いて我慢する。
「…声出してよ…可愛い声」
私の髪を後ろへと退かし、耳に舌を入れ囁く声は重低音で腰にくる・・
我慢出来なくなって彼の口を塞ぎ舌を絡め吸い付くと、彼の両手が私の胸を揉み始めた。大きな手のひらが力いっぱい私の胸を揉み、シャツとブラに阻まれてちゃんとした感触を掴めない。服の上から胸を揉むのを諦めた彼は、私のズボンを下ろし始めた。お尻を上げて脱ぐのを手伝うと、一緒にパンツも脱がされた。すぐに固くなっといた彼の昂りが私の下半身に密着すると、腰を軽く揺すりだす。
「ん、ぁっ、は…っ…ぁ、あっ」
口を離したら、下半身に擦られる彼の昂りとの摩擦の熱さに、快感が身体中を巡っていく。
擦れる音から、くちゅくちゅと水音が聞こえ、今度は上体を起こした龍未が私の両足を持ち上げ私の身体を半分に折ると、彼の眼下に下半身が露出した。
ゴクンと、彼が唾を飲み込む音がした。無言で昂りの側面を蜜口に置くと、前後に動き出した。彼の昂りが蜜口を擦り、凸凹した先端が蜜口の粒に当たり身体に電流が走る。
「あぁっ!」
背はのけ反るが、太ももの裏から彼の手で押さえつけられ、身体が思うように動かせない。色々な角度から彼の昂りが、蜜口に当たり粒を弄る。彼を求めるように蜜壺がきゅんとする感覚がやってくると、彼の昂りの側面を離すまいと軽く締め付けてしまい。
「ああ、匠」
彼の嬉しい声が聞こえ昂りの位置を変えたら、蜜口から蜜壺の中へとグチュっと音を出しながら先端を入れた。
ズズッと溢れる蜜を潤滑油として入っていく昂りは、蜜壺の中を目いっぱい広げて最奥へと貫いた。休むまもなく腰を引いた彼は、私の足から両手を離し腰に置くと抽送を始めた。
「あっ、あっ、んっ…んっ」
ぱんぱんっと下半身同士がぶつかり、容赦ない律動が何度も何度も絶頂へと達し快感で頭が真っ白になる。
「ぐっ、っ」
彼の低い唸り声とともに、蜜壺の中が熱い証で満たされていく。お互い絶頂へと達すると、荒い息を整える。

喘ぐのも途切れ途切れになってしまうと、彼の腰に足を巻きつけた。ずり落ちていく彼のズボンを、上品ではない足で下ろして下着も下ろした。
膝に溜まった彼のズボンに満足した私は、彼の足に巻き付けなおした。上体を屈めた彼が私の口を塞ぐと、舌を絡めた口づけをする。
「ん、ん、っんぁ、ん」
顔の角度を何度か変えると、彼の唇が私の唇から離れた。額と鼻先を合わせて、お互いの熱い吐息が互いの口に当たる。
「…もう一回いい?」
「…ん…うん」
甘えた彼の声に反応した私も甘い声が出た時に、腰を軽く揺すり彼の昂りが固くなっていることを知った。




***************



「ご飯は…また肉でいいか」
数回愛し合った後に、日も暮れて真っ暗になった外に出ようとして、龍未に止められた。
テントの外に出た彼は、しばらくするとお皿の上に焼いたお肉を持ってテントの中に戻ってきた。
「…美味しいね」
「美味いな」
パーカーを来た私の横に彼が座り、小さく切られたお肉を2人で突きながら食べる。
「今度は、さ…2人が出会った場所に珠央を連れて行かない?」
「あの、ソロキャンプの?」
「そう、あそこはツアー以外も営業しているし」
「行きたいっ!ベッドもあるし…クーラーもあったっけ?」
「…どうだっけな…それは調べようか」
もぐもぐとお肉を口にしながら、次に行くキャンプの話をした。
「…本当は、さ…珠央が大きくなったらって思ったんだけど、さ」
「…うん?」
「たまには自然に触れ合ったら、匠のリフレッシュになるのかなって」
「だから…キャンプに?」
「そう」
だからか、とキャンプに誘われた時の違和感を思い出した。
普段の彼なら実家に預けるって言うと、「申し訳ないから、キャンセルして日帰りに」とか言うのに、今回は「じゃあ、お願いしよう」と、そう言ったのだ。
週の半分は彼が見ていると言っても、それ以外はほぼ私と過ごしているので、彼なりに私の事を思ってくれていると感じて、幸せな気持ちが胸の中に溢れてくる。
「…ありがと」
照れ隠しで彼の腕に自分の腕を絡めると、むにゅっとパーカーの下に何にも付けていない柔らかな胸が、意図せず彼の腕に押しつけてしまって、うっと低い声を出した彼が私を押し倒したのだった。



結局ほぼいちゃいちゃするだけの一泊2日のキャンプは、色々な具材を持って行ったのにシンプルな焼くだけの料理になってしまったのは、多分飽きる事なく求め合った2人のせいだろう。
久しぶりに過ごす2人きりの時間を堪能した2人は、また次回の家族旅行に向けて新たな気持ちになったのだった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

普通のOLは猛獣使いにはなれない

ピロ子
恋愛
恋人と親友に裏切られ自棄酒中のOL有季子は、バーで偶然出会った猛獣(みたいな男)と意気投合して酔った勢いで彼と一夜を共にしてしまう。 あの日の事は“一夜の過ち”だと思えるようになった頃、自宅へ不法侵入してきた猛獣と再会し、過ちで終われない関係となっていく。 普通のOLとマフィアな男の、体から始まる関係。

売れっ子タレントは、マネージャーとイチャイチャしたい

狭山雪菜
恋愛
まりりんは、今最もテレビに出ている20歳の売れっ子のモデル兼タレントだ。 そのまりりんには、秘密の恋人がいる。それは、彼女の側にいつもいるマネージャーの藤原だ。しかし売れっ子が故に、彼との時間が持てなくて…? この作品は「小説家になろう」にも掲載してます。

Honey Ginger

なかな悠桃
恋愛
斉藤花菜は平凡な営業事務。唯一の楽しみは乙ゲーアプリをすること。ある日、仕事を押し付けられ残業中ある行動を隣の席の後輩、上坂耀太に見られてしまい・・・・・・。 ※誤字・脱字など見つけ次第修正します。読み難い点などあると思いますが、ご了承ください。

暁はコーヒーの香り

氷室龍
恋愛
一之瀬明日香 28歳 営業二課主任 大口契約が決まり、打ち上げと称して皆で美味しくお酒を飲んでいたのだが…。 色々ハイスペックなのを隠してるOLとそんな彼女をどうにかしてモノにしたくてたまらなかったおっさん上司の体の関係から始まるお話 『眼鏡の日』『ネクタイの日』『コーヒーの日』ってワードから思い付きで書きました。

義兄と私と時々弟

みのる
恋愛
全く呑気な義兄である。 弟もある意味呑気かも?

義兄様と庭の秘密

結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。

処理中です...