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34 気分転換に3泊目2

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「以上が、当ブライダル会場が自信を持っておすすめしますプランの大まかな式の流れとなっております…では早速ですが、会場内へとご案内いたします」
このブライダル会社は、予約しなくてもウェディングプランナーが対応してくれて、いろいろな式のプランパックを教えてくれるらしい。もちろん挙げるのは歓迎だが、最終的な判断は私達で決めると言ったウェディングプランナーは、結婚式を挙げる敷居が高くないと思って欲しいと言っていた。近年では多様化に対応した2人だけで挙げたい、家族だけや友人を呼んで挙げたいなど、それぞれの事情に合ったプランを用意してくれる。海が見える所だったり海外の教会のように大きな建物でも、会場は別になるが着物を着た和装の結婚式も出来る。
30分ほどの説明を受けた後で披露宴などを行う会場内を案内されると、最後にドラマなどに出てくる赤い絨毯のバージンロードのあるチャペルがあった。
横に2つと縦に数列もある木製の長椅子の間に赤い絨毯が敷いてあり、絨毯の終わりには大きなガラス窓が外の青空を映している。
「こちらが当社自慢の海や晴天を背後に誓いの言葉ができて、一生の思い出を残すことのできるチャペルです」
ウェディングプランナーの案内通り、確かに美しくて魅入ってしまう。
歩き始めた薫のあとに続いて歩くと、彼は赤い絨毯の終わりの祭壇の段差で止まると私が来るのを待っている。すると、ウェディングプランナーの携帯電話が鳴り、
「申し訳ございません…少し席を外させていただきます」
と私達に一礼すると、チャペルからいなくなり、私と薫の2人きりとなる。
「…茉白」
ウェディングプランナーがいなくなった扉を見ていたら、薫に呼ばれたから振り向くと彼は私に左手を差し出していた。
手を伸ばして彼の手を取ると、薫のいたチャペルの段差に乗り上げた。腰に手を回され、薫を見ようとしたけど先に視界に映ったチャペルから見えた窓ガラスの先は絶景の一言に尽きた。この会場で式を挙げるとなれば、ウェディングプランナーの言う通り、きっと一生の思い出となると思う。
「ここ…いいな」
「うん…綺麗」
薫を見上げると、彼は私と同じ窓ガラスの先を見ていなくて、私を見下ろしていた。
「和装服の結婚式もいいな、どっちが好き…いや、どっちも挙げてもいいな」
「2回も挙げるの…?」
「2人きりなら別に何回挙げてもいいだろ」
普通なら冗談だと思って笑っちゃうんだけど、薫なら両方やりたいとか年に一度と言ったら、旅行がてら各地で挙げようかと言い出しかねない。
──毎年は言い過ぎかな…ううん、これはしそうな顔だ
薫の顔は真剣そのものだから、冗談ではなさそうだ。私が返事をしようとすると、今度は薫が私の前で片膝をついた。ポケットからラッピングされていない小さな小箱を取り出した。これは午前中に選んだ指輪じゃなくて、全く見たことのない箱で、薫は上下に開封できる箱を開けると、中から宝石のついていないシンプルなシルバーの指輪が中のクッションに挟まっていた。
「愛してる、茉白…初めて会った時から君に惚れてる…再会するまでの間は地獄のように長く感じたし、再会してから俺の人生は明るく幸せに満ちている…早いと思うかもしれないが、俺は茉白が俺の運命の女性ひとだと確信している」
薫はそっと宝物のように指輪を外すと、私の左薬指にはめた。
「…薫」
「どうか、俺のそばにいて欲しい」
さっきまで自信満々に別れないと言っていたのに、今は少しだけ不安そうな顔をしている。
──今…まだ結婚するんだって、心の整理がつかない…けど
「私は…ずっと薫のそばにいたい…今はこの気持ちだけでいいかな」
「…今はそれだけでも十分だ」
私の気持ちは薫とずっと一緒にいたいと思う気持ちは変わらない。薫がくれる愛情表現は、胸焼けしてしまうほど情熱的で強引なのに、ちっとも嫌な気持ちにならない。むしろ執着されて喜ぶ自分がいて戸惑うばかりで、こんなにあからさまに愛された事などなかった。その手を離すとなると、もうダメになってしまいそうだ。
薫は立ち上がると、私を抱きしめた。彼の好きなコロンの香りに包まれ、頬を硬い胸板につけると祭壇の奥の景色が目に入る。
──私はこの日を一生忘れられない
絶景をバックに教会の中にいるようなロマンチックなシチュエーションの中、プロポーズをされた。
しばらく抱き合っていると、扉の奥が騒がしくなって身体を少し離すと、ウェディングプランナーの人が戻ってきた。
「大変失礼いたしました」
申し訳なさそうに言ったウェディングプランナーの人が、止まっていた案内を再開させた。
そのあともつつがなく進んだ会場案内が終わると、アンケートに答える薫のそばで私は新しくはめた指輪を触っていた。
談笑する薫とウェディングプランナーの話を聞きながら、心ここに在らずの黙った私を薫は何にも言わず見守ってくれていた。
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