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36 気分転換に4泊目旅の終わり

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昨日の朝とは違って倦怠感も薄く、ぐっすり寝れたから気持ちいい目覚めとなった。
眠りにつく前には、薫もいたはずなのに、今はベッドの上にはいなかった。ベッドのそばにあるデジタル時計を見ると、朝の7時24分になっていた。ベッドの上に座ると、扉の開く音がして歩く音が聞こえた。
「おはよう」
「おはよう…ございます」
「ふっ、なんだそれ」
朝から低音ボイスを聞いて、つい敬語になってしまうと、薫は笑いながら私のいるベッドに来た。
「よく寝れたか?」
「うん、よく寝た」
彼はすでに着替えていて、昨日のバスローブ姿とは違って、グレーのポロシャツと黒いズボンを履いていた。髪も寝癖もないし、さっぱりとした顔は洗顔でもしていたのかもしれない。
ベッドに座った彼の横にいくと、私は薫の肩に頭を乗せた。
「…今日はもう帰るからのんびり行くか…他に行きたいところあるか?」
「うーん…わからないや…予定は決まっているの?」
旅行が決まった時に一応調べたけど、サイトにあるこの地のオススメトップ10の中を見てもピンと来なかったし、どうせ薫がプランを考えるんだからおまかせにしていたのだ…今更特に行きたい場所なんてなかった。
「そうだな、荷物を車に載せて帰り道に通る観光名所に行ってから帰ろうと思っていたが」
そう言って薫はいくつか候補地を言ったので、面白そうだと思って私は頷いた。
「行きたい!もう出発する?それとも…」
「待て待て、朝食が先だろ」
今にもベッドから飛び降りて支度をしてしまいそうな私を、薫は苦笑しながら止めた。昨日も食べたのに、ホテルの朝食のブッフェがあるのを忘れていた。
「あっ…そっか、ごめん」
「30分くらいしたら行くか」
薫は準備が終わってるみたいで、バルコニーにあるベッドチェアに座ると横になった。その間に私は出かける支度と帰りの準備を始めた。



朝食もチェックアウトも済ませて、持ってきたキャリーケースに全て持ってきた物を詰めてホテルの地下駐車場に停めた車に載せた。
「あっ、お土産買ってない」
別に誰に渡すってわけじゃないけど、自分達用にご当地のお菓子や乾麺とかの食材を買おうと思っていたのを思い出すと、
「このあとは少し寄り道するから」
薫はサングラスを付けた。車に乗ってると助手席も眩しいと知った私も持ってきたサングラスを付けると、車は出発した。

薫が朝言っていた候補地のひとつ──海の底を通ると海にぽつんと建てられたある娯楽施設に行った。
「すごい人」
駐車するのにも場所探しは大変だったけど、なんとか車を停められたら、いっぱいの子供連れの家族がいた。
「やっぱ夏休みはすごいな」
と言いながら、施設内を回ることにした。レストランやカフェ、ゲームセンターにマッサージ店、ショッピングモールみたいに沢山のお店があって、お土産屋さんもある。
「あっ、ねっこれ一年後にハガキが届くサービスやってるよ」
どこから行こうかと悩んでいると、入ってすぐの所に普段道端で見かける赤いポストがあって、この場所の特製郵便スタンプを押して1年後に届くサービスをしていると書かれたプレートを見つけた。
「面白そうだな…ハガキと切手は売店で買えるらしい」
興味を示した薫はポストの横にあったプレートを見てそう言って、キョロキョロと周りを見回すとすぐそばに『ハガキ・切手のご購入はこちら』と旗がある売店を見つけた。
「やってく?」
「うん!やりたい!」
薫は売店からハガキと切手を購入すると、近くにあるテーブルに座って書き始めた。

2人がそれぞれ書いたハガキをポストに投函すると、今度はしばらく施設内を回った。足湯のコーナーがあって、並んで座るとひと休みをした。
「…やっぱりどこ行っても混んでるな」
「そうだね…なかなかゆっくり見れないね」
ゲームセンターには寄ってないけど、同じフロアはめちゃくちゃ家族連れで混んでいた。館内の歴史を知るコーナーでは迷路のようになっていて楽しいのか子供達がいたし、ミニシアターになっている歴史は順番待ちで列が出来ていた。
お土産屋に今買いに行っても館内を回るのには邪魔になるから、帰る直前に行こうと思っていたけど…こうも人が多いとゆっくり見れない。だけどつまらないかと思えばそうでもないから、足湯コーナーがあったのでひと休みする事にしたのだ。
今はちょうど混んでない時間帯なのか、私達の他に2人くらいの人しかいなかった。靴を脱ぐ場所と繋がった木製の床の上を歩いて、段差を2つ登ると細長い湯気の立つ足湯コーナーがある。木製の縁に座ると、正面は前面ガラス張りで一面海が広がり絶景だ。
「あそことあそこに寄って」
至る所にあったインフォメーションの地図の横にあった館内マップ持って来た薫は、それを見て食べ物のお土産屋を選んでいく。
「あっ、ここに行きたい」
と、マップを広げる薫の腕の中を私も見て、マップの場所を指を指すと薫は頷いた。
「ここか、行こう」
薫が私を見てにっこりと笑うと、ゆったりとした時間が流れているのに気がついた。
薫は一度周りを見渡すと、誰も見ていないと私の顔に口を寄せて唇を重ねた。付けて離れただけのキスはすぐに離れ、私はそのまま薫の腕に自分の腕を絡めた。
「…本当に好きだよ」
幸せすぎてどうしようもない、と胸がいっぱいになっている私は、彼の腕に頬を付けて目の前の海を眺めた。空と海の景色に夢中になっていた私は、私の横にいる薫が真剣な表情になったのに気が付かなかった。
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