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招待状
しおりを挟む「今年成人の儀を迎える者、全て例外なく王城へと招き入れる」
避暑地から帰って来て、数ヶ月ーー
1通の手紙が、アーテラ公爵家に届いた。
毎年恒例の貴族ーー男爵家以上の身分の20歳を迎えた男女は、王城へと上がり国王陛下に挨拶をする事で、成人として認められる催しの連絡が届いたのだった。
「全て例外なく…か」
ボソリと告げる父の言葉に、ピクリと身体が反応する。
「…お父様」
夜も更けたある日、執務室に呼ばれた私は目の前のソファーに座る父を見つめた。
「…ああ、ミカド、何にも心配する事はないんだよ、このアーテラ公爵家の長女に何かする者など、命が幾らあってもたりないからね」
優しく笑う父の目が、全然笑って居なくて寒気すらする。
「そうですよ、お嬢様何にも心配はいりません」
父の背後で立っている筆頭執事のムルクは、私に分かるよう頷く。
私が避暑地で倒れてから、心配し本宅へ戻ったムルクは、日々父と忙しそうに過ごしている。
「なぁに、こんな美しく育った愛娘を自慢するいい機会だ…ミカドは必ず社交界の花になる事間違いなしだ」
愛娘が何者かにより外出もままならない身体にされた事を絶対に許すはずがない当主は、捜査も何年も前から暗礁に乗り上げていたために、行動を起こす事に決めた。それを察知したムルクも、同意見であり賛成だった。
無邪気でお転婆だったミカドが、夜にしか外の空気を吸えない事に、ミカドを慕う使用人と家族は心を痛ませ、犯人を心底憎んでいたのだ。
何故兄が別宅に住むのか、何故弟が本宅からでも通えるのに寄宿舎に行くのか、それは本宅では得られぬ情報収集を行っているためであり、寄宿舎の学生・教師の噂の巡りは早く、そこで生活した方が情報も漏れずに拾えるからだ。さらに本宅の警備を強化するにあたり外出の多い2人がいると、どうしても警備体制に穴が空いてしまうためだからだ。
父の思惑など知らない私は、父とムルクの言葉にホッとして、初めて屋敷の外へ外出出来る事に胸をときめかせた。
幸いなのは、舞踏会は夜に行う事。
次の日屋敷の使用人総出で準備が始まった成人の儀での服装選びに母を筆頭に、ミカドの知らない所で兄や弟、そして父の意見を取り入れていく事になっていったのだ。
こっそりと仕立て部屋に忍び込んでは、順調に仕上がるドレスにミカドはうっとりと見惚れ、夜が開ける前に自室へと戻っていた。
間もなく、成人の儀の舞踏会が始まる。
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