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第95話 延長(レダ視点)
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こうして完全に終わったと思われたデートクエストだったけど……。
「ここから先は俺のわがままなのだが。ホブゴブリンの発生源となっていたダンジョンを見つけ出してコアを破壊しておきたい」
それはアーカンソー様からの思わぬ延長の申し入れだった。
竜娘と小娘はこの展開を織り込んでいたのか、これっぽっちも驚いていない。
「もちろんクエストとは関係ないから町で待機してくれていても構わないが、どうする?」
「待機だなんてとんでもないです! ここまでしてもらって帰るなんてできません!」
「まだなんにもやってないですし~!」
「いやマジでアーカンソー様のお役に立ちたいですし! というか、立たせてー!」
わたしたちのそれは下心のない嘆願だった。
デートクエストとか関係なく、このままじゃ冒険者として立つ瀬がなさすぎる。
「それはよかった。このままでは、俺だけで終わって申し訳なかったからな。クックック……」
アーカンソー様が不吉な笑みを浮かべてプレッシャーをかけてくる。
暗に役立たずと言われている気がして悔しかったけど、反論できなかった。
何もできなかったのは事実だし、わたしたちの目的を考えればアーカンソー様の意見は正しすぎたから……。
◇ ◇ ◇
アーカンソー様が指し示した方向にダンジョンの入口があった。
もう驚かない。
「ここからは隊列を変えるぞ」
「えっ?」
アーカンソー様の宣言に反応したのは意外にも小娘だった。
「どうしてよ! パーティの連携を考えても今がベストでしょ! アンタだって賛成してくれたのに……」
やっぱりあの締め出し隊列は小娘の発案だったかぁ!
「残念ながら、今の隊列はダンジョン内では分断されるリスクが高いので採用できない。聞き入れてくれ、シエリ」
「わ、わかったわ……」
アーカンソー様にダメ出しされてヘコむ小娘。
「ここから先は前衛をレダとアーシ。中衛にウィスリーとシエリ。そして後衛は俺とフワルルだ」
「えっ! あたしがアーカンソー様と! いいんですか~!?」
……僥倖だ。
まさかここに来て、あのフワルルがふたりを突破してアーカンソー様に食い込めるだなんて!
「後衛はあたしとアーカンソーがいいんじゃない!?」
小娘が食い下がるが、アーカンソー様は首を縦に振らない。
「万が一を考えると俺がしんがりを務めつつフワルルを守れるこの形がいい。彼女がもっとも自衛力が低いからな」
「は、はい~っ! それは間違いないと思います~!!」
泣き笑いで自分の無力さをアピールするフワルル。
ここにきてようやくわたしたちの『弱さ』が武器になった!
「ご、ご主人さま……」
「ウィスリー。シエリの護衛は君にしか任せられない。頼めるな?」
「う、うん……」
竜娘は不服そうだが主人であるアーカンソー様には逆らえない。
これはきっと最後のチャンスだ。
頼んだわよ、フワルル……!
◇ ◇ ◇
わたしたち『蠱惑蝶』にはそれぞれ男に裏切られた過去がある。
結婚詐欺に遭ったフワルル。
借金の連帯保証人にされたアーシ。
そして幼馴染に結婚の約束を忘れられた、わたし。
男に不信感を懐いていたわたしたちが十三支部に流れ着いたのは必然だった。
三人で意気投合して以来、わたしたちはモンスターや山賊ではなく『女の敵』を狩り続けている。
世の中と女を舐めてたどーしようもないクソガキ冒険者。
女奴隷を侍らせてハーレムを作ってた金持ち貴族冒険者。
まだ子供くらいの女の子たちを洗脳してたデブオヤジ冒険者。
そんなクズ男どもからあらゆるものを搾り取って地獄の底へ突き落とすのが、わたしたちの喜び。
どいつもこいつもデートクエストで破滅させてやった。
もちろんアーカンソー様はわたしたちが堕としてきたクズ男じゃない。
正真正銘の英雄だし、心から尊敬している。
だけど男だ。
なら、わたしたちのノウハウが通用する。
わたしたちのやり方が間違いなのはわかってる。
でも、自分たちを信じて前に進んできた。
その積み重ねを自分の幸せのために使って何がいけないのか。
わたしたちみたいに自力で這い上がれない女は、アーカンソー様のような方に幸せにしてもらうしかないのだ。
「イッチー……不真面目な世界ですって? 冗談じゃないわ」
わたしたちは大真面目だ。
『蠱惑蝶』は自らの信念を貫く。
絶対にアーカンソー様のハートをゲットしてやるんだ。
そのためにわたしは危険じゃなさそうな罠にわざと引っかかると心に決めていたのだけど。
「待て。この先に罠がある」
これで何度目の制止だろう。
アーカンソー様には罠も探知できるらしく、いよいよ罠にかかるのも難しくなっていた。
ちなみにモンスターとの戦闘は一度も起きてない。
アーカンソー様が放つ回転する刃がモンスターを全部倒してしまうからだ。
だから戦闘後に「怖かった!」と抱きつくいつもの手口が使えない。
アーシも出番が来なくて泣いている。
ならせめて解除に失敗して罠を発動させるために、アーカンソー様が見つけた罠の方へ向かうんだけど。
「レダ。解除する必要のない迂回できる罠のある方に突っ込もうとしているな。何故だ?」
あっさりバレました。
「はは、念のために解除したほうがいいかと思いまして」
「心配性だな。ならば俺の方ですべて解除しておこう。接近しての解除は万が一があるからな」
……いよいよ、わたしたちにできることは何もないのかもしれない。
本当に頼むわよフワルル!
あなたが最後の希望なんだからね!!
「ここから先は俺のわがままなのだが。ホブゴブリンの発生源となっていたダンジョンを見つけ出してコアを破壊しておきたい」
それはアーカンソー様からの思わぬ延長の申し入れだった。
竜娘と小娘はこの展開を織り込んでいたのか、これっぽっちも驚いていない。
「もちろんクエストとは関係ないから町で待機してくれていても構わないが、どうする?」
「待機だなんてとんでもないです! ここまでしてもらって帰るなんてできません!」
「まだなんにもやってないですし~!」
「いやマジでアーカンソー様のお役に立ちたいですし! というか、立たせてー!」
わたしたちのそれは下心のない嘆願だった。
デートクエストとか関係なく、このままじゃ冒険者として立つ瀬がなさすぎる。
「それはよかった。このままでは、俺だけで終わって申し訳なかったからな。クックック……」
アーカンソー様が不吉な笑みを浮かべてプレッシャーをかけてくる。
暗に役立たずと言われている気がして悔しかったけど、反論できなかった。
何もできなかったのは事実だし、わたしたちの目的を考えればアーカンソー様の意見は正しすぎたから……。
◇ ◇ ◇
アーカンソー様が指し示した方向にダンジョンの入口があった。
もう驚かない。
「ここからは隊列を変えるぞ」
「えっ?」
アーカンソー様の宣言に反応したのは意外にも小娘だった。
「どうしてよ! パーティの連携を考えても今がベストでしょ! アンタだって賛成してくれたのに……」
やっぱりあの締め出し隊列は小娘の発案だったかぁ!
「残念ながら、今の隊列はダンジョン内では分断されるリスクが高いので採用できない。聞き入れてくれ、シエリ」
「わ、わかったわ……」
アーカンソー様にダメ出しされてヘコむ小娘。
「ここから先は前衛をレダとアーシ。中衛にウィスリーとシエリ。そして後衛は俺とフワルルだ」
「えっ! あたしがアーカンソー様と! いいんですか~!?」
……僥倖だ。
まさかここに来て、あのフワルルがふたりを突破してアーカンソー様に食い込めるだなんて!
「後衛はあたしとアーカンソーがいいんじゃない!?」
小娘が食い下がるが、アーカンソー様は首を縦に振らない。
「万が一を考えると俺がしんがりを務めつつフワルルを守れるこの形がいい。彼女がもっとも自衛力が低いからな」
「は、はい~っ! それは間違いないと思います~!!」
泣き笑いで自分の無力さをアピールするフワルル。
ここにきてようやくわたしたちの『弱さ』が武器になった!
「ご、ご主人さま……」
「ウィスリー。シエリの護衛は君にしか任せられない。頼めるな?」
「う、うん……」
竜娘は不服そうだが主人であるアーカンソー様には逆らえない。
これはきっと最後のチャンスだ。
頼んだわよ、フワルル……!
◇ ◇ ◇
わたしたち『蠱惑蝶』にはそれぞれ男に裏切られた過去がある。
結婚詐欺に遭ったフワルル。
借金の連帯保証人にされたアーシ。
そして幼馴染に結婚の約束を忘れられた、わたし。
男に不信感を懐いていたわたしたちが十三支部に流れ着いたのは必然だった。
三人で意気投合して以来、わたしたちはモンスターや山賊ではなく『女の敵』を狩り続けている。
世の中と女を舐めてたどーしようもないクソガキ冒険者。
女奴隷を侍らせてハーレムを作ってた金持ち貴族冒険者。
まだ子供くらいの女の子たちを洗脳してたデブオヤジ冒険者。
そんなクズ男どもからあらゆるものを搾り取って地獄の底へ突き落とすのが、わたしたちの喜び。
どいつもこいつもデートクエストで破滅させてやった。
もちろんアーカンソー様はわたしたちが堕としてきたクズ男じゃない。
正真正銘の英雄だし、心から尊敬している。
だけど男だ。
なら、わたしたちのノウハウが通用する。
わたしたちのやり方が間違いなのはわかってる。
でも、自分たちを信じて前に進んできた。
その積み重ねを自分の幸せのために使って何がいけないのか。
わたしたちみたいに自力で這い上がれない女は、アーカンソー様のような方に幸せにしてもらうしかないのだ。
「イッチー……不真面目な世界ですって? 冗談じゃないわ」
わたしたちは大真面目だ。
『蠱惑蝶』は自らの信念を貫く。
絶対にアーカンソー様のハートをゲットしてやるんだ。
そのためにわたしは危険じゃなさそうな罠にわざと引っかかると心に決めていたのだけど。
「待て。この先に罠がある」
これで何度目の制止だろう。
アーカンソー様には罠も探知できるらしく、いよいよ罠にかかるのも難しくなっていた。
ちなみにモンスターとの戦闘は一度も起きてない。
アーカンソー様が放つ回転する刃がモンスターを全部倒してしまうからだ。
だから戦闘後に「怖かった!」と抱きつくいつもの手口が使えない。
アーシも出番が来なくて泣いている。
ならせめて解除に失敗して罠を発動させるために、アーカンソー様が見つけた罠の方へ向かうんだけど。
「レダ。解除する必要のない迂回できる罠のある方に突っ込もうとしているな。何故だ?」
あっさりバレました。
「はは、念のために解除したほうがいいかと思いまして」
「心配性だな。ならば俺の方ですべて解除しておこう。接近しての解除は万が一があるからな」
……いよいよ、わたしたちにできることは何もないのかもしれない。
本当に頼むわよフワルル!
あなたが最後の希望なんだからね!!
応援ありがとうございます!
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