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トラブルを呼ぶ探偵

まぁ、いつものこと

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sideシュウジ


ジジイがまた厄介事を持ってきたせいで、正直落ち込んだ。

だが、それも雫の作ってくれた夕飯を食べて始めてお陰で、俺の元気も戻ってきた。


そんな俺の様子を見ながら、ニコニコしている雫に少し照れる。


―そんなに見られると恥ずかしいぞ。


「どうしたの?」
「いや…。何でもない」


雫の視線に俺は何も言えなくなる。
そんな俺を見ていた雫の表情が、少し心配そうなものになった。


「美味しい…?」


―ここまで俺の胃袋を鷲掴みにしておいて、何を今更心配しているんだか。
まぁ、ここは素直に感想を伝えるのが良いだろう。


「美味いよ。とても」 
「…!良かった~」


パッと華やぐとはこの事だろうか。
表情が一変して、先程よりも更に可愛らしい笑顔になったのを見て、俺の心も温かくなった。



夕食が終わり、洗い物を済ませる。
別に約束してはないが、夕飯の洗い物は俺がやる事にしているのだ。
折角作ってくれたのだ。これ位はやっても苦にはならんし。

ふとリビングを見ると、雫が赤いソファーに身を委ね、目を閉じている。


俺はカウンターチェアに座って、注いだウィスキーに口を付けた。

このオーディオは、ここに住むようになったある日、グランから貰った。

最初に家に招かれた際、レコードを回していたこいつに雫が一目惚れしたのを覚えていたらしく、わざわざ買ってくれたらしい。


―雫にはかなり甘いからな、あのジジイは。


そんな事を思いつつ、暫くジャズの音色に耳を傾けた。
ジャズの神様と言われた黒人シンガーの琴線に触れるような歌声に、痺れる様な感覚を味わう。

暫く経って雫の手元を見てみると、先程の依頼書がある。
色々と思う事があるのだろう。
まぁ、それも仕方がないと思う。
なんせ俺はこの手の依頼で怪我をしなかった事が、今まで殆ど無い。

それに、実を言えば俺は魔法を『使えない』。
昔、大怪我をした時に無理をした為に、使えなくなった。
まぁ、契約精霊はいるんだが。


だから、今回みたいな依頼で、鉢合わせするであろう魔法士の存在。

これは魔法が使えない者にとっては脅威でしかない。

才能が物言う不確かな物に対して、それを持ち得ない人々が恐怖するのは当然だ。

だから今回もその脅威に晒されるかもしれない俺を心配する。
本当に優しい子だ。

カウンターチェアから立ち上がり、俺はソファーへと向かう。

「何を暗い顔してる?」
「シュウジ…」

オーディオからは静かにジャズが聞こえてくる。

ウィスキーの入ったグラスをテーブルに置き、ソファーに座っていた雫を背後から抱き寄せた。

彼女の身体や髪から香る甘い香りに、俺は脳髄から痺れるような感覚を味わう。


「ねぇ…」
「ん?」
「…今回の依頼。どうするつもり?」


雫は不安な様子で見上げる。その瞳は揺れていた。


「心配か?」


そう言うと、首肯するように頷く仕種を見せる。

彼女が心配する今回の依頼。
心配するなと言うのが無理かもしれない。


今回の依頼は、5日後にMABの会議がアメリカで行われるとの事で、出席者の警護をしてほしいという。


「まず民間のうちに今回の依頼って、おかしいと思う」
「ああ、それは同感だ」


-そう、まずはそこだ。

MABの会議に民間人である俺への警護依頼が来るのはおかしい。

MAB局員の数にしたって、アメリカ支局だけで非戦闘局員も合わせ2万人位いる。

それだけいれば警護も万全に出来るだろう。

もしも足りないと言うのであれば、嘱託認可を持つ魔法士事務所にでも依頼するのが普通だ。


俺の事務所は嘱託認可なんか取って無い。
面倒な上に、魔法士事務所でもない。
それなのに、依頼がくるというのは、はっきり言ってキナ臭い事この上ない話だ。


「これって、最近の事件絡みの会議みたいだし」

これが、二つ目の理由。

ここ最近、世界中で『精霊や魔族が暴走している』。

そんな事件がニュースを騒がしていたのだ。


人類とは違う存在である精霊達。
古の頃より、良くも悪くも彼等は人の隣に立ち、この世界に生きてきた。

人の世界に交わらず、ただの傍観者であった筈の彼等がいつしか人との関わりを持つ様になった。

もともと彼等は、この世界に溢れている魔力を物質に変換する事で身体を作っている。
身体を魔力で作っている分、彼等はその魔力に影響されやすい。

そして、その影響の及ぼす存在。


ー人類だ。


人が魔法を使用するためには、多くの場合彼等と契約しなければならない。

その契約の対価として、殆どの場合魔力を要求される。

人の魔力は、生命力と精神力が混じりあって生まれる。
だから魔力を糧とする彼等からすると、最高に相性がいいそうだ。


―だが、もしも魔力が悪意で染まったものであったら?
答えは簡単。その悪意に染まる。

そんな悪意に染まった彼等は、破壊衝動に駆られ犯罪行為に走る。
まるで苦しむように。

そうなった彼等を、道から外れたもの『ハグレ』と呼ぶようになった。
そんなハグレ達がここ最近爆発的に増加し、社会問題になっている。

"その事態を重く見たMABは、対策を行う為に今回アメリカでの会議に踏み切った"
そう依頼書には記してある。


「事件を見越しているとしか思えない」
「確かにな…」


実際に、最近も主要国で会議が開催された。
だがその会場もハグレの集団に襲われたいう事件があったばかりだ。

そうなって来ると、MABとしても切れる手札を集めておきたいのだろう。


「俺が役に立つかは知らんが、使える駒は多い方がいい」
「それは戦略上当たり前だけど、何か裏がありそうなのよ」


確かに裏はあるかもしれない。
だが、今の状態であれこれ悩むには、些か情報が足りない。


―ここはうちの敏腕秘書さんにお任せするか。


「取りあえず、だ」
「ん?」
「手っ取り早く依頼主に聞くしかないだろう?」


そう言うと、苦笑してこちらを見た。


「明日、MABに行くの?」
「ああ、それが一番早い。アポは取ってあるんだろう?」
「それは…、取ってはあるけど」


―流石は雫。
俺の行動を先読みして、夕方にでも取っていたのだろう。


「明日MABの狸共に聞いてくる。その間の情報集めとか頭脳担当はお前に任せるよ」
「はぁ…。解ったわよ」
「期待してる」
「もう仕方ないんだから」


俺の言葉に苦笑しながらも頷いた。


「じゃあ、この話は終わりにしよう」
「うん、そうね。明日から忙しくなりそうだし」


気合いをいれる素振りを見せた雫。
だが、心の中ではまだ複雑なのだろう


俺は安心させる意味で、雫の額にキスを落とす。
雫はくすぐったかったのか、首を竦めた。

それを見て、可愛いと思ってしまった俺は、相当ヤられているかもしれない。


―カランと音を立てたグラスの氷。
今日の一日の疲れを癒すように、夜が更けて行った。
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