私は二つの世界に生きている。

SHIN

文字の大きさ
上 下
4 / 4

恋の日常②

しおりを挟む


「また見てるわよ。」


 あのすべてが嘘だった婚約破棄から数時間後、何時もの授業風景に戻ったと思っていたのだが、遠くから感じるやたら熱い視線を感じる。思わずため息をつきたくなってきたが、きにしない事にする。きっとここで反応したら奴の思うがままだろうし。

 リーナが私の髪を指で弄びながら不安げに見つめてくる。先程までは笑いこけていたのにね。


「だって、ユリアがあんな小物に負けるわけないって思ってたもの。」
「あら、でも助けて貰いたかったわ。」


 ごめんごめんと軽くいなされてしまったけど、私に剣を向けられたときの真剣な表情は心に残しておこう。オネェじゃない男の顔は珍しいのだ。
 
 リーナスがオネェに目覚めたのは私に原因がある。
 だからって恋人になった訳じゃないけど、楽しそうにしているのを見る度にカメラが欲しくなる。


「そのうちに向こうの彼氏に会いたいわね。」
「浮気じゃないからね。」
「わかってるわよ。ユリアは二つの世界を生きているんだから。」


 ほふう、と悩ましげな表情でそう呟くリーナに私は慌てた様に言葉を重ねるが、理解があるこちらの彼氏は安心させる様に頭を撫でてくれた。

 その手が気持ち良くて目を閉じて幸せを感じていると、撫で方が少し変わってきた。
 ゆっくりと目を開くと、目の前には柔らかな美形のリーナではなく、涼しげな目元のクールビューティーな美形に変わっていた。
 こちらの世界に戻ってきた様だ。


「もしかして、行ってた?」
「ええ、偽物の婚約破棄を体験してきたわ。」
「リーナスが?」
「違うわ。」
「なら、いいや。」


 顔を覗きこんできていたが、ゆっくりと体制を戻して今は抱き込んで座っている。
 私の手元にはいやんな同人誌が乗っているのを見て、そういえば一緒に読んでいたんだと

 私を抱き締めている男は、二階堂 慧にかいどう けい。私のもう1人の理解のある彼氏である。

 
 二人でいるときは本を読んだりと沈黙の空間ができるが、堅苦しい訳でなくゆったりとした心地よい時間が過ぎる。
 因みに私は腐女子だが、彼はノーマルだ。ただ、色んな活字を見たいと言うことで、いやんな本も読んでしまう強者なだけである。


「別の世界に行くのは、大変?」
「ん?」
「日常が目まぐるしいでしょ?」
「最初は戸惑ったけど、慧やリーナスも支えてくれるし、いろいろと情報が得れるから楽しいよ。」


 いきなり世界が変わる私に彼なりに心配してくれた様だ。
 確かに最初は戸惑ったけど、慣れてきたら楽しまないとと思ったし、慧やリーナスなど世界観を相談できる相手にも恵まれた。

 ひとりで二つの人生をリアルタイムでやれるなんて、お得でしょ。

 そんな気持ちで答えたら、慧は嬉しそうに抱き締める手に力を込めた。
 その顔がどことなくリーナに似ていて思わず笑ってしまう。それに何を思ったのか慧も一緒に笑ってくれた。


「でも、どうせなら魔法が使えればよかったのに。」
「魔力がこちらには無いからね。」
「『ファイア』なんちゃっ……。」 


 冗談で言った魔法の言葉に一瞬だけ赤い炎が出て直ぐに消えた。


「……戻ってきたばかりだからかな?」 


 なんか波乱が起きそうな嫌な予感がします。
 絶対この事はしゃべらないでおこうと心に誓った。




end



───────────

中途半端に終わります。
 想像していたのよりだいぶ方向性が変わりまして、いずれは消すかも知れませんが、おきにいりをしてくれた方のため形だけでもendを入れました。

 また、懲りずに作品を作ると思いますがどうぞ見てやってください。

 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...